PCは、たとえそれがモバイルPCであっても速い方がいいに決まっている。とにかく使っていて気持ちがいい。そうはいっても、モバイルPCでは、携帯性を優先するために、さまざまな要素を犠牲にし、多くのガマンを強いられるのが実情だ。でも、そのガマンは少ない方がいい。その犠牲とガマンの損益分岐点をギリギリまで追求したモデルとして、この夏にパナソニックから登場したレッツノートS9マイレッツ倶楽部限定モデルを試用してみた。

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マイレッツ倶楽部限定のレッツノートS9
外観は変わらないが、心臓をCore i7-620Mに強化
不変の操作部分は信頼の証

 レッツノートSシリーズは、2009年秋に登場した新しいシリーズで、レッツノートの王道的存在として人気を集めていたWシリーズの液晶をワイド化したものだ。つまり、光学ドライブを装備した12.1型ワイド液晶のモデルとなる。折り紙付きのタフさは全シリーズ共通で、当然、このSシリーズもレッツノートの名に恥じない堅牢性を備えている。

 初代のSシリーズは、S8シリーズとしてMontevinaプラットフォームにCore 2 Duoを搭載というスペックだった。そのS8は2010年の頭にプラットフォームをCalpellaに変え、S9として登場、プロセッサもCore i5を搭載していた。

 今回の新モデルは、まさに、その完成形として、処理性能の向上にさらなる磨きがかかっている。

 マイレッツ倶楽部の限定モデルには、ハイスペックモデルとプレミアムエディションモデルの2種類がある。それぞれBTOで構成できる要素が微妙に異なるのだが、プレミアムエディションはプロセッサにインテル(R) Core(TM) i7-620M vPro(TM) プロセッサー を奢った点が特徴だ。また、HDDかSSDか、FOMAネットワークを使用できるWAN+GPSの搭載が選択できる。SSDとWAN+GPSは排他だが、うれしいことにWiMAXは全モデルで標準装備となっている。なお、マイレッツ倶楽部ではワイヤレスWANモデルキャッシュバックキャンペーンなどを実施しているので、ぜひチェックしよう。

 今回使用したのは、256GBのSSDを搭載し、WiMAXを装備したプレミアムエディションだ。本体色はグレイッシュメタル、シルバーダイヤモンド、ジェットブラックの3色から選択でき、天板も8色から選べるが、今回試用できたのは本体、天板ともにジェットブラックのものだった。個人的に、今後のモバイルPC選びにおいて、WiMAX内蔵とSSDは必須としたいと決めているが、まさに、その要件を満たす製品となっている。

 前回、Sシリーズを試用したのは昨年秋、初代のS8シリーズだった。多少、長期に評価期間を設けてもらえたので、海外のカンファレンスに持参するなどして、高い処理性能や、そのバッテリ長時間駆動のメリットを享受することができた。

 今回も、評価期間がゴールデンウィーク中とのことで、1週間程度の試用を許された。せっかくなので、常用ノートPC環境と同じにセットアップして使ってみた。

 常用環境の構築には自分専用のマニュアル的なものを持っているので、作業は、そのマニュアルを見ながら順に設定をしていくだけだ。多くの時間は、ネットワーク経由でのファイルのコピーやアプリケーションのインストール時間、インデックスの作成などに費やされる。評価のために手元に届いたマシンで、この作業をやると、結果としていつも同じことをやることになり、そのマシンのだいたいの性格や処理性能が把握できる。

 今回のS9は本当に速かった。マニュアルにしたがって次から次へとさまざまなことをやらせるのだが、インストールに時間がかかるようなアプリケーションでは、インストールをバックグラウンドで進行させつつ、次の手順に移ってしまっても、そのときにもたつきを感じることがない。この感じは、まさに、高性能プロセッサを搭載したデスクトップPCの環境構築に近いとさえいえる。

 新S9は、通常電圧版のCore i7を搭載している。S9の春モデルはCore i5搭載だったが、クロックおよびキャッシュのスペックが向上している。さらに、Core i5、i7プロセッサの最たる特徴はインテルのターボブーストテクノロジーだ。新S9搭載のCore i7-620Mでは、通常は2.66GHzのクロック周波数が負荷に応じて一時的に3.33GHzまで上がる。さらに通常電圧版ということもあって、超低電圧版や低電圧版などで感じる微妙なレイテンシもない。まさに打てば響く感覚でテキパキと仕事をこなす。Core i5の3MBに対して4MBというL3キャッシュ容量も体感速度の向上に貢献しているようだ。レッツノートの場合、余分なソフトがほとんど入っていないという点も高い体感速度に影響しているはずだ。

 実は、今回の新製品試用にあたり、比較対象用として旧機種であるW5シリーズをあわせてお借りしたのだが、1.06GHzのCore2 Duoとは、あまりにも差が大きすぎ、ほとんど使わずじまいに終わってしまった。最新製品と比較せずにずっと使い続けていれば気にならないかもしれないが、たった3年前の製品と比べて、こうも大きな違いがあるものかと、改めて実感した。

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出張時に頼りになるHDMI端子
現時点でDisplayPortよりも実用的なのは、アナログRGBのVGA出力端子とHDMI端子だ
WiMAXを装備したプレミアムエディション

 日常的に使うアプリケーションのインストール、ファイルの同期等が終わったところで、SSDの残り容量をチェックしてみると、180GB程度を使用し、残り容量は50GBを切っていた。手元で個人的に常用しているR8はSSDモデルだが、その容量が128GBなので、本当ならコピーしておきたいiTunesのライブラリが入らない。楽曲データが120GBあるのだから入らないのは当たり前だ。でも、256GBあればちゃんと入る。SSDの容量は大きければ大きいほどいいが、そこはコストとの戦いになる。256GBというのは、現時点のぼく自身の使い方では理想的だ。これはちょっとうらやましい。ちなみに、今回のモデルでは、SSDが東芝製になった。なお、HDDモデルでも、回転数が7200RPMのものが採用され処理速度の向上に貢献している。

 バッテリ駆動時間は公称で約15時間だ。実使用時間としては、無線をオンにし、液晶バックライトの輝度を100%にして使った場合、1時間にほぼ10%ずつ減っていく。10%を切ったところで使用をやめるとしても、約9時間は持つ計算だ。バックライトを少し暗くすればもっと保つだろう。

 現実問題として、1日の使用において、そこまで電源のないところでPCを使うことはなく、まったく問題がない駆動時間といえる。HD動画を見るような重い作業をさせたところで7〜8時間は余裕で使えるだろう。一泊程度の出張なら電源アダプタを携帯する必要もないかもしれない。

 本体にはアナログRGBのVGA出力端子とともにHDMI端子が装備されている。近頃のビジネス用ノートPCは、DisplayPortのみというケースが多く、将来的にはそれが当たり前になっていくだろうが、現時点ではHDMIの方が実用的だ。というのも、ビジネスホテルの多くが地デジ対応のために薄型液晶テレビを部屋に置くようになり、それらのテレビはほぼ例外なくHDMI端子を持っているからだ。また、会議室や応接室などに設置されているテレビも同様だ。DisplayPortを持つプロジェクタやモニタテレビがこれらの場所に備わるようになるにはまだ少し時間がかかるだろうし、たとえそうなったとしてもHDMIが省略されることは考えにくい。デスクトップPCならともかく、モバイルPCでは当分の間HDMIが必須だと思う。標準で音声も同時出力できるHDMIはきわめて実用的だ。レッツノートとしては、この先5年程度はHDMIを標準装備し続けてほしいと思う。HDMIがあってよかったという場面は多いに違いなく、地味ではあっても多くの支持を集められるはずだ。同様にBluetoothが標準装備というのもうれしい。

S9のカラー天板のバリエーション
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モバイル専用ならR9も
S9とR9を並べてみた

 マイレッツ倶楽部のレッツノートは、そのすべてが64bit版のWindows 7 Professionalをプリインストールする。もし、もし、32bit版を使いたい場合はリカバリ(ハードディスクリカバリ)時に64bitか32bitかの選択が可能なので、32bitをリカバリすればいい。だが、3GB超のメモリを有効に使うためにも64bit運用が望ましい。

 まさに優等生的な製品に仕上がっている。デスクワークとモバイルを1台のノートPCに集約したいのであれば、最適の解となりそうだ。

 ただ、純粋にモバイル機としてみた場合には、どうしても、そのサイズが気になってくる。デスクワークで使うにはギリギリ妥協できる小ささだし、モバイルで使うにはギリギリ妥協できる大きさだが、それが気になり始めるということだ。

 たとえば、電車の中で立ったまま開いて使うような場合には、Sシリーズの12型ワイドはちょっと大きすぎる。長距離を移動する出張ならともかく、都市部における頻繁な乗り換えを前提にした移動中に使うモバイルPCは、もうちょっとコンパクトであってほしい。

 でも、それを望むユーザーのために、レッツノートにはRシリーズが用意されている。10.4型のスクエア液晶のRシリーズは、デスクワークで使うには小さすぎるかもしれないが、モバイル用途では絶妙なサイズだ。そのRシリーズも、この夏はアップデートされ、HDDの高速化、SSDモデルの軽量化等が実現されている。超低電圧版ながらCore i7を搭載し、妥協のない処理性能を実現している。

 SシリーズとRシリーズは、液晶のドットピッチがほぼ同じというのもいい。並べて使ったときはもちろん、とっかえひっかえ持ち出す場合も、液晶を開いたときに目に感じる違和感がない。

 一台のS9ですべてのパーソナルコンピューティングをまかなうか、高性能な据え置きPCとR9を併用してモバイルを究めるのか。この手の選択は悩み始めると永遠に終わらないのだが、結果としてどちらを選んでも後悔することはなさそうだ。PCを選ぶときのポイントは現時点で有り余るほどの高性能を追求することだ。それだけのことで陳腐化するまでの期間が延び、PCのライフサイクルを長期化できる。そして、結果としてコストパフォーマンスは向上するはずだ。

Reported by 山田祥平
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