試聴には第5世代iPod(30GB)を使用し、【クラシック】、【ヘヴィ・メタル】、【ジャズ】、【ロック】という4つのジャンルでそれぞれMP3フォーマットの音源を用いた。各音源のビット・レートは曲ごとに明記してある。
【クラシック】
年末に合わせて、ベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調作品125の第4楽章をチョイス(MP3/160kbps)。指揮はヘルベルト・フォン・カラヤンで、ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラによる演奏。ここでも「マジックスピーカー」は大活躍で、壮大なスケールを持つこの楽曲に迫力と広がりを与えている。
ただこの楽曲に関しては「バスブースト」を入れると、フォルテシモで弾いているパートに迫力が出るが、逆にピアニシモで弾いているパートでは音が若干聞き取りにくくなる傾向があった。特にバイオリンやフルートなど、高音部を司る楽器の音色に中域が増してしまい、私の主観では濃厚過ぎると思い、気になったので「バスブースト」はオフにした。
しかしこの機能をオフにしても、バスレフ構造のおかげで、十分な低域を出力しており、特にクライマックスのティンパニーの連打するパートの迫力は抜群であった。それにしても、こんな小さなボディで、よくもこれだけの臨場感を創れるものだと、改めて「マジックスピーカー」の機能に関心させられてしまった。
【ヘヴィ・メタル】
メタリカの出世作となった5枚目の『メタリカ』(通称ブラック・アルバム)は、言わずと知れたヘヴィ・メタルにおける金字塔となった作品で、メタル系の中で最もハイファイなサウンドが聞けるアルバムと、私の中では評価している。アルバムを通してひたすらソリッドな音作りがされており、ギターの音色もどちらかと言うとドンシャリ傾向。この作品の中から選出したのは、1曲目の「エンター・サンドマン」(MP3/160kbps)で、本機側の「マジックスピーカー」と「バスブースト」はオンにして聞いた。
ジェイムス・ヘッドフィールド自身が“ウォール・オブ・ギター”と称した分厚いギター・リフのサウンドが実に心地良く響き、メリハリは利いているのだが、ねばっこい中域が出力しており、気分は盛り上がる。加えて秀逸なのが、ラーズ・ウルリッヒのドラムで、特にタムからフロア・タムへロールした時のサウンドが抜群にカッコいい!
プラスティック製の小型スピーカーの場合、低域の強い音源を再生すると、妙な箱鳴りがし、それが起因して不愉快な音に聞こえてしまうことを私は何度か体験しているのだが、この「MXSP-2200」はそうした傾向がまったく見られない。音量をかなり上げても、筐体がドッシリしているため、箱鳴りがほとんどしない。加えてバスレフ構造もしっかり効いていて、それが迫力のある低域を生み出している。
「バスブースト」についても、2.1chのウーファーに感じられるわざとらしい、ブーミーな重低音というよりは、ごく自然な味付けとなっているところも気に入った。メタルのみならず、ヘヴィなロック音源での再生能力もかなり高いと印象づけられた。
【ジャズ】
ビル・エバンス・トリオの不朽の名作『ワルツ・フォー・デビイ』より、「マイ・フーリッシュ・ハート」(MP3/128kbps)。1961年リリースの本作はモノラル録音ゆえに、「マジックスピーカー」の効果は厳密には発揮されないはず。しかし実際に同機能をオン/オフを切り替えをしながら試聴してみたところ、音の広がりという点ではたしかに恩恵はないものの、音色の面ではオンにした時の方がクリアに聞こえたので、結局この機能は入れることにした。また「バスブースト」については、透明感のあるメロディアスな楽曲の性質上、繊細な響きを存分に味わいたかったので、オフにした。ただオフにした状態でも、ウッド・ベースの存在感は十分に出ており、色っぽい低音を出力していたので、不足感はまったくなかった。
ライブ音源ということもあり、ピアノ、ベース、ドラムスの3者が感情豊かに演奏を繰り広げており、全体を通して音の強弱の振れ幅はかなり広い。繊細なタッチで演奏されているパートとしては、ドラムスのポール・モチアンによるシンバル・ワークや、ブラシでスネアをロールするところが代表的だが、なかなか聞き取りにくいところまで、このスピーカーは見事に描写できていて、高音の再生能力においても本機は非常に優れていると感じた。
【ロック】
今年10月に最新リマスター音源で復活したザ・ビートルズの『ザ・ビートルズ/1967~1970』(通称:青盤)の中から「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」(MP3/320kbps)をセレクト。オリジナル・アルバムでは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 』内のラスト・ナンバーとして収録。ジョン・レノンとポール・マッカートニーの両者それぞれが作曲したパートによる2部構成で、互いのパートの間奏にはオーケストラも入った壮大な曲である。
いざ再生してみると、冒頭のジョンが奏でるアコースティック・ギターの音色から、すでに興味は掻き立てられた。このペケペケなアコギの音は、ギブソンJ-160Eだなと、聞くなり確認でき、思わずほくそ笑んでしまった。私はビートルズを聞く際は、ポールのベースを中心に聞きたくなってしまう癖があるので、「バスブースト」はオンにして、彼のベース・サウンドを際立たせて聞いた。ボンボンと唸るポールならではの丸っこいベース音が再生されるや嬉しくなってしまった。そうしたらリンゴ・スターのバス・ドラムやフロア・タムにミュートをまったく掛けずに、まるで大太鼓のようなボーンという轟音を響かせているではないか。何度も聞いている曲のはずなのに、今回改めて聞いて発見した音である。
サイケデリックな雰囲気に仕上げるべく、リバーブをたっぷり利かせ、全体的に浮遊感を漂う楽曲なのだが、本機は小さいスピーカーでありながら、よくぞここまで広がりのあるステレオ・サウンドを出力しているなと感心させられた。それと同時に、ボーカルや各楽器がボヤけることなく、それぞれの音色をしっかりと誇示しているところも立派だ。