各社新製品が目白押しのパソコンモニターにおける一般的なトレンドは3つの方向にあると思っている。一つめは大画面化で、本機「LCD-MF241X」と同じ24.1型が大画面ワイドの主流となりつつある。DVD観賞用としてフルハイビジョン対応は至極当然かもしれない。次にマルチ入力端子であらゆるソースに対応使用とする、高い多目的性だ。さすがに24.1型ともなると、PC用にDVD観賞用にゲーム用になどと複数設置するには大きすぎるので、1台で多くの目的に使えることは有効だろう。最後に広色域対応だ。本機は従来のテレビで使われてきたNTSC色空間に対し、92%まで表示する高性能ぶりだ。デジタルカメラとハイビジョン放送とDVD映像が主なソースと考えれば、多目的ディスプレイとして備えるべき性能だろう。本機は3つのトレンドをすべて備えたアイ・オー・データ渾身の1台だ。
 これだけの機能を備えていれば、一般コンシューマー向けとしては十分だろう。しかしこのモデルは、数十万円クラスのプロユース機にひけをとらない色表現を可能にしているという。
 では、繊細な色彩表現が求められる写真を映し出す用途としてはどうなのだろうか。実際に使ってみて、その実力のほどを検証してみた。

 被写体から撮影データを経由し、最終仕上がりまで色域の変化を制するキーデバイスがコンピュータディスプレイだ。

 写真家として日々ディスプレイと向き合いながら、色彩を作ってゆく作業をしているのだが、いつも念頭に置くことがある。被写体が持つ色彩をどのように最終結果へと伝達するかということだ。

 
 図を見てほしい、被写体の色彩はスタジオで静物撮影をしていても、屋外で風景写真を撮っていても、自然界にある限り色彩はsRGBやAdobeRGBといった、色空間とは無縁の広がりを持つ世界に存在する。このような広い色域を記録し、肉眼との違和感を軽減するため、デジタルカメラではAdobeRGBを選択できる機種がほとんどとなってきた。出力デバイスの中でも最もポピュラーなインクジェットプリンターは色域もsRGBよりはるかに広い。また商業印刷で使われるオフセット4色印刷でもsRGBでは対応できない色彩を含んでいるのだ。こうした入力と出力の環境を考えれば、広色域ディスプレイの出現が必須であることは容易におわかりいただけるだろう。プロにとって広色域ディスプレイは、「あると良い」ではなく「必要」な機材へと変わってきたのだ。

AdobeRGBデータをsRGBディスプレイで観察した場合

高彩度部(青線)の色彩はのっぺりと諧調を失いあたかもデータが色飽和を起こしているように見える

 

AdobeRGBデータをAdobeRGB対応ディスプレイで観察した場合

すべての細部と諧調が表現されているのでデータを誤解を持って観察するおそれが無い

 Web上の特性や、ご覧になっている環境で両者の差を完全にご覧いただける保証ができないので、作例は同等の差を見てもらえるようにシミュレーションして作成している。色域図では緑部分が最もsRGBとAdobeRGBとの色域差が大きいのだが、自然界で出会うケースが少なく、赤付近での差は花などで目にする機会が多く、普段容易に出会う色彩だ。  データの持つ色彩と階調が見えているか見えていないかは、せっかくAdobeRGBで撮影した広い色域を持つデータを、調整という名の下に壊してしまう危険性を含んでいるのことなのだ。  撮影から最終出力まで、色域は徐々に小さくなり、データ観察は可能な限り広い色域で行うことが正道だと思える。フルハイビジョンディスプレイが一般化してきて、最終出力のデバイスに名を連ねる現在、広色域ディスプレイの必要性は疑う余地のないものになったと断言できる。
 「LCD-MF241X」をX-Rite社製測色機「i1Display 2」を使って、5000Kガンマ2.2、白輝度120カンデラにキャリブレートした場合の色域をグラフに表示した。グラフ下部のブルーからマゼンタ付近では両色域よりも狭いのだが、他の色彩ではAdobeRGBを凌ぐ部分もあり、明らかにsRGB準拠ディスプレイと異なる色彩表示能力を持っていることが確認できた。 目視の印象では、AdobeRGB画像データを観察するとすべてが鮮やかに見えるのではなく、部分的に含まれている見えていなかった色彩が再現されたおかげで、写真に色彩の幅が広がり立体感として伝わってくる。ちょうど白飛びしたごく僅かの部分が階調再現されることで、全体の質感が大きくアップしたように見えることと似ているのだ。一般の写真で広色域の恩恵を受ける面積は小さいかもしれないが、小さくても印象の差は大きいことをご理解いただきたい。

高輝度 L=70の場合

 

中輝度 L=50の場合

 

低輝度 L=30の場合

 色彩再現力に加え重要視したい性能に視野角がある。画面の均質性を大きく左右する視野角は、各社基準が微妙に異なっており、写真の色彩を詳細に観察する目的では、意味をなさない数字に近い。そこで実用上の視野角を限定し、色彩の変化をつぶさに観察する手法で、モノクロ再現と、カラーの色彩変化についてテストした。

 実際に使用する距離で撮影したモニターの写真では、使用者の視角を再現しているのだ。24.1型もの大型ディスプレイを画面端を超えて斜めに見るケースはまれであり、図にある範囲で確実に均質に見えることを重要視した。

   
右方向から見た場合   正面から見た場合   左方向から見た場合
   

 左右と正面から見たディスプレイは輝度・色彩・コントラストともに変化が少なく、写真の色彩を判断する上で全く問題のない性能だと確認できた。グレースケール表示時に極詳細に観察すれば、画面右上と左下で僅かな色彩差がないとはいえないが、通常の使用では差を見つけることすらできない優秀なレベルだ。色彩表示時には最も視野角が大きくなる視点より遠い端で、僅かに暗さを感じるが色彩の変動はなく全く問題がない。実際の使用ではこれほど視点を変えての利用さえ非現実的であるので、色彩差や明るさを感じることさえないだろう。「LCD-MF241X」においては全面均質な大画面が安定して得られることを確認した。

 Lab表記で輝度を10刻みとし、無彩色データを表示した場合の実測値を、Lab表記で表にし、グラフ化している。測定結果は、ディスプレイだけの性能ではなく、キャリブレーションの精度を含んでいる事をご了解いただきたい。

 一般的に色彩差を感じるのは、ΔEというLab値で換算した色彩差の数値で3以上と言われるが、無彩色部分では2以下と感上げる方が現実的だ。実際の測定結果ではすべての輝度で2以下となっており、非常に優秀なコントロール性能を持っているといえるだろう。10bitガンマ調整機能など内部機構が支えていることは明白だろう。しかも、輝度の誤差は非常に小さく、高輝度ほど色彩差が少ない点も美しい無彩色表現につながっている。

 PCディスプレイとしてはWUXGAと称される1,920×1,200ピクセル、は広い表示エリアを持つことは間違いないが、実際に写真家が頻繁に利用する、多くのパレットを要するアプリではどうなるのかテストした。結論からいえば、表示情報量は1,280×1,024画素の19型ディスプレイを2枚並べた場合に僅か12%ほど不足するが、境目がないので使い勝手は同等以上だ。

 写真家にとって最もなじみ深いアプリケーションはAdobe Photoshopであろう。最新のCS3でパレットの多くを表示させた結果、表示面積の60%が画像表示に割り振ることができ、実際の大きさはA4長辺を1辺とする正方形に近いエリアが確保できた。複数の画像を同時に編集する場合などいくら広くても良いケースを除き、実用上充分の表示エリアといえるだろう。これ以上大きくてもかえって視認性が悪くなるだけで、作業性は向上しないと思える。

 写真家にとってPhotoshopが最もなじみ深いアプリのように、デザイナーにとってはIllustratorだろう。様々にパレットが必要である点は操作の内容を考えればPhotoshop以上かもしれない。同様に普段使うであろうパレットをすべて表示した結果、Photoshopの場合と同じように作業エリアが確保できた。この状態でA4を縦でも横でも原寸で観察可能だ。パレットの表示を最小限にすれば、A3横位置での原寸作業も普通にこなすことができる。大画面での効率アップは写真家の作業現場以上かもしれない。

 最近デジタルカメラのデータ=写真という状況が一般化し、画像の閲覧と管理を含んだアプリが重要になってきた。カメラメーカーの純正アプリや、Apple ApertureやAdobe Photoshop Lightroom がこれにあたる。ともにサムネイル画像で素早い閲覧と、プレビュー画面で詳細な観察と、RAWデータ現像や画像調整機能を持っている。性格上多数の画像を一覧できる広い表示エリアが求められるが、同種のアプリでは、複数ウインドウの移動を繰り返しながらの作業を強いられてきたが、1,920×1,200の表示エリアは快適そのものだ。

専用遮光フード装着時 多くの端子を邪魔せず、
粘着テープなどを使用しない

 本機を購入するユーザーは、画像の僅かな見え方の差が重要なヘビーユーザーだろう。専用オプション(別売)として用意されている遮光フード「DA-SH241」は、ヘビーユーザーでも納得の一品だ。巧妙な作りで、両面テープやマジックテープなどを全く使わず、滑り込ませるだけでしっかりとフィットする。更に測色機をつるすときに便利な開閉式の窓を持っているなど、各部のこだわりが嬉しい。

 広大な表示エリアを持ち広い色域と均質性をもつ「LCD-MF241X」は、昨年までならば数十万円の投資が当然のことと思える性能を有し、多彩な入力端子が大方のソースを表示してくれる、まさに死角のないマルチな才能をもつディスプレイといえる。また、写真家としてプロの方々も安心して使える、投資効率の高い1台といえるだろう。古くからのPhotoshop使いに多いのだが、少し小さめのディスプレイでツインモニターとしている方など、一度検討してみても良いのではないだろうか。
小山壮二 プロフィール
写真表現の拡大を目指してフィルムとデジタルのハイブリッドでデジタルフォトをいち早く開始。各地でデジタルフォトとカラーマネージメントの普及活動を行う。株式会社プロテック代表取締役、岡山デジタル研究会運営委員、デジタルカメラ学習塾運営委員。現在、デジタルカメラマガジン フォトコンテスト カラープリント投稿部門の選者を担当している。