エプソン製品の中でも、プロの要求に応え続けてきた高品質な製品群「Epson Proselection」を紹介してきたが、今回がいよいよ最後回。最後を締めくくるのはフォトストレージビューアー「P-7000」だ。前回までに紹介したプリンターやスキャナーは、「撮影後」に活躍する機器だ。それに対し「P-7000」は、撮影からフィニッシュ(画像レタッチやプリント)までサポートしてくれる頼もしい奴だ。そして今回この「P-7000」を紹介するのは、単なる写真のバックアップ用フォトストレージでなく、カメラをコントロールできるまでに進化しているからだ。

 エプソンがこの世に「P-1000」を登場させたのが2003 年のこと。その翌年2004 年の10月には「P-2000」を発売し、私も長く愛用してきた。それから2 年後には完成形に近い「P-5000」が登場。私もP-2000 から乗り換えて購入した。そして2008 年9 月に、「P-7000」が登場し喉から手が出かけたがちょっと我慢。そうしたら昨年7 月に、ファームウェアをアップデートすることで、なんと私のNikon D3 とUSB 接続でライブビュー撮影ができるようになり、カメラ本体に入っているCF カードと「P-7000」のHDD に同時記録できるようになったという! これはもう我慢できないと、早速使い始めたのである。

 そして今回の沖縄八重山諸島ロケを経て、より撮影に不可欠な相棒となった今、今回の企画を締めくくるべく「P-7000」の使い勝手から、画質や性能の再確認をしてみることにする。

 本体サイズは150.0mm(幅)×88.7mm(高さ)×33.1〜37.6mm(厚み)、重量433g(バッテリー含む)。そして4.0 型液晶は透過型低温ポリシリコンTFT 液晶で、640×480 ドット(R-YG-B-EG)だ。形はP-5000 とさほど変わらずグリップ感が良く、本体右側に配置された「ホイールキー」で画像選択などが素早くできるようになっている。

正面
 
裏面
 
上面
下面
 
右側面
 
左側面
   
操作ボタン類
右側に見えるホイールキーで、項目や画像を素早く選べる
 
☆ボタンは画像にレーティン グすることができ、後から分類するときに便利だ
上面にはSDとCFのメモリーカード挿入口がある
 
本体左側面のゴムカバーを開けると、左からビデオ出力・USB コネクター(ホスト・デバイス)・Reset スイッチ・電源コネクターがある。メモリーカードはもちろん、USB デバイスやパソコンから画像や音楽データを取り込んだり取り出したりすることができる
 
下面バッテリーカバー内にリチウムイオンバッテリーがセットされる。このバッテリーは定格3.7V2600mmAh と容量は見た目よりあり、ロケ先でデータバックアップだけならば数日充電しなくても大丈夫だった

付属品を見る

カメラマンのあらゆるシーンを想定されており、付属品も充実している。ソフトウェア (EPSON Link2)はCD ではなく、本体のHDD に入っている。

 
付属品全体集合写真
 
「操作ガイド」と、写真のレ タッチやトリミングなどから 印刷まで、わかりやすく解説 してある「印刷ナビゲーショ ンガイド」が同梱される
 
本充電器本体には、AC アダプターもしくはカーアダプターから直接充電できるほか、車載充電器を使って充電することもできる。車載充電器はオプションの予備バッテリーと合わせて、2 本同時に充電することができる
 
キャリングケースは肩紐によるショルダースタイルか、ベルトに装着できるシステムも用意されている。

「P-7000」最大の特徴と言えば「4.0 型液晶」だろう。「透過型低温ポリシリコンTFT 液晶で640×480 ドット(R-YG-B-EG)」の液晶は広視野角を持ち、AdobeRGB カバー率94%と広色域で、プロの使用に耐えうる色域を持っている。その秘密は他に類を見ない液晶にある。その性能をさっそく検証してみよう。

▲160°の広視野角液晶

   

 使用するときは正面から見るものだが、撮影中だと設置場所によって、やや斜めからみたり条件は悪くなりがちだ。そこでやや上方から角度を付けて確認してみたが、色が極端に崩れることはない。視野角160°の液晶は、普段使用するような見方なら何も問題はないだろう。

▲広い色域と色精度

AdobeRGB カバー率94%

 我々プロの仕事では、印刷物を扱うことも多く、データをプリントすることが多い。これらの色域は液晶モニター標準のsRGB よりも広い。そのためデジタル一眼レフの色域設定もsRGB よりも色域が広い「AdobeRGB」で撮影する必要がある。このAdobeRGB はsRGB よりも緑色方向に色域が広くなり、当然ながら色域が広い分見え方も違い、色再現性が高まる。要するに写真がよりリアルに見えるのだ。そこで 疑問なのはsRGB で撮影した写真はどうなのだろうかということだ。AdobeRGB 表示のできる液晶モニターは、手動でAdobeRGB とsRGB を切り替えてやらないといけない。 でないとAdobeRGB 設定でsRGB の写真を表示すると色域が広い部分まで無意味に広げて表示してしまい、色再現性が損なわれてしまう。しかしこのP-7000 は、画像データが持つExif やICC プロファイルに埋め込まれた、sRGB とAdobeRGB の情報を読み取って、正しい色空間に変換表示する機能を持っている。間違った情報を見せないように、ユーザーが気づかないところで頑張ってくれているようだ。

 一般的な液晶は1 画素を「R-G-B」の3 色で構成され、各色の明るさバランスで色を作り表示している。しかし、P-7000 の液晶は1 画素になんと「R-YG-B-EG」の4 色が用意されている。G(緑)を2つに分け「イエローグリーン(YG)」と「エメラルドグリーン(EG)」で色域を広げている。その実力をチェックしてみよう。

液晶の1画素を見てみる

 
P-7000
 
コンシューマ向けsRGB表示液晶モニター
 
P-7000 の画素アップ
 
コンシューマ向けsRGB表示液晶モニターの画素アップ

 同じ距離から液晶をマクロ撮影した写真だ。見ての通り1 画素の大きさが違うためにP-7000 はより高精細な表示が可能になっている。 マクロ撮影で液晶面を観察してみると、普通の液晶モニターは3 色(RGB)でP-7000 は4色(R-YG-B-EG)なのがわかる。

 次に、グラデーション、カラーチャート、トロピカルブルーな海の写真で見比べてみる。今回はP-7000 の液晶と、AdobeRGB 表示できる液晶モニター、sRGB 液晶モニター、ノートパソコンの液晶と比較してみた。テスト方法は、液晶に表示した画像をNikon D3(RAW)で撮影し、各モニターの色温度が違うためRAW 現像時に各液晶ごとに色温度を整えて現像している。カメラによって実際の見た目よりコントラストが強く表示されているが比較用の参考として見てもらいたい。

液晶評価用画像でチェック

元画像

 P-7000 とAdobeRGB 液晶モニターはsRGB 液晶モニターより緑の深みが断然多い。ノートパソコンは彩度が高くなりすぎており、不自然な感じがする。また、画面ではわかりづらいと思うが、P-7000 は液晶上で100%の拡大表示してみたところ、黒と白のスケールは黒側も白側もつぶれることなく全域見ることができ、非常に階調性豊かだった。

P-7000
AdobeRGB 液晶 モニター
sRGB 液晶モニタ ー
ノートパソコン の液晶

カラーチェッカーでチェック

元画像

 P-7000 とAdobeRGB 液晶はほぼ同じ傾向で、元画像と比べてもしっかりと色が再現さ れている。しいていえばどちらも青の彩度が高く表示される傾向にあった。sRGB 液晶は色 があっさりとした感じになり、ノートパソコンは原色の彩度が上がりすぎ、コントラスト が強くなってしまった。

P-7000
AdobeRGB 液晶 モニター
sRGB 液晶モニタ ー
ノートパソコン の液晶

トロピカルブルーな海でチェック

元画像

 P-7000 は、AdobeRGB 液晶とほぼ同じように見えるが、P-7000 の方が海の青緑の部分はエメラルドに近く、手前の草の緑色がやや強く、私のイメージに近い色が出た。sRGB 液晶は緑がくすんでしまい、海の青緑も薄くなっている。ノートになると海は真っ青になってしまっている。

P-7000
AdobeRGB 液晶 モニター
sRGB 液晶モニタ ー
ノートパソコン の液晶

 さて、P-7000 は撮影したデータのバックアップがメインではあるけれど、それだけではない活躍の場がある。その1 つに、カメラとP-7000 を接続することにより、ライブビューでカメラを遠隔操作できる機能がある。以前はCCDカメラをファインダーに仕込んでみたが、カメラ設定までは変えられずノートパソコンを使うしかなかった。それも、スタジオならまだしも撮影現場の状況次第では難しいことも多かった。

 そこで、P-7000 のライブビュー機能を中心に、今回行ってきた沖縄八重山諸島ロケと普段のスタジオ撮影時の利用シーンを通して、P-7000 の便利な使い方を紹介しよう。一度使ったら手放せない、その理由がわかるだろう。

ロケ撮影での活用シーン

   
私の机の上にいつも鎮座して充電中! 時には旅先で撮ったお気に入りの写真をスライドショーを見て、次のロケへのテンションを高めている
 
写真は最小構成のロケセット
今回の八重山ロケは、大型、中型カメラ、そして35mmのフィルムカメラなどと最低限の衣類合わせて40kgの機材だった。またロケ先に大型ストロボを持ち込むときは、一人では持ちきれないので台車なども使う
日本でも海外でも車での移動が多い。そんな時は車での充電が便利
 
P-7000 はカメラバックに入れていることが多いが、歩き回るときはキャリングケースを腰に付け、予備のCFもこのキャリングケース内に入れてあるのですぐに取り出せる。このケースはズボンのベルトを外さなくても、うしろ から巻き込むように装着できる便利な代物だ
 
撮影したらバックアップ!そして即確認!
 
AdobeRGB 色域のリアルな色を確認しつつヒストグラムもチェックして露出を確認
 
100%に拡大表示してピントもチェック。デジタルだからといって後処理に頼っては良い作品は作れない。いかに現場で最高の写真を撮るかが大事。そのためにP-7000 は大いに役に立つ
   
P-7000 をファームウェアアップデートすることで、ライブビュー遠隔操作撮影ができるようになる。 メニューから「カメラと接続する」を選べば、そのままレリーズができ、カメラ設定やレリーズモードにするメニューが表示される
 
P-7000 を使ってNikon D3の遠隔操作を西表島で試してみた。 ここ西表島では、干潮時にトビハゼや蟹などが現れる。近づくとすぐに水や穴の中に隠れてしまう。いつも石のよ うにじっとして撮影したものだが、遠隔操作で撮影できるとめちゃくちゃ可能性が広がる
オートフォーカスでのピント位置を十字キーで決め☆ボタンを押せばオートフォーカスが作動する。また+キーで拡大表示して、ホイールキーでピントを微調整することもできる
 
ライブビュー中でも、カメラ設定最低限の「絞り・シャッター速度・ホワイトバランス」またレリーズモードで連射3 回〜9 回とブラケット撮影なども選べるすぐれものだ。これらはカメラを設置して遠隔操作を始めてから変わる条件に対応できるので便利である。
 
格子状のグリットを表示させ、水平垂直を確認することもできる。

スタジオ撮影での活用シーン

   
スタジオなどインドアでの撮影では、ライブビューではなくレリーズとして使い、データ保存をP-7000 とカメラ内のCFカード両方に同時記録できるようにしている(ストレージモード)。絶対に撮影データを紛失できない仕事もあるので、同時バックアップは非常に助かる。
 
出先のスタジオだと、まともな画像処理パソコンがないことが多い。ノートパソコンとP-7000があれば、P-7000 の「USB ディスプレイモード」によって、 PhotoShop などで開いた画像を表示することができる。ノートパソコンではわからない正確な色味をチェックしながらレタッチ作業ができ、急ぎの時にはチョー便利である。
現場でデータを渡すにはUSBメモリーに必要なデータをコピーして渡すこともできる。
 
ロケから帰ってきたら、USB でパソコンにつなぎ「EPSON LINK2」を立ち上げる。ソフト上の「バックアップボタン」を押せば私のPC に保管され、仕事次第でレタッチして納品したりプリントしたりする。
※USB接続ストレージモード対応デジタルカメラ一覧(2010年03月26日現在)
メーカー名 対応機種
Canon EOS-1DsMarkIII、1DMarkIII、5DMarkII、7D、50D、40D、KissX3
Nikon D3X、D3S、D3、D700、D300S、D300、D200、D90、D80、D5000
※ストレージモード・ライブビューモード両対応デジタルカメラ一覧(2010年03月26日現在)
メーカー名 対応機種
Canon EOS-1DsMarkIII、5DMarkII、7D、50D、KissX3
Nikon D3X、D3S、D3、D700、D300S、D300、D90、D5000

 P-7000 の機能の中には、パソコンに繋ぐことなくP-7000 内でRAW 現像できる機能が ある。「人物」や「風景」などシーンに合わせた自動補正で現像できるほか、写真を見ながらマニュアルで設定項目を調節して現像することもできる。

   
PhotoShop で手を加えずにRAW 現像した写真
 
P-7000 でのRAW現像結果 肌の色が健康的で、全体的に彩度が上がり綺麗になった。
P-7000 の設定は「人物」でRAW現像した
 
マニュアル設定ならば自分で調整し、設定項目ごとに調整前と調整後を確認しながら作業することができる。
   
RAW 現像「風景」
 
マニュアルで露出を -2、彩度+2 で現像
RAW 現像「忠実」

 RAW 現像のできるP-7000 は、当然印刷用のレタッチ機能から、トリミングや印刷レイアウトの調整までできるから凄い。パソコンが無くてもOK だし、エプソンのプリンターを使えばカラーマッチングも心配せずにできるので便利である。

   
写真から直接プリントを選ぶと設定項目は少ないが、HOME にある「印刷ナビゲーション」から始めるとあらゆる設定ができる。
 
トリミング機能
用紙上での配置を決めることができる
   
用紙サイズはA3ノビまで対応している。
 
A3 ノビをピクトブリッジで直 接プリントできる。
旅の良き相棒として常に一緒に居る「P-7000」

 今回はフォトストレージビューアー「P-7000」を、写真を扱うことを前提にレビューしたが、他にも「音楽再生」と「動画再生」ができる。最近はデジタル一眼レフにも動画撮影機能があり、撮影した動画もP-7000の液晶を活かして高画質で見ることができる。また、海外などの長期ロケ時には音楽再生機能はとても便利。私は好きな音楽データを持って行き、現地の音楽に疲れたときはお気に入りのジャズで癒されるのが最高だ。

 さて、4 回にわたって「Epson Proselection」の実力を紹介してきたが、いかがだっただろうか?第1回のプリンター「PX-5002」&「PX-5600」ではアート紙2種とクリスピアを使いカラープリントやモノクロプリントを色々試した。ここまで徹底的に試す機会は私もこれまでになかなかなかったので、大いに参考になったし、モノクロプリントの作品づくりを再開したくなった。第2回で紹介した「PX-G5300」のオレンジインクの仕上がりも、人肌表現に特化したプリント結果が興味深く、さすが「Epson Proselection」という実力だった。作品づくりにどのプリンターを買うか悩みどころだが、私ならA2ノビまでプリントできる「PX-5002」が第一候補だ。第3回のスキャナー「GT-X970」の興味は持ってもらえただろうか?私的には4×5 サイズもフィルムスキャンできることに大きな魅力を感じたので、もっと活用してみよう思っている。今回の企画で、作品づくりのおもしろさと「Epson Proselection」の良さが伝わってくれれば幸いだ。特に、A3 やA2 サイズなど大判に挑戦して作品づくりをしてもらいたい。そこには新しい「写真の世界」が待っているに違いない。

Photographer 若林 直樹
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。 撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。 自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/