映画館のようなサラウンドシステムには憧れるものの、部屋の中にたくさんのスピーカーを置くスペースがない、あるいは私室でもリビングでも場所を気にせずサラウンドを楽しみたい。そんな人にうってつけと言える製品が、ワイヤレスサラウンドヘッドホンだ。パナソニック「RP-WF7」(3月6日発売)は、前機種「RP-WF6000」から6年振りに登場した同社ワイヤレスサラウンドヘッドホンの新モデルで、装着感、使い勝手、そして音質に至るまで大幅な進化をとげている。


「RP-WF7」

 「RP-WF7」は、7.1chのサラウンド再生に対応するデジタルワイヤレスサラウンドヘッドホンシステムだ。店頭予想価格は29,800円前後で、増設用のヘッドホン「RP-WF7H」が14,800円前後となる。

 ドルビープロロジックⅡxデコーダーを搭載し、7.1chのサラウンド再生に対応。バーチャルサラウンド技術としては、「ドルビーヘッドホン」技術を用いている。サラウンドモードは「CINEMA」「MUSIC」「GAME」の3モードが用意されており、重低音を強化するBASSブーストや中域用のVOICEブーストも設定可能となっている。

 トランスミッター部は、横幅185mm×高さ35.5mmとコンパクト。背面には光デジタル音声入力を2系統、アナログ音声入力を1系統備えている。光デジタル音声出力もあるので、AVアンプなどと組み合わせて使うことも可能だ。

 ヘッドホン部は2.4GHz帯デジタル無線方式のワイヤレスで、最大4台までヘッドホンを増設して、家族や友人と一緒に楽しむこともできる。前作と比べて外観も一新されており、ハウジング部分は前作の丸形から、小判のような縦に長い楕円形になった。イヤーパッド部が外耳に当たらずフィット感の良い装着ができるようにしている。そして、重量は前機種の380gに対して227gと大幅に軽量化された。ニッケル水素充電池2本込みでこの重量ということで、かなり軽量になっている。

 実際に装着してみると、イヤーパッドのフィット感の良さもあって、重さはまるで感じられず、実に軽快な着け心地だと感じた。側圧はイヤーパッド下部を中心に存在しており、締め付けられるような感じは少なく、頭を動かしたり、周囲を歩き回ってもずれるようなことはなかった。

 フィット感の良さには秘密があって、実はイヤーパッドの上部を軟質発泡ウレタン素材としている。これは、3Dメガネなどを装着しても装着感を高めるための工夫でもある。3Dメガネのつるの部分に合わせて柔軟に変形するため、違和感なく装着できる。もちろん視力矯正用のメガネを使っている人にとっても快適だ。

     

小型のトランスミッター(プロセッサー)。スイッチは電源と入力切り替えのみとシンプルで、ほとんどのコントロールはヘッドホン側から行う。背面には光デジタル入力端子×2、光デジタル出力端子×1、アナログ入力端子×1組、電源端子、そしてヘッドホン充電用のUSB端子を搭載

     

ハウジングは耳たぶに干渉しにくい楕円形上で、装着感と密閉性を向上。バッテリーは左耳側にニッケル水素充電池2本を搭載。付属の専用ケーブルでの充電にも対応

     

イヤーパッドは上部に軟質発泡ウレタン素材を使用。

 装着時の軽快さは、オーバーヘッド型のヘッドホンとしてはかなり優秀な部類で、およそ2時間程度の映画を見ても、肩が凝るようなこともない。軽量さもあって、装着したままずっとテレビを見ていても首への負担は感じなかった。

 操作はすべて右側のハウジング部分に備えられたボタンで行える。音量調整をはじめ、サラウンドモードの切り替え、BASS/VOICEブースト、入力切り替えもすべて手元で行える。電源オンもヘッドホン側で操作すれば、トランスミッター部も連動して電源オンとなるので、いちいちトランスミッター部を操作する必要はない。また、電源オフは一定時間(約3分間)入力信号が途絶えると自動で電源が切れるので、電源の切り忘れの心配もない。

専用のUSBケーブルによる充電

 バッテリーは付属のニッケル水素充電池2本で約15時間駆動。そのほか、一般的なアルカリ乾電池の使用も可能。充電をし忘れたときなどにも手軽に交換できるのは便利だ。なお、充電は付属の専用ケーブルでトランスミッター部のDC出力5V端子に接続して行う。メーカーサポート対象外にはなるが、ケーブル先端はUSB形状なので、筆者の環境ではPCなどのバスパワー対応のUSB端子からでも充電可能なことを確認できた。

 そして、こうした使い勝手以上にこだわっているのが、音質チューニング。40mmのドライバーユニットは、フラットな周波数特性を追求。このために、一般的なヘッドホンがハウジングと耳に対して水平に振動板が配置されるのに対し、やや角度を付けた配置にしているという。これは、ハウジング内の定在波の発生を防ぎ、周波数特性の不要なピークを抑えるほか、スタジオなど収録現場での音響に近い聴こえ方を狙ったもので、ユニットを配置する角度と位置は、10数パターンも試作したという。このほか、ドライバーを駆動する磁気回路にも独自の工夫が施されているようだ(この部分は企業秘密ということで、詳しくは教えてもらえなかった)。

 実際に試聴してみたところ、その音は余計なクセや色づけの少ない忠実感のあるサウンドで、思った以上に優秀だと感じた。フラットな周波数特性というのがよくわかるストレートな音質傾向で、細かい音の再現性も良い。それでいて高域のシャカシャカした感じはあまりなく、耳当たりはソフトで聴き心地が良い。スピーカーの場合はそれなりの音量を出さないと聴き取りにくくなる細かい音や空間の響きまで明瞭に再現される。

 低音域の再現もかなり優秀で、かなり低い音域までよく伸びるのだが、量感は適度でボコボコしない。スピード感があり、軽快で弾むような良質の低音再現だ。いわゆるHiFi指向のヘッドホンに近い音になっており、映画よりはむしろ音楽の方が相性が良いか?と一瞬思うほどだ。

     

右耳側ハウジングのボタンで電源オン、音量調整、BOOST切り替え、サラウンドモード切り替え、入力切り替えなど、すべての操作を行える。「ID」ボタンは同じトランスミッターで複数のヘッドホンを利用するときのID設定用

     

振動板をハウジングに対して傾斜させることで音響特性を最適化。耳ポケットの深さは前側が21mm、後ろ側が26mmと、十分なクリアランスを確保

 そこで、まずは音楽メインのBlu-rayソフトを試してみた。マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」から、マイケルがアドリブで踊るダンスがカッコいい「ビリー・ジーン」を聴いてみる。サラウンドモードは、ドルビープロロジックⅡxの「MUSIC」とした。ベースによるイントロや、バスドラムのビートが明瞭で、ホールの広い空間で反響する響き感も豊かに再現される。BASSブーストをオンにすると、ベースの量感がより厚みを増し、自然に身体が動くようなグルーブ感も出てくる。ただし、オンにするとベースの音階はやや不明瞭になるので、音楽ソフトの場合は好みによって使い分けた方が良さそうだ。

 本作で超絶テクを披露して注目を浴びた女性ギタリスト、オリアンティ・パナガリスのギターに痺れる「ブラック・オア・ホワイト」も実にクールだ。ギターの早弾きもクリアーでキレ味よく再現するし、マイケルの声もしなやかで生き生きと再現される。

 MUSICモードは、音響特性の良いリスニングルームの音場を再現するもので、残響感が適度にあり、ホール独特の響きがしっかりと再現される。中〜低域も厚みを増すので、実体感のある音になる。

 このままクラシックのコンサート(5.1ch収録)を聴いてみても、大太鼓のズシッとした打音とホール全体の空気を奮わせるような響きまでしっかりと再現される。オーボエやフルートといった木管楽器の音色もしっかりと描きわけるし、音の粒立ちはかなり良い。それでいて、個々の音をつぶさに分析するような再現ではなく、空間感やステージ感を伴った鳴り方になる。まさしくホールの席で聴いているような臨場感のある再現だ。欲を言えば、バイオリンなどの弦の艶やかさがもう少し欲しい気がするなど、ほんのちょっとだけ派手にしてもいいかと思うくらい、自然でありのままの音が出ているように感じる。

 ここで、ちょっと意地悪をして、初音ミクの「積乱雲グラフティ」を聴いてみた。「RP-WF7」のような、モニター的というほど分析的な音ではないが忠実度の高い音を出すヘッドホンでは、初音ミクの機械的に合成された声に対する違和感が悪目立ちしてしまうことがあるためだ。実際、サラウンドモードを解除した2ch再生では多少その傾向もあるのだが、サラウンドの「MUSIC」モードをオンにすると、中域の厚みが増すこともあって、声の不自然さが目立つこともなく、ちょっと舌足らずな感じのそれらしい声になった。こうした、HiFi的な意味での好録音ではない曲も楽しく聴けるのは、実は大事なポイントである。

 続いて、今度はサラウンドモード「CINEMA」で映画を鑑賞した。 J・J・エイブラムス監督「SUPER8」での列車が脱線するシーンでは、列車が宙を飛び、主人公達の周囲で次々に大爆発が起こるのだが、サラウンドでの音の配置も正確に再現された。音場定位としては、前方の音場はかなり広く、奥行きもある。左右の広がりもかなり広めで、スピーカーから再生される音場にかなり近い。自分の耳よりやや後ろの再現もなかなか明瞭だ。真後ろの音は頭のすぐ後ろで鳴っているように感じがちだが、定位や音像の立ち方がクリアなのに対し、空間的な広がりがやや乏しいというのは、サラウンドヘッドホンに共通する傾向だといえる。

 爆発にともなって周囲に散らばる列車の破片や貨物などの細かい音はその数がとても多く、情報量の多さは映画でも確認できた。「CINEMA」モードは映画館的な音響を再現するもので、残響感はもっとも多く、包み込まれるような空間感が豊かなモードだ。低音の量感が足りなく感じられる場合は、BASSブーストをオンにするといい。アクション映画などの重低音を強調する場合におすすめだ。

 つぎに、ジェームス・キャメロンが制作総指揮をした、実話をベースとしたリアルな洞窟探検「サンクタム3D」をCINEMAモードで見た。3D作品は視聴者の注意が集中する前方を中心とした音場設計になっていることが多く、前方音場が広く深い本機の再現との相性は抜群だった。なんといっても、作品のほとんどのシーンが狭い洞窟内で展開するので、その「狭さ感」の再現が臨場感たっぷり。洞窟内に降り注ぐ地下水はまさに自分の周囲に降り注いでいるし、3Dで再現される映像上のリアルな狭さが、サラウンド音場空間の狭さとマッチして、圧迫感を感じてしまうほど。期待以上の没入感で、映画のリアルで残酷なストーリーもあいまって、見るのに勇気が必要なくらいだ。

 最後のサラウンドモードは「GAME」である。PS3「ファイナル・ファンタジーXIII-2」を「GAME」モードでプレイしてみた。このモードは残響感がかなり控えめで、前後左右に定位する音がもっともクリアに再現される。ゲーム向けに演出効果バリバリの派手な音場ということはなく、むしろ最もHiFiに近い再現かと感じるほどだ。最近のゲームの音場はリアル指向になっているので、こうした方向性の再現になるのだろう。

 「ファイナル・ファンタジーXIII-2」の場合は、美しいグラフィックによるムービーシーンも多いので、映画的に楽しむならば「CINEMA」モードも相性がいい。だが、戦闘場面などでの効果音や自由自在に動き回る音の定位を楽しむならば「GAME」がもっとも良好に再現される。7.1chサラウンドに対応し、3D立体視も可能な「アンチャーテッド -砂漠に眠るアトランティス」をプレイしたところ、その臨場感と没入感はハンパなものではなく、まさに画面の中に入ってしまったかのようで、プレイに熱中してしまった。

 このほか、「GAME」モードでは、映画や音楽、テレビ放送など、いろいろなソースとの相性を試してみた。映画でも移動感や後方の定位感がより明瞭になり、埋もれがちな細かい情報量も増えていると感じた。映画館的な空間感や包囲感がやや乏しくなるが、かすかな息づかいや、背後から迫る物音など「こんな音まで入っていたのか」と、面白い発見もできる。「CINEMA」モードでは残響感が多すぎると感じる場合にはGAMEが良い。

 音楽では、「MUSIC」が適度な響きと中低域の厚みを加えているモードなのに対し、「GAME」はもっとも色づけの少ないモードと感じる。サラウンドヘッドホンの場合、サラウンド効果をすべてオフにした2chモードにした途端、頭の中に音が響く頭内定位との差に違和感を覚えてしまうこともあるので、残響の付加など効果は最小にしてサラウンド再生をしたいという人にも向いている。

 前方音場の広さ感や左右の広がりなど、耳の外から聴こえてくる音響効果だけを加味し、残響などはごくわずかとしているので、テレビ放送を視聴する際にはもっとも違和感がなかった。ニュース番組などは、アナウンサーの発音も明瞭になるので、サラウンド化による不自然さもなく、実に聴きやすい。などなど、「GAME」という名前こそついているが、かなり活用範囲の広いモードだった。

「RP-WF7」最大の魅力は、ヘッドホン自体の素性の良さだとと言えるかもしれない

 サラウンドヘッドホンは、サラウンドプロセッサーによる音場効果が加わることもあり、HiFi的な鑑賞とは異なる位置づけにあるが、だからこそ、ヘッドホン自体の個性はニュートラルで、基本的な実力をしっかりと身につけたものが良いと改めて実感した。本機の最大の魅力はここにあると思う。当初はHDMI入出力を持たず、HDオーディオを楽しめない点が気になったが、実際に使ってみるとそのデメリットはほとんど感じなかった。もちろん、このヘッドホン部はそのままで、トランスミッター部にHDMIを搭載してHDオーディオ対応にすれば、その再現力はさらに高まると思われるので、価格が高くなってもいいので、ぜひ上位モデルを投入してほしいと思ってしまった。

 ヘッドホン自体の実力についても、ややあっさりとした薄味の印象はあるが、爽快で見晴らしがいい。クラシックのフォルテッシモの沸き上がるような音圧感やエネルギー感は不足気味で、この点は多少不満を感じる部分でもあるが、あくまで価格的に本機をはるかに超える高級モデルと聴き比べたときの印象なので、トランスミッター部とセットで想定実売価格29,800円の機種に対してそれを望むのは欲張りすぎではあるだろう。

 ともあれ、今回「RP-WF7」を視聴して、サラウンドヘッドホンの大幅な進化を実感した。それはBDソフトなどの良質なコンテンツが登場したことも理由と思われるが、おかげで今まではオモチャ的な目で見られがちだったサラウンドヘッドホンを見直すべきタイミングが来たと感じている。本質的な実力が高まると、スピーカーを使ったサラウンド再生とほぼ同等と言える再現性があると言い切れるし、もはや代用品的なものではないと思う。映画だけでなく音楽やテレビ、ゲームと幅広く使える個人用のミニシアターとしては最適なモデルだ。

(Reported by 鳥居一豊)

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