大画面映像機器評論家兼
テクニカル・ジャーナリスト。
近年では映像デバイスや3Dグラフィックス、及びそれに関連した半導体などの取材や技術解説に注力している。Impress Watchでは、AV Watchにて映像機器の評価・レビューを行う「西川善司の大画面☆マニア」を、GAME Watchにて「西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィックス講座」を連載中。東京工芸大学では2009年より「CGプログラム論」の講師を担当するなど、最近では講演や講師を担当する機会が増えており、人前での見栄えを気にし始めたらしい。ブログはこちら。近著には映像機器の原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)、3Dゲームグラフィックス技術の仕組みをまとめた「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術」(インプレスジャパン:ISBN:978-4-8443-2755-4)や「3Dゲームファンのためのグラフィックス講座」(インプレスジャパン:ISBN:978-4-8443-2951-0)がある。
最近では、講演やイベントなどで、人前に立つ機会も出てきたので、これではいけないかな…と思い始めていた矢先、ふとしたきっかけで、紳士服ブランドのNEWYORKERの存在を知る。NEWYORKERは既製服メーカーだが、デザインや機能性に独自なポリシーがあるとのことで、その歴史たるや47年にも及ぶ老舗ブランドらしい。
筆者ほどではないにしろ、Impress Watchの読者にも、ファッションに詳しくない人は少なくないはず。ファッションをさりげなくおしゃれ方向に振り戻したい人のために、筆者が代表して、このNEWYORKERブランドの魅力を探ってみることにしたので参考にしてほしい。
お話を伺ったのは株式会社ニューヨーカー、紳士企画部、田村部長だ。
NEWYORKERは1964年に設立された既製服の製造販売会社です。親会社はダイドーリミテッド、当時、大同毛織と呼ばれていた紡績生地メーカーです。1960年代、スーツが背広(せびろ)と呼ばれていた時代、スーツの主流はオーダーメイド服でした。丁度この頃、日本は高度成長期を迎えるわけですが、当時の大同毛織はビジネス戦略としてスーツの既製服市場の拡大を予測し、紳士向けの既製服ブランドのNEWYORKERを設立したのです。
筆者も実はそうだったのだが、NEWYORKERが海外ブランドだと思っていた人もいたと思う。しかし、実はNEWYORKERは出生も生い立ちも100%、日本の国産メーカー、国産ブランドなのだ。では、国産ブランドなのになぜNEWYORKERなのだろうか。
1960年代、日本人は既製服としてのスーツの規範を、アメリカに求めたんですね。そして、ビジネススーツとしてのスタイルを求めるにあたり、アメリカのビジネスの中心であるニューヨーク市のウォール街を選んだのです。そのウォール街を闊歩するアメリカのビジネスマンのスタイルを日本人向けに紹介したい…という経緯から、ブランド名が「NEWYORKER」となりました。「ヨーロッパでなくアメリカ」となったのは、当時の日本人の憧れの眼差しがアメリカに向いていた…という時代背景が大いにあると思います。
こうしてNEWYORKERはスタートするわけだが、流行り廃りが激しい既製服というジャンルで47年もの歴史を刻めているメーカーはほんの一握りだ。結果論だが、これにはNEWYORKERならではの“こだわり”が歴史ブランドに成長させたと思われる。
その“こだわり”とは布素材の選定からデザイン、縫製に至るまでの全ての工程を自社で行ってきたということだ。創業の1964年当時、既製服メーカーとしては珍しく自社の縫製工場を設立して事業を開始しており、布素材は親会社の大同毛織からの提供を受けていた。今風に言えば垂直統合型事業を行っていたというわけだ。
こうしたこだわりは、それまで根付いていた"安かろう悪かろう"とされる既製服の概念を覆し、「既製服の新しい価値観」をもたらすに至る。
今年の夏もまた暑いといわれている。
しかも、東日本大震災を原因とした電力供給不足の問題もあって、世間は一貫した節電ムードが広がっており、ビジネスシーンでのファッションにおいても「クールビズ」に関する関心が高い。
しかし「ただ薄着をすればいいのか」というとそういう単純な話ではなく、ビジネスシーンなどでは、暑くても人前に出ることはあるし、その際に見栄えを気にしなければならない局面も多々ある。
NEWYORKERでは、こうしたニーズに対応すべく、スタイリッシュでありながら格好いいクールビズ・コンセプトを打ちだしている。
その名は「クールコンフォート」。
スーパー・クールビズ…スーツを脱いじゃえ…なんていう極論は置いておくとして(笑)、ビジネスシーンを筆頭に、スーツを着る局面は夏だからと言ってなくなることはないですよね。とはいえ、日本の夏は暑いのも事実です。そこで我々は、品位を落とさずに、より快適な着心地感を実現する商品開発に乗り出しました。ただ、利便性を追求しすぎて、NEWYORKERブランドであることが損なわれてはなりません。
快適性と、NEWYORKERブランドのスーツ作りのポリシーと、これまでのノウハウを注ぎ込んだ夏向けのスーツが、「クールコンフォート」ということになります。
一般的なNEWYORKERの無地のスーツはウール含有率100%としているが、軽量化および夏向けの快適性を追求していくとなると、ポリエステルを配合していくことがセオリーになる。しかし、NEWYORKERでは、このクールコンフォートにおいても、ウールの着心地感だけは失いたくなかったのだという。そこで、ウールの風合いを崩さないようにポリエステルを配合し、機能性と質感をバランスさせる開発に取り組んだのであった。
ウールとポリエステルを配合した繊維でスーツを作る場合、ふたつのポイントに影響が出ます。ひとつは見栄え、そしてふたつ目は機能性です。
ポリエステルは軽量化には適した素材ですが、配合率が50%を超えてしまうと、化繊的な見え方が露呈してしまうんです。質感でいうと…カーテン的…というと分かりやすいですかね。一方でウールはしなやかで独特な光沢感があり、これが見栄えとしての品位の高さや質感の高さに繋がります。
機能面は具体的には動きやすさのことなどです。ウール自体には伸縮性があり、ウール製のスーツは肘を曲げたり、座ったり…といったことが行いやすい特長があります。一方で、ポリエステルなどの化学合成繊維は軽量性には優れていますが、その含有率が高いとスーツとして作製したときには着た人が動きにくくなる傾向があります。
クールコンフォートでは、質感と機能性の双方において、ウール100%のスーツとの差が出ないよう開発しました。
現状ではウール:ポリエステルの比率は7:3だそうで、これにより従来の同型スーツで15%〜20%くらいの軽量化が実現できているという。ただ、同じ配合率で他社が織り上げたとしてもNEWYORKERのものと同質の着用感の軽いスーツを作ることはできないだろう、と田村氏はいう。
ところで「芯地」というキーワードを聞いたことがあるだろうか。
芯地とはスーツの心臓であり骨格とも言うべきもので、表地と裏地の間に組み込まれた部位だ。芯地は着用したときはもちろん、完成品としてスーツを手に取ったときにも目に触れる部分ではないため、素人目には全く違いの分からない部分だが、スーツの品質の差はここに大きく現れるという。
NEWYORKERと同質のスーツが他社にできないというその大きな理由のひとつには、この芯地の機能性までをコピーすることが難しいためだ。
クールコンフォートのシリーズに限ったことではないんですが、NEWYORKERのスーツが、NEWYORKERらしい品質と性能を実現できているのには様々な秘密…というか“こだわり”があります。
女性が衣服を着たときには身体の丸みが出て女性らしさが強調されます。男性の場合は、衣服を着た場合、骨格が強調されますが、胸の立体感などは出にくいんです。スーツを着たときの流麗さは、この胸の立体感と肩回りの美しさにあると我々は考えていて、この美しさを表現するために芯地には独自の設計を施しているんです。
この芯地を最も低コストに実現するのは接着芯と呼ばれる方式だ。
この方式では、文字通り、芯地を生地に接着してしまう。この方式でも、新品時は見た目にもしっかりしているので問題がないが、経年していくと問題が出てくる。衣服の生地は着用した人が汗ばんだりすれば伸びるし、乾燥すれば縮まる。洗濯やクリーニングをした場合も同様の現象が起こることになる。接着芯では、生地に固定されている関係で、そうした伸縮に芯地が対応できないため、“みみず腫れ”のようなシワが出てきてしまったり、着用時に新品時のような美しいシルエットや立体感が再現できなくなってしまう。
NEWYORKERでは、クールコンフォートにおいても、この芯地には、我々がこだわり続けてきた通常のスーツ製品のものと同等にしています。しかし、全く同じではクールコンフォートのコンセプトが実現できません。そこで、芯地の各パーツの素材を変え、最適化を施しています。その素材のひとつがこのメッシュ生地です。これはウールを主体にした素材でできています。実際には、芯地の部位ごとに、いくつかの生地素材を組み合わせています。ここが我々の妥協しない部分です。
実際に、通常のスーツに用いられる芯地とクールコンフォート用の芯地を持ち比べてみたが、重さが全く違う。クールコンフォート用の芯地に採用されたというメッシュ生地は裏が透ける布のキメが粗めで軽い。しかし、一方で、見た目には相反するような、しっかりとした剛性感も伴っている。
確かにクールコンフォートのモデルは、軽量化されているんですが、着たときの見栄えと着心地の実感は通常のNEWYORKERブランドのスーツと変わらないと思います。こうした独自の芯地を組み込んでいるために、清涼スーツとはいっても、動きやすさと型崩れのしにくさを併せ持ち、それでいて経年に対する耐久性も高いんです。
実際に、完成品のクールコンフォート・コンセプトのスーツを触らせてもらったが、見た目は普通のスーツから大きく変わらない。ただ、いざ手にしてみると想像以上に軽かったために両手をビクつかせてしまった。
また、背中部分は厚みがあるようにすら見える外見なのに、実際に触れてみると実は薄いことも分かる。指触りはポリエステル感が少なく、とてもドライな感じで適度に清涼感を伴っている。しかし、一方で、ウールのような粘りけが適度に感じられ、なんというか品格感もある。
予想外の連続ではあったが、これまで受けた説明が実感を伴った瞬間でもあった。
上着の裏地には吸水速乾性の素材が使われています。この吸水速乾性素材は、上着だけではなく、パンツの方にも使われています。
クールコンフォートでは、「肌に触れやすい部位をケアしていこう」というコンセプトで開発されていまして、例えば、パンツでは、ポケットの部分ですとか、特に汗を掻きやすい膝上あたりには、吸水速乾性素材を採用しています。少し風のあるところに立って頂ければすぐに乾くことを実感して貰えるはずです。
汗は、肌に触れる化学繊維の吸水速乾性素材が吸収し、通気性の良いウールが配合された外生地側から入ってくる風がこれを乾かす。こうした機能設計になっているわけだ。
アパレル業界とは「流行とデザイン性」を中核に「利益率とコストダウン」を追い求める世界だと思っていた人も多いかと思うが、このNEWYORKERのようにサイエンスとテクノロジーの裏打ちをベースに、ユーザー視点で製品開発を行っているメーカーもあるのだ。
NEWYORKERのクールコンフォートが、よいものだということは分かってきた。だからこそ、それを末永く大事に着たいとも思う。冒頭で製品品質の話題も出てきたが、実際、NEWYORKER製品のアフターサービスのようなものはどうなっているのだろうか。
NEWYORKERの製品は、かなり着用頻度が高くても最低寿命を5年に想定して商品開発を行っています。また、いったんお客さまにご提供させて頂いた製品は、5年を過ぎた後でも、ケアをする社内制度を設けていて、何年着用された製品であっても、当社製品であればサポートを行っています。有償の場合もありますが、気に入って頂けている間はできる限りサポートをしていきます。これは既製品服業界では他に類を見ない商品保証制度だと思っています。
ちなみに、NEWYORKERでは、20年間着続けたお気に入りのブレザーの補修を依頼されたこともあるのだとか。あまりにも古いものは、実際問題として同一素材が利用できない場合もあるが、その場合でもユーザーと相談してユーザーが納得のいく補修作業を提案していくのだという。
中国で生産される商品においても絶対的な自信を見せられるのは、既製服の品質保証の定義を超えた“安心感”というものをユーザーに与えつづけている実績に誇りがあるからなのだろう。
さらに、長く着続けるためのお手入れ方法についても教えてくれた。
我々の製品はもちろん手を掛けてお手入れをして頂ければそれに越したことはないのですが、日常できる手軽なお手入れだけで十分に長持ちします。
夏は汗をかくので帰宅後に外周りを軽くブラッシングするだけでも全然違います。そしてできるだけ湿気の少ないところに保管してください。
雨風に打たれたときについた泥汚れなどは軽く絞ったタオルで一拭きしてください。泥汚れは染みになるので、そのままにしないように気を付けるだけでだいぶ寿命に違いが出ます。
アイロンは掛けて頂いた方がいいのですが、面倒だという人は多いと思います。そういう方は、パンツならば裾口を上向きにして吊し干し状態にしておくと下向きに自然のプレスが掛かるのでお勧めですよ。
ファッションに無頓着な人にとっては、何をどう着たらいいのかがそもそもわからない。今回は夏のファッション…ということで、主に「クールコンフォート」コンセプトの製品の話を中心に話を伺ってきたわけだが、トータル的になにをどう着こなしていったらいいのだろうか。
根本的なことだが、これはとても重要な疑問だと思う。
メンズ向けのスーツのラインナップとしては大別して春夏物、秋冬物があり、それ以外に10ヶ月間着られる10monthものがあります。
今回のメインテーマからはややはずれるが、スーパー・クールビズなどとも呼ばれる、ジャケットを着ないスタイルではどんなものがお勧めなのだろうか。
タウンユースなども想定するとシアサッカー(Seersucker)織素材のシャツとかが夏はお勧めです。
夏は、衣服が肌に全く接地しなければ汗の水分を吸い取ってもらえないため機能的に良くないですし、かといって生地が肌にべったり密着していても汗がべたつく感じがして不快になりがちです。
シアサッカー織は凹凸感のあるシボ付きの生地で、適度に肌に接地し適度に離れた感じの着心地になるため、非常に涼しく感じますよ。
これまでの技術解説や着こなしアドバイスなどを踏まえて、NEWYORKERブランドの「クールコンフォート」を初めとした、いくつかのNEWYORKER製品を筆者自らが実験台となって試着してみることにした。
最近、中年太りが気になり出した筆者だが、そんな筆者がそれなりに見栄え良く変身できれば説得力も増すはずだ。
なお、コーディネートにあたっては、NEWYORKER側のプロスタイリストの方にやって頂いた。
吸水速乾性素材のポロシャツにチノパンの組み合わせ。非常に質感が良く着心地も良好だ。汗を掻いてもすぐ乾く。シャツの色がピンクなのはスタイリストさんの「ピンクが似合いそうだったので」というアドバイスから。
コンセプトは「おしゃれにクール・カジュアル」だそうだ。
シアサッカー織の半袖シャツに軽めのジャケットを組み合わせたカジュアルスタイル。タウンユースでもOK。ジャケットは襟を立てた着こなしもあり…とのことでやってみたり。カジュアルだが、それほど砕けてもいないので、ノータイがOKなオフィスならば、これも充分アリではないか。
クールコンフォートのブレザーに、ストライプのシャツを組み合わせた、着こなし系の“ビジネス着”という感じのスタイル。上着とパンツはあえて異なるラインのものを組み合わせている点に注目。ブレザーはオフィス側に置いておき、通勤時はYシャツのみで…という活用もあり。
コンセプトは「さわやかでクールなオフィスシーン」だそうだ。
グレー系のストライプ入りクールコンフォートのジャケットに涼しげなシャツを持ってきて、ラベンダー色のような暖色系のタイを組み合わせるとよいとのこと。涼しげでありつつもパリッとしまったスタイルが演出できる。
コンセプトは「商談に勝つ!」だそうだ。
スーツを着ると「落ちぶれたホストみたい」といわれることが多かった筆者だが、NEWYORKERを着た筆者はどうだろうか。
ちゃんとしたものを着ると、その人間の品格がちょっと上がったように見えるから不思議だ。「これなら新車を買い替える際のローンの審査も降りそうだよね」というヤジが飛んできたが、実際、鏡を見てみると、Beforeのファッションよりも各段に信用の置けそうな人物に見える。うーむ。
いかがだっただろうか。
興味を持った人は、全国のショッピングモールにあるNEWYORKER直販店をこちらで参照して、ぜひとも最寄りのショップに出かけてみて欲しい。なお、最寄りにショップがない地域の人は、オンライン直販サイトもある。
格好良くなりたい人、あるいはルックスに信用度を増したい人(笑)はNEWYORKERを要チェックだ。
(トライゼット西川善司)