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「HP Folio13-1000」

2月2日発売



●年明け一番の注目機種「HP Folio13-1000」

 2012年もあっという間に1カ月が過ぎてしまった。1月に発表された新製品の中で、1、2を争う注目を集めているのが日本HPの「HP Folio13-1000」(以下、Folio13と略)だ。PC Watchの記事を読まれた数も累積で15万ページビューを超えている。PC分野の中ではダントツの注目度だ。

 Folio13は単なる薄型のノートPCではなく、「Ultrabook™」というジャンルに属している。Ultrabook™は、インテルが提唱している新しい規格で、昨年末から製品が登場し始めている。一言で言えば、ノートPCを革新し、薄く軽く速いノートPCをリーズナブルな価格で提供しようという規格だ。具体的には第2世代インテル® Core™ i5 プロセッサーを搭載し、本体の厚さを21mmに抑えることとなっている。

 さらに、3億ドル規模の「Ultrabook™基金」を創設し、2012年末までにコンシューマー向けノートPCの40%がUltrabook™に移行されると予想されていることからも、インテルがUltrabook™に本腰を入れることが伺える。おそらく、インテルはUltrabook™が、PCを超えた新しいカテゴリーとなる可能性を秘めていると考えているようだ。

 今回は、Folio13が登場した背景も含めて、その実力と感触をお伝えしたい。


●薄い外観、良くできたキーボード

 Folio13は、13.3型液晶を搭載したノートPCだ。外観の特徴は、アルミ素材のメタリックなデザインと、18mmの薄さだ。本体は平らな板状で、先端から末端までフラットなデザインなので、数字以上に薄く感じる。底面も薄い滑り止めを除いて、真っ平らだ。

 表面のアルミ素材はシルバーだが、ちょっぴり黄みがかった色合いで、ヘアライン加工が入っている。触るとひんやりとした金属ならではの触感があり、高い質感を感じる。指紋が付きにくいのも良い。本体のベース素材は低価格機に多い樹脂ではなく、高級機と同じマグネシウムが使われている。そのためか、薄いながらもがっしりとした感触だ。

 Folio13は、持ち上げた時は1.5kgという数字よりも軽く感じる。ボディのバランスが良く、重さが偏っていないからだ。人から渡してもらうときも、液晶を開けた状態だと重く感じるが、液晶が閉じてあると軽く感じるのはこのためだ。

 Folio13のストレージは128GBのSSDで、光学ドライブは載っていない。HDDが載っていないから、衝撃に強いし、起動も速い。システム情報を見ると、SSDは2.5インチHDDの形ではなく、mSATA型が入っている。本体は開けにくそうなので、交換は簡単ではないだろう。

天板はアルミ素材でシルバー ヘアライン加工が入っている
本体正面 背面
1円玉との薄さ比較。正面と背面で薄さは同じ

 キーボードは日本語配置。キー数が少ないので、機能キーは2機能が1つにまとめられている。たとえば、「ins」は「prt sc(Print Screen)」と一緒になっている。キーボードの四隅が円くラウンドしているのはHPのノートによくあるデザインだ。

 もう1つ、最近のHPノートでよくあるのだが、出荷時の状態ではファンクションキーを単体で押した状態で、機能キーとして動作する。たとえば、F2キーをF2キー本来の機能として使いたいときは、fnキーと同時に押す必要がある。F2キーを単体を押したときは、画面の明るさを下げる機能キーとして動作する。これはBIOS設定で通常の動作に変更できる。

 キーは浮き石型で、ストロークもありクリック感もある。キーボードは人によって好みがあるが、浮き石型が主流になっている最近のノートPCのキーボードとしては、かなり良い部類に入る。キーピッチが縦横とも19mmなのも使いやすい。モバイルノートによくある縦方向が短いキーボードでは、キーの位置を覚え直す必要があるが、その心配はいらない。あえて言えば、カーソルキーの形状がちょっと変わっているので、戸惑う人がいるだろう。

 また、このキーボードにはバックライトが付いている。F5キーを押すだけで点灯し、もう一度押すと消灯する。明るさの調整はできないが、暗い場所での作業にはありがたい。

日本語配置で、四隅が円くラウンドしているキーボード カーソルキーの形状がちょっと変わっている
キーボードはバックライト付きだ


●熱くならないボディ、不足のない処理能力

 CPUは「インテル® Core™ i5-2467M プロセッサー」を採用。2コア4スレッド、クロックは通常時が1.6GHz、「インテル® ターボ・ブースト・テクノロジー 2.0」により2.3GHzという、最近ではごく普通のパフォーマンスだ。ハイエンドデスクトップPCのような尖った速さはないが、何をやっても普通に処理する力はあり、能力不足を感じることはなかった。SSDとメモリが速いことも体感上の速度を感じる理由だろう。ただ、GPUはCPU内蔵型なので、3Dパフォーマンスは低い。もともと3Dゲームをやるノートではないということだろう。

 このCPUはTDPが17Wと低く、PC本体の冷却性能も良いので、かなり負荷をかけても本体のどこかが熱くなりにくい。ファンは小径なので、動作音の周波数は高めだが、音量は小さい。聞こえてくるが耳障りではないという感じだ。冷却はしっかりしていて、CPUを冷やしきれずにパフォーマンスが落ちるようなことはなかった。

 インターフェイスは、右側面にUSB 2.0が1つ。左側面にGigabit Ethernet、HDMI、USB 3.0、2in1メディアスロットがある。2in1メディアスロットはSD/SDHC/SDXCとMMC対応なので、実質SDカードスロットと思えば良い。

 USB 2.0がもう1つあれば満点だが、高速なUSB 3.0があるのは良い。デスクワークの時はHDDやUSBメモリなど外付けにすれば、SSDの容量を補える。それでも足りなければ、メディアスロットに高速なSDカードを入れっぱなしにしてデータドライブとして使うという手もあるだろう。USB端子が足りない場合は、マウスをBluetooth接続にするという選択もある。

 また、プロジェクターを使うときに使用頻度が高いミニD-Sub15ピン(VGA)端子はない。プロジェクターを接続する場合は、HDMIかUSB経由になる。出張先でプレゼンをするときは、プロジェクターの対応端子を確認して、ケーブルを持参した方が安全だろう。

 試用期間中に、何かをガマンするとか不足を感じるということは、ほぼ無かった。低価格のノートPCという印象はまったくない。Folio13を携えていると、バッテリは持つし、起動が速いこともあって、すごく気楽に使える。何かを検索するとか、思いついたことをメモするという用途にも向いている。こういう用途では、キーボードがある分、タブレットよりも使いやすいと感じた。

 ちょっとうれしかったのは、無線LANアンテナの感度が良いことだ。ルーターから、廊下と2枚の扉で隔てられた私の部屋では、いつも使っているノートPCの無線LAN感度は「良好」止まりだ。しかし、Folio13はほぼ常に「非常に強い」だった。モバイルノートの場合、無線LANを使う機会は多いので、アンテナの感度が良いのは大きな長所だ。

 もう1つはスピーカーの音質がまともなこと。もちろんオーディオ的にどうこういうレベルではないが、普通に音楽は聴けるし、ムービーの音声も聞きとることができ、思っていたよりもずっと音質は良い。

左側面にはGigabit Ethernet、HDMI、USB 3.0、2in1メディアスロットがある 右側面にはUSB 2.0が1つ用意されている
Windows エクスペリエンス インデックス。総合 4.7。プロセッサ 6.3、メモリ 7.2、グラフィックス 4.7、ゲーム用グラフィックス 6.2、プライマリハードディスク 7.5


●地味だが実力のある理由

 実機が手元に届いてから、10人ぐらいの人に見てもらったが、好意的な言葉が多かった。もちろん、「1.5kgは重すぎますよ」と、重量だけで判断する人もいたが、「記事から想像していたより、質感が高く、持った印象も良い」という人がほとんどだ。

 「もっとMacBook Airっぽいんだと思ってた」という人もいたし、「会社でも使えそう」「学生に持たせたい」という反応もあった。

 つまり、ガジェットっぽいオモチャっぽさというか、デザインの色気が足りないと見えるようだ。「飛び道具がない」「地味」という人も居た。

 これらの意見も正しいのだけれど、Folio13の生まれ育ちを考えると、派手さを求められる製品ではないということもわかる。

 そもそも、HPは、計測器から始まって、そのデータを記録して集計するためにコンピュータに関わってきたという会社だ。

 もちろん、マイクロプロセッサの登場以前からコンピュータを作っていたから、同じCPUをシステムに組み上げるのでも、パソコンから始めた企業とは深さが違う。部品を与えられて、そのガイドに沿ってモノを作るのではなく、なぜその部品がそういうアーキテクチャになっているのということまで深く考えてしまうメーカーなのだ。

 また、HPは企業向けシステムにも強く、社会のインフラを支えるシステムが求められる。つまり、「安全第一」「信頼性は宝」という風土が会社を支えているわけだ。

 もちろん、それとコンシューマ向けの製品を作っている部門は違うわけだが、こういう企業風土は、じわじわと会社全体に浸透してきて体質になるものだ。

 つまり、HPという会社には市場で求められている以上に、製品の品質を追求してしまう“クセ”がある。製品を作るときに従うルールは、市場調査の結果ではなく、自らのポリシーなのだ。

 そもそも、HPが、そういう風土の会社なのに、Folio13には、さらにカッチリとした製品である理由がある。

 HP初のUltrabook™「Folio13」は企業向け、個人向けの両方で開発された製品なのだ。米国版のFolio13のサイトを見てもらうとわかるのだが、米国ではFolio13は企業向けの製品として販売されている。米国ではOSもWindows 7 Professionalだし、企業向けシステムには欠かせないTPMという暗号化チップまで搭載されている。単独で動くPCと、システムの末端として動くPCは同じモノではない。末端とは言え、システムの一部として動作するPCは、システム全体の信頼性を担保するために、高い信頼性とタフさが求められるのだ。

 一言で言うと「Folio13は、まじめなシステムを作っている会社のなかでも、選りすぐりのまじめな部署の人たちが作ったノートPC」なのだ。会社で使うのに向いていると言った人はスルドイ。そもそもの生まれ育ちは隠せないものらしい。

 このFolio13が、日本でコンシューマ向けに販売されたのは、日本のユーザーにとっては幸運なことだったと私は思う。

 だって、選りすぐりの高品質なPCが、個人でも安く買えるのだもの。Ultrabook™の特徴である、薄さ、速さ、軽さに加え、堅牢性、ポート類やキーボードタッチの使い勝手の良さを7万円台というプライスでまとめてきたところにHPの底力を感じる一品だ。

米国版Folio13サイト


●Ultrabook™とFolio13

 Folio13はUltrabook™というジャンルに入る製品だが、Ultrabook™という規格が先にあって、製品を作ったのではなく、“PCというのはこういうものだ”というイメージが先にあって、それを作るのにUltrabook™という規格を利用したという製品だ。

 大げさに言うと、Folio13はUltrabook™というジャンルが単なるMacBook Airフォロワーのためのジャンルじゃなく、新しいノートPCを作るための規格として成り立つ可能性を垣間見せてくれる部分がある。

 個人的には、HPが作る最初のUltrabook™というところにも関心を惹かれる。つまり、新しいジャンルの製品を作るときは、安全率を高く取る。2作目以降は「あそこの部材はこれぐらいで良い」という最適化の判断ができるが、最初はそのコツがわからないから、選択肢があったときは安全なほうに振るものなのだ。

 つまり、Folio13は、「信頼性を重視する会社の信頼性を重視する部門が、初めてのジャンルなので信頼性を重視して作った」製品だ。もともとの志が高い上に、今回は特にコスト最優先で考えていない。

 なるほど、これなら、過剰気味な品質感の理由も納得できる。79,800円という低価格だからと言って、個人が道具として使うのに不足のあろうはずがない。その分、派手さはないので、人の好き好きはあるだろうが、それはしょうがないことだろう。


●Folio13は誰のためのノートか

 Folio13は使っていて頼りになるノートPCだ。だから、「普通のノートよりちょっと軽くて、自分専用のノートが安く欲しい」という人には安心して勧められる。たとえば、家族の誰かが次に買うノートPCとしては、最有力候補だ。

 企業向けの仕立てになっていないから大量導入には向かないかもしれないが、自営業やSOHO、中小規模の企業の人にも勧められる。尖った外観ではなく、どこに出しても違和感のないデザインも、こういう用途では求められる要素だろう。しかも、安物には見えない。

 逆にあまりお勧めできないのは、本当に毎日バッグでPCを持ち歩く人だろう。せっかく重量バランスが良く、持つと軽い印象があるFolio13だが、バッグに入れてしまえば1.5kgの重りになってしまう。また、本体もちょっと大きい。もう一回り小さな液晶で、もう少し軽い製品の方が良いかもしれない。

 Folio13を使っている人の使い方を想像すると、普段はスマートフォンでメールチェックをしていて、長い文章を返信したり資料作成のときに、Folio13を開いて使用するイメージだ。Folio13にWWANはないが、そこはスマートフォンのテザリングかホットスポットで無線LANを使う。移動中に膝の上で使うのではなく、どこかで場所を確保して使うとのに、Folio13は向いていると思う。もちろん、社内で会議室に移動するぐらいは楽々だ。

 ここまで、Folio13の成り立ちと魅力を述べてみた。一言でいえば「地味だが頼りになる道具」だと思う。すこし引っ込み思案に見えるのは、育ちが良くて実力を秘めているからなのだ。尖った部分やモノとしての色気がない代わりに、清潔感と端正さがある。

 しかし、Folio13をパーソナルな道具として使うときは、もうちょっとキャッチーなアイテムがほしい。HPはサードパーティに働きかけてFolio13専用のカバーなどの周辺機器をたくさん出して欲しい。もともと「Folio」とは、本のサイズに由来する名前なのだから、革張りのブックカバーっぽいアイテムとか良いと思う。

※Intel、インテル、Intel ロゴ、Intel Inside、Intel Inside ロゴ、Intel vPro、Intel vPro ロゴ、Celeron、Celeron Inside、Intel Atom、Intel Atom Inside、Intel Core、Core Inside、Itanium、Itanium Inside、Pentium、Pentium Inside、vPro Inside、Xeon、Xeon Inside、Ultrabook は、アメリカ合衆国およびその他の国における Intel Corporationの商標です。

(2012年 1月 31日)

[Text by 但見 浩]