経営効率化やコスト削減だけでなく、災害対策や事業継続計画(BCP)などの観点から、急速に高まりつつある「クラウド」への注目。しかし、その一方で、具体的な内容や効果がわかりにくいことから、なかなか導入に踏み切れない企業も少なくないだろう。そんな中、KDDIから、アプリケーションからデータセンター、ネットワーク、デバイスまで、顧客のニーズに合わせて、最適な組み合わせで利用できるクラウドブランド「KDDI MULTI CLOUD」が登場した。どのような特徴で、具体的に何ができるのか、同社に話を伺いつつ、実際に企業が導入する上で疑問に感じやすい点を誌上コンサルティング形式で回答してもらった。

「KDDI MULTI CLOUD」とはどのようなサービスなのか?

KDDI サービス企画本部 クラウドサービス企画開発部長 山田靖久氏
KDDI サービス企画本部 クラウドサービス企画開発部長 山田靖久氏

 単なる「クラウド」ではなく、「マルチ」と冠されたクラウドブランド。KDDIから新たに登場した「KDDI MULTI CLOUD」とは、どのような特徴なのか? まずは、気になるその全体像に迫ってみよう。

 KDDI サービス企画本部 クラウドサービス企画開発部長 山田靖久氏によると、「『KDDI MULTI CLOUD』は、『マルチユース』、『マルチネットワーク』、『マルチデバイス』の3つのマルチを組み合わせた『3M戦略』に基づくクラウドブランド」とのことだ。

 「現状、クラウドは、サービスやプラットフォームなど、さまざまな定義やタイプがあり、アクセスするための回線やネットワーク、PCやスマートフォンなどのデバイスも個別に用意する必要があります。このような複雑な環境に対し、最適なアプリケーション、データセンター、ネットワーク、デバイスを、お客さまのニーズに合わせて、我々KDDIが組み合わせた上で、一貫したサービスを提供するのが『KDDI MULTI CLOUD』です」(山田氏)

 KDDIは、スマートフォンやタブレット、PCなどのデバイス、固定やモバイル、音声などの様々なネットワーク、メールやグループウェア、テレビ会議といったアプリケーションやサービスを、すべて1社で提供している企業だ。顧客のニーズに合わせて、複数のサービスを組み合わせ、一つのサービスとして提供する新しいタイプのクラウドが「KDDI MULTI CLOUD」というわけだ。

 このようなトータルのソリューションとしてクラウドサービスを利用できる点は、クラウドの導入に際しての複雑さや手間の多さに「ためらい」を感じている企業にとって非常に魅力的だ。

 山田氏によると、「たとえば、スマートフォンを利用して外出先から社内の情報にアクセスしたいというニーズが最近増えてきていますが、こういったデバイスが起点となったニーズに対して、具体的にどうすればいいのかがわからないという場合でも、『KDDI MULTI CLOUD』なら、豊富なサービスメニューの中から、最適なネットワーク構成やデータセンターの利用などをトータルで提案できます」という。

 KDDIという1つの窓口に相談するだけで、ネットワークの構成、さらには信頼性、セキュリティなど、難しいことに頭を悩ませる必要なく、今抱えている課題やニーズを最終的なソリューションに直結することができる。この点こそが、個別にクラウドサービスやネットワークを組み合わせる場合と、すべておまかせの「KDDI MULTI CLOUD」を利用する最大の違いと言えるだろう。

 

誌上コンサルで明らかにする「KDDI MULTI CLOUD」の導入例
 では、具体的に、「KDDI MULTI CLOUD」によって、どのようなシステムを構築できるのだろうか? 実際の例を見ながら、その実態に迫ってみよう。

 現状、企業にとって深刻な検討課題となっているのは、やはり災害時などの事業継続計画への対策だろう。大きな災害やパンデミックの発生時などでも、業務を継続させていくためには、クラウドの利用が最適と言われている。

 組織的なIT部門が整備されている大企業であれば、その対策もある程度可能だろうが、100〜1,000名規模の中堅企業では、既存のサーバやネットワーク環境と共存させつつクラウドにどう移行するかが課題となる。さらに小規模な環境では、そもそも具体的にどのようなシステムを構築すればいいのかが判断しにくいだろう。

 このような事例に対して、「KDDI MULTI CLOUD」を提案する場合、どのようなサービスの組み合わせができるのかを山田氏に尋ねてみた。

 「事業継続計画という観点では、大きく2つの対策が考えられます。1つは、サーバの対策です。アプリケーションや重要なデータが保存されているサーバを故障から守ったり、節電対策などの電力の問題に対応するには、データセンターを利用し、サーバをクラウドで運用することが解決策となるでしょう」と山田氏は語る。

 「KDDI MULTI CLOUD」では、KDDIのネットワーク(後述する「KDDI Wide Area Virtual Switch」)のバックボーン上で提供される「Virtual データセンター」を利用したり、提携するデータセンターにサーバを設置することが可能となる。「Virtual データセンター」では、ファイルサーバや仮想サーバプラットフォーム、仮想デスクトップ、テレビ会議などのメニューも用意されており、まさに「マルチユース」の環境だ。

 これらのサービスを現在の環境や実現したいことによって、組み合わせて利用することが可能なため、ファイルサーバをクラウドに移行したり、仮想サーバプラットフォームを利用して業務用のアプリケーションサーバなどをクラウドに移行することが可能というわけだ。


 山田氏が2つ目として挙げたのは「場所」の提案だ。「パンデミックなどの際は、在宅での勤務環境を整えることも重要になります。これらのニーズに対して『KDDI MULTI CLOUD』であれば、職場以外からのリモートアクセスや仮想デスクトップ、テレワークなどをご提案することが可能です」という。

 具体的には、先ほどの「Virtual データセンター」で提供されている仮想デスクトップサービスの利用が検討できるだろう。PCのデスクトップ環境をデータセンター側で仮想化しておけば、社内からはもちろんのこと、社外からもいつでも同じデスクトップを利用できる。

すべておまかせで済みます
「『KDDI MULTI CLOUD』はワンストップ、シームレスなサービスなので、すべておまかせで済みます」(山田氏)

 しかも、この仮想デスクトップにアクセスするためのネットワーク環境も「KDDI MULTI CLOUD」は一括で契約可能だ。拠点間の接続やデータセンターとの接続に利用可能な「KDDI Wide Area Virtual Switch」には、リモートアクセスゲートウェイサービスがオプションとして提供されているため、これを契約するだけで済む。個別に、リモートアクセス用の機器やネットワークを用意する必要はない。

 もちろん、「このリモートアクセスは、インターネットに接続できる環境にあるスマートフォンやタブレットからも利用できます」(山田氏)とのことだ。デバイスの契約も含め、「KDDI MULTI CLOUD」なら、すべておまかせで済むわけだ。

 

高い信頼性やセキュリティを確保
 一方、サービスの品質については、心配ないのだろうか? この点について、さらに山田氏に聞いてみた。

 「『KDDI MULTI CLOUD』の中核的なサービスとなる『KDDI Wide Area Virtual Switch』は、これまでのIP-VPNや広域イーサを発展させたサービスで、高いセキュリティや品質で拠点間やデータセンターとの間のネットワークを構築できます。中でも特徴的なのは、『トラフィックフリー』と呼ばれる機能です。データセンターとの通信を対象に、確保帯域をネットワークの物理速度上限まで広帯域化することができますので、月末など業務でトラフィックが集中する時期などでも安定した通信が可能です」(山田氏)

 「KDDI Wide Area Virtual Switch」は、「仮想広域スイッチ」という新しい概念のネットワークで、これまで個別のサービスとして利用する必要があった広域イーサネットやIP-VPNを集約し、宅内のレイヤ3スイッチを扱うかのように広域ネットワークを利用できるサービスだ。中堅企業などでは、拠点間やデータセンターの接続などに、広域イーサネットやIP-VPNを個別に使っているケースがあるかもしれないが、これを仮想的なネットワークとして統合することができる。

 先に山田氏が述べた「トラフィックフリー」は、この「KDDI Wide Area Virtual Switch」のネットワークにおいて、データセンターへの帯域を一時的に拡張する機能だ。通常、データセンターへの接続帯域は、2Mbpsや10Mbpsといったように、契約によって帯域が定められているが、トラフィックフリー機能を利用すると、契約帯域を変えずにネットワークの物理速度(10Mbpsや100Mbps)まで拡張することができる。

 つまり、コストを抑えつつ、一時的なトラフィック集中時でも、一定のネットワーク品質を確保できるというわけだ。データセンターだけでなく、拠点間の帯域も同様に拡張できる「バーストタイプ」も選択可能となっており、自社のネットワーク構成や利用状況に合わせて高い品質のネットワークを設計できるだろう。

 このほか、信頼性という点では、SLA(サービス品質保証制度)もきちんと定められており、網内遅延、稼働率、故障回復時間のそれぞれに、細かな規定があり、一定の稼働率などを下回った場合に料金が返還されるようになっている(詳細はこちら)。業務に利用する上での安心感は非常に高いだろう。

 また、サーバの信頼性を強化する機能として、「ファイルサーバDR対応オプション」も用意されており、東日本、西日本など、拠点間に分けて配置したファイルサーバのバックアップを実行することで、災害時のデータ保護と継続したアクセスを提供することも可能だ。ネットワークやサーバなど、システム全体の信頼性をトータルで確保できるのは大きな魅力だ。

 一方、セキュリティ面については、ネットワークだけでなく、端末のセキュリティ機能が充実しているのがKDDIならではの特徴と言える。

 「AndroidTMを利用したスマートフォンを利用する場合、紛失や盗難などへの対応が不可欠となりますが、法人向けのサービスとして『KDDI 3LM Security』というサービスも提供していきます。これにより、紛失や盗難時にリモートから端末をロックしたり、データを消去したり、本体や外部ストレージを暗号化したり、VPNによるセキュアなアクセス環境を提供することもできます」と山田氏は語る。

 このサービスでは、セキュリティだけでなく、デバイスの機能やパスワードポリシーなど、デバイス管理も可能となっており、企業でスマートフォンを使う上で考慮しなければならないセキュリティ対策も万全なうえ、運用管理機能がトータルで利用可能となっている。バックボーンのネットワークやサーバ側だけでなく、端末までを含めたセキュリティが確保できるのは、通信事業を総合的に扱うKDDIならではの特徴と言えるだろう。


すべておまかせでOKの「KDDI MULTI CLOUD」
 このほか、コスト面や管理面が気になる場合があるかもしれないが、この点でも「KDDI MULTI CLOUD」を選ぶメリットは大きいと山田氏は語る。

 「小さな店舗を他拠点展開しているような場合でも、低コストなブロードバンド回線をそのまま使って手軽に『KDDI Wide Area Virtual Switch』に接続することができます。この際、宅内ルーターレス機能を利用していただければ、ルーター機能を『KDDI Wide Area Virtual Switch』側で提供できるため、拠点側のルーター管理までも不要になります」(山田氏)

 また、山田氏は、こうも続ける。「このほか、前述したようにトラフィックフリー機能などによって、広帯域のネットワークを低コストで利用できるうえ、アプリケーション、データセンター、ネットワーク、デバイスのそれぞれをすべて1社で契約、導入、運用できるため、導入担当者の労力を減らし、コスト面でのメリットも見込むことができます」とのことだ。

 上位のアプリケーションサービスについても、ファイルサーバ、仮想サーバプラットフォーム、仮想デスクトップ、テレビ会議、グループウェア、SFA(営業支援)、セキュアインターネット(次世代ファイアウォール機能を備えたインターネット接続)など、豊富なサービスがラインナップしているため、これらのサービスを活用すれば、自社でサーバを構築したり、運用する場合に比べて低コストでサービスを利用できる。

 たとえば、小規模な環境でも、セキュアインターネットから手軽に導入することができる。また、情報系のシステムの強化としてグループウェア、SFA(営業支援)から導入をはじめるという選択肢もある。KDDIの統合ビジネスアプリケーション「KDDI Knowledge Suite」を利用すれば、通常のグループウェアの機能に加えて、SFA(営業支援)、CRM(顧客管理)などの機能を、PCだけでなくスマートフォンやタブレット端末からも利用可能になる。企業内で利用中の複数のアプリケーションを「KDDI Knowledge Suite」に統合することもできるので、業務の効率化や管理コストの低下に効果があるだろう。

 このように、「KDDI MULTI CLOUD」は、言わば顧客の視点に立ったクラウドと言える。「クラウド」について漠然としたイメージしかない場合であっても、アプリケーション、データセンター、ネットワーク、デバイスと、KDDIのリソースをフル活用して、顧客のニーズをワンストップで実現することができる。

 もちろん、ここで紹介した例は、一例に過ぎず、企業によっては「もっといろいろなサービスを使いたい」「すでに専用線で拠点化を結んでいる」など、そのニーズに違いがあるはずだ。しかしながら、「KDDI MULTI CLOUD」であれば、企業ごとのニーズを的確に判断して、最適な解を柔軟に用意することができるであろう。

 山田氏は、「現状の経営課題を解決したい、今のシステムの欠点を何とかしたいという具体的な課題がある場合はもちろんのこと、『こういったことがしたい』と漠然としたイメージしかない場合でも、「KDDI MULTI CLOUD」が回答を用意できる可能性があります」と言う。漠然としたクラウドから、具体的なソリューションへと繋げるために、一度、KDDIに相談してみてはいかがだろうか?

(清水 理史)

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