三菱電機「RDT232WM-Z(BK)」。120Hz駆動パネルを搭載したことに加え、フレーム補間機能「倍速クリアピクチャー」を搭載している

 パソコン用ディスプレイといえば、以前は本当に「パソコン用」だった。だが現在、特に個人用ディスプレイとして選ばれる場合、パソコンの画面だけが映ることはまれだ。

 ゲーム機の映像に地上デジタル放送、ブルーレイなど、「個人が手にしうる映像」のほとんどが映るディスプレイのうち、「小型で手に入りやすいもの」がパソコン用、といった方が正しい。特に、広い趣味趣向を持つ「ミドルユーザー」ほど、単純に「なにかの性能が良ければ満足」というわけでないところが難しい。

 そうなると大切になってくるのは「動画の表示性能」だ。単に色がきれいなだけでも、PCでの文字が美しいだけでもなく、「最新のテレビ並に動画が美しい」ことが求められる。

 そこで必要となってくるのは、もちろん「フルHD対応」と「超解像」。解像度をスポイルすることなく、さらに「低解像度の映像も見やすい」ことが重要だ。ここまでは、同社の旧モデルでもサポートしていた。

 だが問題なのは「動画ブレ」だ。

 液晶ディスプレイは、動きの速い映像に比較的弱い。横に高速に流れるテロップや、ボールや選手が高速で移動するサッカーでは、映像が流れ気味になって見づらい、という現象が見られた。

多くの映像は動きの激しい箇所で動画ブレする。これは液晶が1コマ1コマの映像を表示している時間(ホールド時間)の長さに起因する

 こういった現象を改善するため、今回新たに搭載されたのが「倍速クリアピクチャー」という機能だ。通常60毎秒コマである映像を、前後のコマの情報から補間して120コマに増やし、「書き換え枚数」を増やすことで、動画のブレを抑制しよう、という仕組みである。中級以上の液晶テレビでは搭載がすすんできたものだが、30インチ以下の製品に使われている例はきわめて少ない。もちろん、国内で単体型パソコン用ディスプレイに搭載したのは、この製品が初となる。

※映像比較の写真は効果を説明するためのイメージです

 効果はかなりはっきりと感じられる。テロップなどが見やすくなるのはもちろんなのだが、なによりもうれしいのは「色のにじみも低減される」ことだ。

 ブレているということは、ディテール同士が重なっている、ということでもある。その結果色が混ざりあい、映像の純度が下がる。ディテールが見えにくくなるだけでなく、色もはっきりしない。

 この点は、実際に映像を見てみないとなかなか納得しづらいかも知れない。だが、一度「倍速クリアピクチャー」を体験してみれば、これまでのパソコン用ディスプレイの動画とは「はっきり感触が異なる」ことを実感できる。

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 液晶ディスプレイの残像感は「応答速度」という数字で表されることが多いが、実際には応答速度では残像感は分からない。液晶のように、コマを表示し続けるディスプレイを「ホールド型」というのだが、残像感はホールド型ディスプレイの宿命ともいえるものなので、単に応答速度が上がり、映像の切り替わりが速くなっても改善しない。もっとはっきり言えば、仮に応答速度が「0ms」になっても、ホールド型である限り残像感は消えないのだ。

 だが、表示するコマ数を増やせば話は別だ。同じ映像が表示され続ける時間が短くなるので、残像感は当然減る。

 そういった場合、どのくらい「動画でのぼやけ感があるのか」を表すのに使われるのが、「MPRT(Motion Picture Response Time、動画応答時間)」という指標である。詳しい数値の意義などは、同社の解説サイトをご参照いただきたいが、要はMPRTの値が小さいことは、動画の「ブレ感」が少なく、映像のエッジに本来のキレがあることを意味する。

 例えば、応答速度で比較すると、RDT232WM-Z(BK)で利用されているTN型液晶パネルは「3ms(GTG)」。旧モデルのものは「5ms」だという。その差は、大きなものではないように思える。しかし、「倍速クリアピクチャー」を「強」にし、MRPTを計測すると、RDT232WM-Z(BK)は「8ms」なのに対し、旧モデルは「22ms」と、大幅な改善になる。この違いこそが「ディテールの確かさ」「発色の美しさ」につながってくるのだ。

「倍速クリアピクチャー」は「オフ」「弱」「強」の3段階で調節可能。「シネマモード」では24コマの映像ソースのコマ補間方法を選択できる。ちなみに超解像機能だが、今回から効き具合を0〜100のあいだで10きざみで調節できるようになった

 元々同社のディスプレイでは、超解像技術を使って、埋もれ気味なディテールや色を生かす絵作りがなされてきた。「倍速クリアピクチャー」によってブレの悪影響が減ると、超解像の魅力もより際立ってくる。様々な技術の積み重ねが、画質により良い影響を与えている、ということなのである。

 「倍速クリアピクチャー」と同時に搭載されたのが「シネマモード」。フィルム撮影された映画は、元々毎秒24コマで撮影されている。これを60コマのテレビで見ると、コマ数が整数倍にならないので動きに違和感が出やすい。実は単純に120コマにしても話は同じである。

 そこで、「倍速クリアピクチャー」の「コマ補間技術」を生かし、フィルムのコマの変化に忠実に「コマ切り替え」を行うと、不自然な動きが減ってくる。これが「シネマモード」の「フィルム」だ。特に、24コマ収録されたブルーレイの映画タイトルでは効果を発揮する。

 他方、テレビの60コマ映像に慣れた人からは、24コマのフィルムは「動きがコマ落としのように見える」こともあるようだ。そんな人は、「シネマモード」を「なめらか」に設定すると、コマの間を「補間」して、テレビに近いなめらかさに変えてくれる。

 映画ファンにも、カジュアルな映像ファンにもうれしい機能だ。

 なお、これら「画質改善機能」を充実させると、ゲームファンは「表示まで遅延」が気になるところだ。だが、各種画質効果をオフにする「スルーモード」に変更すると、映像入力から表示までの遅延は「1フ レーム以下」になるという。しかも、「スルーモード」時も「ギガクリア・エンジン」による超解像は有効だ。これならほとんど気にならないので、入力ソースによって切り換えながら使うのがいいだろう。

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D-SUB DVI-D HDMI-1 HDMI-2 D端子
D-SUB   ×
DVI-D  
HDMI-1   ×
HDMI-2 ×  
D端子 ×  
PinP時の入力ソースの組み合わせの幅が大幅に広がった

 すでに述べたように、パソコン用ディスプレイは様々な映像が使われる。そこで重要になってくるのが「ピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)」の機能だ。パソコンを見ながらテレビを見たり、ゲームをしながらネットを見たりと、「その人のライフスタイル」に合わせて入力を組み合わせることが求められる。この点は、大画面を「占有」して使うテレビとは、ちょっと違ったところだろう。

 元々同社製品は、PinP機能に定評があったのだが、残念ながら「入力ソースの組み合わせ」に制限があった。具体的には、「HDMIとDVI-D」が組み合わせられなかった。パソコンとゲーム機、パソコンとブルーレイレコーダーという組み合わせで、デジタルの最高の画質が扱えなかったのだ。

 だが今回は、その制限が緩和された。パソコンをDVI-Dの鮮明な表示で使いながら、小画面で地デジやゲームを楽しめるのである。

PinPの子画面にも超解像が効くようになった。外部入力のプレーヤーで映画を観つつPCで作業…というときにうれしい
デスクトップの任意の範囲に超解像を適用できる「ギガクリア・ウインドウ」(Windows VistaとWindows 7のみ対応)

 そこでうれしいのが、このような「小画面モード」でも超解像が効く、ということだ。小画面の中だけに超解像を働かせ、ディテールや発色の良い状態で視聴できるので、小画面だからといって、画質に妥協する必要がない。設定調整は10段階+オフと、細かく変更できるのもありがたい。

 同様に、「パソコンと映像」という組み合わせで効果を発揮するのが「ギガクリア・ウインドウ」だ。実はこの機能、付属のソフトを使って「超解像」をするためのもの。ソフトを起動し、パソコン画面の中で「超解像をかけたい一部」を指定すると、そこだけに超解像がかかる、というユニークな仕組みだ。

 超解像は、動画画質を改善するにはきわめて有効な仕組みなのだが、文字やウインドウの枠などに反映すると、逆に画質が落ちて見づらくなる、という副作用がある。そこで、パソコン画面を表示している時には超解像を使わない人が多い。

 しかし、YouTubeなどのネットコンテンツの映像は解像度が低いので、やはり「超解像」が欲しくなる。

 そこで、「ギガクリア・ウインドウ」の出番だ。再生部分を選択して超解像の適用をすると、文字部などは画質劣化のないまま、映像だけは美しい表示、という形を実現できる。

 このように、「パソコンを使いながら映像をできる限り美しく楽しめる」ように配慮されているのが、RDT232WM-Z(BK)の特徴だ。

 そのために、映像機器を接続するためのインターフェース位置なども大きく改善された。従来はD-SUB端子でコンポーネント入力を兼用していたり、端子がみな抜き差しがしにくい背面にあったりしたのだが、今回からは、D5端子・HDMIといった「家電系端子」は、抜き差しが容易な側面に移動し、さらに、D-SUB端子とDVI-D端子は「パソコン専用」となり、わかりやすくなった。

頻繁に抜き挿しすることが多いHDMIやD5端子はアクセスしやすい側面に配置されている

 ちょっとしたことだが、インタレース信号をIP変換する回路が「3次元IP変換回路」になったため、ちらつきが減ったのも大きい。特に、昔のゲーム機をつないで楽しみたい人には朗報だ。

付属するリモコンが従来のカード型からしっかりとしたスティック型になった。「倍速クリアピクチャー」や超解像の効き具合調節などもボタンひとつでOK

 これらの改善点は、みな細かなことだ。

 「倍速クリアピクチャー」にしても、それだけでは「テレビでよくあるもの」と思われそうだ。

 しかし、これらを「みんな持っている」パソコン用ディスプレイはない。

 TN型パネルを使い、価格は抑えた「中級機」ながら、最新技術と細かな配慮の積み重ねで「実は上位機にも負けない価値」を生み出しているのが、RDT232WM-Z(BK)の魅力だ。「洗練が生み出した革新」というと、ちょっと言い過ぎだろうか。

(Reported by 西田宗千佳)

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