高性能な液晶モニターとして定評のある「EIZO」ブランドにはご存じスタンダードモデルの「FlexScan」シリーズ、そしてプロフェッショナルワークをサポートするカラーマネージメントモニター「ColorEdge」がある。今回この「ColorEdge」の中でも24.1型モデルの「CG241W」をテストした。

 この機種を選んだ理由は、24.1型 WUXGA(1920×1200)と作業領域が広く、AdbeRGB色域の96%をカバーしているという広色域だからだ。

 そんなスペックなら「FlexScan」シリーズにもあるし、他社製品にもあるじゃないかと考えがちだが、選んだ理由がほかにある。

 理由は簡単「CG241W」はプロフェッショナルモデルだからだ。何が違うといえば切りがない。職人は職人の道具を使うように、私たちプロカメラマンはプロ用のカメラや三脚など使うのは当たり前なのだ。そして液晶モニターもプロカメラマンにとっては重要な道具である。デジタル化した今日、プロ用のデジタル一眼レフカメラで撮り、その作品をきちんと表示できるモニターで見ているだろうか? Yesと答えられる人はどの程度いるだろう? 作品撮りなどしているハイエンドユーザーはどうだろう? ましてプロのデザイナーたちは?

 ときどきビックリする環境(パソコンやモニター)で仕事しているクリエイターを見かける。「それでわかるの?」と聞けば、「だいたい……」と返事が戻ってくる。「だいたい」とか「なんとか」と環境の悪さを感じているならいいけれど、私が納めた写真を見て「色が……」とか「なんか眠くない?」とか、自分のモニターが絶対だと思っている人もいる。

 偉そうにいっているが、私も昔から完璧を求めて投資してきたけれど、当時の「ColorEdge」は手が届かなかったので、「だいたい……」とRGBの数値を見ながら試行錯誤で頑張ってきた。それが昨年末に色域がAdobe RGB対応の機種が「EIZO」はじめ数社から手の届く価格帯で登場した。私にとっては待ちに待った広色域で高精細なプロ用液晶モニターに、両手を挙げてバンザイしたのだ。

 「ColorEdge CG241W」のプロ仕様なる理由は他に、表示画面の色・輝度ムラを均一にするデジタルユニフォミティ補正回路、16bit内部演算処理による階調表現、ハードウェアキャリブレーション対応……。出荷するときに工場にて1台ずつ階調を測定して調整するという。それらの手間のかけ方は尋常じゃなく、1台1台が完璧になって届けられるのだからこそ「プロの道具」といえよう。

 さっそく「ColorEdge CG241W」を私なりに試した結果を紹介しよう。

 毎日仕事で使うなら格好いいにこしたことはない。「私的格好いい」とは「シンプルで質感がある」そして「安っぽさは微塵もない」なのだ。その点、この本体デザインなら文句はない。またスタンドは、82mmの幅で昇降するのでチルト上40°と合わせてセッティングしやすい。私的にはモニターを下にピッタリつくぐらい下げられると、少し目線が下がるので程よいのだが、今の私の机ではちょっと高すぎる。スタンド足とモニターとの隙間に、キーボードを入れるのに程よい空間があるのも、手を挟まないためとも聞いている。ま、机を買い替えるか、もっと椅子を持ちあげればいいのかも。また中央の「OSD操作ボタン」は従来のスタイルを踏襲していて、慣れている私には使いやすい。

側面から見ると裏側に、ふたまわり小さいスリットの入った厚みがある。この中に高度な技術が詰め込まれ、上下左右に空いたスリットで熱を逃がしているようだ。この熱の発生する部位を液晶モニターパネルと離した構造になっているために、多少厚くなってしまうのだろう。

 

DVI-I端子(HDCP対応・AV機器接続非対応)が2つと、USBポート。パソコン2台を1台のモニターで使いわけられる仕様だ。


   
 

背面のケーブルは昇降スタンド外側に通す場所がある。側面から押し込めばバネ式の扉で簡単にセッティングできる。背面から見ると、昇降スタンドの大半がこのカバーで覆われ、ケーブルが隠れスッキリしたシルエットだ。

 ざっと本体周りを見てきたが、「ColorEdge CG241W」はEIZOダイレクトからセンサーセットで販売されている。CG241W対応センサーのEye-One Display2と、以前から要望の高かった遮光フードとクリーニングキットが同梱になってのセット売りだ。

 このセットのセンサー「Eye-One Display2」と、付属のCD-ROM内キャリブレーションソフトウェア「ColorNavigator」を使い、「ハードウェアキャリブレーション」を行う。専用ソフトで直接モニター内部にあるコントローラーを調整するので、ソフトウェアキャリブレーションのように階調を無駄にすることはない。これはとても重要なことで「ソフトウェアキャリブレーション」では、パソコン内のグラフィックカードの出力を変えることでカラーキャリブレーションするのだが、その結果データの損失は免れることはできずに、色かぶりや階調飛びが発生する。そんな環境下で写真のレタッチをしても、視覚的に本来の情報が得られるはずはない。そんなわけでこの「ハードウェアキャリブレーション」は重要なのである。もちろん「CG241W」は工場出荷する前に、モニターを1台ずつ測定して階調を調整している。そのままで十分だが、実際使うユーザーの環境光や、プリンターとのカラーマッチングが必要だ。一見、工場出荷状態が変わってしまうかと思われがちだが、センサーで液晶面の中央を測り、工場出荷時の状態のバランスのまま環境に合わせているようだ。

 専用遮光フードは、カメラレンズにフードをつけるように、液晶モニター面に環境光が直接当たらないためにつけるのだ。光が当たるとなぜ悪いかは読者ならご存じの通り、液晶ガラス面はノングレア処理だが部屋のライトなどで白っぽく見えたりする。それによって黒が締まらなくなったり、ムラっぽく見えることもあるからだ。私には使いやすい。

遮光フードの取りつけは簡単だ。思った以上に奥行きがあり、内側は細かい毛で覆われたラバー状になっており、内部反射は起きないようになっている。もちろんモニターの上部側面部の熱排出を妨げない仕様だ。

 

キャリブレーションは至って簡単。ソフトをインストールしていれば実際キャリブレーション時間は5分に満たなかった。

Eye-One Display2を使えば、環境光下でプリンター用紙の白を測ることで、プリンターとカラーマッチングさせることができる。

 

「CG241W」を購入すると、工場出荷時に調整されたデーターシートが同梱されてくる。液晶モニターは長く使うと蛍光管が劣化して色や輝度が変化していく。定期的なキャリブレーションが必要であろう。また問題が発生したときのサポート体制も整っており、仕事で使う我々には嬉しい限りである。

 いつも液晶モニターを見るときは、まず写真のような自作のカラーチャートを作り、それでチェックしている。正面はもちろん上から見たり横から見たり、時間をかけてチェックする。暗い写真が潰れていたり、黒〜白の階調がすべて表示できていない場合は、モニターの輝度を上げたり下げたりと大忙しである。キャリブレーションができないときは、白(255・255・255)と隣の(250・250・250)との差が判別する輝度にしてから黒側を見る。どこまで潰れているか、どこまで潰れないように調整できるか等々。また白が白に見えるように色温度を変えてみたりする。最近の液晶モニターは全体的に優秀になってきているのがわかるが、微妙な階調を表示できるモニターは少ない。そのために、やたら写真がCGっぽく見えたりすることがある。一見綺麗だが、微妙なトーンの違いが表示されずベタな状態になりCGっぽくなるのだ。そんなモニターにだまされないためにも、いろいろな液晶モニターを実際体験してみるとよいかもしれない。

 さて「CG241W」がどこまで色表示ができるかの実験をしてみよう。

黒側は(0・0・0)(2・2・2)〜(20・20・20)と白側(255・255・255)(253・253・253)〜(235・235・235)の階調が並べてある。このチャートを「CG241W」で表示し、Nikon D2xでRAW撮影する。現像時に黒側も白側も見えるようにコントラストをなくし黒側を明るくしての現像により、視覚的に確認できるようにした。
 

白と黒の階調判別チェック用チャート

カメラで得た情報と見た目はほぼ同じだ。黒側の2階調は潰れてしまい判別不可能だが、他はすべて差があることがわかる。この黒側の階調は見えている(4・4・4)と(6・6・6)も一般的印刷では潰れてしまうのでこれだけ見えていれば十分である。黒の階調を必要とする作品なら、暗部に強いプリンターで印刷するときに力を発揮するだろう。
 

CMYK各色0%と1%を並べたカラーチャート

 

RAW現像時にコントラストをなくしたり、彩度を持ち上げて視覚的にわかるようにした。Kは弱いものの、CMY各色は見えている。この微かな階調がわかるなら十分である。写真(作品)のハイライト部分でも質感を見せてくれるに違いない。

中間調でのRGB各色。左は(125・125・125)右はその色だけを127で表示してあるカラーチャート。

 

同じくRAW現像時にコントラストや彩度を調節し極端にして、視覚的に判るようにしている。中間調でのテストだが、これが全色域にわたって表示できるだけの能力は持っているだろう。

  液晶モニターの「ムラ」にはいろいろな要素が絡みある。明るさによる「輝度ムラ」や、RGB各色個々の「色ムラ」である。「色ムラ」は輝度に影響されるところは大きく、「輝度ムラ」と同じような傾向を示す。しかしながらよく見ると違った「ムラ」も見えてくる。これはモニター内にあるチップ(画像処理エンジン)の能力と、液晶パネルの精度に影響されていることが考えられる。 「輝度ムラ」は白(255・255・255)を表示してNikon D2xでRAW撮影。RAW現像時にホワイトバランスを整えレベル調整してムラが顕著にわかるようにした。色ムラも各色R(255・0・0)G(0・255・0)B(0・0・255)を作り同じように各色の「色ムラ」を顕著に見えるようにした。同時に一般的他社製24型モニターもテストしたので比較してみて欲しい。

「CG241W」の輝度ムラ

 

一般的他社製24型モニターの輝度ムラ

「CG241W」の赤色ムラ

 

一般的他社製24型モニターの赤色ムラ

「CG241W」の緑色ムラ

 

一般的他社製24型モニターの緑色ムラ

「CG241W」の青色ムラ

 

一般的他社製24型モニターの青色ムラ

 デジタル一眼レフカメラが普及して、色域をAdobe RGBで撮る人も多くなってきた。どこかに旅に出て作品撮りしたものや、一度しかない子供の成長の過程など2度と撮れないものばかりである。それをせっかく撮影するのにsRGBという狭い色域で撮影するのではもったいない。図を見てもらってわかるように、Adobe RGBはsRGBよりはるかに広く緑や青方向に広がっている。これを活用するにはデジタル一眼レフカメラも、それを表示する液晶モニターもAdobe RGBにするにこしたことはない。しかしながら、一般的にWebを見る液晶モニターはsRGBの色域しか持っていない。ホームページに載せる写真など混在しているのが現状だろう。そこでAdobe RGBとsRGBの見え方がどの程度違うか試してみた。

Adobe RGBで撮影したものをAdobe RGBで表示した

 

Adobe RGBで撮影したものをsRGBで表示した

sRGBで撮影したものをAdobe RGBで表示した。

 

Adobe RGBで撮影したものをAdobe RGBで表示した。

 だんぜん緑の表現力が違う。Adobe RGBで表示したものの方が色の深みがわかるだろう。

 ヒストグラムを見ても元データの違いどおり、表示した写真の紅葉と共にある緑や川の色に深みがあり、全体的に立体感がでている。これを見るともうAdobe RGBでしか撮らないと思ってしまう。

 このように違って見えてしまうことを考えれば、断然広色域の液晶モニターでのレタッチ作業をした方が有利だということがわかる。私は何も考えずにいつもAdobe RGBで撮っていたのが間違いではなかった。Webに使うときは画像データをsRGBに変換してレタッチすれば良い。

 さて、この「CG241W」が高性能で色域が広いことがわかった。ケチのつけようのない「プロの道具」だろう。あとはカメラと同じく、使いこなすだけの技量やセンスがあれば、素晴らしい作品を作るのに大いに力を発揮するだろう。

■若林 直樹
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/