長期の撮影旅行の際は、データのバックアップが悩みの種だ。

 メモリカードの容量が増えたので何枚も持って行くのもよいが、それでも足りなくなった時はカメラの液晶画面でいちいち確認しつつ不要なカットを消したりしなくてはならないし、間違えて必要なカットを消してしまう事故もありえる。

 だからといってノートパソコンを持ち歩くには重くてかさばるし……。

 そういうシーンを想像すると、がぜん必要になってくるアイテムがフォトストレージだ。液晶の付いてあるものや付いていないものと色々あるが、少なくともビューワで確認できるほうが安心できる。

 その中でもきれいに表示してくれるエプソンの「Photo Fine Player」は私のお気に入りで、いつもカメラバックの中に入れている。

 そのエプソンからバージョンアップして登場したフォトストレージビューワ「P-5000」は、本体デザインの変更を含めて機能を強化し、ハイアマチュアやプロ向けに登場したのだ。

 今回久々にケニアへ動物を撮りに行くのに「P-5000」を同行させて試してみることにしたのは、バックアップはもちろん、液晶での写真の確認がなんとAdobeRGBの色域でできることが最大の理由だ。

 また転送速度の向上や表示時間の短縮など、改良点を聞いていたので期待しつつ持って行くことにした。

 またケニアで初めて使ってみて細部にわたって使い勝手がよくなっているのを実感した。きっと歴代の「Photo Fine Player」を使っている人や撮影現場の声によく耳を傾けて改良してくれたに違いない。

 そこでケニアで実際使って感じたことを中心に、「P-5000」の魅力を紹介しよう。

●メモリカードスロットにCFカードを挿入したところ
●バックアップメニュー
CFカードやSDメモリカードを挿入すればバックアップ用メニューが立ち上がる。
●P-5000は、Adobe RGB色域をほぼカバーした色を 再現することができる。
 ナイロビに着くなり、いつものようにガイド兼ドライバーのウイリアムがサファリカーで迎えに来ている。彼の視力は4.0以上!? 動物を撮るには彼の目が最高の武器になるのだ。

 今回はアバーディア国立公園、ナクル湖国立公園そしてマサイマラ動物保護区と回った。いろいろ旅している私だが、ここは格別である。

 野生の動物を間近に見られるばかりでなく、360度大自然のなかにどっぷり浸かれるからだ。その感動は私の人生観まで変えてしまい、再び来てしまうぐらい素晴らしい場所だ。

 撮影は動物の活動する早朝と夕方3時間ずつ保護区内を走り回ることになる。動物相手だと悠長に撮っていられない。とにかくバシバシシャッターを切るしRAWとJPEG同時保存設定だから容量も1カットが15MB以上になる。

 カメラが2台レンズは5本、それをめまぐるしく替えながら、4GBのCFカードが一杯になると「P-5000」のメモリカードスロットに挿入する。するとメニューが「CFカードのバックアップ」と「CFカードのデータを見る」を表示されるので、前者を選んでクリックすればすぐにコピーが始まるので、とても便利だ。なにしろ戦場のように忙しい中でのコピーだから操作が面倒だとやっていられない。

 草原内の移動する短時間や撮影中でも手間はほとんどかからず余裕でできる。そしてもう一つやることがある。写真の確認だ。「このシーンいけてる!」と思ったシーンを表示させ「P-5000」の液晶画面で確認作業をするのだ。

 もちろんデジタル一眼レフカメラの液晶画面でも確認しているが色の階調までは分からないし、ヒストグラム表示させて確認しても大まかにしかわからない。

 そこで「P-5000」で見れば、カメラと同じ設定のAdobeRGB表示で見られるので色の確認には最適だ。

 私を含めて多くのプロカメラマンは、カメラの色域設定をAdobeRGBに設定している。このほうが印刷物やプリンタで表現できる色域に近いからだ。

 そして「P-5000」の色域は限りなくAdobeRGB領域に近いので、我々プロやハイアマチュアのチェックにとても役にたつのである。

 そしてロケ撮影はもちろんスタジオなど仕事現場で確認できるし、いざとなったらすぐに撮りなおしもできる。撮影から戻ってパソコンで表示したときに、「しまった!」ということがないので安心だ。またクライアントやディレクターが同行する撮影では、現場で確認してもらえるからさらに助かる。

P-5000 従来機
従来の液晶は右の写真のようにRGBの3色フィルターで表示するが、「P-5000」に搭載された「Photo Fine Ultra」液晶はEG:エメラルドグリーンが加わり4色(R,YG,B,EG)のフィルターで構成され、AdobeRGBの色域を再現するとともに開口率も広くなり、明るさも十分保つことができている。

P-5000 従来機
同じAdobeRGBのデータを「P-5000」とsRGB表示の従来機種で表示させて比較すると階調にこれだけ差が出る。「P-5000」の方が、特にグリーンそして青の階調がよく出て表示の差は歴然としている。(カメラはAdobeRGBで同じ設定で撮影してある)

 またヒストグラム表示も重要で、適正な露出で撮影されているかが一目瞭然だ。カメラの小さい液晶画面で見るより、4.0型もの大きな液晶画面で見られるのでよりわかりやすい。

 続けて同じ条件で撮る時や慣れない環境での露出決定がより的確になる。カメラの露出計と自分の勘に微調整を加えることができるのだ。

 それによってよりベストな状態の撮影データになる。おかげで大いに作品作りに貢献してくれた。

 あわただしい撮影の合間に「P-5000」を操作するのだが、初日で操作に慣れてビックリするぐらい速く指が動くようになった。以前の「Photo Fine Player」に比べ「4-Wayリング」と主要なボタンが上方にあるので、親指での操作がとても楽なのとわかりやすい配置になったからだろう。

 もうひとつ重要な変更点は持ちやすくなったことだ。ボディのデザインが一新され、一見大きくなったようにも見えるがほぼ同じ大きさで左右にグリップが付いた。グリップと言っても丸みを帯びただけだがこれがまたよいホールド感なのだ。

 人間工学に基づいたデザインで、たしかにホールド感がよく、先に述べたボタン操作がこのホールド感とボタン位置でベストな状態になっている。ボディは小さく薄くとか、液晶はできるだけ大きくとかいろんな声はあると思う。しかし持って操作して液晶を見るという一連の動作を考えると、この「P-5000」は完成度が非常に高いと言える。
●露出確認には欠かせないヒストグラム。Displayボタンを押せば写真情報・ヒストグラム・ハイライトやシャドー部の表示と順番に見ることができる。
●操作のしやすい4-Wayリングと周辺操作ボタン
●左右が丸みを帯びてホールドしやすくなった。

 旅先でできるだけしたいことがある。地元の文化に触れたり人と交流することだ。

 今回は昼間の空いた時間に保護区外のマサイ族の村を訪問した。誇り高きマサイ族なので決まった村でないと訪問できないが、英語のできるガイドがいて彼の家に案内してくれた。

 ここまではパックツアー観光でもできることだが、ガイドと仲良くなれればそれ以上のことをしてくれる。

 今回は「P-5000」が活躍してくれた。持って行った日本の写真を見せたり、今回バックアップした動物の写真を見せてマサイ語やスワヒリ語での名前を教わることができた。

 その時彼は「P-5000」で見る動物の美しさや再現性にビックリしていた。次にビックリしたのは私だ。なんと手に持って操作させてみると、ガイドがすぐに簡単な操作を覚えてしまったのだ。そして事細かに日本の写真を見て喜んでもらえた。

 バックアップ用フォトストレージは、空にして持って行くのが常套手段だ。だが「P-5000」は80GBの大容量ハードディスク内蔵なのだからちょっとやそっとじゃ一杯にならない。そこで写真や音楽を10GBぐらい持って行った。

 いざとなればフォルダごと消してしまえばいいと思ったからだ。しかし6日間の撮影で使った領域は30GB。もう一週間はケニアにいても大丈夫な計算になるぐらい大容量だ。そしてバッテリは小さなものだが1GBのCFカードで60回のデータ取り込みが可能だ。

 電源のない未開地でも再生表示を最小限に抑えれば1週間は十分持つし、予備バッテリを持って行けばもっと長期の撮影旅行でのバックアップでも十分だということがわかった。
●音楽や動画を持ち歩くこともできる。
●これだけ小さなバッテリでも音楽が6時間、動画が3時間再生できる。

 動物や、動物を絡めた風景などの撮影だと、ついつい多めにシャッターを切ってしまう。

 同じシーンでも微妙な違いの写真が結構ある。「P-5000」から新たに設けられたボタンに「☆」印があり、それぞれの写真に「☆」印を1〜5個付けることができるレーティング機能がある。

 つまり写真の評価を暇なときにして、家に帰ってから写真の整理にとても役立つ機能だ。サムネイル上でも再生画面でも、ボタンを押した回数分の☆を最大5個まで付けられる。特に数千枚も撮る今回のような撮影旅行では毎晩レーティング作業をした。そして飛行機の中でもう一度チェックできたので、予想以上に便利だった。

 家に帰れば☆印ばかりの写真を表示させたり五つ星フォルダに移動させたりと大活躍。同梱ソフト「EPSON Link2」を使えばレーティング情報ごとデータコピーができ、Adobe Photoshop CS2に付いてくる「Adobe Bridge」と連携可能だ。「Photoshop使い」としてはこの上なく便利である。

 さらにまだまだ機能アップがある。USBコネクターは今までと同様の「Device」に加えて新たに「Host」が付け加えられた。ここに外付けハードディスクを繋げば、パソコン不要でそこに書き出すことも簡単にできるようになった。

 もちろんデジタルカメラに繋げば直接データのコピーができるしプリンターとの「PictBridge」にも対応しているのはいうまでもない。
●いつでもどこでも時間があれば確認とレーティング作業ができるが、ここではウエイターに話しかけられてはかどらなかった。
●5段階評価して自宅では3星以上を別フォルダに移動し、必要なときまずそこから探すようにしている。
●「Host」が付け加えられたので、外付けハードディスクに直接コピーすることができる。

 いろいろ述べてきたが、AdobeRGB表示に対応していること、ボディとボタンのデザイン変更で操作感がよくなったことなど、すべてにおいて満足できる製品になったと思う。

 プロとしてもうひとつ重要なのが「RAW」データを簡易表示してくれることだ。RAWデータのみでの撮影でも確認が可能だというのは非常に嬉しいことである。

 またRAW拡大表示対応カメラなら、さらに利便性が上がる。私のメインカメラはNikon D2Xで「P-5000」でのRAW拡大表示に対応しているので、撮影現場での確認作業で安心感が増したのはうれしい。

 そして表示再生速度が速いので自分で見るのはもちろん人に見せながら話もでき、今回地元の人との交流にとても役に立った。唯一困ったことはロケ中つい「P-5000」で再生すると大草原の真ん中にいることを忘れ、その色の鮮やかさや再現力に「P-5000」に見とれてしまうことだ(笑)。

 「P-5000」は、これからも山に行く時でも海外に行く時でもカメラバッグに常駐する。ノートパソコンは留守番だ。そうすればその分レンズを1本追加で持っていけるので創作範囲も広がる。あとは私の感性と腕次第だ。

 最後にすっかりお気に入りになってしまった「P-5000」で持って帰った写真をお見せしよう。

■関連情報
・ エプソン フォトストレージビューワ P-5000  
http://www.epson.jp/products/colorio/photoviewer_digitalcamera/p5000/index.htm

■関連記事
・【新製品レビュー】エプソン P-5000  
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/review/2006/11/24/5109.html
・ エプソン、H.264にも対応した80GBフォトビューワ  
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060926/epson1.htm

■若林 直樹
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。 撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。 自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/