ヘッドホンを購入する際、願わくは良い音質のものを選びたい。しかしながら高音質と言葉にするのは簡単だが、人間の耳は十人十色のため、聴こえ方や音の感じ方が皆それぞれで異なる。いくらスペック上は申し分なく優れていて、レビュー上で高く評価されている高級モデルであったにしても、自分には合わないというケースもあったりする。最終的には、自分好みの音を出力してくれるヘッドホンをいかにして見つけ出すかということになるわけだが、現在各社からこれだけ多くのヘッドホンが市場に出ているわけだから、探す作業はまさに砂漠の中での宝探し状態。結果的に何個も買ってしまうはめになった経験、皆さんもしたことがあるのではないだろうか。

疲れない“フラット”な音質を実現した「MXH-RF500」
疲れない“フラット”な音質を実現した「MXH-RF500」

 そうした中で、選ぶ際に便利なのが家電店などに設置されている試聴機コーナー。買う前に、音を実際に聴くことができるわけだから、これを有効利用しない手はない。しかしながら、店で試し聴きして“これはいい”と思って買ってみて、いざ家でじっくりと聴いてみたら、やたら“疲れる音だな”という経験をしたことはないだろうか。店頭で聴く場合、試聴時間が短い上に、店内は騒々しいので、特定の音域が際立っている方が音の印象が良く感じたりする場合が往々にしてあり注意が必要だ。

 ここで“疲れる音”の例をいくつか挙げてみたい。まず高域が強調され、俗に“硬い”と表現されるもの。一見クリアで、音像は捉えやすく感じるが、音に深みがなく、例えば弦楽器などで基音ばかりが目立ち、倍音がげっそり落ちているような、そんな音色である。もうひとつが最近流行りつつある低域重視型。音に迫力が出て、リスニングソースによってはバッチリはまるケースもあるが、そのさじ加減は適量であることが大事であろう。ベースやバスドラムばっかりがボンボン鳴ってしまい、他の楽器の音まで浸食してしまっては、意味がない。特にクラシックやジャズのような演奏上で強弱を付けたダイナミックレンジの広い音楽の場合、低域が強すぎると、折角のニュアンスやタッチが感じ取れず、台無しになってしまう。総じて、周波数特性上で高域や低域に寄っている、いわゆるドンシャリと呼ばれる音質のものが、“疲れる音”と分類しちゃって間違いないであろう。

 その反対に“疲れない音”というのはどういうものかというと、周波数特性上ではフラットな音質ということになる。音域グラフ上で言うと、どこか特定の帯域でピークの山があるのではなくて、まんべんなく平たくなっている状態を指す。“フラットな音質”と言うと、どこか無個性なイメージに感じるかもしれないが、オーディオの世界ではこれが長年の基準となっており、実はいろんな周波数特性を聴き分けるのに最も適している上に、あらゆる音楽ジャンルに抜群の相性を見せてくれる。しかも、高域や低域がうるさく響いてくることがないため、聴き疲れが起きにくいのが特徴だ。

 その“フラットな音質”をモットーにして製品作りをしてきたオーディオメーカーの代表格がマクセルだ。楽器や歌声が本来持つ、デフォルメされていない自然な音色を出力してくれる同社製品は耳の肥えたユーザーたちからの定評も高く、「HP-CN40」を筆頭に多くのロングセラー機をこれまでに生み出してきた。

 そして昨年より遂にハイエンドモデルへの参入を決め、過去から現在に至るまで音質にこだわり続けてきたマクセルの意思表示の象徴として、新シンボルマークも作成。その“m”マークを冠したふたつのモデル、バランスドアーマチュア+ダイナミック型によるハイブリッドドライバーを搭載した「MXH-DBA700」と、ダイナミック型ドライバーを2基搭載の「MXH-DD600」を昨年12月にリリースしたことも記憶に新しい。そして今回紹介するのが、ハイエンドシリーズの第三弾モデルとして2月20日に発売された「MXH-RF500」である。それでは同機の仕様を見ていくことにしよう。

 

「MXH-RF500」

 本機の最大の特徴は、デュアルチャンバー設計を採用しているところにある。ちなみに型番の“RF”は、“Roomy Flat”という造語の略で、マクセルの伝統芸とも言える広がりのあるフラットな音質を実現しているという意味を表わしている。

 美しい弧を描く流線形のボディが印象的だが、その内部は断面図が示すとおり、ドライバーの背面のスペースと、その後方のボディ部のスペースとを合わせて2つの部屋で構成されており、空気の体積を増やすことにより、豊かな低音域と広がりのある音場感を実現している。ただし、このデュアルチャンバー構造は低音域を際立たせるという方向でセッティングされているわけではなく、低音域を伸ばしながらも、フラットな音作りになっているのが特徴だ。そんなところにもフラットな音質にこだわるマクセルの姿勢が感じ取ることができるであろう。なおドライバーユニットは直径10mmのものが搭載されている。

 美しい弧を描く流線形のボディ


耳の穴の奥深くまで挿入できる、先端が尖ったイヤピース
耳の穴の奥深くまで挿入できる、先端が尖ったイヤピース

2種類の長さが用意された延長コード
2種類の長さが用意された延長コード

 本機に採用されている新スペックでもうひとつ注目したいのが、先端を細く尖った形状にしたイヤピースである。この形状によりイヤピースが耳の穴の奥深くまで挿入可能となり、装着時の形状変化を抑制するだけでなく、高音域をよりクリアに伝達させる効果も生み出している。また、このイヤピースの形状と流線型のボディが相まって、実際の装着感はかなり良好で、音漏れが少なく、遮音性にも優れていることも追記しておきたい。なお付属しているイヤピースは、L/M/Sという3種類のサイズが用意されており、これらにはマクセルでは十八番となっている抗菌加工が施されている。

 本体コードの長さは約30cmで、直径2.5mmのステレオミニプラグが備わっている。これに直径3.5mmのステレオミニプラグを備えた延長コードを付けて、実際に使用するわけだが、この延長コードは2種類用意されているところが嬉しい配慮だ。1本目の延長コードの長さが90cmのため、本体コードと合わせると長さが約1.2mと、カバンにデジタルオーディオプレイヤーを入れて使用するのに適した長さとなる。一方、もう1本の延長コードの長さは30cmで、本体コードと合わせると長さが約60cmとなり、胸ポケットにプレイヤーを入れて使う場合に、ちょうどいい長さになる。

 その他の基本スペックは、インピーダンスが16Ω、音圧感度が107dB/mW。再生周波数帯域:20〜22,000Hzで、最大入力が50mWとなっている。

 カラーはレッド/ブラック、ブラック/レッド、ホワイト/パープルの3色展開で、市場想定価格が5,980円。

  • レッド/ブラック
    レッド/ブラック
  • ブラック/レッド
    ブラック/レッド
  • ホワイト/パープル
    ホワイト/パープル

 

試聴

 試聴には第5世代iPod(30GB)/オヤイデ FiiO E1(ヘッドホン・アンプ)を使用。

 まず最初の音源は、Mr.BIGのギタリストとしてお馴染みのポール・ギルバートが昨年リリースしたソロアルバム『ヴィブラート』より、70年代フィラデルフィア・ソウル風のグルーヴ感と美しいメロディが印象的な「アトモスフィア・オン・ザ・ムーン」。ポール・ギルバートのギターだが、フェイザーをたっぷり掛けて、ちょっと鼻に掛かったようなファンキーな音色で、倍音がたっぷり乗った中域がとにかく心地よい。速いパッセージを弾いた時、結構強めに歪ませているにも関わらず、1音1音がはっきりと聴き分けられ、音の分離も非常に良い。

 また、この楽曲ではベースが重低音を終始鳴り響かせているのだが、その迫力を保ちつつも、適度なタイトさを備えているためボヤけることなく、しっかりとベース・ラインがモニターリングできる。しかも、その重低音が後ろの方で控えめに鳴っているエレピの音を筆頭に、その他の楽器の音を侵食しない程度に、いい塩梅でバランスを保っているところは優秀だ。

 続いてはクロスビー・スティルス&ナッシュの「ユー・ドント・ハフ・トゥ・クライ」。CS&Nと言えば美しい三声ハーモニーが魅力なわけだが、この曲におけるアコースティック・ギターの音はまさに絶品。特にスティーヴン・スティルスが弾く高音弦のオブリの、透き通るようなキラキラとした音色はたまらなく気持ちいいものがあった。高音域の切れや瑞々しさにおいても「MXH-RF500」の再生力はかなり高い能力を持っていると見た。

 最後はクラシックの音源から、ベートーヴェンの弦楽四重奏 第9番 第2楽章。この曲の特徴になっているチェロによるピチカートの伴奏が実に艶っぽくて、ビオラと合わせて、中低域の再生能力の高さがうかがい知れる。加えて、高い音階で旋律を弾くバイオリンの音がきらびやかなのだが、箱鳴りしているがゆえに倍音がたっぷり乗っているため、ふくよかな音色となって聴こえてくるところも素晴らしい。

 

まとめ

 これまで筆者が試聴してきたマクセルのヘッドホンの中で、「MXH-RF500」が最も中低域が出ているという印象を持った。この分厚いサウンドは、デュアルチャンバー構造による恩恵なのであろう。これだけ低域がしっかり出るのであれば、ヘヴィロックやレゲェ、エレクトロニカといった、重低音を利かせた音楽を聴くのにも、本機を十分にオススメできる。かと言って、特定の音域が突出しているわけでなく絶妙なバランスに仕上げているところは、これまでマクセルが培ってきたフラットな音質を踏襲していると言える。よってロックやジャズ、クラシックなどを聴くのにも十分に楽しめること間違いなしだ。

 なお「MXH-RF500」にはスマートフォン対応のリモコンを備えた、「MXH-RF500S」シリーズが同時にラインアップされている。このリモコンにはハンズフリー通話が可能なマイク付きで、しかもボリュームコントローラーも搭載しているため、リモコン側からも音量調整ができるようになっている。カラーはブラック/シルバーとホワイト/シルバーの2色展開で、市場想定価格が6,980円。スマホで使うのであれば、こちらも検討してみてはいかがであろう。

スマホ対応の「MXH-RF500S」は、ホワイト/シルバー、ブラック/シルバーの2色展開
スマホ対応の「MXH-RF500S」は、ホワイト/シルバー、ブラック/シルバーの2色展開

 

  • ボリュームがコントロールできるマイク内蔵リモコン(クリップ付き)で、ハンズフリー通話が可能
  • ボリュームがコントロールできるマイク内蔵リモコン(クリップ付き)で、ハンズフリー通話が可能
ボリュームがコントロールできるマイク内蔵リモコン(クリップ付き)で、ハンズフリー通話が可能

 

(ashtei)