【PLC関連ニュース】

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 PLCは、Power Line Communicationの略で、日本語では電力線通信と呼ばれる通信技術だ。通常、パソコン同士をネットワークで接続したり、ルーターなどの通信機器を利用してインターネットに接続する際には、パソコン同士やパソコンと機器をLANケーブルで接続する。これに対して、PLCは、このLANケーブルの代わりに一般的な家庭ならどこにでもある電力線、つまりコンセントとその中を通るケーブルを利用する。

 電力線はもちろん電気を通すためのケーブルだが、電気の伝送には50Hz(関西)/60Hz(関東)の周波数帯しか利用していない。そこで、PLC、中でも高速な通信を実現する高速PLCでは2〜30MHzという高い周波数帯を利用し、電気と一緒にデータ信号を流すことで数Mbps〜数十Mbpsという高速なデータ通信を行うことができるわけだ。

電力線に2〜30MHzの周波数帯の信号を流すことで高速な通信を実現するPLC

 もう少し具体的に説明しよう。今、AとBという2台のパソコンを高速PLCで通信させたいとする。このとき、パソコンAから送られたデータは、LANケーブルからPLCアダプターへと送られ、そこで信号が変換されて電力線へと送信される。一方、この信号を受信したいパソコンBは、電力線を流れてきた信号をPLCアダプターによって受信し、それを再び変換してLANケーブルへと転送。これをパソコンで受信するという流れになっている。つまり、電力線をLANケーブル、コンセントをLANポートのように利用することができる技術というわけだ。

LANケーブルの代わりに電力線を利用するPLC。パソコン同士の接続に加えて、家電などの接続にも利用できる

 PLCの発想自体は、比較的古くからあったものだが、今年の10月に総務省が屋内における高速PLCを認可(屋外は利用できない)。そして国内で初となる高速PLC製品がパナソニックから発売されることとなり、一気に注目を集めるようになった。高速PLCで実現できるのは、あくまで家庭内の機器を接続するホームネットワークで、インターネット接続には別途光ファイバーやADSLなどの回線が必要だが、これでようやく家中のどこからでもインターネットの利用を可能にする環境が整ったことになる。

 こう説明すると「なんだか難しそう」というイメージを持つかもしれないが、実際の機器の使い方は非常に簡単だ。特にパナソニックから発売されたHD-PLC方式のPLCアダプター(スタートパック)「BL-PA100KT」はカンタンというか、設定などが一切必要なく、単に機器を接続するだけで利用可能となっている。

パナソニックのHD-PLCスタートパック「BL-PA100KT」。あらかじめマスターとターミナルに設定済みの2台のアダプターがセットになっており、つなげるだけですぐに利用できる

増設時にもパソコンは不要。カンタン設定だ。

 BL-PA100KTは、親機の役割を果たすマスターアダプターと子機の役割を果たすターミナルアダプターの2台がセットになった製品だ。出荷時に2台設定済みで、すぐに利用可能となっている。具体的には、マスターアダプターのLANポートをルーターなどの通信機器に接続。一方のターミナルアダプターをパソコンに接続する。最後に双方のアダプターを家庭内の電源コンセントに接続すると、電力線経由で相互に接続が確立され、LANポートに接続された機器同士での通信が可能になる。

 これで、パソコンからLANケーブルを使って配線するのはターミナルアダプターまでで済むようになり、ルーターが設置してある部屋が離れていようとも、わざわざルーターまでLANケーブルを引き回す必要がなくなる。廊下や壁、部屋の中などにスパゲッティのように散乱していたLANケーブルがすっきりと整理できるわけだ。なお、パソコンやルーターなどの電源は別途コンセントから供給する必要があるが、アダプターは電源ケーブル1本で電気と通信の両方を通すことが可能だ。

 もちろん、機器の増設も可能で、1台のマスターアダプターに対して、最大15台のターミナルアダプターを接続することが可能となっている(別売りの増設用アダプター「BL-PA100」を利用)。機器の増設も手軽で、増設したいターミナルアダプターをマスターアダプターと同じコンセントに接続し(設定信号の混信を避けるために微弱な信号を使うため)、双方の機器の本体に搭載されている「SETUP」ボタンを押す。これで、マスターアダプターと増設したいターミナルアダプターの間で接続に必要な情報が自動的にやり取りされて接続が可能となる。

 気になる速度だが、パナソニック自らが開発し、今回の機器で採用しているHD-PLC方式の最大速度は190Mbpsとなっている。有線LANの最大速度が1Gbpsであることを考えると、それよりも低いが、無線LANの54Mbps、もしくはドラフト11nなどの130Mbpsより速いことになる。

 ただし、これはあくまでも規格の理論上の最大速度であり、実際の通信速度は低くなる。メーカーによって公表されている速度は、UDP測定値で最大80Mbps、Linux上で動作するFTPサーバーとのTCP測定値は最大55Mbpsだ。実際の速度は利用環境や測定方法などによって異なるが、100Base-TXの有線LANと同等、さらに無線LANの実効速度(IEEE802.11gで20Mbps前後)を凌ぐ速度だ。

 実際に戸建て住宅の1階にマスターアダプターを設置し、2階の電源コンセントに接続したターミナルアダプター経由でパソコンを利用してみたが、ブラウザでホームページを見たり、メールを送受信することが普通にできるのはもちろんのこと、ネットワーク接続型のハードディスク(NAS)との間で画像や映像ファイルをコピーするのも快適にできた。さらにネットワーク再生機能を持ったHDD&DVDレコーダーの映像もパソコンで再生してみたが、実にスムーズに再生できるのに驚かされた。

 HD-PLCの「HD」は「High Definition」の略で、ハイビジョン映像などの高精細な映像も転送できるという意味が込められているが、実際、実効速度が50Mbpsを超えるのであれば、17Mbps前後のビットレートの地上デジタル放送クラスの映像も十分快適に転送して再生できるだろう。

 なお、PLCの転送速度はターミナルアダプターのSETUPボタンを押すことで計測することができる。以下のようにランプの表示状態によって速度が表されるので、速度が気になる場合は計測してみると良いだろう。

(参考)簡易通信速度確認機能の説明
http://panasonic.co.jp/pcc/products/plc/products.html

 PLCの特長としては、これまでに紹介したような手軽(Simple)で、高速(Speedy)が挙げられるが、これらに加えて安全(Secure)であることも忘れてはならない。PLCの信号は電力線の中を通るため、建物の中だけで完結する。このため、無線LANの電波などと異なり、外部から信号を傍受することはできないようになっている。

 鋭い人は「マンションなどほかの部屋と同じ建物の場合はどうなのか?」と疑問に思うかもしれないが、これもデータの安全性は確保される。確かにマンションなどの集合住宅では、配電盤の構成や建物内部の電力線の配線によっては、異なる部屋と物理的に電力線で結ばれている場合がある。このため、電力線の中を通る信号自体が、ほかの部屋にも到達してしまう可能性は否定できない。しかし、万が一、信号を受信できたとしても、その中身を見ることは事実上不可能だ。

 パナソニックのHD-PLC方式では、PLCアダプター間でやり取りされるデータが「AES」と呼ばれる方式で暗号化されている。このAESは米国政府の次世代標準暗号化方式としても採用されている極めて強力な暗号化方式で、非常に高性能な解読装置を利用したとしても解読に10の17乗年かかると言われており、事実上、解読が不可能な暗号化方式となっている。

 つまり、集合住宅などで、あなたが送信したデータの信号が、万が一、ほかの部屋で受信されたとしても、まず中身を見られる心配はないというわけだ。

 このように、HD-PLC方式の「BL-PA100KT」を利用すれば、家中のどこからでも、手軽かつ、安全にインターネットを利用できるわけだが、同様に家中どこからでも接続できるという点では、通信に電波を利用する無線LANを利用する方法がすでに存在する。この無線LANとPLCはどちらを利用すれば良いのだろうか?

 結論から言えば、PLCは無線LANの欠点を補うことができる技術となるため、相互に併用するのが理想的と言える。

 無線LANのメリットはワイヤレスを実現できることだが、間に壁などの障害物がある環境ではどうしても電波が通りにくくなり、結果的に通信速度が低下したり、ひどい場合には接続できない場合があるのがデメリットだ。これに対して、PLCはすでに壁の中を通って、各部屋へと通じている電力線を使って通信することができるため、遠い部屋だろうが、間にいくつもの壁があろうが、同一の建物内であれば通信できる。

 PLCと無線LANはうまく共存させるのが理想。たとえば戸建て住宅の場合、フロア間を結ぶ縦系の基幹にPLCを利用。有線でかまわない機器は有線LANで接続し、無線LANを利用したいフロアにアクセスポイントを設置し、横方向のエリアをカバーすると効率的だ。

 このため、たとえば部屋と部屋、フロアとフロアの間はPLCによって電力線で接続。各部屋、各フロアに必要に応じて無線LANのアクセスポイントを設置し、これで部屋やフロア内をカバーすれば、ワイヤレスを実現しながら、同時に高速で、安定した通信を実現できる。パソコンはワイヤレス、据え置き型の家電などは有線と使い分けることも可能となるので、環境や伝送するメディアに合わせた柔軟なネットワークを構築可能だ。

 以上、HD-PLCを採用したパナソニックの「BL-PA100KT」を取り上げながら、PLCによるホームネットワークを紹介してきたが、最後にPLCの賢い使い方を紹介しておこう。

 まずは、PLCアダプターの接続場所だ。PLCアダプターは電源タップ経由でも利用できるが、その場合、他の電化製品の影響を受けて速度が低下する可能性がないとは言えない。なるべく壁のコンセントに直結して使うようにしよう。そもそも配線をすっきりさせるためのPLCアダプターでもあるので、この機会にタコ足配線などを見直すと良いだろう。

 続いてのポイントは、オーディオ機器の接続やOA環境でよく利用される特殊な電源タップの扱いだ。雷サージ対応のテーブルタップやノイズフィルタ付きのタップ、さらにはUPS(無停電電源装置)などでは高周波の信号をノイズと見なしてカットするようになっている。このため、ここにPLCアダプターを接続すると、データをやり取りするための周波数帯の信号までもがノイズとしてカットされてしまう。前述したようにPLCアダプターはコンセント直結が理想だが、どうしてもタップを使う必要がある場合はノイズフィルタ付きの製品は避けよう。

 ただし、ノイズフィルタ付きのタップは使い方次第ではPLCの強い味方となる。たとえば、PLCアダプターを壁のコンセントに直結し、ほかの家電製品をノイズフィルタ付きのタップに接続する。すると、ほかの家電製品から発生したノイズをカットし、PLCアダプターへノイズが侵入するのをカットできる場合がある。ドライヤーや調光機能付きスタンド、携帯電話の充電器などに利用すると、安定した通信ができる可能性もあるので、使い方をうまく工夫すると良いだろう。

 このように、PLC、特にパナソニックのPLCアダプターは、前述した簡単(Simple)、安全(Secure)、そして高速(Speedy)を実現する次世代ホームネットワークインフラの本命だ。現状はパソコンによるインターネット接続が主な用途だが、インターネット接続機能付きのテレビやHDD&DVDレコーダー、オーディオ機器などの接続にも利用できるうえ、将来的にはエアコンなどのあらゆる家電製品をつなぐインフラとなりうる規格と言える。難しいことを意識することなく、家中のどこでも当たり前のようにネットワークにつながる世界を体験してみよう。

■関連情報
PLC(高速電力線通信)製品ページ
http://panasonic.jp/p3/plc/index.html
パナソニック コミュニケーションズ(株)
http://panasonic.co.jp/pcc/


清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。
最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ