エプソンはプリンターやスキャナーなどの各カテゴリーの製品ラインアップから、我々プロが使うべく高品質な機器を「Epson Proselection」シリーズとしている。これまでの第1 回、第2 回では「EpsonProselection」のプリンター3 機種を紹介したが、今回は高画質スキャナーのフラッグシップモデルとなる「GT-X970」を検証してみることにする。

 スキャナーはプリンターに比べると非常に影が薄い。しかし普段は事務方に徹し「コピー」のスキャン部分を担当したり、書類をPDF化したりと大忙しだ。そしてプロ仕様の「GT-X970」となると作品づくりや作品の記録として重要な役割を持っている。

 私はスキャナーをどう使っているかというと、最近はすっかり記録用としてしか使っていない。私の携わった本や雑誌が大量にあり、すでに棚に入る余地がなく積み上げられている。そこで一部をスキャンして、デジタル化をして保存するようにした。また大量にあるフィルムをサムネイルデータとして保存し管理もしたい(でも暇がない)。それらは事務的なことで、不精者の私にはなかなか進まない。でも新しいことにチャレンジ好きな私は、作品づくりに使う構想は色々練っていたところなのだ。しかしながら我が家のフラットベッドスキャナーはフィルム用ではない。フィルム用は35mm 専用スキャナーがあり、ブローニーサイズ用は友人に借りていた。でも4×5 用や8×10 用はもちろん無いから専門店頼みだ。そしてずーっと気になっていたのが、4×5や8×10もスキャンできる「GT-X970」!解像度も高いし、プロ仕様のスキャン用ソフトもある。もう試してみたくてしょうがなかったのだ! 前回までと同様に、八重山諸島ロケでフィルム撮影もしてきた。それも使いながら、「GT-X970」の性能をチェックしてみよう。

 「GT-X970」の本体は、四角い形だが前面にヘアーラインのアルミを使用し、天板もシルバー塗装で洗練されたデザインになっている。外形寸法は (W)308 × (D)503 ×(H)152.5mm と、A4 スキャナーの中では大きめなサイズかもしれない。

   
   

 原稿カバーを開けたときのスペースが必要なのと、本体背面のケーブル分のスペースなどで、後方には約22cm の空間が必要。また上方にも約44cm の空間が必要だ。スキャナーはホコリが敵である。置く場所はホコリがかかりにくく、本体及び周辺の掃除がしやすい場所がいいだろう。

   
電源及び接続コネクター類
左からIEEE1394、フィルムスキャンユニット用、USB2.0、電源コネクタ
 
電源アダプター
この定格出力電圧DC24Vの電源アダプターを使い、本体消費電圧は動作時に約32Wでスリープモード時には約4Wだ
電源スイッチ及び「スキャンナビ」ボタン
スリープ時でもスキャンナビボタンを押すと、スキャナードライバー「EPSON Scan」が起動するので便利である
 
原稿台
原稿はスキャンする面を下にして置く。また原稿サイズは、A4およびUS レターサイズ8.5×11.7インチ(約216×約297mm)。スキャンできる範囲を実測してみると 216mm×296mm だが、端は精度が落ちるといけないので-2mm ほど内側に置くのがベストだろう。
 
脱着できる原稿カバー
厚手の物をスキャンするときには、原稿カバーを水平に持ち上げ原稿を挟むことができる。そのまま持ち上げれば外すこともできる。
 
(左)キャリッジの輸送用ロック、(右)フィルムスキャンユニットの輸送用ロック
輸送時に本体にあるセンサーキャリッジと、原稿カバー内にあるフィル ムスキャンユニットのキャリッジが動かないようにするロックがある。 精密でデリケートな機器だからこそ、室内の移動でもロックしたほうが 安心だ。
原稿マット
フィルムスキャン時には原稿マットを外す
 
フィルムスキャンユニット
フィルムスキャン時には、原稿カバー内にある移動式光源(フィルムスキャンユニット)から出る光を透過させスキャンする。このとき本体のスキャンユニットからは光が出ない仕組みだ。
 
フィルムホルダー
上左:4×5 インチフィルムホルダー、上中:ブローニーフィルムホルダー、上右:フィルムエリアガイド、下左:35mm マウントフィルムホルダー、下右35mm ストリップフィルムホルダー

 本体を見てきたが、問題は「性能」である。いくら大きくても小さくても、性能が悪くてはプロの現場で使うわけにはいかないのである。

 まず一番大事なセンサーだが、「α-Hyper CCD II」(オンチップマイクロレンズ付6 ラインカラーCCD)を使用している。従来型の「α-Hyper CCD」でもオンチップマイクロレンズを採用し、感度を大幅アップさせていたが、それから進化した「α-Hyper CCD II」になるとRGB 各色2 ラインのCCD を緻密に並べ直し、受光素子の感度を高め、ノイズを減らすなどして大幅に精度が向上しているようだ。

 
色分解を正確にする分光特性
 
α-Hyper CCD の構造イメージ

 そして、解像度は最大光学解像度6400dpi だ(副走査9600dpi 読み取り解像度50〜6400dpi(1dpi 刻み)、9600dpi、12800dpi)。デュアルレンズシステムでフィルムホルダー使用時(35mm、ブローニー、4×5)に最大光学解像度6400dpi でのスキャンが可能。反射原稿やフィルムエリアガイド使用時(8×10 フィルム)には最大解像度4800dpi でのスキャンが可能だ。二つの焦点距離の違うレンズにより、紙及びフィルムマウントに入ったフィルムと微妙に違う焦点距離に対応している。

 もうひとつ前機種から大幅に性能アップしたのが、CCD を覆うカバーガラスにAR コートが施されたことだ。これにより、大幅にゴーストの発生を抑え、クリアな画像が得られるようになった。

AR コートにより二時反射及びゴーストが減少して画質アップに成功した。
光の反射率を高めることで読み取り効率が上がり、読み取り速度が従来機から約10%高くなった(ポジフィルム読み取り時)。
GT-X970 に搭載されているデュアルレンズシステム。左のレンズ「STANDARD Resolution Lens4800」は反射原稿やフィルムエリアガイド使用時(8×10)に使うレンズだ。また右のレンズ「EX Resolution Lens6400」は、フィルムホルダー使用(35mm、ブローニー、4×5 フィルムの読み取り)時に最大光学解像度6400dpi でのスキャンができるものだ。

 フラットベッドスキャナーで紙などをスキャニングする方法は、センサー側からの蛍光ランプが被写体(反射原稿)を照らして読み取る仕組みだ。GT-X970 がどんなに優れていてもそれを使うソフトが駄目だと元も子もない。

 現在私がメインで使うパソコンはWindows 7 でPhotoShop CS4 を使って画像処理をしている。スキャニングはPhotoShop CS4 からWIA ドライバーを起動し直接読み取ることを良くやるが、最大解像度が1200dpi だったり、スキャニング画像の調性設定がほとんど無いので専用ソフトを使うに越したことはない。GT-X970 専用ソフト「EPSON Scan」との性能の差を見極めつつ、反射原稿によるスキャニング性能を検証してみることにする。

※GT-X970 付属のPhotoShop Elements がインストールされていれば、PhotoShop Elements のメニューから「EPSON Scan」を立ち上げることもできる。

 まず右の画像は、「Epson Scan」と、PhotoShop CS4 上でのスキャン画面だ。WIA で起動したスキャン設定項目は、画像の種類と明るさ、コントラスト、解像度ぐらい。

 それに対し「EPSON Scan」をプロフェッショナルモードにすると、ヒストグラムからトーン調性、明るさから色関係まで必要なイメージ調性項目が用意されている。まさにプロ用といえるつくりだ。他に「ホームモード」や「全自動モード」も選択できる。

 どちらもデフォルト設定のままのスキャンだ。その結果は見ての通りWIA ドライバーでのスキャンは暗く、「EPSON Scan」では明るく無難に仕上がっている。雑誌表紙のスキャン結果は明るさと色も違った。

 そこで次は、カラーチェッカーを使い色のチェックをしてみることにする。

 
「EPSON Scan」を起動し下層にある設定項目も表示させた状態
 
PhotoShop CS4 上でWIAドライバーから起動した画面
 
「EPSON Scan」でのスキャン結果
 
WIA ドライバー(PhotoShop CS4)でのスキャン結果
   
カラーチェッカー
こちらの写真は比較用にスキャンしたカラーチェッカーの各色を、PhotoShop でカラーチェッカー指定のRGB 値に着色したもの
 
「EPSON Scan」でカラーチェッカーをスキャン
WIA ドライバー(PhotoShop CS4)でカラーチェッカーをスキャン

 どちらもデフォルト設定で自動露出のスキャンだ。「EPSON Scan」でのスキャン結果はややコントラストが高くなってはいるが、非常に元の色に近いことが分かる。WIA ドライバーでのスキャン結果は暗くコントラストも弱く眠い感じがする。ただし後からのレタッチで、近い状態に持ち上げることはできるので心配はいらない。

高解像度でのテスト

 高解像度でのスキャンは時間がかかるが、時としてマクロの世界をも見せてくれるので面白い。今回は同じ雑誌の表紙の一部を12800dpi とほとんど無意味な解像度でスキャンしてみた。

   
EPSON Scan で雑誌の一部を指定し12800dpi に設定
 
スキャン結果(リサイズして小さくしてある)
スキャンした結果をPhotoshop でトリミングしてみた。100%で表示してみると、印刷の網点がすごく分かる。
 
PX-G5300 でプリントした写真
 
目の下付近の肌を100%表示してみる

 前回PX-G5300 でのプリントを高解像度でスキャンしてインクの状態を見てみた。先ほどの雑誌の表紙よりはインクのドットが分かりづらいが、PX-G5300 の特徴である「オレンジインク」らしいドットが分かる

立体物をスキャンしてみる

 GT-X970 のセンサー「α-Hyper CCD II」が高性能なことは先に述べたが、CCD センサーの特性としてピント域が広いため、原稿台に密着していない部分まで読み取れる。CISセンサーのスキャナーだと、厚手の本を開いてスキャンすると、真ん中の綴じてある部分が写らなくなってしまう。

 
本で試してみた
 
イチゴを置いてみた

 本を押し付けずに軽く置いてスキャンした。真ん中の部分にはピントがいっていないが問題ない。そこでピントが行く範囲を調べてみたら原稿台から1cm ぐらい上だった。イチゴぐらいの大きさなら撮影したようにスキャンできる。

 私を含め、多くの写真家が一番気になるのがフィルムスキャン性能だろう。「本体の検証」で紹介したように35mm フィルムから8×10 フィルムまでスキャニングできる。8×10 カメラは持っていないので、フィルムホルダーに入れられる35mm とブローニーサイズ(ここでは6×7)について、カラーのポジとネガ、モノクロのネガフィルムを試してみた。また、4×5 はポジフィルムで試してみる。これらはEX Resolution Lens6400 を通してのスキャンなので、8×10 などのためにあるフィルムエリアガイド範囲はSTANDARD Resolution Lens4800 でのスキャンとは違うシステムになる。そのためSTANDARD Resolution Lens4800 の評価をするために、4×5 にフィルムエリアガイドを使ってスキャンし、2 者のレンズ性能の差を試した。

グラデーションテスト

 
6×7 ポジフィルム
 
6×7 ネガフィルム
 
35mm ポジフィルム
 
35mm ネガフィルム

 PX-G5300 でプリントしたテストパターンをMAMIYA RB67 とNikon F4 で撮影した。予想外にネガフィルムの6×7 も35mm も自動露出で問題なくホワイトバランスもとれている。ポジフィルムはマゼンタにやや傾く方向にあったためカラーバランスで整えてみた。コントラストはネガの方が出ており、ポジフィルムは多少の調整をすればより良くなるだろう。

色をチェックしてみる

 
6×5 ポジフィルム
 
6×5 ネガフィルム
 
35mm ポジフィルム
 
35mm ネガフィルム

 6×7 と35mmともにネガフィルムは自動露出のまま。グラデーションテストと同様に、ポジフィルムはマゼンタにやや傾いているためカラーバランスで整えている。もう少しコントラストと彩度を上げてやれば良さそうだ。

モノクロフィルムをチェックする

 
35mm モノクロフィルム
 
6×7 モノクロフィルム

 35mm モノクロフィルムも6×7モノクロフィルムも階調性が豊かで問題なくスキャンできた。フィルムの粒状性のためか久々にデジタルでないモノクロ写真を見て懐かしい感じもする。

「STANDARD Resolution Lens4800」でのフィルムスキャン性能

 
4×5ホルダーを使いスキャン(EX Resolution Lens6400)
 
ヒストグラム
 
フィルムエリアガイドを使いスキャン(STANDARD Resolution Lens4800)
 
ヒストグラム

 左のスキャン結果は、4×5のポジフィルムを、4×5ホルダーを使ってスキャン(EX Resolution Lens6400)した結果と、フィルムエリアガイドを使ってスキャン(STANDARD Resolution Lens4800)した結果である。
 どちらのスキャン結果も同じ傾向で、色とコントラストはほぼ同じに見えるが、ヒストグラムを見ると中間調での色数が4×5ホルダーを使った方が断然多い。解像度は同じ1200dpiでのスキャンだが、レンズの大きさが違う分階調性に優れているのだろう。また、見ての通りフィルムエリアガイドでのスキャンでは、固定されないため平面性が保てなかったので、工夫が必要だ。

「EPSON Scan」でのフィルムスキャンを検証

 原稿が紙からフィルムになると透過原稿となり光の特性が変わってくる。しかし優秀な「α-Hyper CCD II」は抜けの良い結果になっている。それでは「EPSON Scan」の使い勝手はどうだろうか?反射原稿からフィルムに変更するとやや待たされる感はあるが、プレビューでサムネイルが作られスキャンするカットにチェックを入れればよい。また調整するならばそのカットを「一枚表示」すれば色味を見ながらの調性が容易だ。

 
サムネイルにスキャンするカットを指定 する
 
1 枚表示して調整してからスキャンすれ ば後からのレタッチをせずにすむ。

「EPSON Scan」の機能の中には「アンシャープマスク」「粒状低減」「退色復元」「逆光補正」「ホコリ除去」そして「DIGITAL ICE Technology」とあるがこの「DIGITAL ICE」はフィルムについたゴミやキズを自動検知したり、紙焼き写真のキズはもちろん折れ目裂け目を修復する機能だ。

DIGITAL ICE Technology オフ
 
DIGITAL ICE Technology オン 効果を「中」に設定
 
DIGITAL ICE Technology オン 効果を「強」に設定

 見ての通り「中」で折り目と裂け目はほぼ修復されている。下の線と右上の汚れはほとんど変わっていない。「強」では背景の一部も影響してしまった。「強」は写真の条件が合わないと失敗するかもしれない。しかし「強」も「中」も石垣などはそのまま残っているのだから不思議だ。さすがに時間が掛かるが、これは直して残したい写真には絶対に試してほしい。また退色復元や逆光補正など特化した補正(補修)も用意されている。

 作品づくりだとスキャニングも楽しい。驚いたのはカラーネガからのスキャン結果が予想より良かったからだ。一昔はネガのスキャンはあまり綺麗にできなかったのを覚えている。

 また10 年近く前は暗室でモノクロプリントを良くしていたが、これを機にフィルムから スキャンしてプリントでの作品づくりを始めたいと思う。EPSON Scan は紹介したように、多様なレタッチ機能や補修機能がある。フィルムも紙の原稿も、EPSON Scanで追い込めるところまで調整してからスキャンすれば、PhotoShopでレタッチはほとんどせずにすむ。それだけデータを壊さなくてすむのだからここで手間をかけ良い作品を作ってほしい。

 最後にフィルムに限らず立体物もスキャンしてみたので見てもらいたい。

35mm ネガフィルム 爬竜船

35mm ネガフィルム

35mm モノクロフィルム

6×7 ポジフィルム

DVD:光とともに動かしてみた

果物
花や果物など水気があるものは薄いガラスもしくは透明アクリルを敷かないと原稿台が汚れてしまう。

6×7 モノクロフィルム

4×5 ポジフィルム

35mm ポジフィルム

花束を広げて置いてみた

R-D1s を置いてみた。レンズに入る光が屈折して面白い

葉を透過原稿と反射原稿で両方試してみて、こちら(透過原稿)を採用した。

Photographer 若林 直樹
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。 撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。 自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/