【特別企画】クアルコム日本法人社長に聞く
性能と低消費電力のグッドバランス
クアッドコア版Snapdragon S4 Proが実現すること


 クアルコムのチップセットプラットフォーム「Snapdragon」のクアッドコア版は、昨年来各方面で話題を集めてきた。先日発表された「Optimus G」は、世界で最初に「Snapdragon」のクアッドコア版「Snapdragon S4 Pro」を搭載するモデルだという。今回は、今年5月にクアルコムの日本法人社長に就任したクリフォード・フィッキ代表取締役社長に「Snapdragon S4 Pro」の魅力、「Optimus G」に搭載された意義などを聞いた。

クアルコム ジャパン 代表取締役社長 クリフォード・フィッキ氏

――今回LGエレクトロニクスの「Optimus G」に「Snapdragon S4 Pro」が搭載されました。これは世界で最初のリリースです。これまでもMobile World Congress 2012(MWC2012)などでクアルコムのクアッドコアチップセットをアピールして来ましたが、そこに入る前に「Snapdragon」シリーズの魅力を改めて教えてください。

 Snapdragonの特長を示す最大のキーワードは“インテグレーション(統合)”です。さまざまなスマートフォンを含む携帯機器に必要なあらゆる技術要素を含んでいます。たとえばEメールをやり取りする、高速なデータ通信を行なう、GPSによるロケーションサービスの利用、マルチメディアコンテンツを楽しむ、といった機能がすべて高度に統合されていて、すべてポジティブなユーザーエクスペリエンス(モノやサービスによって利用者が得た経験。UXと略されることも)を実現しているところが基本的な特長です。そのうえで、こうしたUXが低消費電力で実現できることです。

 実は、世界初の「Snapdragon」は2009年に日本から提供し始めました。Snapdragonでは、モバイル端末に求められる技術要素を、我々がすべて自社で設計しているところが、前述のようなベネフィット(利益、恩恵、便益)を可能にしている要素で、性能と低消費電力をバランスした設計としているところが重要です。先日興味深いビデオをYouTubeに公開しました。「Snapdragon」と、別のチップセットを搭載したスマートフォンの上にバターの固まりを乗せて溶け具合を比較するという“実験”をしました。結果は映像を見ていただくと一目瞭然で「Snapdragon」の熱対策や低消費電力が優れていることがおわかりいただけるはずです。

――では、クアッドコアになった「Snapdragon S4 Pro」の特長を教えてください。

 今回LGエレクトロニクスの「Optimus G」は、クアッドコアの「Snapdragon S4 Pro」を搭載しているだけでなく、LTE(ドコモでは「Xi」)もサポートしているためアドバンテージになっていると思います。それがお客さまのUXに大きな影響があるでしょう。高速なデータ通信が可能なうえに、クアッドコアによって(複数のアプリを同時に動かす)マルチタスク処理も快適になるからです。

 これに加え、非同期のマルチコア技術を採用しているのもクアルコムのチップの特長といえます。必要なときには十分なパワーで、必要でないときにはコアを個別にコントロールできるので、消費電力をさらに軽減することができます。

 こうしたことを総合して、ネットワークのスピード、処理速度のスピードが向上することで、UXが提供できると考えていまして、「Optimus G」にも期待しているところです。

――ユーザーは、そうしたメリットをどんな場面で具体的に体験することができるのでしょうか?

 たとえばLTEの高速ネットワークを活かして動画を見るようなとき、スマートフォンの処理速度が速いのでダウンロードやストリーミングの映像が快適に見られるはずです。従来はストリーミング中に動画が止まったりすることがありますよね。(「Snapdragon S4 Pro」を搭載した「Optimus G」なら)快適な体験ができると思います。またビジネス環境ではプレゼン資料をダウンロードして見るといったことがあります。そういったことも快適でしょう。このほか普段よく使うインターネットの検索なども速く動いてくれるので、良い使い勝手が実現されると思います。

――それはインターネットにつながって何かをする場合に、魅力がより引き出されるということでしょうか?

クアッドコアの「Snapdragon S4 Pro」を搭載する「Optimus G」

 たとえばPowerPointのプレゼンテーション資料をダウンロードして閲覧し、ビデオを再生し、さらにはその文書をメールで送るというそれぞれの場面は、LTEのネットワークと組み合わせて使うことでポジティブなUXが実現されます。これはスマートフォンとネットワークがうまく連携することで実現します。

 前にも触れたとおり、4つあるコアが、それぞれ独立して動くため高機能を実現しながら、低消費電力を実現します。こうしたバランスの良さが「Optimus G」では実現されているでしょう。

――その「バランス」というキーワードは重要ですよね。

 はい、おっしゃるとおりです。「Snapdragon」の設計思想、そしてLGエレクトロニクスの製品化に対する取り組みが組み合わさることでベストなUXがお客さまに提供されるでしょう。すぐに電池がなくなってしまう、といった不便さをお客さまは感じることなく使っていただけるはずです。

 こうしたグッドバランスというのは、最終製品を作るLGエレクトロニクス、半導体を提供しているクアルコム、そしてLTEのネットワークを運用している通信事業者のコラボレーションによって実現しています。日本のお客さまは、こうした良い環境を、他の国の方よりも早く実体験できるのです。

 「Optimus G」は、コラボレーションの成果の象徴ともいえる存在です。韓国のLGエレクトロニクス、米国のクアルコム、そして日本の通信事業者はビジョンそしてリスクも共有しながら開発を進めてきました。競争環境にあるため、別の局面では競合になることもありますが、それぞれのプレイヤーがビジョンを共有し、コラボレーションしたことによって良い製品ができたと思っています。昔のように1つの会社が自己完結して製品を作るという時代ではないのですし、世界は非常に速いスピードで変わりつつあり、複雑化していますから。

――競争によって、魅力的な選択肢が増えるという意味でしょうか。

 はい。競争によって我々のような半導体メーカーはもちろん、スマートフォンメーカーや通信事業者の方々も、常に新しい技術開発や技術革新を行なっていくわけですから。15年前には巨大だった携帯電話も、競争によって新しいものを作る、競争を勝ち抜くということで、今に至っているわけですから。

 そして世界はものすごいスピードで変化し、1社では完結できないような状況にあります。よってコラボレーションによって新しい技術革新を実現していくという環境が進み、お客さまに選択肢が示されるようになることが重要だと思っています。競争とコラボレーションが今後も技術革新を引き起こしていくでしょうね。