筆者は個人的にも、これまでいろいろな銘柄のスタッドレスタイヤを購入してきたし、さらに最近では仕事柄いろいろと新しい商品を試す機会にも恵まれている。首都圏に住み始めてひさしいが、雪国の地元に住む身内や友達から聞かれたときのためにもと思い、各メーカーの商品の特徴を的確に伝えられるよう心がけている。
スタッドレスタイヤというのは、商品によってかなり特色があり、もちろんよいところもある半面、どの商品も大なり小なり何らか不満点があるものだ。たとえばスノー性能はまずまずでもアイス性能が不足していたり、スノーやアイス性能はよくても乾燥路では不安定だったり、最初はよくてもすぐに美味しいところが終わってしまったり、といった感じである。年々進化しつづけてきたスタッドレスタイヤは、すでに技術的にはかなりのレベルに達していると思うものの、新商品が出るたび、まだ進化の余地がこんなにあったことを思い知らされるわけでもある。そんな中でもミシュランのX-ICEは、もともとバランスがよいので不満も小さく、その上で代を重ねるごとに着実に進化を遂げているところはたいしたものだと感じていた。
さて、ミシュランのスタッドレスタイヤは、主に日本で開発されていることは、前記事で大江氏が述べていたとおり。また、最新の「X-ICE XI3」(以下XI3)を開発するにあたり、ユーザーがスタッドレスタイヤにどのような性能を求めているかを調査。その結果、アイス性能のさらなる向上に特に注力して開発したとことがわかった。従来からある「X-ICE XI2」(以下XI2)でも決してわるい性能ではなかったが、果たしてどれほどの進化をしているのか? いち早く冬の北海道で試すチャンスに恵まれた。
テストコースは、日本の自動車メーカーの開発のメッカでもある士別に位置する、交通科学総合研究所だ。ここには冬場のさまざまな路面を試すことのできる各種設備が整えられており、そのうちのいくつかを使って、XI-3の優れたウインター性能を体感することができた。
まずはスノー性能を体感すべく、広い圧雪路に設けられた、ジムカーナのような設定のコースを走る。テスト車両として用意されたのは、XI3を装着したレクサスIS(AWD)だ。スタート位置からアクセルペダルを踏み込むと、良好なゼロ発進性が確認できた。加速時のトラクションも高く、神経を使うことなくスムーズな加速ができる。S字のスラロームでは、横方向のグリップのよさを実感。ゆるい上り坂をのぼってUターンし、下って帰ってくるというレイアウトだが、下り坂でリアの荷重が抜けるような状況でも、あまり不安定になることもなく、とにかく全体的にグリップ感が高いことが印象的だった。グリップが高いので、スノー路面にもかかわらず、自然とペースが上がってしまう。
純粋な横方向のグリップを体感できるよう旋回試験場も使うことができた。圧雪された半径40mの定常円を、アウディA3クワトロで走行。旋回しながら、どこまで舵が利くか?、アクセルオン&オフでの挙動の変化はどうか? などをチェックする。路面ミューは0.3程度とかなり滑りやすいが、縦方向だけでなく横方向のグリップも高いので、横Gを感じながらもどんどんアクセルを踏んでいける。
XI3では、エッジ効果を高めるため、ブロックの数を増やし、よりシャープなパターンを採用しているが、それらが効いているのだろう。スタッドレスタイヤは基本的には柔らかくないといけないけど、エッジ効果を高めるには、ある程度の硬さが必要とのこと。そのあたりも上手く煮詰められているらしく、XI2からの進化を実感させられる。
続いては氷上性能のテスト。屋内氷盤路でアイスアクセラレーションとアイスブレーキのテストを実施した。大きなドーム状の屋根に覆われているのは、さまざまな外からの要因によって条件が変化することをなくすため。一定の条件が保てるので、より綿密な試験を行なうことができる。試乗時の外気温はマイナス1℃、氷温はマイナス1.4℃。ツルツルに磨きあげられ、見るからに滑りそうな路面を目の前にして、はたしてこんなところで差が出るのか?、物理の法則に従うしかないのでは?と思ったのだが、そんな心配は杞憂に終わった。XI3はこういう場でこそ真価を発揮する。
車両はフォルクスワーゲン ゴルフ。複数の乗員が乗っていることを想定してウエイトを120kg搭載、タイヤの空気圧は200kPaに調整している。まず、トラクションコントロールを利かせながら発進し、5km/h→20km/hまでの加速にかかる時間を計測。そしてブレーキングし、ABSを作動させたまま、20km/hから完全停止するまでの距離を比較した。XI3では、アイスブレーキング性能やアイストラクション性能がXI2よりも向上していることを謳っているが、確かに加速時間、停止距離ともにXI2を上回る結果を出した。実際に体感的に感じる印象は、数字で表れる以上に大きく異なり、グリップの違いをはっきりと体感できる。わずかこの速度でこれだけの差が出たのだから、現実的な状況下では、その差はより大きなものとなるはずだ。
屋内氷盤路での性能差を念頭に置きつつ、屋外の氷盤路に設定された小さなコースを、XI2とXI3を履かせたリーフで走り、印象の違いをチェック。まずXI2で走り、続いてXI3を試して、再びXI2で再確認するといった感じで何度か試した。XI2も、かなりハイレベルなアイス性能を持つスタッドレスタイヤだと認識していたが、技術の進化とはやはりたいしたもので、最新のXI3を試すと、ラクションもブレーキも、XI3のほうが一段上の性能を持っているのが確認できる。ブレーキについても最後にギュッと止まるときの感覚が違うが、個人的には、ブレーキよりも発進時のトラクションの強さが印象的だった。
さらには、横方向のグリップ感もまったく違った。XI2までは、すべてV字シェイプに沿ってサイプが配されていたところ、XI3ではサイプの向きを変化させることで多方向へのエッジ効果を発揮する「バリアブルサイプアングル」を採用したことで、横方向のグリップも増したようで、ステアリングを切ったときのレスポンスもずいぶん違うし、小さなコースだがカーブの通過速度もわずかに違うように感じられた。とにかくこんなにツルツルの路面でも、全体的にグリップ感がずいぶんと違うことに驚いた。
全体を通して印象的だったのは、XI3はグリップの高さだけでなく、とてもコントローラブルなスタッドレスタイヤであるということだ。せっかくテストコースなので、あえてアクセルをめいっぱい踏んでみたり、ステアリングを素早く切ったり、ABSがずっと作動するようなブレーキングをしたりと、極端な運転を試してみたが、限界を超えるところで、いきなり滑り始めず、グリップを維持しながら穏やかに滑り始めるような感覚がある。そうした一連のインフォメーションは、ドライバーにとって安心感にもつながるし、コントロールする余地があるので、安全性にもつながることに違いない。
最後に、テストコース周辺の一般道を、XI3を装着したインプレッサ(4WD)とセレナ(4WD)で走ってみた。一般道なので、テストコース内とは逆に、あまり無茶な走りはしなかったが、何の違和感もなく、まるで雪上ではないかのように、自然な感覚で走ることができた。ABSもグリップのピークを掴んでいる感じで、下りのカーブでもなんら不安に感じることなくブレーキを踏むことができる。インプレッサは予想どおりよかったが、ミニバンであるセレナもことのほかよかったことが印象的だった。車両重量が比較的大きく、重心が高く、ロールの大きなミニバンは、夏用タイヤでも専用品も用意されているぐらいで、ウインター路面となればなおのこと。ミニバンで適切な接地形状を得るのはスタッドレスタイヤであってもそれなりに難しくなるはずだが、実際にはグリップに不安はなく、変なクセもなくてとても走りやすかった。
スタッドレスタイヤに関する技術はすでにかなり進化していて、もはや雪上や氷上におけるグリップ性能の物理的限界を飛躍的に上げるのは難しいところまできていると思うが、XI3は、このように確実に性能が進化している。
筆者が感じたのと同じようなことを、多くのユーザーが大なり小なり感じ取っているからこそ、X-ICEシリーズが、これまで9年連続してJDパワー調査で冬用タイヤの総合満足度でナンバーワン(http://japan.jdpower.com/)を獲得してきたのだろうし、その正常進化版であるXI3が、より高く支持されることは想像に難くないだろう。まさに今、お世辞抜きで“理想”に一番近いスタッドレスタイヤだと思う。ちなみに12月31日までにミシュランX-ICE シリーズを買うと、抽選で5,000円分のQUOカードが当たる「ミシュラン スタッドレスキャンペーン」も実施しているから、購入を検討している人は、ぜひキャンペーンの方もチェックしてみよう。