手持ちの写真や書類をデジタル化したい――─。そんなときに欠かせない機器といえばスキャナーだ。近年はデジタルカメラの隆盛によって写真自体を最初からデジタルデータとして取り扱うケースが増えた。しかし紙焼き写真、業務上発生する文書など、これまでに蓄積された膨大な既存資産を簡単に、しかも美しくデジタル化するための手段は、まさにスキャナーの得意とするところといえる。

 エプソンの「GT-X820」は、スキャナーとしての基本性能を着実に高めた最新モデル。光学解像度6400dpi、写真・フィルム・書類などあらゆる素材の読み込みに対応するマルチさ、さらに2万円台後半という実売価格も実現。オフィスはもちろん、家庭でも導入しやすい製品となっている。

 そこで今回は、スキャナーを日常的に使用するデザインオフィスへGT-X820を持ち込み、その使い勝手を実際に検証してもらった。プロの目に、エプソン最新モデルはどのように映ったのだろうか?

エプソン「GT-X820」

 GT-X820は、エプソンが展開している「カラリオスキャナー」の最新モデルだ。

 カラリオスキャナーは現在、写真・フィルム用途やビジネス書類用途向けに光学解像度や読取可能フィルムなどのスペックが異なるモデルを5種類用意している。GT-X820はその中でも「スタンダードモデル」という位置づけ。高解像度を追究したフラッグシップモデル「GT-X970」と、バランス重視のハイパフォーマンスモデル「GT-F720」の中間的な製品だ。

 スキャナーは通常、写真および文書どちらの読込機能に注力するかによって製品特性を決めるケースが多い。しかしGT-X820は写真と文書の双方を重視した意欲的なモデルとなっている。このほかエプソンでは、用途に応じたモデルとしてスタイル重視の「GT-S620」、オートドキュメントフィーダ内蔵の「GT-D1000」なども展開中だ。

白色LED光源2本の採用により、スキャン速度の向上が図られた

 今回は、Webサイトや雑誌の表紙デザインなどを幅広く手がける株式会社テラエンジンにご協力いただき、GT-X820の使い勝手を実際に検証してもらった。お邪魔したオフィス内にはMac OS搭載機や資料がズラッと並ぶ。商業デザインの最前線で活躍していることが、その雰囲気からも伝わってくる。

 同社の得意分野の1つにコミック関係がある。出版社や作者から預かったイラスト原稿、イラスト自体を撮影したフィルムをもとに、広告宣伝用の大判ポスターなどを日常的にデザインしている。元データのデジタル化にスキャナーは欠かせない存在であり、社内デザイナーのみなさんはこれまでもエプソンの従来モデルを利用している。まさにスキャナーに対しての目が肥えた方ばかりだ。

 まずデザイナーのみなさんが気付かれたのが、スキャンスピードの向上だ。スキャナーの利用回数が多いだけに、読み込み速度の向上はスペックアップの中でも特に嬉しい要素だという。GT-X820は白色LED光源2本を原稿台部分に採用しており、これによって大幅な高速化を実現した。A4判のスキャン速度は従来モデルGT-X770の14秒からGT-X820では6秒に、L判写真も同様に10秒から5秒へと向上している。

原稿カバーは約90度の角度で自立する。原稿セット時でも手元がしっかり確認できる

 LED光源の導入はウォームアップレススキャン、つまり電源投入とほぼ同時にスキャンを実行できるメリットもある。業務用コピー機などで電源オンから実際に使えるようになるまで数分かかってしまった経験は多くの人がお持ちだろう。デザイナーのみなさんも「使いたいときに初めてスキャナーの電源を入れればいいので気軽」と声を揃える。このほか光源が2本になったことで、原稿のしわや折り目によって発生する影を低減させる効果もあるという。

 GT-X820では高解像度CCDセンサーによる、光学解像度6400dpiでのスキャンを実現しているが、これもまたデザイナーにとって重要な部分だという。「商業デザインの分野では素材を拡大して使うことはあり得ず、可能な限り高解像で取り込み、デザインの段階で縮小していく。その意味でもスキャナーがサポートする解像度は重要」と補足する。これだけのスペックながら、実売価格3万円を切るGT-X820。デザイナー陣も思わず「安い!」と舌を巻いていた。

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フィルムスキャン機能も、GT-X820のセールスポイントの1つだ

 GT-X820はA4およびUSレターサイズの原稿を読み込める卓上型スキャナーだが、標準同梱のホルダーを利用することでフィルムスキャン機能も利用できる。フィルム用ホルダーは2種類付属し、1つは35mmストリップフィルム(一般用コンパクトカメラでもおなじみの形式)6コマ、35mmマウント4コマがセットできるタイプ。もう1つのホルダーはブローニー1列(最大6×22cm)が読み込める。ちなみにブローニーの読み込みはGT-X770で最大6cm×12cmまでだったのに対し、大きく広がった。

 フィルムスキャンに際しては、まず原稿カバー裏面にある反射原稿用マットを外し、フィルムスキャンユニットを準備する。フィルムホルダーの使用も決して難しくはない。ホルダーそのものはやや厚めのプラスチック製下敷きといった外観で、空き枠部分にフィルムを差し込むだけで良い。原稿台へのセットもマーク部分を合わせるだけで適正位置にセットされるため、確実性も万全だ。

 またフィルムのコマが複数にわたる場合は、ドライバー側で自動判別して個別ファイルに分割保存してくれる。一度に大量のフィルムをスキャンする場合に便利で、デザイナーのみなさんも従来から愛用する機能だという。

2種類のフィルムホルダーが付属。ブローニーフィルムは6cm×22cmまで読込可能になった
 
フィルムを装着し、あとは原稿台にセットするだけで読込OKだ

 またフィルム読込時に問題となるのが、フィルム自体に付属したゴミやキズの映り込みをどう除去するかという問題だ。通常であれば読込後にフォトレタッチソフトを使って手作業で修正しなければならないが、GT-X820ではこれらを自動補正する「DIGITAL ICE」機能が利用できる。

DIGITAL-ICEによる補正例。左側の画像にあった白い裂け目が、右側の写真では修正されている

 こういった自動補正機能は元データの状況にあくまでも依存するため、有効に働かない可能性もある。だがGT-X820は読込時のドライバー側設定でDIGITAL ICEを適用させるかどうか随時切り替えられるほか、適用強度を「標準」もしくは「強」の2種類から選択できる。テラエンジンのデザイナーも実際の取込データを確認しながらこまめに設定を変更し、活用しているという。

 DIGITAL ICEの反射原稿への対応はX970のみだったが、GT-X820では一般的な反射原稿(紙焼き写真やA4文書など)に適用させることが可能になった。テラエンジンでもこの機能改良には注目しており「コミックのポスターを制作する場合、素材イラストの手配が間に合わず、単行本の表紙を直接スキャナーで読み込むケースもある。こういった時にDIGITAL ICEが使えると、修正の手間を軽減できそう」と話してくれた。

露出補正機能も一部改良。「低(自然)」設定時の色味がよりレタッチ向きになったという

 このほか、画像スキャン時の自動露出機能も一部改良された。ドライバー設定を「デフォルト」および「高」にしたときの処理は基本的に従来通りだが、「低(自然)」ではより柔らかなコントラストを重視する傾向になった。エプソンでは「レタッチ向けの設定」としており、画像加工にもより幅が出そうだ。

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文書読み込みにも実力を発揮するGT-X820

 GT-X820の得意分野は写真やフィルムだけではない。ドキュメント(文書)読込機能もまた着実な進化を遂げている。

 日本で「ペーパーレス」という言葉が注目されるようになって10年以上の時が経過しているが、紙使用量削減のための現実的な解として行われているのが、紙文書のPDF化ではないだろうか。会議などで配布された資料をスキャナーでデジタル化し、必要な際はPC上で再閲覧する。スペースを占有する紙自体は廃棄し、最悪の場合は再印刷すればよい。そんな考えを持つ人が少なからず増加しているようだ。

「我が社は昔からエプソン製のスキャナを使用しているんですよ」と語るテラエンジンのクリエイティブプロデューサー寺西氏。

 テラエンジンも、紙文書のデジタル化に少しずつではあるが取り組んでいる。「印刷物を扱うデザインオフィスである以上、紙を100%使わないということはさすがに難しいでしょうが、社内で共有する書類などについては、スキャナーを使って意識的にデジタル化しています」と話す。

 GT-X820でも、もちろん文書の読込が行える。原稿裏面文字の裏写りを防止する「文字くっきり」機能、画像と文字が混在する文書をより忠実にデジタル化する「画像はっきり」機能など、より美しく、読みやすくデジタル化するためのサポート機能も豊富だ。

 
裏写りを防止する「文字くっきり」機能。両面印刷の資料、雑誌などの読込時に重宝する機能だ
画像と文書が混在する文書では、画像の階調がつぶれがち(左)。それを改善するのが「画像はっきり機能」だ。
分厚い雑誌の読み込みも、難なく対応できる

 またテラエンジンの社内では、雑誌の一部分をスキャナーでJPEG画像ないしPDF化しておき、デザイナーが好きなタイミングであとから参考にするといったケースがあるという。GT-X820は原稿カバーのヒンジ部が上下可動する構造になっているため、分厚い雑誌の読み込みも問題なく行える。

 このほか、紙文書のデジタル化をする際に覚えておきたいのがドロップアウト機能だ。原稿をモノクロ・8bitグレーで読み込む際、RGBいずれかの色成分を意図的にカットできる。たとえば黒インク主体の資料に赤ペンでメモ書きを入れた場合、Rをカットすることで赤ペンのメモ書きを消せるわけだ。

RGBいずれかの色成分を意図的にカットできるドロップアウト機能。これを応用すれば黒原稿へ書き込んだ赤字メモ部分だけを消去することも可能だ

 この逆が「色強調機能」。やはりモノクロ・8bitグレー取込時の機能だが、色成分を意図的に強調できるため、赤スタンプの薄い印影をよりはっきりさせるといった用途に向いている。

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スキャナー正面のワンタッチナビボタンを押すだけで、原稿のPDF化など主要な作業が行える

 スキャナー正面のワンタッチナビボタンを押すだけで、原稿のPDF化など主要な作業が行える。

 また、テラエンジンのデザイナーは文書のデジタルデータ化に際して「ワンタッチナビボタン」も活用している。GT-X820の正面についている4つのボタンいずれかを押すと、スキャン、メール添付、コピー、PDF作成などがダイレクトに実行できる機能だ。

 文書のデジタル化は、元データとなる紙資料が多いほど、作業量自体が膨大になっていく。原稿をセットし、マウス操作でスキャンを実行するというわずかな作業でも積み重なれば手間は増えてしまう。これを少しでも軽減できるのが、ワンタッチナビボタンの大きなメリットだ。

 GT-X820では本体正面にさらにLEDステータスバーが追加された。遠くから離れた場所でもスキャンの進捗状況が分かるため、PCから離れた場所で別の作業を行い、スキャン完了が確認できたらそばに戻るといった運用も可能になる。

カラリオプリンターと統一感あるデザイン

 本体デザインも変更された。ブラック基調のカラーリングはほぼそのまま継承、一方でより直線的な外観構造を取り入れた。カラリオプリンターとの統一感がさらに高まったことがわかる。

 このほか環境対応も進化。スキャン時の消費電力量は、スキャン速度の高速化によって従来モデルGT-X770と比較して約52%に低減した。省電力ASICの採用や回路設計の見直しよって、待機時消費電力は約73%、スリープモード時も約40%に改善された(いずれも従来機GT-X770との比較)。消費電力の改善を体感するのはなかなか難しいが、長く安心して使うために注目しておきたい部分だ。

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 今回は、デザインオフィスにご協力いただき、GT-X820の使い勝手を検証してみた。プロデザイナーの実務にも耐えうる、充実のモデルであることがおわかりいただけたのではないだろうか。

 かといって、GT-X820はプロにしか使えない難解なマシンでは決してない。前述のワンタッチナビボタンをはじめ、USBによる簡単接続、フォトレタッチソフト「Adobe Photoshop Elements」や日本語OCRソフトの標準同梱など、あらゆる層にとっての使いやすさをワンパッケージで目指した製品だ。まもなく登場予定のWindows 7にも対応している。

 一般的なオフィス、そして家庭でもスキャナーの出番は多い。紙焼き写真のスキャンはもちろん、資料や雑誌を実際に切り抜くことなく保存、MP3楽曲のタグに添付するCDジャケットを読み込んだり、趣味の書画をデジタル化するのもいいだろう。自分だけのデジタルアーカイブ作成するために、GT-X820をぜひ活用してほしい。

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株式会社テラエンジン
Webから雑誌まで、きびしいスケジュールもものともせず、高馬力エンジンのごとく迅速に仕上げるデザイン会社。クライアントからの様々な要求にこたえるため、テクノロジーの研究も怠らない。 業務範囲はWebデザイン・レイアウトはもちろん、雑誌や単行本、ムックや中吊り広告の制作など多岐に渡る。 (写真左から)森、高橋、今井、小湊

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関連情報

エプソン カラリオ スキャナー
http://www.epson.jp/products/colorio/scanner/

エプソン、高速化した6,400dpiフラットベッドスキャナー「GT-X820」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090903_312673.html

エプソン、ツインLED光源のスキャナー「GT-X820」
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090903_312665.html

森田秀一

BB Watch編集部出身のフリーライター。現在はINTERNET Watchでリンク集を連載するほか、新製品発表会や各種イベントの現地取材・撮影も行う。社会人1年目は文具メーカーで営業を担当。その後メールマガジン編集業務などを経て、ライターの道にたどり着いた。現在の得意分野はネットサービス全般、携帯電話など。