LEDは低消費電力で省エネ、環境に配慮したデバイスである。このため、液晶パネルのバックライトを従来のCCFL(蛍光管)からLEDに変えたテレビが主流になっている。LEDの採用は時代の要請といえるが、ひとくちにLEDバックライトといっても、エッジ型や直下型などいくつかの種類があることを覚えておこう。その中でも最新かつオンリーワンの方式がZP05シリーズの「S-LED」である。
「S-LED」の高画質を理解するために、まず、従来のエッジ型LEDバックライトのしくみを見てみよう。エッジ型は、画面の端(エッジ)に置いたLEDからの光を画面全体に広げる方式である。A図のようにテレビパネルの端に白色LEDを配置し、横方向の光をアクリルなどでできた導光板で前面に反射、拡散させるしくみだ。従来のCCFLをLEDに替えた方式といえる。
エッジ型のメリットは、シンプルな構造でLED対応を実現できる点などである。ただし、導光板は上下のエリアに分割されている場合もあるが、分割数は10前後と比較的少なく「エリアコントロール」(部分的にLEDをオンオフさせる技術)による高画質化・黒の階調表現には制限がある。
次に従来の直下型LEDバックライトのしくみを見てみよう。この直下型は、B図のように画面の下にLEDを縦横に敷き詰める方式で、RGB LEDを使う方式と白色LEDを使う方式がある。
直下型のメリットは光が前面に出るので比較的明るく、縦横に並べられるので原理的には高度なエリアコントロールを行うことも可能になる点である。
というように、従来の各方式には特性があるが、「S-LED」を一言で表すと第三の高画質な新方式といえるだろう。
「S-LED」にもエッジ型のような白色LEDと導光板が用いられているが、ブロック数が多いのが特徴で、右の図のように、エッジ型の導光板を小型にしてブロック状に敷き詰めた方式といえるだろう。ちなみにブロック数は非公開だが、42V型のL42-ZP05で128ブロックと推測される。こうすることで細かい「エリアコントロール」を実現している。
この細かいエリアコントロールが高画質化の鍵になる。画面の輝度を小さなブロック単位で制御することで、映像の黒み(輝度ゼロ)の部分はLEDの輝度をゼロにして漆黒に、ハイライトの部分はLEDを最大限に光らせて輝く白を表現でき、高コントラストな映像が実現できるしくみだ。
そのうえ「S-LED」のエリアコントロールは、光の広がりをブロックの中だけに制御できるので、狙ったエリアの陰影だけをコントロールできる。このため、明快でキレの良いコントラスト制御が可能になるのである。また、小型の導光板を敷き詰めて大型パネルを作れるため、大画面化もしやすい。こうした点で「S-LED」は“より進化した直下型バックライト”とも言えるだろう。
それでは「S-LED」の映像を実際に視聴してみよう。映像に触れてまず感じるのは、その圧倒的なコントラスト感である。CCFLバックライト液晶の課題のひとつに黒浮き(バックライトの光漏れ)が挙げられる。CCFLの光を液晶シャッターで遮ることで明暗を表現しているため、特に暗い室内では黒浮きが目立ち、黒浮きを抑えるために輝度を落とすと、ハイライトに力がなくなってしまう、というジレンマがあった。これに対して「S-LED」は、LEDの発光を細かくエリアコントロールすることで、漆黒の闇と、細やかにきらめく光を表現できる点が優れている。
都会の夜景のデモ映像では、背景の夜の闇はあくまでも漆黒に、街灯やビルの窓などの点光源はまばゆく描き、夜の気配や夜景の憂鬱さを存分に表現できている。コントラスト感の高さは、暗所に強い自発光パネルと比べても遜色のない印象で、筆者の経験からすると、漆黒とハイライトをここまで自然に表現できる液晶は「S-LED」が初という印象である。
映画を鑑賞してみよう。映画を見るモードとして「リビングシアター」と「シアタープロ」の2モードが用意され、これらのモードでは超解像はオフになり、ソースに忠実な映像になる。映画でも階調感の高さが大きく活かされている。ホラー映画「アンダーワールド」は黒が基調の作品で、バンパイアvs狼男の戦場となる夜の世界を奥深く描く。微妙な陰影を表現できないと“黒ばかりで見にくい映像”になってしまう恐れがあるが、「S-LED」で見ると、闇の中に潜んでいるディテールが感じられる。ヒロインのマトリックス風の黒レザーファッションのつややかさや、夜の教会や地下鉄の深い闇の質感が伝わってくる。と同時に、地下道の蛍光灯や電光サインなど光るアイテムのまばゆさもしっかり表現できている点も優れている。キレの良いコントラストによって今まで以上の奥行きが感じられ、アンダーワールドのダークな世界観を堪能できた。
画面の残像の少なさも印象的で、液晶テレビとしては業界初の動画解像度1080本を達成、つまり動きの激しいシーンでもハイビジョンの解像感を実現しているのである。
液晶テレビでは残像を低減するために「黒挿入」という技術が用いられている。映像のコマとコマの間に黒い画面を挿入することで、視覚をリセットし、残像感を低減するしくみだ。残像低減の効果は高いが、黒画面を挿入することで画面が暗くなってしまうのが課題だった。また従来のCCFLバックライトでは、CCFL点滅の反応の遅さから、完全な黒画面を作りにくい点も課題であった。
応答速度の速いLEDは黒い画面を確実に挿入できる。さらに「S-LED」では、倍速処理とともに、黒い帯を上から下にスクロール状に挿入する「バックライトスキャニング」を採用。画面の一部だけに黒挿入することで画面の輝度低下を防ぎ、かつ効果的な残像低減を実現するしくみだ。光をブロック単位で制御できる「S-LED」は明確な黒帯が作れて、黒挿入の効果が高い点がメリットといえる。
車が走る街角のデモ映像では、タクシーの模様や、車のナンバープレートが判読できる。カメラがフィックスから早いパン映像に変わっても解像感に落差が感じられない点も優れている。映画字幕やエンドロールも読みやすい。こうした点で動画解像度1080本が実感できた。液晶の長年の課題であった残像感をほぼ克服している、という印象で、この点でも大きなブレイクスルーが感じられた。この追従性の高さは、アクション映画やスポーツ番組などにとても有効だろう。
SFロボット映画「トランスフォーマー」を見てみたが、残像の少なさがよくわかる。本作品ではCG臭さをなくすために、手持ちカメラ風の映像処理が施されているシーンが多い。効果的な演出なのだが、手持ち撮影風に常に揺れている画面の中で派手なカーチェイスやロボットバトルが展開されるので、残像の少ないテレビで鑑賞したい作品である。「S-LED」の残像感は極めて少なく、激しい動きでもハイビジョンの解像感が保てる印象だ。複雑なロボットが唸りをあげ、衝突し、スパークして砕け散る。そのスピード感とガジェット感をキレの良い映像で表現できている。ブルーレイ版ならではのフォーカス感のあるバトルアクションを楽しめた。
ZP05シリーズは、視野角の広さと色再現の良さで定評のある日本製のIPSα液晶パネルを採用している。斜めや下から見ても色の変化が少なく、広いポジションで色鮮やかな映像を楽しめる。また、光沢処理パネルによって、色とコントラストに深みと艶やかさを加えている。こうした点でもリビング用のテレビとして最適といえるだろう。
本シリーズは、超解像技術「ピクセルマネージャー」とフルHDパネルも継承している。超解像機能と「S-LED」との相性は抜群で、「S-LED」が加わったことで立体感がさらに向上した印象だ。
クリスタルカットのグラスのデモ映像で超解像を有効にすると、画面全体のディテール感がアップする。ガラスのカット模様の斜め線のジャギー(段差)がとれて滑らかになる点もWoooの超解像機能のメリットである。さらに「S-LED」のコントラスト感の高さで、グラスの輝くハイライト部が立体感をさらに向上させているのがわかる。超解像はDVDのフルHD化にも有効であるが、地デジ(解像度1440×1080ドット)を、BSデジタル(解像度1920×1080ドット)並みに解像度アップする際にも効果的に働く。
本機は自動画質調整機能「インテリジェント・オート高画質2」を継承している。これは、輝度&色温度センサーの情報に、視聴しているコンテンツのジャンルや映像のヒストグラム解析などを加味して、視聴環境に最適な画質に自動調整してくれる機能である。「センサーオート」モードにするとこの機能がオンになり、映像を視聴環境に最適化することで、高画質化だけでなく、省エネも実現できるしくみだ。今回は「S-LED」の高いキャパシティが加わったことで自動調整のレンジがさらに広くなった。
昼間のリビングなど明るい部屋は液晶テレビが得意なシーンで、本機も「センサーオート」にすると外光の明るさに負けないメリハリ感のある映像を見せてくれる。「S-LED」の威力が感じられるのは夜である。照明を落とした夜のリビングなど、従来のCCFL液晶が苦手だった暗い視聴環境でも、黒浮きが感じられない点が素晴らしい。「センサーオート」で暗い部屋に最適な輝度と色温度に調整されるが、それでもコントラスト感は充分にあり、漆黒とハイライトをしっかり描写できている。というように、明暗どちらの視聴環境でもバランスの良い映像が楽しめる点が本機ならではの特徴といえるだろう。
従来のCCFLバックライト液晶では、常時点灯しているCCFLからの光を液晶シャッターで遮ることで明暗を表現していた。シーンの明暗にかかわりなくバックライトは光り続けている。
対して細かいエリアコントロールができる「S-LED」では、暗いエリアのLEDの光量を絞れ、漆黒のエリアではLEDを完全に消灯できる。つまり無駄な発光を抑えて消費電力を節約できる液晶テレビなのである。視聴環境やコンテンツに最適に調整することで消費電力を下げられる、という点で前記した「インテリジェント・オート高画質2」がさらに活かされている。
実際に、42V型のL42-ZP05で、年間消費電力量107kWh/年、達成率(※)177%、CCFLモデルであるL42-XP03比で約27%削減を実現。37V型のL37-ZP05は、年間消費電力量99kWh/年、達成率158%、CCFLモデルL37-XP03比で約21%の電力削減を達成している。
※達成率:省エネ法によって家電などに定められている電力基準値をどれだけ達成できているかを示した数字。高いほど省エネを実現している。
オーディオにもこだわりが感じられる。内蔵スピーカーはフルレンジ×2を用いたシンプルな構成であるが、スピーカーの開口率を上げることでヌケの良い音響を実現している。さらに、リアルサウンドラボ社の音場補正技術「CONEQ(コネック)」を採用。従来は1点を基準に音場補正を行っていたが、CONEQでは球面上の400点の測定を元に音響イコライジングを行う。このため複数の家族がリビングの異なった位置から聞いても定位感のあるサウンドが楽しめるしくみだ。
実際に、ジャズトランペット奏者「クリス・ボッティ」のコンサート「Chris Botti in Boston」ブルーレイ版の音を聞いてみると、内蔵スピーカーとしてはギミックさがなく、定位感があって素直で聞きやすいサウンドを楽しめた。シンプルだが従来のテレビにありがちな、こもった印象がない点が優れていて、クリス・ボッティならではの表情豊かで伸びやかなトランペットが再現できている。ゲストの女性ボーカルの力強さにも奥行きと定位感が感じられ、ボストンシンフォニーホール収録らしい上品で素直なサウンドを楽しめた。
Woooは録画テレビの老舗といえ、早くから録画テレビの可能性を追求してきたシリーズである。このため録画機能(※1)の完成度が高い。ZP05シリーズは、3基の地デジチューナーと、2基のBS/CSデジタルチューナーを搭載し、2番組をHDDに同時に録れる「ダブル録画(※2)」を継承している。地デジのダブル録画中に他のデジタル放送チャンネルを視聴することも可能だ(※3)。
録画メディアは、内蔵HDDのほか別売のカセットHDD(iVDR-S デジタル放送録画対応のリムーバブルHDD)に録画できる。内蔵HDDは従来モデルXP05シリーズ(320GB)より大容量の500GBを搭載し、8倍モード(※4)で最大約400時間のHDD録画が可能だ(ダブル録画時を除く、TSX8モードの場合)(※5)。タイムシフト録画だけでなく、汎用性のあるカセットHDDへの録画でライブラリにも使える。
ネット機能もトップレベルである。Wooo専用のポータルサイト「Wooonet」は新たに情報表示エリアが追加され、使いやすくなった。ここから「アクトビラ」や「NHKオンデマンド」「Yahoo! JAPAN」などの気になったコンテンツに直接にジャンプできるしくみだ。「アクトビラ」ではストリーミング視聴だけでなく「アクトビラ・ダウンロード」にも対応し、HDDにダウンロードが可能。セルコンテンツはカセットHDDへダビング・ムーブもできる。
DLNAによる家庭内AVネット機能も能力が高い。受け側のクライアントだけでなく、配信側のサーバーにもなれるので、リビングのWoooで録画した番組を、寝室のWoooやPCなどに配信して視聴することも可能だ(※6・※7)。
ダブル録画をしながら他の地デジチャンネルを視聴し、同時にDLNA機能が使えるなど、マルチタスク性能も高度で、使える録画&ネット機能といえるだろう。
「S-LED」は独自の最新技術であるだけに興味は尽きない。次回はインタビュー編として、日立の開発陣に「S-LED」テクノロジーの詳細を聞いてみたい。
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