主夫の知恵! NUCで“キッチンパソコン”を構築
防水加工したタッチパネル液晶で万全
(2013/9/6)
いま自作パソコンの世界で大注目を浴びている、インテルが提唱する小型パソコンフォームファクター「NUC(Next Unit of Computing)」。ベアボーンと対応マザーボードがいろいろ出てきているので、家電Watch代表として“家庭の中でどう便利に使うか?”を実践してみた。
キッチンに置いたタブレットやノートPCはサイエンスフィクション!現実にはありえない!
タブレット型コンピュータの宣伝で、こんな描写をよく見かける。「真っ白なキッチンのワークトップ(流し台)にタブレットが置かれ、満面の笑顔でレシピサイトを見ながら調理する女性」。でも実際そんなオシャレな光景は見たことない!色鮮やかなピーマンだけで、ニヤニヤしちゃう女性がマジでいたら「お前は貞子かっ!」って怖さすら覚えるでしょ?フツー。
ライターという仕事柄、実際にキッチンでタブレットを使う記事なんてのもやったことはある。ことはあるが、1週間も使うと正体不明のシミで、冷蔵後の間仕切りみたいに汚れる(笑)。しかも指でこすって拭こうとすると、ラーメン屋のしょうゆ差しみたいに油でベタベタになってるのだ。(※)
つまりキッチンでタブレットを使うと、流しの水が掛かるだけじゃなく、汚れまくった画面を触ってレシピを見なければならず、とても笑顔で楽しそうに使えるものじゃないのだ。
タブレットがダメならノートパソコンがあるじゃないか!と思いきや、それこそもっての外。キッチンは液体のものが多く、しかも塩分やらが含まれているので電気を通しやすい。こんなものをノートのキーボードにブチ撒けたら、まず一発でPCは逝ってしまう。
つまり微笑んだ女性がキッチンでパソコンを見ながら料理するなんてのは、SFなのである!
しかし人間の知恵と技術でSFの夢物語が現実になったものも多い。そこで主夫でもある筆者のトンチと知恵と技術を使って、現実的なキッチンパソコンを作ってみよう。とか言うと、ソレっぽく聞こえるから不思議。
ホントのトコは、嫁に加齢臭がするだの、汗臭いから一緒に寝たくないだの言われて家庭での地位が下がってきているので、待遇改善の家庭内春闘て感じ。いや、秋だけどさ……。まぁぶっちゃけNUCで作るキッチンパソコンなんて面白そうだからやりました。
(※)揚げ物の油は超微粒子となって揚げ物から出た水蒸気付着して、部屋を浮遊する。油自体はさほど蒸発しないが、水蒸気が媒介となって油を運ぶので、コンロから離してあるものでも油まみれになっちゃうのだ。
理想のキッチンパソコンを作るにはNUCしかない!
キッチンにはモノが多く、デスクトップPCはもちろんキューブ型の省スペースPCすら置くのは不可能だ。いや、正しくは置くことができても、翌日奥さんに撤去される。キッチンPCの第一条件は、とにかくキッチンの物置スペースを少したりとも削ってはならないことだ。
となれば選択の余地などない。超薄型の液晶ディスプレイとアーム、そしてインテルの超小型パソコンNUCを使う以外に道はない。NUCってナニ?という人に軽く説明すると、性能よりもコンパクトさを重視した超小型PCだ。マザーボードは10cm角程度で、CPUはCore i3(モデルによってCore i5やCeleron)プロセッサを搭載し、USBやHDMI、LANコネクタを搭載している。スペック的にも扱いもほぼノートPCで、違いは自分でメモリを挿す必要があるという程度だ。
今回使ったNUCは、Core i3プロセッサを搭載したIntel BOXDC3217BY。これに4Gバイトのメモリ×2を載せ、小さな筐体に内蔵できるmSATA規格の240GバイトSSD(Intel SSD 525 SSDMCEAC240B301)と、WiFiアダプタCentrinoR Advanced-N 6235を入れている。なおこのWiFiアダプタは、HDMIの映像信号を無線送信するWiDiに対応している。別売の受信機をそろえるとPCとディスプレイの接続もワイヤレス化できる。
さてキッチンパソコンとなると、操作はできるだけ簡単にタッチパネルにしたい。そこでOSはタッチパネルを標準サポートしているWindows 8に決定。問題はタッチパネル液晶だが、薄型で安価、しかもタッチパネル式の15.6型があるGeChicのOn-Lap1502iを使うことにした。タッチパネル液晶は非常に高いのだが、コイツはデカイ割に4万7千円とかなりお買い得なのだ。また液晶をアームに固定するために別売の着脱式VESAマウントキットも用意した。
「GeChicなんて聞いたことのないメーカーで大丈夫なの?」という読者もいるだろう。実はウチのサーバ用のディスプレイとしてタッチ式じゃないGeChicの13インチOn-Lapを使っているのだが、これが実に薄型で見やすい。薄くて安くて高品質というのが、筆者のGeChicのイメージだ。
タッチパネル液晶を防水加工してキッチンPCに最適化!
調理しながら操作するキッチンパソコンは、タッチパネル液晶が防水じゃないとタブレット同様使いづらい。生肉を触った手でそのままレシピをスクロールさせて、調理が終わったらキッチン洗剤を含ませたスポンジでまな板のように洗って、布きんでザッと画面を拭く。このぐらい荒い使い方ができないと、キッチンで使うわけには行かないのだ。どこにあってもギトギトになる油からも画面を守らねばならない。そこでまずは液晶の防水加工をしよう。また液晶パネルを保護する加工も合わせてしてしまう。
準備するのは、液晶保護フィルムとお風呂の水漏れなどを修理するシリコンコーキング材というものを使う。DIY店では「バスコーク」という名前の製品が有名だが、プロ用のコーキング材を使ってもOK。なぜならプロ用の方が安かったりする場合があるのだ。
液晶保護フィルムは、画面ピッタリのサイズが手に入らないという場合、DIY店で0.3〜0.5mmの塩化ビニル(塩ビ)板やポリカーボネイト板、ペット樹脂(PET)板を買ってきて、画面に合わせてカットしてもOK。板の厚さは1mmでも問題なく動作したが、どんなタッチパネルでも問題なく操作できるのは0.5mm以下だろう。
さて液晶保護フィルムの場合は、気泡が入らないように丁寧に貼って行く。スマートフォンの小さな保護フィルムでも気泡が入らないようにするのは大変なので、13インチや15インチの液晶にフィルムを貼るのは超難しい。貼り方のアドバイスをしているサイトなどでノウハウを調べてから作業することをオススメする。一方買ってきた塩ビ板を切って使う場合は、そのままペロンと画面の上に載せるだけでいい。ノリがついていないので気泡が入らないばかりか、画面が広いのでノリがついていなくてもピッタリ簡単に密着しちゃうのだ。
さて濡れた手で液晶パネルを操作して、内部に水が入る箇所は液晶パネルと筐体のフチの間だ。そこでここにシリコンコーキング剤を充填して水の浸入を防ぐ。保護フィルム代わりに塩ビ板などを使った場合は、コーキング剤を接着剤がわりにして、本体と塩ビ板を一体化しよう。
それにはまずマスキングテープと呼ばれるものを、コーキング剤がつくとまずい部分に貼って行く。本体のフチ3mm程度と液晶フィルムの端3mmの6mm幅程度にコーキング剤を充填すればいいだろう。 マスキングテープで保護したら、コーキング剤をマスキングテープの隙間にそって少し搾り出し、ヘラを使ってならして行く。
できあがったら丸1日乾燥させ、マスキングテープをはがすと、フチがキレイに仕上がっているはずだ。これで液晶と本体の隙間はなくなり水が内部に侵入することもなくなる。防水仕様のタッチ式液晶パネルの完成だ。
NUCはディスプレイ後ろのVESAマウンタに取り付け!
さてNUCは液晶パネル裏についているVESA規格のマウンタに取り付けるようになっている。しかし今回は液晶にアームを取り付けるので、VESAマウンタが埋まってしまう。そこでオリジナルのステイを作ってもう1個VESAマウンタを用意した。ここで使ったのは3mmのアルミ板をドリルで加工したが、DIY店の金具コーナーや自動車の電装部品コーナーなどでピッタリの金具を見つけられるだろう。
このようにNUCは液晶ディスプレイの裏側に回り込むため、流しの水が掛かったりすることがない。したがって防水加工も不要。ちなみにエアフローは、NUC底面から吸い込みで、ACアダプタの差し込み口が吐き出しとなる。吐き出しが上を向いていると水滴が入ってしまう可能性があるので、そこだけ注意すればいい。
テスト運用では横長に使っていたディスプレイだが、キッチンパソコンはWebを見る機会が圧倒的に多いので、縦に使った方がダンゼン使い易い。Windows 8は[Alt]+[Ctrl]+カーソルキーで、画面の向きを簡単に変えられるので、回転させて使うのも簡単だ。
また当初はWindows 8なのでソフトウェアキーボードで文字入力をすればいいかと思い、キーボードなしの仕様だった。しかしキッチンパソコンは、レシピを検索するときキーワードを頻繁に入力するのでキーボードが合ったほうが使い易い。特に液晶アームを使っているので、液晶パネルが直立してしまいタッチパネルが入力しづらいのだ。
そのほか奥さんから「キーボードを使わないときに引っ掛けるフックが欲しい」「キーボードを冷蔵庫に貼り付けられるようにして欲しい」など、細々とした改良を重ねキッチンパソコンは完成した。
そして後日、追加のユーザー要求が奥様から申し渡された。「料理中は手がふさがってることも多いし、声で操作できたりしないの?」と。人間ラクを一度覚えると、コレだから困る。が、それを呑みこんで何とかするのが、配偶者という名の奴隷である筆者だ。USB接続のマイクを買ってきて、Windows8に標準装備されている音声認識ドライバをインストールしてみた。
使ってみると確かに奥さんの言うとおり。レシピの続きを表示させる場合などは、「右にスクロール」「下にスクロール」と声に出すだけで、手による操作は一切不要。これぞキッチンパソコンだ。ハンバーグを作っているときに、レシピの続きを表示させたり、BGMの曲を変えたりというのも声だけで操作可能。画面に表示されているボタン名を声に出したり、クリックしたい場所を画面に表示される番号で伝えたり、検索キーワードを入力したりもできる。
慣れるとハンバーグをこねながら、つけ合わせのレシピを音声だけで検索したりといったことも可能になる。
ちなみに対処方法が難しいためペンディングにしてあったディスプレイの油汚れ防止策は、一番簡単な布をかぶせるという方式で解決した(笑い)。
キッチンパソコンのある生活
これまでサイエンスフィクションの世界だけにあったキッチンパソコン。タブレットやノートパソコンでは、防水加工されておらず、野菜を洗って濡れた手、生肉を触った手で、これらを使うのは大きな挑戦だった。むろん場所を食うデスクトップPCはおろか、省スペースPCをキッチンパソコンにするなんて論外だ。しかしNUCはキッチンパソコンをSFから現実のものにした。筆者の手で(笑い)。
キッチンパソコンを導入した効果は劇的だ。明らかに夕食のレパートリーが多くなり、旨くなった。その差は、レギュラーからハイオクガソリンに変えた(もしくは80PLUS GOLD認定電源をPLATINUM認定に載せ買えた)比ではなく、明らかに味も見た目も質も違う。
奥さんに言わせると、食べたい料理名からの検索だけでなく、冷蔵庫にあまっているものをキーワードにして検索したり、「冷たい」や「サッパリ」といったフィーリングでもレシピを検索できるので、経済的にも健康的にも◎ということだ。そして「キッチンパソコンは、すぐに使えて、キッチンにあるからこそ便利なのだ」という。面倒な献立を考えるのに、(たった数歩だが……)わざわざリビングまでタブレットを取りに行ったり、起動に時間のかかるノートパソコンは使わない。レシピの続きを見るのに、イチイチ手を洗ってパソコンを触って、再び作業に戻るなんてのも面倒。だって本なら生肉触った手でページの端っこをチロッ!てめくるでしょ?と。パソコン使って手間がかかるくらいなら、いつもの料理を作るまでと一刀両断(笑い)。どうやら主婦の料理というのは、いつもより美味しい料理を家族に食べさせるというより、家族が文句を言わずに食べるものをサッ!と作るものらしい。キッチンパソコンはSFから現実にできたが、夕食をうれしそうに作る奥さんのイメージは夢物語に消えていった。
しかし!逆に言えば、キッチンパソコンをキッチンに常備すれば、奥さんの料理の腕がどんどん上達すること間違いない!シンクで作業して濡れた手でも、ハンバーグをこねた手でも、パソコンを操作することができるのだ!
NUCの活用法は、アイデア次第で無限にある。リビングのテレビにつなげれば、使いづらいテレビ付属のYoutubeやWebブラウザともサヨナラできる。また面倒なDLNAサーバの設定をすることなく、Windowsネットワークの共有ビデオや音楽を視聴することもできる。NUCは“単なるちっこいパソコン”ではなく、“大きな可能性を持ったパソコン”ということが、おわかりいただけただろう。
みなさんも、私の使い方をはるかに超えるアイデアで臨んでほしい!
URL
- インテル® ネクスト・ユニット・オブ・コンピューティング
- http://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/motherboards/desktop-motherboards/nuc.html
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