フォトストレージビューワ「P-7000」

 デジタル一眼レフカメラの価格も手ごろになり、多くの人が使うようになった。また、フィルム時代から作品作りに励んでいるハイエンドユーザーもデジタル一眼レフカメラに移行しつつある。そんな中、2003年にエプソンから発売されたフォトストレージビューワ「P-1000」は多くのデジタルカメラマンから支持を受け、いまだに使っている人も多い。「P-1000」以来、フォトストレージビューワ Pシリーズはさらに進化し、「P-5000」において完成をみたように感じた。ところが、9月4日に発売された最新機種「P-7000」「P-6000」は予想もしなかった「新たな道」に進化している。

 私自身、「P-2000」と「P-5000」を愛用してきた。なぜフォトストレージビューワに私が固執するかというと、弟子時代から師匠の教えで「撮影が終わった後に一番大事なものは、1にフィルム、2に商品などの被写体、そしてカメラや機材・・・」と言われてきたからだ。当然のことだが、同じ被写体を同じように撮ることは、難しかったり不可能な場合もある。だからこそ撮り終わった写真ほど大事なものはないのだ。

 デジタル一眼レフカメラを使うようになってからは、ノートパソコンに写真データをバックアップしていたが、ノートパソコンは重くて持って行かないこともしばしば・・コンパクトフラッシュが壊れないことや間違えてフォーマットしないことを祈っているだけだった。

 写真を閲覧するためのビューワでありながら、それを貯蔵するストレージでもある「P-5000」を手に入れてからは、安心したロケができるようになったのだ。それでも心配性な私は、写真データを「P-5000」とノートパソコン両方にバックアップし、不慮の事故に備えているが。

 最近はコンパクトフラッシュも大容量化したし、もちろんロケ撮影時には必要以上に持って行くので、途中でコンパクトフラッシュをフォーマットすることなく、「P-5000」でバックアップしつつ、数日間のロケ撮影をこなせるようになった。

 そんなこんなで、いまや撮影には欠かせなくなったフォトストレージビューワ。その最新機種「P-7000」は、容量が160GBと、前機種「P-5000」の2倍となった。さらに液晶ディスプレイもより広視野角・高色域にパワーアップ。そしてなんとRAW現像からレタッチまでできてしまうようになった。これはもはや「フォトストレージビューワ兼モバイル現像機」なのかもしれない。他にも痒いところに手が届く機能があるようだ。デジタル一眼レフカメラユーザー必須のアイテムになりうるかどうか、さっそく試してみた。

まずは外観から見てみよう

外観的にはP-5000とほとんど変わらないが、新たなインターフェースとしてホイールキーが装備された。
以前のレビューで絶賛した使いやすいP-5000のボタンレイアウト。新たに搭載された「ホイールキー」は十字キーで操作するよりも、スピーディーにファイルや項目を選ぶ事ができた。
P-1000から変わらず、上面にSDメモリーカードスロットとCFメモリーカードスロットを搭載している。他の種類のメモリーはUSB端子にカードリーダーを接続すれば使用できる。

次に液晶の性能を見てみよう

 液晶は、「P-5000」発表時に驚きをもって迎えられた4色カラーフィルター(R,G,B,EG)を引き続き採用。VGA解像度に白色LEDバックライトという点も「P-5000」と共通だ。にもかかわらず、下の写真を見てもらえばわかるように、「P-7000」はさらに大幅に向上した高色域と広視野角を持っている。

 液晶ディスプレイの呼称が「Photo Fine Ultra」から「Photo Fine Premia」に変わっており、画像を表示させるエンジンだけでなく、光を通す偏光フィルター等に新たな技術が加わったことが想像できる。

P-5000の液晶ディスプレイは相当良いと思っていたが、P-7000はさらに綺麗に色の階調が出ている。また暗部もきちんと表示され、液晶も明るいので撮影中に確認するのに適している。
液晶ディスプレイで写真を確認する場合、ディスプレイの真正面以外から見ると、色が変わって見えてしまうことが多い。それで写真を評価してしまっては元も子もないが、広視野角160°の「P-7000」ならそんな心配も無用。多人数でチェックしたり鑑賞するにはもってこいだ。写真(左:P-7000 右:P-5000)を見てもらえばわかるように下から見ると、これだけ違って見える。
視野角160度が具体的にどの程度のものなのか、図であらわすと、こうなる。これだけ急な角度で見ても、色の変化が少ないということだ。
「P-7000」のディスプレイが表示できる色域はAdobeRGBカバー率94%。「P-5000」は88%なので、AdobeRGBで撮影した写真をより忠実に表示できるようになった。写真を見て分かるように「P-7000」(左)は「P-5000」(中央)よりも緑の階調が豊かになっているし、空の抜けも良くなり記憶色に近い。
※画面撮影はNikon D3を使い、Adobe RGBで撮影しています。また作品もAdobe RGBで撮影レタッチしたものなので、表示するパソコンモニターによっては違って見える場合があります

バックアップ性能を見てみよう

バックアップのスピード化

 「P-7000」では、メモリーカードの転送速度も向上した。「P-5000」で、私の所有する転送速度の遅いCFメモリーカード(×115)に1GB分の写真データを入れ、バックアップしてみると、185秒ほど要した。対して「P-7000」だと140秒と、2割ほど短縮されている。メーカーのカタログによると、UDMA転送対応のCFメモリーカードを使用すれば、なんと100秒にまで縮まるという。次にCFを買うときはUDMA対応を検討するべきだろう・・・もちろん、懐と相談してだが。

差分バックアップ

データの取り込み設定画面

 「P-1000」では、コンパクトフラッシュのデータをバックアップした後に、コンパクトフラッシュをフォーマットせずにカメラに戻し撮影を続けてしまうことがよくあった。それを再び「P-1000」でバックアップすると、全データが再度、重複してバックアップされてしまうのだ。こうなるとバックアップに時間がかかる上、同じ写真が別フォルダーに重複してしまうので、整理に手間取ることしばしばである。それが「P-7000」では、差分バックアップをしてくれるからめちゃくちゃ嬉しいではないか!メニューの設定で「差分データのみ取り込む」か「すべてのデータを取り込む」か設定しておけばよい。


 以前の機種でもPictBridge機能でプリンタと連携することで、PCを介さずプリントすることができたが、その場合、写真に自動補正がかかってしまうため、作者の意図を正確に反映できなかった。

 対して「P-7000」では、作者の側でコントロール可能なレタッチ機能が加わった。さらに、各カメラメーカーのRAWデータを現像することもできるようになった。この機能により、撮影したその現場で、作者の意図を反映した作品作りができるようになった。さっそくその機能を見てみよう。


RAW現像&レタッチ機能

 まさに目から鱗のこの機能。まさかフォトビューワでRAW現像までしてしまおうなど考えも及ばなかった。かといって難しい作業ではない。「人物」や「風景」など、プリセットされた分かりやすいシーンモードが用意されているので、プレビューを参考にしつつ選択すればよい。シーン選択後にさらに調整したい場合も、追加設定が用意されている。保存先のフォルダーは自由に選択可能で、ファイル名も元のファイルとは別のものになるので、元画像はちゃんと残る。

 また、シーンを選択せずに最初からマニュアル調整することもできる。プレビューを見ながら各種パラメータを調整できるので、わかりやすい。

写真を選び、メニューから「編集」「この画像を現像」を選ぶ。(JPEG画像だと「この画像をレタッチ」と表示される)
RAW現像設定からシーンを選ぶ。追加設定で「ホワイトバランス」「露出」「コントラスト」「彩度」「カラーバランス」「シャープネス」「ノイズリダクション」などの項目が現れる。
いくつかの項目は使用前使用後が表示され、スライドバーを左右に動かすと右の使用後に反映されるので分かり安い。
「シャープネス」や「ノイズリダクション」は好きな場所を拡大表示するので、確認しながら強弱やオンオフを選べる。
「現像開始」を選べば同じファイル名に付加番号が付き、JPEG画像で保存される。

印刷ナビゲーション

 「印刷ナビゲーション」はパソコンを使わなくても作品作り(プリント)ができる機能だ。各ファイルからPictBridge機能で直接プリントもできるが、この機能を使えば現像レタッチからトリミング、そして印刷用紙やレイアウトを決めるまで、「P-7000」単体で行なうことができる。

HOMEにある「印刷ナビゲーション」を選び、指示に従い画像を選択し、必要なら現像レタッチする。
プリントするには重要なトリミング機能。写真が生きるも死ぬもトリミング次第である。アスペクト比を固定するか自由にトリミングするか選べる。
「自由にトリミングする」を選ぶと格子が現れるので、左上のポイントを上下左右に動かし決まったら、右下にポイントを切り替え同じように決める。トリミング中に【Menu】ボタンを押すと、メニューが表示されて傾きなどの調整もできるようになる。
用紙に貼り拡大縮小や、画像を上下左右に移動させ位置を決める。これで決定し、プリントするか保存する。
プリントはフチナシから自由にレイアウトするなど自由自在。もちろん選んだ画像だけのサムネイルプリントもできる。また、エプソンのプリンタを使えばカラーマッチングが自動でされるので、レタッチが反映しP-7000で見たとおりの作品作りが実現できそうだ。

USBディスプレイ機能

 Photoshopのplug-in機能に「USBディスプレイ機能」がある。Photoshopで表示している画像を、USBの外付けディスプレイでも表示できる便利な機能だ。Adobe RGB対応の広色域を持った「P-7000」なら、PCと接続して使わない手はない。

 特にロケ先においては、ノートパソコンで写真のレタッチをしようと思っても、ディスプレイがせいぜいAdobe RGBカバー率70%程度しかないので、写真本来の色や階調を確認することができない。これでは、レタッチは無理というものだ。そこで、この「USBディスプレイ機能」を使い、ノートパソコン上のPhotoshopでレタッチ中の画像を「P-7000」の液晶ディスプレイで表示。これならば、「P-7000」の高品質なディスプレイで色味を確認しながら、高度なレタッチができる。

ロケ先でノートパソコンに繋ぎ、Photoshopで表示した画像だけP-7000で 色の確認をしながらレタッチができる。
P-7000で表示したノートパソコンのPhotoshopで開いた写真。
ノートパソコンで表示したPhotoshop上の写真。

 P-7000は色温度を5000、5500、6000、6500と選べるため、自然光に近い色温度で見ることができるのだ。ノートパソコンのディスプレイはそれよりも高い色温度のことが多く、また色域も狭いのでAdobe RGB設定のデジタル一眼レフカメラで撮影すればより違って見える。もちろんそんな悪条件でRAW現像やレタッチしている人はいないと思うけど・・

 旅先の寂しい宿では音楽や動画も楽しむこともできる。音楽を入れ、さっそく旅に出てみよう。撮影現場でRAW現像やレタッチを、被写体を直接見ながらやってみたい。

 というわけで白根、草津方面に向かったが、あいにくの雨…。だが愚痴っても仕方がない。めげずに雨や霧など、悪天候ならでの作品撮りに挑戦してみた。


便利な付属品

P-7000にはロケにはうってつけの便利な付属品が付いている。左のキャリングケースはコンパクトフラッシュ収納はもちろん、予備バッテリースタンドも収納できる優れもの。中は充電器。2本のバッテリーを同時に充電することができる。右はP-7000専用スタンド。折りたためるし軽いので邪魔にならない。
カーアダプター。車の12Vを利用するわけだが、車の電圧は不安定。P-5000では車のシガーソケットから100v変圧器を使いACアダプターで充電していた。このカーアダプターはそのままシガーソケットに挿して充電できる。直接で安定しているということは整流器が入っているに違いない。これさえあれば車でのロケは国内はもちろん、海外にも持って行けるので便利である。

P-7000で作品作りに挑戦

被写体の実物を見ながらのレタッチだ。撮影さえきちんとすればそれほど手を加える必要はない。

 実際はRAWから現像&レタッチして作品を仕上げるが、今回は使用前使用後を見て貰うためにJEPG画像をレタッチしてみた。


ひまわり
小雨降る曇りのためフラットに明るくなってしまったものを、やや暗くしコントラストと彩度を上げてある。また最後にシャープをかけてある。
クラシカルな喫茶店
元データはホワイトバランスをオートで撮ったために、色がくすんだ感じになってしまった。そこでカラーバランスで赤味を持たせ、やや暗くして彩度を上げてある。またコントラストを弱め柔らかさを出しつつノイズリダクションをオンにした。
ツユクサ
明るくすると共にコントラストを高めシャープを弱くかけてある。また「印刷ナビゲーション」を使いトリミングしてある。
霧の山道(モノクロ)
レタッチ設定をモノクロにして、追加調整でモノクロフィルター(オレンジ)をかけることで緑を濃いグレーになるようにした。

最後に

 「P-7000」はとにかくディスプレイの色域が広く、階調表現がしっかりできれば写真を見るのにうってつけだ。

 あるスタジオで撮ったイメージ写真の、色の一部分が潰れて見えてしまい、クライアントに「ここはベタな赤になっちゃうのですか?」と突っ込まれた。そこにあるディスプレイでも、私のノートパソコンでもベタに見えるが、Photoshopで情報を見れば階調がある数値を示している。「大丈夫です。・・・たぶん」としか答えようがない。そんな時こそ「P-7000」があれば、さっと取り出し「だいじょうぶ!ほら!」と見せられたのに・・

 予想以上に進化したP-7000は、デジタル一眼レフカメラで作品作りするミドル&ハイアマからプロまでのカメラマンなら、ぜったい持つべき必須アイテムに進化したと言えるだろう。

※画面撮影はNikon D3を使い、Adobe RGBで撮影しています。また作品もAdobe RGBで撮影レタッチしたものなので、表示するパソコンモニターによっては違って見える場合があります

Photographer
若林 直樹

雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。 撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。 自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/