AdobeRGB対応ディスプレイ「LCD2690WUXi」によるレタッチの実際/キャリブレーションで徹底調整 広色域のアドバンテージを実感

 パソコンディスプレイは、CRTから液晶に移行がほぼ終わると同時に、NECDSからセンセーショナルなディスプレイ「LCD2690WUXi」が登場したのは記憶に新しい。

 「LCD2690WUXi」の何がすごいかといえば、25.5型(WUXGA)とワイドで広色域(AdobeRGB比95%)で高性能なディスプレイなのだ。そのLCD2690WUXiの性能は、以前スタパ氏とともにレビューした記事を見てもらえれば分かるとおりで、(http://ad.impress.co.jp/special/necds0612/)その高性能ディスプレイを作り得たバックボーンには、NECDSの歴史がある。NECDSは医療用など専門家向けに高性能で高価なディスプレイを出し続けているが、性能の凄さは一般にあまり知られてない。医療現場等特殊な現場で活躍するディスプレイは、高精細高性能が必要である。医療現場ではCT等で撮影された画をみて診断を下すのに、かすかな病巣も映し出さなくてはならないからだ。その高度な技術を元に、昨年末にやっと我々プロカメラマンやデザイナーなどハイエンドユーザー向けに作られたのが「LCD2690WUXi」なのである。その性能は、ハイエンド向けディスプレイとしてトップクラスの位置にあることは間違いない。

 デジタル一眼レフカメラ市場も、この秋から年末にかけて新製品が続々登場する。そしてそのほとんどが色空間を「AdobeRGB」に設定して撮影することができるのだ。もちろん「sRGB」で撮影するより色情報が多いのだから、プロやハイアマチュアのほとんどの人は「AdobeRGB」で撮影しているだろう!? またレタッチを前提として、RAWで撮影する人も多いだろう。そんなハイエンドユーザーはこの「LCD2690WUXi」のように、色域の広いディスプレイで表示しないとレタッチがうまくいくはずはないのである。

 そんな「LCD2690WUXi」に、強力な助っ人といえるオプションが登場した。またレタッチ時における「AdobeRGB」のアドバンテージを、写真を見て確認してみよう。

●カラーキャリブレーション用「SpectraNavi」が日本語版になってバージョンアップ


 「LCD2690WUXi」に、ぜひそろえて購入してほしいオプションがある。すでに発売されていたハードウェアキャリブレーションソフト「SpectraNavi」がバージョンアップして、「SpectraNavi-J」として発売された。

 「SpectraNavi-J」は日本語化したばかりでなく、キャリブレーション時間も半分に短縮し、サポートカラーセンサーが「i1」シリーズ、X-rite DTP94に今回「ColorVision Spyder2」も使用可能になったのだ。

 一般に売られている「ソフトウェアキャリブレーション」は、グラフィックカードのRGB出力を調整するのに対し、この「LCD2690WUXi」専用ハードウェアキャリブレーションソフト「SpectraNavi-J」はグラフィックカードのRGB出力はそのままにディスプレイ内にある「画像表示コントロールエンジン」を調整するため、中間調での階調の崩れもなく表示できる利点がある。

 実際キャリブレーション操作をしてみると、日本語のため操作は分かりやすくなり、あっというまに終わってしまった。カスタム設定もいろいろできるので便利である。特にお気に入りは「白色点温度のカスタム設定」である。環境光を計って白を決める方式のものもあるが、白が完全には白くならないのが普通である。(このソフトはi1-2キャリブレーションセンサーのみ環境光を計れる)「白色点温度のカスタム設定」は視覚的に白を決めてしまうので間違いはない。やや操作が微妙な調整になるのだが、確実な白に持っていけるし、白をプリンター用紙に合わせれば、プリンターの白とのマッチングにもなる。

 「LCD2690WUXi」は工場出荷時に1台ずつ調整されているので、そのまま使っても問題はないが、自分に適した明るさで白も決めたいとなれば、キャリブレーションをすべきである。また液晶ディスプレイの発光部が蛍光管を使用しているため、劣化を考えれば毎月調整し直したほうが安心である。長期にわたり同じ状態が保たれ、レタッチ作業がより確実に行えるだろう。

「白色点温度のカスタム設定」
色のついた円中央の丸を動かし、視覚的に白を決められる

キャリブレーション結果である。
sRGBをはるかに超え緑青に広く、赤方向にも色域を広く持っていることが分かる。

 今回は「i1 Pro」を使ってキャリブレーションをしてみた。「SpectraNavi-J」をインストールした後、日本語の指示通りに進めれば4〜7分で終わる。前バージョンは14分かかったのに対し、今回は5分と驚異的に早かった。

待ちに待った純正「遮光フード」

 実は前々から「遮光フード」が欲しかったし、メーカーに作って欲しいと嘆願したこともあった。数カ月前に写真関係のイベントでNECDSのディスプレイが展示されていたときに「遮光フード」の試作品を見たのである。その時案内してくれた人が「これより良いものを開発中です!」と言っていた。確かにしっかりとした作りで、上部にキャリブレーション用の小扉も付けられ良い感じである。

90HD262421(遮光フード)
見た目もかっこよくしっかりした作りで、内側には光を完全に吸収する素材が張られている。

ディスプレイ上部左右にある放熱用の穴は塞がずに固定でき、中央にはキャリブレーション用センサーを下げる扉が用意されている。

 一見無意味にも思える「遮光フード」が必要なわけは、「LCD2690WUXi」のディスプレイ表面がノングレア処理され、光などの反射や映り込みを押さえている。しかしノングレア処理の微細な凹凸に直接光が当たると、かすかにモワレのようなムラを感じることがある。部屋を暗くするとそれが解消されてクリアになる。そこで部屋の照明が直接当たらないようにすれば良いわけで、段ボールなどで自作する人もいるぐらいだ。段ボールなどで自作した場合、通気口をふさいでしまうことが多く、ディスプレイ内部温度が上昇し、信頼性が低下することが予想される。そこで、この純正「遮光フード」は、ディスプレイから出る熱の処理やそれにともなう固定の問題などを考えて作られているので安心して使うことができる。

広色域AdobeRGB比95%の「LCD2690WUXi」での写真レタッチのアドバンテージを確認

 右の写真のように紅葉や青の多い写真だと、AdobeRGB対応の「LCD2690WUXi」なら色域が広い分、階調性も豊かになる。実際、目視でのレタッチをするのに、AdobeRGB対応のディスプレイは欠かせない。一度使ってしまうと後には戻れない世界である。

原寸(3216×2136ピクセル)

 また、「LCD2690WUXi」とsRGBディスプレイ2台をデュアルディスプレイにして、PhotoshopCS3で右の写真(AdobeRGBで撮影)を表示してみた。この写真を左右のディスプレイに移動させ、色を見比べてみると、あまりの色の違いに驚きである。

 湖のエメラルドグリーンの再現性はsRGBディスプレイには無く、透明感も失われてしまう。また手前の木の葉の輝きも葉の階調も失われているようだ。湖の奥の森の階調も弱まり立体感が失われるなど、実際の情報が見えていないようだ。sRGBディスプレイの環境下で作業すると、必要以上のレタッチをしてしまう可能性がある。

AdobeRGB画像

sRGBに変換した画像

 右の2つの写真は、AdobeRGBの写真をsRGBに変換した場合、どれぐらい色やコントラスト情報が失われたり変わるかを、ヒストグラムで見てみた。もう一目瞭然の違いである。いくらsRGBに色域を変換しても、元の美しい状態は保てないことが分かる。



 次にカメラの色空間設定をAdobeRGBとsRGBにして撮影したものだ。

AdobeRGBで撮影した画像

sRGBで撮影した画像

  まさに見ての通り違って見える。花びらやおしべはさほど変わらないが、葉はAdobeRGBで撮影した物の方が深みのある良い色をしている。また水中は透明感があり、茎の赤色もAdobeRGBで撮影した物の方が立体感が感じられる。残念ながらsRGBディスプレイでは、2つの写真を表示すると違って見えてしまうので、読者に見てもらうすべが無く残念である。

 2つの実験から、AdobeRGB対応のディスプレイを持っている人も、sRGB対応のディスプレイを持っている人も、違った色空間のものはどうしても違って見えてしまう。せっかくAdobeRGBで撮ってもsRGBディスプレイ上ではレタッチのしようがない。「LCD2690WUXi」の場合は、AdobeRGBで撮影したものはそのままに、sRGBで撮影したものは、モードをsRGBに変えればよい。もちろんWeb等のときはsRGBにした方が見る側との環境が近づく。

 さてこれだけ分かれば、デジタル一眼レフカメラで作品撮りしたり、仕事や趣味で写真や画を扱うならば、AdobeRGBで撮影したものをAdobeRGB対応ディスプレイを使わないと、正しいレタッチができないことが分かっただろう。カメラやパソコンは良いものを買っても、安ディスプレイでは宝の持ち腐れになってしまう。多少高い「LCD2690WUXi」ではあるが、色域が広いばかりでなく工場出荷時に1台1台調整して色ムラも少ない高性能なディスプレイだ。それだけに作品作りには欠かせない性能を持っていると言える。それを考えれば決して高くないし長く使える「LCD2690WUXi」は、我々プロやハイエンドユーザーには必要不可欠なディスプレイであることは確かである。
(Text by 若林直樹)

■関連情報
・NECディスプレイソリューションズ株式会社
 http://www.nec-display.com/

・液晶ディスプレイページ  
 http://www.nec-display.com/products/display/

・製品ページ
 http://www.nec-display.com/products/display/model/lcd2690wuxi/

・MultiSync Technical Guide  
 http://www.nec-display.com/products/display/mtg/

■関連記事
・NEC、H-IPSパネル採用のプロ向け24型ワイド液晶
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0412/nec.htm

・NEC、プロ向けの25.5型WUXGA液晶ディスプレイ
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1120/nec.htm