日本HPの「HP Pavilion Notebook PC dm3i」(以下、dm3i)は、13.3型のワイド液晶を搭載するモバイルノートだ。モバイルノートと言うと、性能と操作性を犠牲にしてでも小型化を追求する、持ち歩き専用のノートを想像する方が多いと思うが、dm3iはそういったモバイルノートとはちょっと違う。13.3型のワイド液晶を搭載していることからも分かる通り、dm3iは使い勝手とモバイル性の両方を追求したモバイルノートであり、モバイルノートでありながらまったく妥協がないスペックを実現している。その性能の高さから、据え置きのノートとしても使用できるし、モバイルノートとして持ち運ぶこともできる。おいしいところ取りのバランス型モバイルノートdm3iだが、特筆すべきポイントは、これだけの本格的モバイルノートでありながら最低構成で6万円台という低価格を実現している点だ(※2009年12月執筆時点)。なるべく低予算内で本格的モバイルノートを手に入れたいユーザーにはうれしい価格設定といえよう。
さて、据え置きでも使えるモバイルノートと言うと、最近は低電圧版のモバイルCPUを搭載する、いわゆるCULVノートが多い。dm3iは、そういった流行りのノートとも異なっている。性能を重視しているdm3iでは、あえて流行に反した、標準電圧版のインテル Core 2 Duo プロセッサー SP9300(以下、Core 2 Duo SP9300)を搭載している。CULVノートも、モバイルノートとして十分な性能を備えてはいるが、その位置付けがネットブックよりも少し上を狙っていることもあり、どうしても性能もそれなりになってしまう。それに対して、標準電圧版のCPUを搭載するdm3iは、メインPCとして十分に使えるだけのCPUパワーを提供してくれる。
ハイパワーなのはCPUだけではない。グラフィックス機能にも、NVIDIA GeForce G105M(以下、GeForce G105M)を搭載することで、モバイルノートとは思えないハイパワーぶりを実現している。3Dゲームも遊べてしまうモバイルノートなんて、ほかにはあまりない。
そして、dm3iは性能だけでなく、デザイン面にも一切の妥協がない。dm3iの高級感とデザインの良さはかなりのもので、それは写真からも分かっていただけると思う。ちなみに、ボディは金属製で、マグネシウム+アルミニウムを使用したフルメタル仕様となっている。液晶カバーやパームレストだけでなく、底面も金属製だ。触ると冷やりとする本体は、見ても触っても上質感にあふれている。
dm3iには、Core 2 Duoを搭載するモデルと、Celeronを搭載するモデルの2モデル構成となっている。ここで紹介するdm3iは、Core 2 Duoモデルに2GBのメモリを搭載したものを使用している。では、dm3iの細部を見ていくことにしよう。
HP Pavilion Notebook PC dm3iスペック表
モデル |
HP Pavilion Notebook PC dm3i |
価格 |
64,050円〜 |
OS |
Windows 7® Home Premium
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CPU |
・インテル® Core™ 2 Duo プロセッサー SP9300
(2.26GHz/L2キャッシュ6MB)
・インテル® Celeron™プロセッサー SU2300
(1.2GHz/L2キャッシュ1MB)
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チップセット |
モバイル インテル® GS45 Express チップセット
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グラフィックス機能 |
NVIDIA® GeForce® G105M(512MB)
※Core™ 2 Duo プロセッサー SP9300 選択時のみ |
メモリ |
・PC3-8500 DDR3 SDRAM 4GB(最大8GB)
・PC3-8500 DDR3 SDRAM 3GB(最大8GB)
・PC3-8500 DDR3 SDRAM 2GB(最大8GB) |
ストレージ |
HDD 320GB |
液晶 |
13.3型ワイドHDウルトラクリアビュー液晶(1,366×768ドット) |
ネットワーク |
IEEE802.11a/b/g/n、100BASE-TX、Bluetooth 2.0+EDR |
バッテリー駆動時間 |
・約8時間
・約10時間(Celeron搭載モデル) |
サイズ |
横326×奥行き230×高さ22〜29mm |
重量(バッテリー搭載時) |
約1.9kg |
dm3iが搭載するCPUは、前述したように標準電圧版のCore 2 Duo SP9300だ。標準電圧版のCore 2 Duoは、CULV CPUと呼ばれているCore 2 Duo SUシリーズに対し、L2キャッシュが3MBから6MB、FSBクロックが800MHzから1,066MHzと、かなり高性能になっている。とくに、L2キャッシュの容量は性能に大きく表れる部分なので、容量が倍も違えば大きな性能差となる。また、FSBクロックが1,066MHzであるということも重要だ。CPUとチップセットを繋ぐバス帯域は、チップセットとメモリを繋ぐ帯域に比べて狭く、最近のノートPCではそこが常にボトルネックとなる。そのため、CPUとチップセットの間の速度が少しでも速ければ、それだけボトルネックが緩和されてPC全体の速度が高速になる。
では、実際の使用感はどうなのかと言うと、当然のようにサクサク動いてくれる。音楽再生、動画再生、写真の加工、Webサイトの閲覧など、1つ1つの作業はもちろん、複数の作業を同時に行うような場合でもCPUパワーに余裕を感じる。この余裕というのは大事な要素だ。CPUの使用率が頻繁に100%になるようなPCは、使い始めの頃は気にならなくても、長期間使っているうちにどんどんストレスを感じるようになっていく。dm3iは、余裕のCPUパワーを備えているので、通常の用途でストレスを感じることは少ない。
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ハードウェアの各種情報を表示できる「CPU-Z」でCPUの情報を表示した。Core 2 Duo SP9300は低負荷時には省電力モードになり、約1.6GHzで動作する
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CPUに負荷をかけると、定格動作の約2.26GHzまで動作クロックが上がる。このように、Core 2 Duoは負荷に応じて動作状態を自動で切り替えて省電力を実現している
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メモリは、PC3-8500 DDR3 SDRAMを2GB搭載しており、シングルチャンネルで動作している。スロットが1つ空いているのでメモリの増設が可能だ
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Windowsエクスペリエンスインデックスの値は、モバイルノートとしてはかなり高い値を出している。値のバランスが良く、とくに欠点がないところも良い
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グラフィックス機能は、このクラスのノートなら通常はチップセットが内蔵するグラフィックス機能を使うのだが、dm3iはグラフィックス処理用にGeForce G105Mを搭載している。GeForce G105Mは、1.6GHzで動作するGPUで、3D APIはDirectX 10世代に対応している。NVIDIA CUDAにも対応しているため、GPUを汎用演算用に使用でき、対応ソフトでの動画エンコードはハイエンドデスクトップ並みに高速だ。この機能は、対応GPUを搭載したノートでしか実現できない機能なので、通常のノートでは真似できない、対応GPUを搭載するdm3iならではの機能と言える。また、NVIDIA PureVideo HDに対応しており、H.264、VC-1、MPEG-2の各動画のデコードをCPUではなく、GPU側で行える。軽めの3Dゲームなら、十分遊べるだけの性能を持っているので、通常のノートの用途であればオーバースペックと言っても良いほどの余裕のグラフィックスパワーである。
さて、CPUパワーは十分、グラフィックスパワーも余裕いっぱいということになると、気になるのはHDDの速度だ。BTOなどで、CPUを高速にして、メモリも大量に搭載したのに、何故か体感速度が遅いという場合がある。そのような場合の多くの原因は、HDDの速度にある。PCが搭載する必要不可欠なパーツの中で、HDDはもっとも遅い転送速度のパーツだ。そのため、HDDの速度が全体に与える影響の割合は大きい。
とくにモバイルノートの場合、5,400rpmの2.5インチHDDを搭載することが大変多く、OSの起動速度や、ソフトの起動速度、Webブラウザの動作速度にまで大きな影響を与えている。その点、dm3iはしっかりと7,200rpmの高速な2.5インチHDDを搭載し、隙のないスペックを実現している。
余裕のCPUパワーに、余裕のグラフィックスパワー、余裕のストレージ速度と、3つの高性能を実現しているdm3iは、モバイルノートでありながらメインマシンとしても使えて、満足度が高いノートだ。また、バッテリー駆動時間も約8時間を実現しており、外出先でも安心して使用できる。
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グラフィックス機能には、GeForce G105Mを搭載している。動画エンコードを高速化できるほか、H.264、VC-1、MPEG-2のデコードをGPUで行える
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Futuremarkの3DMark03の結果は、モバイルノートとは思えないほど良い結果だ。これなら、軽めの3Dゲームなら十分に遊ぶことができる
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購入時のHDDの空き領域は約266GB。メインマシンとしても十分に使える空き容量だ。画面に見える約8GBのドライブはリカバリー領域である
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CrystalDiskMarkでHDDの速度を計測した。連続読み出しで約76MB/sの速度を記録し、2.5インチHDDとしては十分な速度を出せている
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dm3iは、性能面だけでなくデザイン面にも妥協がない。写真で伝わるかどうか心配だが、感心するほどの高級感である。モバイルノートにありがちな、プラスチックを多用した安っぽさはまったくない。それもそのはずで、dm3iは金属だらけのフルメタルボディを採用しているのだ。液晶カバーはアルミニウム製、底面などのボディはマグネシウム合金製、液晶を開けるとパームレスト部分がアルミニウム製となっている。
もちろん、デザインのためだけに金属を多用しているわけではない。マグネシウム合金は軽量でありながら堅牢性が高く、アルミニウムも同様の特性を持っている。堅牢性を高めつつ、高級感のあるデザインを実現できるのが、このフルメタルボディなのだ。とくに、耐食性を高めるアルマイト処理と、金属の質感を高めるヘアライン仕上げが施された液晶カバーは大変美しい。
毎日使うノートだからこそ、見た目も重視したいという人は多いはず。しかし、デザイン性だけで性能を犠牲にはしたくない。dm3iは、そんなデザインも性能も欲しいという人の期待を裏切らないノートに仕上がっている。フルメタルボディによる落ち着きがある独特の高級感は、毎日使っても飽きることはないだろう。
dm3iは、ほぼA4用紙サイズのモバイルノートだが、キーボードのキーピッチはフルサイズと同じ19mmを実現している。スリムなノートであっても比較的打ちやすいキーボードを実現できる、一般にアイソレーションキーボードと呼ばれる浮き石型のキーを採用しており、キーストロークは1.7mmだ。キーボード全体に剛性感があって、安心してキー入力を行える。浮き石型のキーは、フルメタルボディの高級感とも相性が良く、モダンな雰囲気を出している。
タッチパッドは、パームレスト部分との段差がないタイプで、まるでパームレストに溶け込むように搭載されている。また、出っ張りがなく一体感のあるボタンが、パームレスト自体をスタイリッシュに見せている。タッチパッドのすぐ上には、タッチパッドの機能をオン/オフできるボタンが付いていて、キーボードの入力に専念したいときなどに便利だ。
このタッチパッド、見た目はデザイン性の高い一般的なタッチパッドに見えるが、実は同時に複数のタッチを検出できるマルチタッチに対応している。もちろん、対応しているだけでなく、この機能を活用するためのマルチタッチジェスチャー機能を搭載しているので、タッチパッドだけでさまざまな操作を行える。たとえば、2本の指をくっ付けた状態でタッチパッドに触り、上下左右に動かせばウィンドウの上下左右のスクロールを行える。ほかにも、2本の指を開いたり閉じたりすることで、Webブラウザの表示内容を拡大したり縮小したり、2本の指を左右に回転させることで写真の回転なども行える。この操作は大変直感的であり、慣れると非常に快適だ。
画面は13.3型のワイド液晶で、表示解像度は1,366×768ドットを確保している。液晶には光沢があるタイプを採用しているため、表示内容が鮮明かつ鮮やかに見える。13.3型ワイドは、外出先でも据え置きとしてもちょうど良い大きさで、解像度もどんな作業にも対応できる十分な広さだ。A4サイズのモバイルノートとして、大きさも解像度も大変バランスが良い。
また、モバイルノートでありながら“音”にもこだわっており、ステレオスピーカーにはスピーカーの開発で定評があるALTEC LANSING製を搭載している。実際、モバイルノートとしてはかなり音が良く、音楽を聴いても耳障りに感じることはまったくない。いろいろと音楽を入れてみて、しばらくジュークボックスのように使ってみたが、これだけ良く鳴れば十分にBGM用として使える。音の良さは、ほかのモバイルノートとは明らかに一線を画している部分である。
エンターテインメント関連ではほかに、標準で「HP MediaSmart」というソフトが入っていることも紹介しておきたい。このソフトは、音楽ファイルの管理や写真の管理、動画の管理などを一括して行える便利なソフトだ。音楽も動画も、このソフトでまとめて管理すれば、dm3iを高機能な家電のように使える。写真と動画の簡単な編集も行えるので、ほかにソフトを買う必要がなく、重宝する。ほかにも、マルチメディア統合ソフトの「CyberLink DVD Suite」がインストールされているので、動画編集はそちらで行うこともできる。
実はdm3iの後ろに付いている“i”は、インテルプラットフォームのことを指している。もう1つのCPUであるAMDプラットフォームを採用した、後ろに“a”が付いているモデルもある。兄弟モデルとなる「dm3a」は、1.6GHz動作のAMD Athlon Neo X2 デュアルコア・プロセッサ L335を搭載するモバイルノートである。
スペックはdm3iと多少異なり、メモリにはPC2-6400 DDR2-SDRAMの2GBを搭載し、HDDには7,200rpmで250GBの2.5インチHDDを搭載する。dm3iが、日本HPの直販Webサイトで販売するモデルとなっているのに対して、dm3aは電気量販店でのみの販売となっている。
dm3iと比較した場合に、このモデルの特徴は2つある。まず、チップセットがAMD M780Gなので、グラフィックス機能にはチップセットが内蔵するATI Radeon HD 3200グラフィックス機能を使用している。このグラフィックス機能は性能的にはGeForce G105Mと大きく変わることはない。ATI Avivo HDに対応するので、H.264、VC-1、MPEG-2のデコードを行えるし、DirectX 10にも対応している。
もう1つの特徴は、USB接続の外付けDVDスーパーマルチドライブが標準で付属しているという点だ。別途光学ドライブを購入することなく、DVD-Videoを見たり、動画や音楽をメディアに記録したりできる。
光学ドライブが付属していながら、量販店での実勢価格は84,800円(※2009年12月執筆時点)となっており、かなりコストパフォーマンスが高いモデルと言える。dm3iが少し高いと感じる場合にはこちらを選ぶという選択肢もアリだ。基本性能の高さと、高級感あるデザインはdm3iとまったく同じである。
dm3iは、モバイルノートとは思えない高い性能を備え、高級感にあふれる上質なデザインを採用した、実に魅力的なノートだ。強力なCPUパワーに、強力なグラフィックスパワー、高速なHDDを搭載し、さらに自慢できるほどのスタイリッシュなデザインを備えている。高速なHDDのおかげか体感速度も速く、自宅でも職場でも外出先でも、どこででも快適に使用できる。
とくに、金属の風合いを生かすことで実現した、独特の上質なデザインはdm3iでしか得ることができない。性能だけでなくデザイン性にも優れた、高い満足感を得ることができるモバイルノートである。
プロフィール
小林 輪
バイク好き、車好き、パソコン好きのライター。パソコンのハードウェアを中心に、レビュー記事などを執筆中。
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