業界初「ストリームウーハー」が生み出す リアルな重低音再生 新システム「ライブビート」が生み出した正統派サウンド JVC HA-FXZシリーズ

業界初の低音再生専用ユニット「ストリームウーハー」搭載

JVCのダイナミック型インナーイヤーヘッドホン「HA-FXZ」シリーズ。右が「HA-FXZ200」、左が「HA-FXZ100」

「インナーイヤーヘッドホンにサブウーハーを載せる」という新発想から生まれた「ストリームウーハー」ユニット。言葉で言うのは簡単だが、JVCの開発チームがそこに至るまでの道筋は一筋縄ではなかったそうだ。

ダイナミック型のインナーイヤーヘッドホンは、1つのドライバーですべての音域をカバーするフルレンジ構成が一般的だ。低音をかせぐには振動板の口径を大きくすることが有効だが、サイズには物理的な限界があるし、ひとつのドライバーで低域と中高域のすべてを再現するにはどこかで無理をしなければいけない。

ということで、メインのドライバーに加えて、低音専用のドライバーを別に追加するという発想は比較的早くに持ち上がった。しかし、インナーイヤーヘッドホンに積めるだけの小型のドライバーにおさめられるのか、という問題があった。低音専用ドライバーは、メインのドライバーが出す中高域に悪影響を出さないため、中高域成分をカットしなくてはならない。中高域を十分にカットできないと、メインのドライバーの中高域に音が被って解像感が落ちてしまうのだ。

中高域を電気的にカットするには、大型のコイルが必要になるなど、カナル型の小さなサイズに収めるのは難しくなる。となると考えられるのは、音響的にカットするアプローチだ。

JVCが注目したのは、一般的なスピーカーのサブウーハーで採用される「ケルトン方式」と呼ばれる構造。ケルトン方式とは、ドライバーユニットをキャビネットに密閉し、ダクトから低音だけを出力する。ドライバーユニット自体は低音だけでなく中高音まで含まれた音を再生するが、密閉し、ダクトを通すことで音響的に中高音をカットしているわけだ。

ケルトン方式では、ドライバーユニットの前後を筐体で密閉し、音はダクト部から出す。それにより音響的に中高域をカットし、低域成分だけを抽出できる

ケルトン方式を応用した超小型のウーハーユニットを作る上での問題は、上述のダクト部分をどう再現するかにあった。音響理論的には、ケルトン方式のウーハーをカナル型のサイズで実現しようとすると、極細かつ十分に長いダクトが必要になる。

試作段階でダクトとして使われたのは、なんと注射器の針。

素人目には、こんなダクトから重低音が出るのか? と心配になるが、JVCケンウッドにとっても今までにない試みだけに不安の声もあった。結果的には、試作品で十分な手応えのある低音再生が可能とわかり、ダクトの口径や長さを変えて試作を繰り返し、ついに目標としていた中高域100Hzカットオフ(スロープはおよそ-6dB/oct)を実現したのだ。

もちろん、これで製品完成というわけにはいかない。なにせダクトの長さは30mmもあり、試作品を装着する姿は耳からアンテナのようにユニットが飛び出した格好になり、開発スタッフの間では「まるで宇宙人のようだ」と笑われたそうだ。このダクトをなんとかしてインナーイヤーヘッドホンのハウジングに収めなくてはならない。さらなる挑戦が始まった。

ダクトはなるべく屈折のない形状の方が音響抵抗が減り、音質的に有利。そこでウーハーユニットの外周に沿って緩やかにラウンドさせる形を採用した。分解図を見ると、円形のウーハーユニットから、一見すると針金のようにしか見えないダクトが伸びているのがわかるだろう。この内径φ0.4mm、長さ30mmの「ストリームダクト」の中を低音が流れていくイメージが、「ストリームウーハー」の名称の由来でもある。

ストリームダクトはウーハーユニットの外周を回り込み、ツインシステムユニットを貫通するかたちで耳にとどく

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ストリームダクト。これだけ細い金属筒を潰さずに折り曲げる量産技術もすごい

ボディ断面。ウーハーユニットから伸びたダクトがツインシステムユニットを貫通し、イヤーピース部まで来ているのがわかる

そもそもの低音の発生源であるウーハーユニットも、最終的に口径φ8.8mmのカーボン振動板を採用。振動エネルギーが大きいウーハーユニットの不要な振動を抑えてキレのある低音を実現するため、振動板を密閉するユニットベースは剛性の高い金属製となっている。

専用チューニングを加えたツインユニットを組み合わせた「ライブビートシステム」

メインとなる中高域用ドライバーユニットは、ストリームウーハーから発生する重低音に打ち負けないものである必要があった。となるとシングルドライバーでは力不足。浮上したのは、以前HA-FXT90に採用された、2つのドライバーを搭載する「ツインシステムユニット」だ。

FXZ200/100で用いられているツインシステムユニットは、カーボンナノチューブ振動板ドライバーとカーボン振動板ドライバーの2つをメタルユニットベースに内蔵するという基本構造はHA-FXT90の時と同様。だが、中高域再生専用として使うため、ストリームウーハーの低音と被さらないよう、独自のチューニングが施されている。

まずはカーボンナノチューブ振動板を20%薄くしたこと。これは振動板を軽量化して応答性を向上させるためだ。

次にネオジウムマグネットの磁力強化。磁力を高めることで制動力を強めてより引き締まった音に仕上げたという。もちろん低音は出にくくなるが、別に低音専用ユニットがあるので問題はない。

さらに、メタルユニットベースの素材を、より比重の高い、硬い真鍮の削りだしに変更している。生産性は落ちてしまうが、解像度の高い中高域の再現のためにもユニットベースの剛性を高めることは欠かせなかったという。

この専用のツインシステムユニットと「ストリームウーハー」からなる新たな3つのユニット構成は「ライブビートシステム」と命名された。リアルな重低音と解像度の高い中高域再生を両立するための、JVCケンウッドの技術とこだわりがみっちりと詰まったマルチユニットシステムだ。

「ライブビートシステム」によって実現された最良のバランス

FXZ200/100の開発を担当した田村信司氏(右写真)によれば、FXZ200/100を作る上でなにより重要だったのが、2+1のドライバーのバランスをとるための音響設計。ツインシステムユニットにしても、以前に採用例こそあったが、今回のモデルにあわせてイチからチューニングをやり直し、ストリームウーハーと重なる低域を丁寧にカットすることで最良のバランスを追求しているという

中高域100Hzカットオフされたストリームウーハーと、逆に低域を抑える専用チューニングを施されたツインシステムユニット。ふたつがあわさり絶妙な特性を実現した「ライブビートシステム」

モデルの基本設計は共通。HA-FXZ200はこだわり派のためのプレミアム仕様

今回のシリーズはHA-FXZ100とHA-FXZ200の2モデルが用意されているが、その違いについても説明しておこう。

「ストリームウーハー」の解説でも触れた通り、ウーハーのユニットベースには金属が使用されているが、HA-FXZ100はアルミ、HA-FXZ200は真鍮となっている。「HA-FXZ200」では比重の重い真鍮とすることで振動の抑制効果を高め、より高品位でキレ味のよい重低音を狙っている。

それぞれ真鍮とアルミをイメージした本体カラー。半透明のボディごしに内部のストリームウーハーも確認できる

もう一つは、コードの線材の違い。HA-FXZ100がOFC(無酸素銅)線であるのに対し、HA-FXZ200では銀コートを施したOFC線となっている。音楽信号は高域になるほど導体の表面を伝わり、低域になるほど中心を通る特性がある。銀は高域の解像感の高さに特徴があるが、逆に低音の力感が失われやすい。つまり、銀コートした銅線は、分解能を高め、低域の力感と高域の解像感を両立できるものと言える。そのほかは全て共通だ。

位置づけとしては、HA-FXZ100がメインストリームモデルで、HA-FXZ200はそこからさらにパーツのグレードを高めたプレミアム仕様といえる。こだわり派のユーザーの中には、購入したヘッドホンの接続コードをグレードの高いものに交換して使う人もいるが、HA-FXZ200はそんなこだわり派のユーザーのためのモデルであり、開発スタッフの言を借りれば、「理想を追求したモデル」といえるだろう。

音が形となって見えるデザインに感心。その音はアスリートの鍛え抜かれた筋肉のよう

実は、実機をはじめて写真で見たときの印象は、ツインシステムユニットの特徴的なフォルムに、丸いウーハーユニットがくっついているという、他にはない独特な形状に少々違和感があった。だが、「ライブビートシステム」の詳しい説明を聞くと、丸い「ストリームウーハー」部分が印象的なデザインはその機能をも体現し、いかにも「凄い音が出ますよ」と主張しているように感じられる。JVCのロゴも入ったストリームウーハーを象徴するリングは、HA-FXZ100がシルバー色、HA-FXZ200がゴールド色。ユニットベースの素材のアルミと真鍮にあわせたカラーリングにもなっている。

ツインシステムユニット部。ユニット中央をストリームダクトが貫通している様子が外からもわかる

ウーハーからのびたダクトがツインユニットを貫通している様子までわかるメカニカルな内部は、半透明のスケルトンボディごしに観察でき、機械モノが好きな男子にはたまらないだろう。形の面白さもあって、まずは装着もせずにあっちこっちからじっくりと観察してしまった。

では装着。左右も一目でわかりやすいカラーリング。丸いユニットは指でつまみやすく、着け外しがスムーズだ。ツインユニット部分まで耳の穴にすっぽりと収まり、装着感はなかなか良好。ボディが大きくなると頭を動かしただけでズレてしまうインナーイヤーヘッドホンも少なくないが、ぴったりとフィットしていて、安定感があり、軽量。イヤーチップは一般的なシリコン製で耳穴に合わせて選べるようにS/M/Lの3サイズが用意されているので、きちんと合うサイズを選べばさらにフィット感を高められる。

イヤーピースは3種類。ほかにコードリール、コードクリップ、ケースが付属

ジャック部は細めなので、ケースを付けたスマートフォンなどにも問題無く差し込める

まずは、HA-FXZ100から聴いてみよう。個人的な定番であるアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」を聴いてみると、イントロのピアノの軽妙なリズムがコロコロと弾んで気持ちがいい。音に芯があり、厚みのある再現になる。ウッドベースの鳴りっぷりもなかなかのもので、低音の再現は量感、音域の伸びともにかなり質が高い。ボンついた低音に慣れてしまっていると、これが重低音再生なの? と首を傾げる人がいるかもしれないが、ズシっとしたバスドラムの重量感や、ウッドベースの太い低音弦を指で弾いたときの弦の震える様子など、質感豊かな低音で、これぞまさしく「リアルな重低音」といえる。

そして、サックスのややかすれた音色やトランペットの息を吹き込む様子まで伝わるような鮮明な再現にも驚かされる。低音がしっかりと出ているのに、中高域の解像感が損なわれないのは、マルチユニット構成の醍醐味だろう。フルレンジのシングルドライバーヘッドホンでは、電気的に低音をブーストしただけでは中域まで盛り上がってしまうので、この解像感は出てこない。

ストラヴィンスキーによる組曲「火の鳥」は、オーケストラのさまざまな楽器の音色を巧みに使い分け、色彩感あふれるスリリングな演奏になっている楽曲。聴いてみると、各楽器の音色の違いがきちんと再現され、見通しのいい奥行き感のあるステージが浮かび上がる。ドロドロっとしがちなティンパニの連打もキビキビと刻まれるし、大太鼓の力強い響きもキレ味が良い。無駄な贅肉をそぎ落としたアスリートの肉体のようなシャープな再現。しかも決して痩せた音にならず、強さや剛体感も伴っている。

アニメ「境界線上のホライゾンII」の主題歌である茅原実里の「ZONE//ALONE」では、スピード感のある歌唱をクリアに再現。音の立ち上がりの反応がよく、キレ味も鋭いので、よりテンションの高い再現になる。キレ味の良さと女性らしいしなやかな声の質感もきちんと出ていて、爽快で聴き心地が良い。

これがHA-FXZ200になると、より上質な方向にグレードが上がる。「火の鳥」は、見通しの良さが向上し、低音がさらに下まで伸びてくる。解像感の高い再現に大編成のオーケストラらしいスケール感や迫力が伴い、よりバランスがよくなったと感じられる。音楽的な表現力の豊かさなどは、より本格的なHiFi指向の音になったと感じる。変更部分は決して多くはないが、そのキャラクターには明確な違いがあった。

アート・ブレイキーの「モーニン」も、ウッドベースの音色がさらに明瞭で、音の厚みもあって彫りの深い再現になる。ピアノやサックスのキレの良さ、微妙な音色の違いもより出てくるようで、音楽を聴く楽しさが増す。ただし、全体的なバランスが良くなり、上質な再現になったせいもあり、HA-FXZ100にあった爽快さや勢いの良さは少々大人しくもなる。「ZONE//ALONE」も茅原実里の声の質感はより生き生きとするのだが、ドラムの厚みが増し、ぐっと重心が下がったこともあり、テンションの高さという点ではHA-FXZ100に軍配が上がる。

このあたりは、聴く曲との相性もあるが、爽快感や、はつらつとしたエネルギー感を重視するならばHA-FXZ100。個々の音の再現や声の質感を重視するならばHA-FXZ200を選ぶと間違いなさそうだ。実売価格が2万円前後になると、ヘッドホンの実力がかなり高まるのは当然なのだが、それを考えたとしてもどちらもかなりコストパフォーマンスが高い。おそらくはさらに価格がワンランク上のモデルとも十分に張り合える実力を備えていると思う。

独創的な技術を満載したことが際立つが、音はかなり正統派。これは一聴の価値アリ

是非、店頭でチェックしてみてほしい

報道資料を見たときには、僕自身も「ついにここまでやったか!」と驚いた。ネットの評判をみても、ダイナミック型でのマルチユニット構成に関心を示している人が多いし、なかには「変態仕様」という褒め言葉(?)まであった(開発スタッフも喜んでいました)。

「ストリームウーハー」と「ツインシステムユニット」を組み合わせた「ライブビートシステム」は、今までにない革新的なアプローチでありつつも、目指したのは「リアルな重低音と中高域の解像度の両立」という正統派の音質追求である。技術の目新しさからすると「次はユニット4つ?」と期待する人もいるかもしれないが、目的はあくまでも音質なので、ユニットをいたずらに増やすのではないそうだ。ちなみに、次回作もまた別のアプローチで驚くような製品を準備中ということだ。

HA-FXZシリーズに興味を持った人は、店頭の試聴コーナーなどで是非ともその音を確かめてみてほしい。ちなみに、丸の内にあるJVCケンウッドのショールームでも、実際に実機で試聴することができる。JVC(ビクター)が追求した「リアルな重低音」の凄さを体感してみよう。

(Reported by 鳥居一豊)

 

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