アナログ停波以後のテレビのトレンドは、大震災以後の省エネに加えて、3D対応やネット機能など、新しい付加価値となる次世代機能が注目されている。
こうした流れの中で、日立のテレビWoooシリーズが新しいコンセプトを提唱した。それが『スマート録画』である。今回発売される「3D対応プラズマ GP08シリーズ」と「LED液晶 XP08シリーズ」は、このコンセプトの元に設計された新世代のテレビだ。
まず、日立Wooo開発陣に『スマート録画』のコンセプトについて聞いてみた。
「私どもは、Woooの機能を毎回充実させて、とても多機能なテレビに進化させてきました。特に地デジ3チューナーダブル録画機能は多くのご支持をいただいておりますが、少し凝った使いこなしが要るテレビ、という見方もできると思います。そうした多機能をスムーズに使いこなせる提案として、今回のモデルにはスマートフォンとの連携など新しい時代の操作性を導入しています。スマートフォンを活用することで、視聴を妨げるGUIを出さずに、手元で簡単に操作できてしまう。また、テレビが学習し、番組をすすめることで、好みの番組を1週間の番組表から日常的に探し出す手間を減らし、新しい番組の発見にもつなげています。使い勝手をスマートに、賢くサポートしてくれるテレビ、それが『スマート録画』のコンセプトです」
テレビとスマートフォンを連携させることで、新しい使いやすさを実現した録画テレビ、ということだ。
今回は、3D対応「Wooo GP08シリーズ」について、開発陣にお話を伺うとともに、新機能をチェックしてみた。
「GP08シリーズ」は、日立初の3D対応プラズマテレビで、50V型(P50-GP08)、46V型(P46-GP08)、42V型(P42-GP08)がラインアップされている。コントラスト比500万:1、フルHD動画解像スピード1200ppsのプラズマパネル「ダイナミック・ブラックパネルEX」を採用し、クロストークの少ない3D映像を実現。外観は、ベゼル右上に「3D」のロゴをレイアウト。音響特性を考慮し、画面下部に前向きにスピーカーを配した本体は、オーソドックスなデザインにまとめられている。
「GP08シリーズ」では、フレームシーケンシャル方式の3D表示に対応し、液晶シャッター付きの3Dグラスで立体映像を鑑賞できる。また、通常の2D映像を3Dに変換する「2D-3D変換」機能も搭載している。テレビの上位モデルは3D機能付きが当然の時代になったが、こうしたトレンドの中で、「GP08シリーズ」にはどのような設計コンセプトが込められているのだろうか?
「弊社初の3Dを作るなら、今までにない3Dの感動を届けたい。ということで、「GP08シリーズ」では最高の画質を目指しました。また、クロストークが出にくく黒表現に強い、というプラズマのメリットを3Dに活かしました」
開発陣の意気込みのとおり、「GP08シリーズ」の映像回路には多くのテクノロジーが投入されている。それを代表するのが最新の超解像技術「ピクセルマネージャーEX」だ。
「超解像技術」とは、本来、その映像に含まれていたはずの解像度を改善する技術である。
超解像技術は2011年春モデル「XP07シリーズ」でも採用されているが、ピクセルマネージャーEXの超解像技術はより高度で、なおかつ3D映像にも対応している点が特徴と言えるだろう。日立では、中央研究所で長年、超解像技術を研究してきており、その成果が活かされているという。
ピクセルマネージャーEXの超解像処理は「解像度復元処理」と「精細度回復処理」に大別される。そこでまず、解像度復元処理について見てみよう。
「デジタルハイビジョン放送は高解像度ですが、解像度の上限が決まっていて、それ以上の解像度の信号はカットされています。しかしながら、この信号は完全に失われたわけではなくて、放送波の中に埋もれた信号(折り返し信号)として残されています。この部分を巧みに抽出して解像度を復元するのが“解像度復元処理”です」
この解像度復元処理を1フレーム内で行っているのが日立独自で、映像の輪郭を単に強調するシャープネスではなく、残されている映像の情報を手がかりに解像度を復元するのがポイントだ。具体的な効果としては、映像の輪郭やテロップの斜め線などのギザギザを滑らかにするなどの効果がある。
2Dのデモ映像を視聴したところ、密集した木立や桜の全景、といった映像に特に効果が感じられた。例えば桜の全景の場合、前モデル「XP07シリーズ」の超解像処理では、桜の幹の輪郭部分だけが解像度補正される印象だが、本機「GP08シリーズ」の映像は、細かい桜の花のテクスチャーも精細感が増している。このため、全体のディテール感と立体感がアップした映像に感じられた。
次にピクセルマネージャーEXの「精細度回復処理」(フォーカス処理)を見てみよう。これは日立独自の処理で、映像のフォーカス分布を判別して、エリアごとに超解像処理のレベルを自動調整する機能である。簡単に言うと、ぼやけた背景部分はそのままにして、クッキリしたフォーカス部分だけをより鮮明にする機能である。
例えば望遠撮影された鳥の映像では、フォーカスが合っている鳥の羽毛には超解像処理を十分にかけ、アウトフォーカスでぼやけている背景には超解像処理をかけない、という処理を行う。実際に鳥のデモ映像を視聴すると、ピントが合っている部分とぼやけている部分の違いがより鮮明になり、立体感が増すことが実感できた。エリアごとのフォーカス処理は以前から検討しており、3Dテレビを作るというのが、採用の大きなモチーフになったということだ。
同社のテレビは以前から超解像技術を採用しているが、今回はより高度な効果を目指したようだ。
「超解像処理は、主にDVDなどのSD(標準解像度)映像を向上させる、という使い方を想定されていますが、当社ではより高度に進化させ、ハイビジョンをより高精細にする機能を目指しています」
超解像技術にはいろいろな用途があるが、筆者としては、地デジ(1440×1080ドット)の映像を、BSデジタル(1920×1080ドット)のフルハイビジョン相当にアップする、という使い方が最も一般的に思える。しかし、日立の開発陣が目指していたのは、フルハイビジョンの映像も、より高精細にするというものであった。そこでの課題は、映像に含まれるノイズの問題である。ハイビジョン信号の超解像処理には、高度なノイズ対策が必要なのではないか?
「ハイビジョンの高域信号(映像の細かい部分)の回復処理を行うと、細かいノイズまで回復してしまいます。このため、これまでは、高域信号の超解像処理は抑えていました。これに対して「GP08シリーズ」では、ノイズ部分を判別して、ノイズ以外の高域信号に超解像処理をするように改良しています」
実際にデモ映像で比較したところ、「GP08シリーズ」では、鳥の羽毛や細かい木立などの精細感と立体感が目に見えて向上するのが分かった。にも関わらず、ノイズは元ソースとほぼ同じレベルで目につかない。
「超解像処理のプロセスでは、ノイズを消すのではなく、ノイズを避けて超解像処理を行い、無理なノイズ・リダクション(ノイズ低減)はしていません」
という点も、Hi-Fi指向で好感が持てる。高解像度と低ノイズの両立は映像機器の永遠のテーマと思われるが、本機の処理はかなり健闘している。GP08シリーズの超解像処理の効果を、下のフルハイビジョンのデモ映像で確認してみたところ、動物の細かい毛並みが、ピクセルマネージャー「切」と比べてより細密に描写される。最大レベルのピクセルマネージャー「5」ではもちろん、比較的控えめなピクセルマネージャー「オート」でも精細感のアップが感じられる。にもかかわらず、背景ノイズが目に付かず超解像技術の効果がよくわかった。
3D映像は、視差の異なる右目と左目の映像を交互に見せることで立体感を出している。この左と右の映像にも超解像処理をかけるのが本機の大きな特徴である。
超解像技術は、フルハイビジョンで記録されるBD-ROM(フレームパッキング方式)の3D映像に効果があるほか、解像度がハイビジョンの半分になる3Dテレビ放送(サイド・バイ・サイド方式など)の解像度補強にも効果が期待できる。
BD-ROMの3Dデモ映像を見た感想を書いておこう。熱帯樹の生い茂る森の小道のシーンでは、木の葉一枚一枚のテクスチャー感と立体感が向上し、森の奥に続く小道に自然な3D感が感じられた。一般的に3Dテレビでは、立体感が圧縮され、芝居の書き割りのように見えてしまう場合もあったが、本機では映像を構成する細かいパーツの立体感を復元することで、前景から遠景まで連続した滑らかな立体感が感じられた。「GP08シリーズ」の精細度回復処理(フォーカス処理)は、2D映像でも効果があったが、奥行き感を増す、と言う点で3Dテレビにふさわしい新機能といえるだろう。
クロストークが少なく、暗所コントラストに強いプラズマ「ダイナミック・ブラックパネルEX」も3D感を向上させていて、黒の締まった奥行き感のある3D映像を楽しめた。開発陣の意気込みが感じられる3D映像だ。
さらにピクセルマネージャーEXは、左右の3D映像の色相の違いも補正する。
3D映像の左と右の映像は、2台のカメラを使って同時に撮影されることがあり、この際に2台のカメラのコンディションを全く同じに保つことは難しく、特に野外ロケなどでは、ホワイトバランスのズレで左右の色相が微妙に異なってしまう場合がある。
また3D BD-ROMのフレームパッキング記録では、データ量を削減するため、左目用のデータをフル記録し、右目はそれに対する差分データを記録している。差分記録する際にすべての情報を記録しているとは限らない。このため左右の映像が全く同じ画質ではない場合もあるだろう。
こうした映像を3Dで見ると、どう感じられるのだろうか? 左右の映像は交互に高速表示されるため、一見すると色の差は判別できないかもしれない。しかし立体を見る人の視覚は敏感である。長時間視聴した場合、微妙な色の変動が違和感やストレスを生む場合もあると考えられる。
こうした課題を解決するため、ピクセルマネージャーEXは、左右の映像のうち左の映像の色相を基準にして、右の映像の色相を補正する機能も装備している。こうすることで左右の映像の色味をほぼ同じにできる。これぞ3Dならではの機能と言えるだろう。
3Dのデモ映像は短時間の視聴だったものの、夕焼けやウォールペイントなど、大面積の色が映るシーンでも色表現に安定感があり、長時間見ても疲れにくい3D映像であることは理解できた。
また、各種の3Dフォーマットへの対応にもこだわっている。
「3D映像といっても、フレームパッキングやサイド・バイ・サイドなどのフォーマットがあり、解像度やフレームレートにもいくつかの種類があります。こうした3Dのタイプごとに適切な超解像処理を行っています。例えば、BD-ROMのフレームパッキング3D映像はソース自体が高解像度なので、超解像処理は抑えています。サイド・バイ・サイドの3D映像は、原理的に横の解像度が半分になりますので、超解像処理を比較的強くしています。このようにしてどのタイプの3D映像でも、目に見える立体感を同じレベルに調整しています。3D映像処理LSIのハードウエア設計では、3D映像のタイプ別に柔軟な処理ができるように、ソフトウエアで制御できる部分を多くして自由度を確保しました」
というように、3D映像の種類を気にすることなく、高画質で楽しむことができるのも本機の特徴と言えるだろう。
時代の要請である省エネにも新しい工夫が凝らされている。本機は視聴環境に合わせて映像を自動調整する「インテリジェント・オート高画質3」を継承するほか、「人感節電センサー」機能を新たに搭載している。
人感節電センサーは人の動きを感知してテレビ画面を自動的に消画・点灯する機能である。テレビ前面下に付いているセンサーによって人の動きを感知。動きがなくなったら視聴者が不在と判断し、その時点から一定時間(5分・10分・20分・30分・40分・50分・60分で設定可能、デフォルトで5分)人の動きがなかったらテレビ画面を消画する。消画になるのは画面だけで、音声はオンで電源も生きている。視聴者が戻れば自動で画面点灯するしくみだ。
ちょっと席を立ったつもりが、話し込んでしまった、というような時に便利だろう。また、人の有無ではなく、動きの有無だけを検知しているので、テレビを見ながらうたた寝をして、身体の動きがなくなると(筆者のように寝相が悪くて大きな寝返りを打たなければ)画面を消してくれる親切機能でもある。
画面を消画しても音声は流れているのがポイントで、電源オフと間違える心配はない。キッチンで消画した居間のテレビの音だけを聞いていて、面白そうな話題になったらテレビの前に立つと画面が点灯して見られる。という使いこなしも便利そうだ。なお「音声を流し続けても消費電力は少ないので、充分省エネ効果が得られます」とのことだ。
ここまでは従来の人感センサーと似た機能だが、
「人感節電センサーについても、搭載するなら録画に強いWoooならではの機能を盛り込みたかった」
ということで採用されたのが「再生連携機能」だ。
これは録画した番組の再生中に、人の動きを感知して働く機能である。HDDに録画した番組を再生中に席を立つとセンサーが検知、ここで再生タイトルに仮のチャプターが自動的に打たれる。離席した時点から一定時間(5分〜60分で設定)動きがなかったらテレビ画面を消画する。ここまでは上記と同じだが、再生の制御までしてくれるところがスマートで賢い。人が帰ってきたら画面が点灯し、仮チャプターの部分から再生するか、仮チャプターの部分に戻らないで再生を続けるかが選択できるようになっている。なお、この時点で仮チャプターは消える。
人感節電センサーはPCのスリープ機能と似ていて、電源を気にせずに席を立てるので、意外に実用的な機能だ。もちろん電源オフにするのが省エネなのだが、長電話などでテレビを付けっぱなしにしてしまった、という経験をもつ人は多いのではないだろうか? 特にテレビをながら見する習慣のある人は重宝するだろう。
再生連携も実際に使ってみると、とても気の利いた機能に思えた。こうしたセンサーによる再生制御はテレビと分離しているレコーダーにはない発想で、ここまで親切にサポートしてくれるのは『スマート録画』コンセプトのWoooならではと言えるだろう。
Woooのお家芸である録画機能も非常に充実している。
500GBに増量された内蔵HDDに加え、昨今話題急上昇中のカセットHDD「iVDR-S(別売)」にも対応しており、地デジ3チューナー搭載のダブルで長時間8倍録画(*1)が可能。番組予約は見やすい電子番組表(EPG)で一発予約できるほか、録画履歴から好みの番組を教えてくれる「Woooおすすめ番組」や、キーワードを入れると自動で録画してくれる「キーワード自動録画」機能などの充実ぶりである。タイムシフト録画だけでなく、カセットHDDへのライブラリー保存や、対応BDレコーダーへのダビング保存もできる。
ネット機能もポータルサイトWooonetを起点に、録画対応の「アクトビラ」、「NHKオンデマンド」、仮想ビデオレンタルショップ「T's TV」などにジャンプできる。また、DLNAはサーバーとクライアント両対応で、柔軟にAVネットワークを作れる点が魅力だ。
高品質音声技術「CONEQ」を採用した、定位感のある素直で聞きやすいサウンドも評価しておきたい。
こうした多機能さに加えて新機能「スマフォ&タブレット連携(*3)」が、手元での操作をフレンドリーにサポートする。iPhone®、iPod touch®、iPad™用の専用アプリ「Wooo Remote LITE for iPhone / for iPad(無料)」でスマートフォンやタブレットからテレビを操作できるほか、録画一覧を表示して、サクサク選択することも可能だ。また、年内にはEPG予約にも対応したiPad用アプリ「Wooo Remote for iPad(有料)(*4)」もリリース予定となっている。
テレビにGUIを出さずに手元で操作できるのが新しい。暗い部屋でも手元のGUIでリモコン操作できる点も便利だ。ホームシアター派のユーザーには、海外製の高級学習リモコンのような使いやすさ、といえばお分かりいただけると思う。
*1 BSデジタルハイビジョン放送(24Mbps)録画時。TSモードとTSX8モードの比較。長時間録画モードにするほど画質は劣化します。
*2 条件により録画が実行されない場合があります。残りのHDD容量によって、自動録画で録画された番組が優先的に自動で消去されることがあります。
*3 アプリケーションをダウンロードしたiPhone®、iPod touch®、iPad™を家庭内ネットワークでつなぐことでお使いいただけます。
*4 Wooo Remote(有料)は、2011年内サービス開始予定。
「GP08シリーズ」で印象的だったのは、まず映像の美しさである。完成度の高い高画質回路と、超解像技術やプラズマの性能の高さが相まって、緻密で階調感のある2D映像を堪能できた。Woooシリーズが培ってきた映像ノウハウをさらにブラッシュアップしてきたといえるだろう。この点で「従来のDVDやBDをさらに高画質で楽しみたい」人にも勧められる。こうした映像技術の高さをベースに、高画質で自然な3D映像を実現している点が本機のもう一つの魅力である。
録画をはじめとしたテレビ機能の完成度も高く、かなり贅沢で満足度の高いテレビに仕上がっている。
本機は「リビングで録画のほか3Dやネット配信など、多くのコンテンツを高画質に楽しみたい」人に勧められるオールラウンドな高画質モデルといえるだろう。また、スマートフォンなどと連携して使いこなせる点で「最新の操作性を備えた高画質テレビがほしい」人にも勧められるモデルである。
『スマート録画』のコンセプトは最新のLED液晶テレビにも活かされている。ということで、次回は「Wooo XP08シリーズ」の機能をチェックしてみたい。
* 写真・イラストはイメージです。
* 画面ははめこみ合成です。
* iPhone、iPod touch、iPadはApple Inc.の商標です。
(増田 和夫)