透明度の高い高解像サウンド機能美と質感を追求したデザイン〜音と装のふたつの技が冴えるFXDシリーズ〜
「「原音探究」をコンセプトに、独自の音響テクノロジーを追究しているJVC(ビクター)のヘッドホン。木の響きにこだわった世界初(※)のウッドドームユニット搭載モデルで話題となった「HP-FX500」や、その上位モデル「HA-FX700」、業界で初めて(※)2つのドライバーを並列に配置したツインシステムユニットや先端素材のカーボンナノチューブを振動板に採用した「HA-FXT90(http://ad.impress.co.jp/special/jvc1104/)」など、新開発・業界初の構造や素材を独自開発し、積極的に採用しつづけている。今回登場する、密閉型インナーイヤーヘッドホン最新モデル「HA-FXDシリーズ」(以下、FXDシリーズと表記)も、原音探究の理想を求め続ける同社ならではの素材や筐体の構造へのこだわりが存分に盛り込まれている。音質だけでなく、ステンレス切削加工のボディの美しさも合わせ持つ、ハイクオリティな逸品だ。(※)2012年6月現在 JVCケンウッド調べ

新構造「ダイレクトトップマウント構造」採用。自慢のカーボンナノチューブ振動板も

 FXDシリーズには、これまでのJVCのインナーイヤーヘッドホン開発で培われた「構造設計」と「素材」、双方における技術的なノウハウがあらゆる面で集約されている。

 まず、ハウジング構造はFXCシリーズ(2008年発売)で初採用された「トップマウント構造」をさらに進化させた「ダイレクトトップマウント構造」とした。ハウジングの先端に小型ドライバーユニットを装備することで、ドライバーユニット自体を耳穴に配置するという基本コンセプトは同様だが、FXCシリーズではドライバーユニットとエンクロージャーがラバー素材のパーツを介して一体化されていたのに対し、FXDシリーズではエンクロージャーとドライバーユニットをダイレクトに結合した点が新しい。

 そのメリットは、音を発するユニットをエンクロージャーが直接受け止め、音の濁りの原因となる不要な振動の発生を排除できること。FXDシリーズの上位ラインアップ「HA-FXD80」「HA-FXD70」で採用された剛性の高いステンレス切削加工のエンクロージャーと相まって、解像感の高いクリアな音を再現できる。

エンクロージャーの先端にドライバーユニットを直接固定した「ダイレクトトップマウント構造」。ドライバーユニットを耳穴に入れることで、解像感と遮音性を両立することができる。イヤーピースはこのドライバーユニットにかぶせるようなかたちとなる

「HA-FXD80」のハウジング後端に設けられたマルチポート。内部にはステンレス製のマイクロメッシュが見える

耳障りなケーブルタッチノイズを軽減する制振フィットブッシング

 さらに、最上位モデルである「HA-FXD80」では、筐体内部に真鍮切削ブラスリングを組み合わせたデュアルシリンダー構造としている。ステンレスと真鍮、異なる素材を組み合わせることにより、素材の固有振動が原因となるノイズを抑え、より忠実度の高い再現を追求している。また、ハウジング後端に設けられたマルチポートにより、ヌケがよく広がり感の豊かな音を実現している。ポートの数は不要な共振を抑えるため5つとし、ステンレス製マイクロメッシュを使うことで穴を細かくするなど、音質への配慮も万全だ。

 振動板素材には全モデル共通で、薄さわずか数ミクロンの「カーボンナノチューブ振動板」を採用。カーボンナノチューブは、アルミニウムの半分の軽さで、鋼鉄の20倍の強度を有する高剛性素材。固有振動が高いので、反応が早く、緻密な音の表現が可能だ。しかも、高剛性な金属素材と比べて適度な内部損失を持ち、固有のクセが少ないことも特徴と言える。FXCシリーズで採用されたカーボン振動板よりも、さらに軽量化、高剛性を実現しており、応答性が向上し緻密でキレのあるサウンドになっているという。

 進化したのはエンクロージャー内部だけではない。今回は、ケーブルから生じるタッチノイズを抑制するために「制振フィットブッシング」構造を採用。ヘッドホンのコードをS字形状のブッシング内で一度屈折させることで、コードのこすれによるノイズを抑えている。従来モデルと比較すると、タッチノイズを約30%低減している。

「HA-FXD80」の分解図。黄色い四角で示した箇所がFXDシリーズの中で「HA-FXD80」のみ搭載の機構だ

精密に加工されたステンレス製ハウジングが醸し出す、機能美

 FXDシリーズのもうひとつの特徴はデザインの美しさだ。特に最上位の「HA-FXD80」は、ステンレス切削のエンクロージャーの質感に加え、滑り止めと見た目の美しさのため、ローレット加工が施されている。精巧に金属加工されたボディの仕上がりの良さは、高級な機械式腕時計にも通じる精密感がある。機械ものが大好きな筆者は、こういう精密な作りがとても気に入っているし、多くの男性も同じような印象を持つだろう。

 驚かされるのは、「HA-FXD80」が実売価格でおよそ7000円前後と比較的安価なことだ。通常、1万円未満のインナーイヤーヘッドホンは樹脂製のハウジングを採用することが多く、造形やカラーで質感を高めてはいるものの、金属素材を精密に加工した「HA-FXD80」と比べるとどうしても安っぽい印象になってしまう。本機を見ただけでは、とても1万円未満のヘッドホンとは思えないだろう。

 レビューのため「HA-FXD80」をしばらく使用したが、金属ならではの適度な重量感といい、見た目の仕上がりといい、よくできていると感心する。何よりも、この素材と機構は、音質を追求する上で吟味され、完成されたものであり、まさに「機能美」と言える実直なデザインは、手にする人に価格以上の満足感を与えてくれるだろう。

ステンレス切削ボディの高級感、適度な重量感は満足度が高い

いわゆる高解像度を超えた、清々しく見晴らしの良い空間描写

 では、いよいよ「HA-FXD80」を実際に試聴した印象を紹介しよう。手に持ってみると適度な重量感を感じるが、装着してしまえば重さを感じることはなく、しっかりとした装着感もあって、外出時に使用してもずれるようなことはない。また、外出先で使っていてありがたいのは、コードに触ったときのゴソゴソとしたタッチノイズが少ないこと。混雑した列車内でも音楽だけに没頭していられるし、カナル型の遮音性の高さもあり快適に音楽を楽しめた。

「HA-FXD80」付属品。イヤーピースは大・中・小の3種類。イヤースピースは本体から抜けにくくなっていて安心感がある。ケーブルクリップは活用すればタッチノイズをさらに低減できるだろう

 音質の印象は、第一に音場が広々としていること。いわゆるヘッドホン的な、頭内で音楽が響いている感じが少なく、耳の外にまで音が広がっているかのように思ってしまう。言うまでもないが開放型のように音が漏れているわけではなく、感覚的に解放感のある音が得られるということだ。

 当初、ハウジングの先端にドライバーを装着したダイレクトトップマウント構造ということで、音が「近い」ダイレクトな鳴り方を予想したが、それは良い意味で裏切られた。解像感が極めて高く、情報量の多い音なのだが、あまりそれを意識させず、見晴らしのよいステレオ音場の広がりに感心させられる。

 雄壮なメロディでスタートするショスタコービッチの「交響曲第5番 第4楽章」を聴くと、勇ましい旋律の力感よりも、オーケストラの配置が見えるような精密な描写と豊かなホールの響きが際立つ。解像感が高いせいもあるのか、やや細身になる印象があるが、素早い旋律の動きもよどむことなく鳴らしきる反応の早さや、透明でかつしなやかな再現は十分に魅力的だ。

 いわゆる高解像度なサウンドというと、高域がカリカリで硬い音になりがちだ。曲によっては高域がシャカシャカと耳障りになることも少なくない。特にバランスド・アーマチュア型のモデルに多い傾向だ。しかし、「HA-FXD80」の場合はバランスド・アーマチュア型に匹敵する高解像度でありながら硬い感触にはならず、しなやかな音になっているので、聴き疲れしない。低音域もほどよい量感があり、ウッドベースの胴鳴りもしっかりと楽しめるし、膨らみすぎてリズムが弛むこともない。

 トータルで言えば、色づけの少ないニュートラルな再現。そして、音のひとつひとつを丁寧かつしなやかに描く上質な再現だ。かなり本格的なHiFi指向の音になっており、価格帯に見合わない実力と言えるだろう。

 ちなみに、同じシリーズの下位モデルである「HA-FXD70」と「HA-FXD60」も比較試聴することができたので、それぞれの違いにも触れておこう。「HA-FXD70」は、ステンレス削り出しのエンクロージャーは採用するが、表面のローレット加工や後端のマルチポート構造が省略されたミドルモデル。「HA-FXD60」はエンクロージャーが樹脂製となっているが、構造は「HA-FXD70」と同様のスタンダードモデルだ。ドライバーユニットに関しては、FXDシリーズ共通の特長としていずれもダイレクトトップマウント構造とカーボンナノチューブ振動板を採用する。

 これらラインアップは、実は音質的にもそれぞれ異なるキャラクターに仕上げられている。「HA-FXD70」は、パワフルで押し出しの強い元気なサウンド。低音はもっともたっぷりとしており、中低音寄りのバランスになる。そのぶん、ボーカルに厚みが出てくるので、音楽を楽しく聴きたいという人にはこちらの方が似合うとも思う。解像感はほとんど差がないのだが、高音もややメリハリを効かせているようで、ちょっとにぎやかになる傾向。「HA-FXD80」が緻密に音を紡ぎ上げるタイプなら、「HA-FXD70」は勢いの良さが身上だ。

 「HA-FXD60」は解像感がやや後退し、ソフトな印象になるが、その分ボーカルをくっきりと浮かび上がらせる。上位モデルに比べると緻密さやきめ細かさは不足してしまうが、低音感はひとつ上の「HA-FXD70」に通じるパワフルさがある。安定感のあるバランスの良い再現になっていると言える。3モデルそれぞれのキャラクターはかなり異なるので、価格優先で決めてしまわずに、聴き比べて音の好みの合うものを選ぶとよいだろう。

  

メタルエンクロージャーの高級感はそのままに意匠や機構のいくつかを省略した「HA-FXD70」。カラバリは2色から選べる

エンクロージャーがプラスチックになった低価格モデル「HA-FXD60」。エンクロージャーの素材以外は「HA-FXD70」と同様の構造。カラバリは3色

FXDシリーズラインアップ。自分好みの1台を見つけたい

人気の高い1万円未満のモデルに、注目度の高いモデルが加わった

 インナーイヤーヘッドホンの人気の高まりに合わせて、高級モデルとなると数万円から10万円を超えるようなモデルも登場しているが、やはり市場の大半を占めるのは1万円未満のモデル。このクラスは、音の良さで評判の高いモデルもいくつかある、いわば激戦区と言えるが、FXDシリーズは実力の点でそれらに比肩する。とくに、HiFi指向の自然で忠実度の高い再現を求める人にとっては有力な選択肢になると思う。しかも、デザイン的な質感の高さは、満足感は明らかに1ランク上であり、その点でも大きな魅力を備えるインナーイヤーヘッドホンと言って良いだろう。

---Reported by 鳥居一豊

 

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 http://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/20120608_538262.html


HA-FXDシリーズスペシャルサイト(JVCケンウッド)
 http://www3.jvckenwood.com/accessory/inner_sp/fxd/

 

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