「MultiSync LCD-PA231W」の基本スペックは、23型フルHD(1920×1080)、表示色数約10億7,374万色(DisplayPort 10bit入力時、約4兆3,475億色中)、応答速度14ms(中間色8ms)、コントラスト比1,000:1、輝度270cd/m2、視野角が上下/左右ともに178度のIPSパネルを採用。特にIPSパネルは、今年のキーワードの一つだ。人気スマートフォンやタブレット端末にも使われているパネルなので、IPSと言う言葉自体、かなり一般的になった。従来のパネルと比較して一番の違いは視野角が広いこと。ディスプレイ正面だけでなく、どの角度から見ても同じ発色に見え、一度これに慣れてしまうと、もう他には戻れなくなるほど魅力的な環境だ。

 入力は、DisplayPort(HDCP対応)、DVI-D×2(HDCP対応)、ミニD-SUB15ピンの4系統ある。HDMIがないものの、用途的に通常これだけあれば困ることはない。ケーブル類は電源ケーブルに加え、DisplayPort、DVI-D、ミニD-SUB15ピンそれぞれ一本ずつ付属する。カラーバリエーションはホワイトの「LCD-PA231W」、ブラックの「LCD-PA231W-BK」の2種類。

   
本体正面
右下に電源スイッチ、入力切替、MENU、←→↑↓カーソル、PIPボタンが並ぶ
 
本体裏面
中央から左側に各種コネクタ類がある。右側は電源コネクタのみ
 
各種コネクタ
USB2.0 HUBダウンストリーム×2ポート/アップストリーム×2ポート、DisplayPort、DVI-D×2、ミニD-SUB15ピン。なお、パネル右サイドにもUSB2.0 HUBダウンストリームが1ポート用意されている
 
正面と斜めから同じ写真を撮影(左:正面から撮影、右:斜めから撮影)。角度が付いても発色は変わらないのがIPSパネルの特長だ

 上位モデルにあって、この「LCD-PA231W」にはないものとして、「Adobe RGB非対応」、「フィードバックセンサ非搭載」があげられる。「フィードバックセンサ」が使えないのは電源ONで即安定した表示ができないなど、ちょっと残念ではあるが、運用面でカバーできる。ただ「Adobe RGB非対応ではプロフェッショナル向けとは言えないのでは」と思う人も多いだろう。

 しかし現在、Adobe RGBで入稿するような媒体はごく一部。例えば筆者の場合、グラビアアイドルのイメージDVDパッケージ、週刊誌などのグラビア、音楽CDのジャケ写、ポスターやカタログ、Webへ掲載する写真など、全てsRGBで納品している。Webに関してはそもそもパソコンがsRGBを対象としてるので当然として、実は紙媒体もsRGB入稿だ。過去唯一Adobe RGB入稿したのは写真集のみ。これは印刷所の担当者と直接やり取りができたためで例外と言える。

 なぜ紙媒体もsRGB入稿か、理由は単純。たとえば編集者だったりデザイナーだったりタレントの所属事務所だったり、写真データがいろいろな人を経由するからだ。昔ならともかく、パソコンで簡単に写真を触れるようになった今、Adobe RGBという言葉自体、知らない人も多く、逆にAdobe RGBで撮った写真を渡してしまうと、知っている人がオペレーションしない限り色がおかしくなってしまう。更にもともと紙媒体用に撮った写真がパブリシティや二次使用としてWeb上に掲載されることも多い。従ってsRGBがどれだけ正確に表示できるかの方が重要となる。

 sRGBは多くのパソコン用液晶ディスプレイが対応しているものの、正確にsRGBを表示するのは困難。PA231Wでは、視野角の広いIPSパネルに加え、SpectraViewエンジンによる正確な色再現「3次元ルックアップテーブル」、ばらつきが少なく滑らかな階調表示ができる「14bitガンマ補正機能」、さらには推奨のカラーセンサとSpectraView II(オプション)を使い自動調整が行える「ハードウェアキャリブレーション対応」により、正確なsRGB表示を実現している。画面の輝度ムラ・色ムラを改善する「ムラ補正機能(UNIFORMITY)」も搭載しており、全画面均一に表示してくれる。

 PA231Wは、MultiSync PAシリーズ中で最も低価格なモデルだが、正確なsRGB表示と充実の機能を備えており、プロはもちろんのこと初心者でも安心して使えるディスプレイだと言える。

 多彩で高度なカラーマネジメントに対応しているのは、PAシリーズ最大の特長だ。ディスプレイ本体で、輝度/白の色度/色域/階調特性などの画質設定を調整可能で、5つまで設定内容を保存することができる「PICTURE MODE機能」を搭載。さらに、本体に同梱されているアプリケーションの「MultiProfiler」を使うことによって、PC上で簡単に、画質設定の調整や、PICTURE MODEへの保存、表示の選択が行える。またこのPICTURE MODE機能には、あらかじめsRGBなど一般的なものがプリセットされているが、カスタム設定でプリンタなど印刷用ICCプロファイルを読み込むこともでき、画面上でエミュレーションができるようになっている。

 このエミュレーション機能は、同社独自の2画面モードで異なる2つの画質設定を同時に表示する機能と併用することで、たとえば片方はsRGB、もう片方はカラーインクジェットプリンタのICCプロファイルとして、ソフトウェアに依存せず画面上で即あがりをチェックする、といった使い方ができる。

 2画面モードのパターンは、「Picture in Picture」(画面上にサブ画面)、「Picture by Picture - Aspect」(画面左右分離/アスペクト比維持)、「Picture by Picture - Full」(画面左右分離/アスペクトを無視して最大表示)の3モードを持つ。輝度/黒レベルも双方で調整OK。実際使ってみるとパネル上のリストボックスを選択すれば、すぐ表示が変わるのでかなり便利。加えて、これまで信号ケーブルによるDDC/CI通信のみで制御していたが、USBによる通信にも対応したため、より反応は早くなる。

 なお、本体側のOSDで設定を変更してしまうと「MultiProfiler」側で管理しているデータと一致しなくなるため、「MultiPlofiler」上で同期し直す必要がある。ただ「MultiProfiler」を使ってしまうと、OSDより簡単。各種パラメータをOSDで調整することはまず無く、プリセットの切替に使う程度だと個人的には思っている。

   
MultiProfiler/ICCプロファイル/輝度/黒レベルの設定
 
MultiProfiler/カスタマイズ設定(印刷エミュレーション)
 
2画面モード(Picture by Picture - Aspect)。左右で異なる画質設定を表示

 さらに同社が推奨するカラーセンサ(i1 Pro、i1 Display2、Color Munkiシリーズ、Spyder3シリーズなど)と、オプションの「SpectraView II」を組み合わせることによって、ハードウェアキャリブレーションも可能となる。ディスプレイを長時間使用していると、どうしても徐々に設定がズレてしまうので、正確な発色には定期的なキャリブレーションは欠かせない。一般的にPCが搭載しているグラフィックス側の設定を調整するソフトウェアキャリブレーションと、ディスプレイ本体を調整するハードウェアキャリブレーションと2種類あるものの、ロジック上後者の方が正確。PA231WはsRGBで使うことがほとんどなので、ターゲットをsRGB=「写真向け設定」にセットし測定開始すれば自動的に調整される。難しい部分は一切無く、ボタン一つで高精度に調整するため初心者も安心だ。

   
SpectraView II/ターゲットを「写真向け設定」へセット
 
SpectraView II/調整中。実際は中央丸い部分にカラーセンサが乗る
 
SpectraView II/キャリブレーション完了
MultiProfiler/USB 2.0 Hubの設定
MultiProfiler/ディスプレイ設定

 PA231Wは、アップストリーム×2ポート/ダウンストリーム×3ポート(内1つはパネル右サイド)のUSB 2.0 Hubを搭載している。ちょっと面白い使い方として、一つのキーボードとマウスをUSBでディスプレイに接続し、二台のPCや、PCとMacで切り替えて使用することができる。作業内容に応じて、PCやMacを使い分けるのはよくある話。どちらもお気に入りのキーボードやマウスで操作できる上、省スペースにもなる。

 スタンドは90度のスイーベル、上30度/下5度のチルト調節、ピボットに対応、150mmの幅で高さ調節が可能で、一番低い位置は、机まで下げることができる。スタンドのベース部分は固定でアームの部分が回転するので周辺にあるものを引っ掛けたりすることはない。更にロックボタン(一番低い位置で固定)が追加され、持ち運びするときにアームが急に伸びたりせず安心だ。

 そして意外と便利なのが、「MultiProfiler」の「ディスプレイ設定」で電源LEDの色と輝度を変更できることだ。写真の編集などは比較的暗い場所で行うことが多く、ディスプレイの縁にある青い電源LEDが妙に眩しく邪魔になる。それを、この機能を使えば電源LEDの色を緑色に変更したり、輝度を調整したりすることができ、消してしまうことも可能だ。気分良く編集作業が行える。

   
ロックボタンとケーブルマネージメント
 
ピボット
 
一番下まで下げたところ
   
電源LED/青色
 
電源LED/緑色
 
電源LED/輝度調整最小

 これらのことは、実際使う側の立場でないとなかなか気付かない部分。同社の細かい気配りが感じられる。その他、オプションとしては「遮光フード」と本体下部に装着できるステレオスピーカー「SOUNDBAR90」も用意され、どちらも是非一緒に使いたいアイテムだ。

 以上のように「MultiSync LCD-PA231W」は、IPSディスプレイで視野角は広く、sRGBを正確にムラ無く表示、高度なカラーマネージメント、そしてハードウェアキャリブレーションにも対応した、プロフェッショナル向けワイド液晶ディスプレイだ。設置スペースや予算の関係で上位モデルが使えなくても、デジカメで撮った写真はもちろん、WebやCG製作など幅広いジャンルで十分に活用できる一台と言えよう。

西川和久(にしかわ かずひさ)

1962年11月生まれ。もともとPC系のライター&プログラマーであったが、周辺機器としてデジカメを使い出してから8年。気が付くとグラビアカメラマンになっていたと言う特殊な経歴の持ち主。初めて使った一眼レフはCanon EOS DCS 1c。現在、dwango.jp(待受)のグラビアマガジン、着エロ系DVDのジャケ写などで活躍中! http://www.iwh12.jp/blog/