前回、矢東タイヤ王子店で、忙しい店長を捕まえて、ひたすらタイヤ談義に花を咲かせたワタクシ。実は駅前のお店に嫁さんを置き去りにしてタイヤ交換。アライメント修正だの、窒素注入だの、タイヤ談義だのと続けていると、すっかり予定時間を1時間もオーバーし、手元の携帯電話には着信履歴が10件も連なっていた。

 ということで、お世話になった矢東タイヤ王子店を出発し、待ち合わせの赤羽駅へと向かったのだけど……やはり自分のクルマで体感すると、ミシュラン・パイロットスポーツ3(以下PS3)の特殊性が本当によくわかる。シツコイようだが、僕がスポーツタイヤとしてイメージするものとは、まるで感触が違うのだ。

ベストカーイベントやロードスターでさんざん試したPS3をついに愛車に装着

走り出しが軽く、とにかく静か

 世の中には静粛性を最優先に設計されたタイヤもあるから、絶対的な音量という面で、僕が愛車のGolf V R32に取り付けたPS3が、“あらゆるタイヤの中でもっとも静かだ”とは言わない。しかし、これまで僕のクルマに履かせてきたスポーツタイヤからすると、“激変”といってよいぐらい、落ち着いた走行音だ。

 5年間も乗ってきたクルマだけに、小さな違いもよくわかるのだろうが、それにしてもなんだか不思議。まず走り出しが軽い。アクセルに軽く足を載せるだけで、スルッと車体が前に行き始める。ハンドリングも軽快、スッと自然に佇んでいる感じだ。

 まだトレッド面の皮もむけていない中だけど、初っぱなから予想どおりと言えば予想どおり、驚きと言えば驚きの変化を体感しながら、駅で嫁さんをピックアップ。するといきなり「あ、ずいぶん静かになったのね?」とのコメント。「道路の継ぎ目を越える時の感触が柔らかくなったみたい」と、たずねてもいないのに感想を言い始めるぐらい、PS3の違いを助手席からでも感じているようだった。

 僕が思うに、こうした女性の感覚というのは、ほとんどの男性よりも鋭く、そして細やかだ。オーディオ&ビジュアルの世界でも、読者の試聴室を訪ねると、たいていは奥さんの方が音や映像のセッティング方向に関して正解を言う。理論を理解することと、感性の鋭さはまったく別もので、“こんな感じ”という面に関して、女性の意見は素直に聞いた方がよい、というのが、オーディオ&ビジュアルの仕事をしてきて常々感じていることだ。

ということで、せっかく交換したタイヤをしっかりレビューしたいところだし、なかなかよいコメントもくれそうな嫁さんも連れて二人で遠出をしてみることにした。せっかくなら僕も嫁さんもまだ未体験の新東名を使ってみたいので、目的地は浜名湖に決定。二人で一泊旅行に出かけることにした。

走り始めてすぐに、これまで他のクルマで体験してきたPS3らしさを実感できた 今回女性視点でレビューに参加してもらう僕の嫁さん

一皮むいてから、いざ初めての新東名へ

 旅行までの間、僕は海外出張を挟んだりであまりクルマに乗れなかったのだけど、都内の仕事をクルマで移動したりして、タイヤを軽く馴染ませておいた。走り出しから違う感覚のPS3だけど、一皮むくとさらに落ち着きが増してくる。

 旅行当日の早朝、自宅を出ると首都高速中央環状線をとおり、大橋JCT(ジャンクション)のループを通過して渋谷線に入る。ちょうど空いている時間で、気持ちよくループを抜けることができたが、やっぱり“頑張ってる感”がない。

 外輪に荷重がグッとかかっているのに、いつもよりロールが小さく感じられる。柔らかいわけじゃないけれど、しなやかに力を受け止め、力強い筋肉で支えられているようなイメージ。荷重がグッと入るとゴロゴロゴロ〜っと走行音がきつくなるものだが、そのときの音量もあまり増えない。

 そして首都高速・渋谷線、そして東名高速道路に入ってからは、高架橋の継ぎ目を中心に感触を確かめてみたが、本当に穏やかで平和な車内をキープしてくれる。嫁さんは「一般道でのギャップを乗り越える時と同じように、高速でも継ぎ目を乗り越える時の突き上げ感が丸くなった気がするかな。角がなくなって穏やかな印象」とのこと。

 僕はというと、タイヤ自身が軽くなったかのような錯覚を受ける、という印象を持った。以前はバタバタと大きな重量の塊が、ギャップを越えるごとに大きな慣性を伴って動いている印象だったが、バネ下が軽くなってストンと簡単にギャップを吸収する。こりゃぁ、乗り心地もよいと感じるはずだなぁと思いつつ東名を走らせた。

 このまま新東名を目指してもよかったけれど、せっかく新しいタイヤなので箱根も走ってみたい。ということでここで嫁さんと運転を交代して、まずは小田原~箱根へと渡り歩くドライブコースに繰り出した。

港北PAにて。高速道路は順調そのもの。浜名湖へむけていざ出発   高速道路の継ぎ目などでも、角が丸くなったような乗り味

フィーリングと走り、そのギャップの大きさが魅力

 僕らが普段の生活でも使っているような、ごくごく一般的な小田原の市街地を走る。その印象を嫁さんにたずねると「なにってなに? もう、本当に普通よ。まるで快適な高級セダンでも運転している感触。それなのに、いつものようにハンドルをきった時の反応はよいのよね」とのことだ。

 うちの嫁さんは女性には珍しく、柔らかいサスペンションがダメ。ハンドルを切ったときの応答性が悪かったり、ロールが大きかったりすると、なんだか運転のリズムが狂ってしまうのだそうだ。だから、我が家ではスポーティなサスペンションセッティングのクルマしか買ったことがない。

 そんな彼女が自分で運転しての感想は「なんか、普通のクルマになっちゃったわよ?」。

 よくよく聞いてみると、ゴツゴツしたフィーリングと手応えのあるハンドリングがソフトになり、快適な運転感覚なのだとか。実際にはそこまでハンドルが軽くなるわけではないが、確かに普通方向。街中を軽く走るぐらいだと、コンフォートタイヤのような軽快な運転フィールなのである。

小田原の街中から箱根の途中までは奧さんがドライブ。ゴルフの中でもスポーティな足回りのR32の乗り味がすっかり快適になった

 ではスポーツタイヤとしてはどうか?ということで、箱根に入ってからは僕がハンドルを握ることにした。先日、ロードスターでも峠を走ってみたけど、今回は自分のクルマ。それに1トンを割り込むライトウェイトスポーツと、1.5トンの重量級4WDスポーツ(しかもFFベース)。条件が違えば、また違ったフィールを味わえるものだ。嫁さんをお茶屋さんに置いて、峠を軽~く攻めてみる。

 V6を積んだフロントヘビーのクルマで下りを攻めると、自然にその限界が見え始める。滑り出しの限界は高く、同クラスのスポーツタイヤの中にあって十分なもの。でもよさはその先にある。限界を超えてからの挙動が穏やかで、タイヤそのものが負けて腰砕けにならない。さらに、ギューッと前外輪に荷重が乗っている時、もう少し内に入りたいかな?と思えば、少しハンドルを切り足すだけで、実に平和にクルマの向きが変わってくれる。

箱根で少し元気に走ってみる。わざと無茶にステアリングを切り足してみても、すっぽ抜けることもなくタイヤがきちんと操作に応えようとしてくれる

 グリップレベルはスポーツなのに、気むずかしさはまったくなし。それでもって、街中の感触もよい。

 あるいはサーキットで攻め込むなんてことになれば、別の印象を持つのだろうし、コンマ1秒でもタイムを縮めたいとストイックに願うなら、PS3以外にベストな選択があるのかもしれない。しかし、絶対的なタイムとクルマを操る愉しさは別のものだ。“移動”という作業を快適にこなし、“ドライビング”という趣味を気持ちよくこなせる。そんな二面性がPS3のよさだなと再確認して、いよいよ僕にとってはじめての新東名へと乗り込んだ。

あまりに快適すぎてタイヤテストになるの?

 実は新東名。タイヤのフィーリングに関しては、何も言うところはございません。というのも、あまりに道がフラットでアスファルトの状態もよく、道も広くて静かで快適なドライブを楽しんだ…… のだけれど、あまりに路面がよすぎてタイヤのフィーリングなのか、路面のフィーリングなのかが判断できない。そのぐらい、新東名は至極極楽なフィールなのである。あえてここでのフィーリングを言うならば、それはレーンチェンジのスムーズさと、少しばかり普段よりもよい感じの燃費だろうか。

はじめて走った新東名は快適そのもの。しかし快適すぎてタイヤのレビューには向かないかも

 浜名湖までの途中、全SA(サービスエリア)に足を運んでみたけれど、どこも美味しく楽しく、そして清潔。どの個室が空いているのか一目で分かるサイネージが配された、まるでホテルロビーのようなトイレなど、古くからの高速道路設備を知るオヤジとしては、目鱗というか、大いなるカルチャーショックを受けながらの旅となった。これだけ“よい感じ”の道とSAなら、みんな一度は通ってみようと集まるのも理解できる。まさに観光地のようだ。

新東名の名所NEOPASAを下り線だけ完全制覇

せっかくの初めての新東名なので、新東名の注目スポットであるNEOPASAに立ち寄ることに。下り線にある4個所すべてに寄ってみたけど、どこもおしゃれで清潔感があって、立ち寄るごとに何か買い物をしたくなってしまう。でも新東名は渋滞もなく快適そのもので、けっこうすぐに次のNEOPASAについてしまって、さすがに僕もおなかがいっぱい。一度に全部制覇するより、毎回1個所ずつ満喫するほうがオススメかも。

□NEOPASA駿河湾沼津

東名よりも山側を走る新東名だが、駿河湾沼津下りからは駿河湾を見下ろせ、フードコートのテラスでオーシャンビューを楽しみながら食事ができる。ここで昼食として高速道路初出店の「麺屋 道神」の特製つけ麺を注文。このらーめん屋さんは石神秀幸氏プロデュースなのだとか

□NEOPASA清水

天気がよければ富士山の絶景が楽しめるというNEOPASA清水。残念ながら取材日は曇っていたので見ることができなかった。ここでは食後のデザートとして「KAWASEMI BAKERY」で地元のミカンを使ったシュークリームとドーナッツを満喫

□NEOPASA静岡

静岡市の花であるタチアオイや市木のハナミズキの色をイメージした外観のNEOPASA静岡。バンダイのお膝元ということでガンダムをテーマとしたアパレルショップも入る。ここではおやつとして黒はんぺんのフライをいただいた

□NEOPASA浜松

上り線はピアノ、下り線はアコーディオンの鍵盤をイメージしたNEOPASA浜松。フードコートのテーブルやイスも音符の形になっている。おなかもいっぱいなので、ここでしか買えない遠鉄マルシェの三ヶ日みかんバームクーヘンをお土産に購入

 と、そんなわけでタイヤ的には新東名は問題なし。しごく順調に浜名湖に到着し、夜はうなぎを食して、ゆっくりホテルで休んだ。

東名高速に乗って実感するPS3の奥深さ

 翌日は浜名湖畔を周りながらドライブを楽しむ。狭い道、荒れた道に入り込んでも、タイヤが過剰に路面状況を拾うことはほとんどない。ちょっと攻めた時には、あれほど路面フィールを伝えつつ安定した走行を引き出していたタイヤが、街乗りでは荒れた路面の嫌なところを吸収してしまうのだから不思議だ。しかも、荒れた路面であればあるほど、PS3の静音化の効果は大きいようにも感じ始めていた。

浜名湖の周りをグルッと一周回るようにドライブ。舗装の状態の悪い路面ではPS3の当たりの柔らかさが際立つ

 ここまで、一般道に峠道、高速道路や荒れた路面など、様々なシチュエーションでPS3を走ってみて、もうこれ以上はないでしょ?というぐらいその魅力を満喫した。満足できなければ返品可能の満足保証キャンペーン中ではあるけれど、僕に活用する機会はなさそうだ。むしろ、さすがにそれだけ大胆なキャンペーンに打って出られる理由をこれでもかというほど納得させられた気分。でも最後、東名高速道路に乗ってみると、あ?やっぱりまだいいところがあるな、と気付くことができた。

 ランチを食べたお店のご主人が「新東名からやってきたの?帰りは東名?一度、新東名に乗ってしまうと、東名が“ここって本当に高速道路”というぐらい、狭く古くさい道に感じちゃうよ」と言われていたのだけど、まさにそのとおり。単に車線幅だけでなく、路肩の幅の取り方などなど、あらゆる雰囲気が違うからだ。

舘山寺温泉にある「浜乃木」で浜名湖名物のうなぎを頂くことに。大きな窓から浜名湖を眺めながら頂く桶ひつまぶしは絶品。そして店主は偶然にもCar Watchの熱心な読者。取材の旨を伝えたらゆきぴゅーの取材と間違われました(笑)
舘山寺は浜名湖畔でも人気の高い観光スポット。さらにかんざんじロープウェイを使って大草山に登れば、東名まで見渡せるパノラマを満喫できる

 ま、それはともかく、この東名を走っていて気付いたのは、軽〜く轍になっているところをとおっても、ハンドルがほとんど取られないこと。スッとハンドルを切り込めば、素早くレーンチェンジできるシャープさがあるのに、轍に対しては鈍感なのだ。嫁さんとドライバーチェンジして運転させてみると、やはり同じように「助手席にいる私にとっての利点は、何より当たりの柔らかい乗り心地と静かさだけど、確かに轍も拾いにくいね」と感じたようだ。

新東名と比べてしまうとなおさらだが、古さを感じる東名。やはり路面の継ぎ目の当たりの柔らかさを感じるが、加えて轍にハンドルが取られにくいことも感じることができた

 スポーツタイヤと言っても、PS3はシビアなスポーツ指向のタイヤではない。コイツはファミリー向けと言ってもよいぐらいの、快適性、よい意味での“普通さ”なんだよなぁというのが、僕の本音の感想。もし、僕がサーキットをガンガン走るためにタイヤを買うなら、別の選択肢を選ぶかもしれない。でも、PS3はごくごく普通の人が、普通によいタイヤとして履いても、不満に感じる事はないと思う。おそらく、これほどまでに“家族に優しく”、しかも自分のスポーツマインドも満足させられるタイヤは他にないんじゃないかな。自分の選択が誤りではかったことを強く感じた小旅行だった。

前編はこちら

(本田 雅一)

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