突撃レポート

今、食品加工場で注目されるプラズマクラスター

宮城県の女川に拠点を置くヤマホンベイフーズ。女川漁港にあった8棟の工場はすべて津波で流され、市内の別の場所に拠点を移し工場を再稼動させた

除菌・脱臭効果があるというシャープのプラズマクラスター。これまで独自の実験により、カビの抑制効果静電気抑制効果、さらに脱臭効果についても、実証してきた。そんな筆者の地道な実験活動が目に止まったのか、宮城県は女川にある水産加工会社から、震災復興で新工場を設立し、そこにプラズマクラスターを導入したので、見に来ないかという取材依頼があった。どうやら魚の加工をする加工場全体にプラズマクラスターを導入、さらに実際に効果があるかどうかの検証もしているらしい。

これまで自宅のチマチマとした実験装置で検証していただけなので、生の魚を扱う水産加工場で、一体どんな効果が得られるのかは気になるところ。さっそく宮城県は仙台駅からローカル線を乗り継いで約2時間半のところにある女川市の水産加工場へ向かった。

「震災のニオイ」を消したプラズマクラスターを導入

今回、訪れた工場は、サンマの加工食品や養殖の刺身(すし)用銀鮭などを製造・販売しているヤマホンベイフーズ。写真の「さんま黒酢煮」やハーブ入りのエサで養殖した「刺身用生銀鮭」などが有名。銀鮭は寿司屋などにも卸しているという。

さっそく、専務取締役の山本 丈晴氏にプラズマクラスターを導入した経緯を伺った。

「私たちは女川で水産加工場を営んできたのですが、先の東日本大震災で製造棟や冷凍棟など8棟すべての工場が津波で流されました。しかし心機一転でもう一度事業を再開するべく、この新工場をイチからスタートさせることにしました。それが2011年10月ごろです。食品を扱う工場ですから、震災前の工場でも衛生面には気をつけていました。製造の各工程の温度管理はもちろん、オゾンで消毒した電解水を使ったり、各区画の気圧を変えて空気の流れを作ったりと、さまざまな取り組みをしていました。そして新工場着工にあたり、さらに空気の衛生管理も徹底しようと考え、プラズマクラスターを導入したというわけです」

一般的な食品加工場では、空気浄化にオゾンをつかっているところが多い。なぜオゾンではなく、プラズマクラスターを選んだのか。

「ご指摘のとおり、空気浄化はオゾンが一般的です。実際使っていたこともありましたが、オゾンを使って空気中を浄化する場合、作業後の部屋を閉め切ってオゾンを放出し、その間は人が立ち入ることはできませんでした。しかしプラズマクラスターなら、作業中も含め24時間使用することができるので、衛生的な環境と作業効率を両立できます。そんな事情もあって、プラズマクラスターを導入しました」

オゾンを導入していたからこそ、プラズマクラスターを選んだという答えに筆者も思わず納得。しかし気になる点がまだ残っている。イオン発生機は各社が製品化しているが、なぜプラズマクラスターを選んだか?という点だ。

「東日本大震災発生時に、私たちの地域は相当な被害を受けました。震災直後は、私自身、妻や子供と離ればなれになってしまい、家族を探しに様々な病院や公会堂に出向きました。幸い、そこで見つけたのがプラズマクラスターイオン発生機でした。病院という清潔性にもっとも敏感な場所で使っているというのは、説得力がありましたね。聞けば、浮遊ウィルスの作用を抑える効果があるって言うじゃないですか。

震災から数日後、家族とも無事再会できたんですが、津波をもろにかぶった街はすっかり変わり果てて、ホコリや嫌な臭いが充満していました。しかし、プラズマクラスターイオン発生機を導入している病院の中に入ると、そのニオイがしなかったんですよね。工場を再建するにあたって、震災当時の記憶が鮮明に蘇って、病院で使っているのなら、ウチの水産加工場でも空気の衛生管理ができると考えたわけです」

実際、ヤマホンベイフーズには、天井埋込タイプ、床置きタイプなど大小様々なプラズマクラスターイオン発生機が全部で約100台導入されている。気になるのは、実際の空気浄化効果だが、効果はあったのだろうか。

「工場竣工の際、シャープの担当者にきていただいて、実際の効果を計測してもらいました」

えっ!? 筆者が自宅であれだけ苦労した効果実験をヤマホンベイフーズさんでは、シャープにやってもらっている! うらやましい! もちろん、小型のプラズマクラスターイオン発生機1台でパンのカビ発生時期を調べていた、筆者の実験よりは意味があるだろう……。

とにかく、まずは実際の計測数値をチェックしよう。赤い点線の丸で囲まれたのが測定値で、その右側は予測値となっている。最もプラズマクラスターが効果を示しているのは、左上のカビ菌のグラフだろう。導入以前の112という数値が導入後に51まで減っており、割合に換算すると54%のカビ菌が低減しているという結果になっている。

その右側の「サーモン一次処理室・フィレ加工室」は、室温がおよそ10℃に設定されているため、もともとカビ菌は少ないがさらに低減すると予測されている。一方細菌は、縦軸のスケールがカビ菌とまったく異なるが、食品衛生上は問題ない程度にわずかに浮遊する細菌が、さらに減少しているのが分かる。

ヤマホンベイフーズの工場内においてその効果を大いに発揮しているようだ。(筆者の実験が間違っていなかったことも実証できた!)

魚臭くない水産加工場
花屋を「すごい」と言わせた空気浄化力

シャープ自らが計測したという詳細なデータはもちろんだが、筆者自ら体験した効果もある。加工場と同じ社屋の事務所に案内されたのだが、魚臭くないのだ。

この脱臭効果は筆者も本当に驚いた。加工場は工場の1階にあり、2階は作業員用の休憩所や会議室などの事務所がある。1日加工場で作業していれば、衣服にニオイなどがしみこみ、どうしても事務所でも魚臭いはずなのだが、魚のニオイがしない。さらに驚くのは1階の玄関。作業場から程近い玄関ですら魚のにおいがしない。むしろ屋外の方が、目の前に広がる海の磯の香りが強い。加工場に入っても、スーパーの鮮魚コーナー程度のニオイしかない。

「データに裏付けされた効果ももちろんですが、来客のみなさんがまず驚くのが、脱臭効果ですね。みなさん、『水産加工会社なのに魚臭くない』と、おっしゃいますね。正直、ここまで効果があるとは思いませんでした。一番印象的だったのは、仕事柄ニオイに敏感な花屋さんに、ニオイがしないと言われたことです」

室内を漂うホコリの量が少なくなった!

山本専務に案内され工場を見せてもらっていると「そういえば!」とコロコロに付いての話を始めた。コロコロとは、粘着テープ式になっていて、衣服のホコリなどをコロコロ取るアレのことだ。

「作業場に入る前には、必ず白衣にコロコロをかけて、さらに全身にエアーを吹いてホコリを作業場に持ち込まないようにしています。でもプラズマクラスターを導入して以来、コロコロの減りが少なくなったんです。どうやらプラズマクラスターの静電気除去効果の影響で衣類にホコリが付着しにくくなり、その結果コロコロの使用量が減ったようなんです」

確かにプラズマクラスターを導入しなければ分からなかった効果だろう。

「以前は加工場の取材はほとんど許可していませんでした。なぜなら、屋外の細菌やホコリなど、加工場には望ましくないものをたくさん服につけて持って入ってくるからです。今日の藤山さんもそうですよね(笑)。でもプラズマクラスターの静電気除去効果で、これらの菌やホコリが付着しにくくなったんで、工場見学の取材もOKが出しやすくなりましたよ。今回工場見学できるのは、プラズマクラスターのおかげかもしれませんよ(笑)」

空気を浄化する手段としてプラズマクラスターは注目されている

さんま黒酢煮と銀鮭の刺身をお土産に買って上機嫌。黒酢煮はごはんのお供に、銀鮭はマリネにして酒のつまみに♪

プラズマクラスターを大規模に導入しているといえば、これまで病院や公共施設だと思っていたが、今回のヤマホンベイフーズのように、食品加工場の空気を浄化する手段としても注目されているようだ。

「実際、導入されている食品加工会社も多いと聞きますし、この工場にも効果やコストなどを聞きに、いくつかの会社の方が見学に来られました。同じ宮城県内の某老舗製菓メーカーの方もいらっしゃいました。新鮮な卵を使うお菓子なので、やはり衛生管理には敏感なんですね」

これまである程度の規模がある工場では、オゾンを部屋に充填するというのが一般的な空気の浄化方法だったが、プラズマクラスターは新たな方法として選択肢を広げているようだ。

さて最後になったが、今回の取材でとても印象的だったのは「きれいな空間、きれいな空気の元で、従業員にも気持ちよく働いてもらいたい」という言葉だ。街中ががれきの山になってしまい、ニオイとホコリに悩まされ続けた体験から漏れたこの言葉は、食品の衛生管理以上にプラズマクラスターがもたらしたものが大きいという印象だった。

(藤山哲人)