小さくて安全で、すぐ部屋が暖まる暖房器具が欲しい!

雨が熱も洗い流してしまったかのごとく、突然冬らしくなった。今年もまた秋らしい体験を何一つせずにいたため、春夏秋冬で、秋だけがぽっかり抜け落ちてしまったかのようだ。朝、目覚めると室温が17度以下という日も増えてきて、いよいよ布団から出るのに気合いが必要な季節でもある。目覚めてから、サクッと起き上がる気になれる暖房器具が欲しくなる。

これまでは、備え付けのエアコンと、ガスファンヒーターが主な暖房だった。エアコンは部屋が暖まるまで、どうしても時間がかかってしまう。ゆえにガスファンヒーターのスイッチに手が伸びるのだが、古い木造戸建てという拙宅の都合上、ホースの取り付け位置が1か所しかなく、使いたい場所で使えない。また、エアコン同様に内部にホコリがたまりやすく、フィルターが目詰まりすると燃焼に影響するため、メンテナンスも大変だ。

すぐに熱を発するという意味では、石油ファンヒーターや電気ストーブという選択肢もあるが、我が家は物が多く、また木造のため火災が心配だ。自動的に供給されるガスと違い、石油はあらかじめ調達しておく必要もあり、タンクは場所も取るし臭いも気になる。話題のオイルヒーターやセラミックヒーターなど大型の暖房器具は設置場所もない。

はてさて、どうしたものか、と家電量販店の暖房器具売り場をうろついていたところ、目にとまったのが「Dyson Hot + Cool™ ファンヒーター AM05(以下、AM05)」であった。

ダイソンといえば、サイクロン掃除機でその名を世に知らしめ、2009年には羽根のない扇風機「AM01」で世間をあっと驚かせたメーカーである。どこから風がでているのか知りたくて、あのリングの中に手を突っ込んだことがある人は多いはずだ。

稼働中の「AM05」を前に、「やはりこんな形はなかなかないぞ」と思いつつ、多分に漏れず手を突っ込んでみた。中は熱くない。側面を触っても問題ない。流れてくる空気は、熱というよりまさに「温かい風」という形容がぴったりである。どこから温風がでているのか気になって、ついのぞき込んでしまうが、顔や髪が瞬時にやけどすることはなさそうだ。実に不思議な暖房器具だ。そこで、少々お借りして試してみることにした。


小さい! 軽い! 「AM05」ってなに?

この「AM05」がどのような製品なのか、改めて見てみよう。機能的には、ファンヒーターと扇風機という2つの機能を持つ。1年中通して使えるため片付ける必要がないうえ、高さ579×幅200×奥行200mmとスリムかつコンパクトなので、せまい場所に置いても邪魔になりにくい。しかも重さは2.38kg。片手でひょいと持ち上げて、どこにでも運べるほど軽い。

特に今の季節ならファンヒーターの性能が気になるだろう。実はこの1台2役の「AM05」は、2011年に発売された「AM04」の後継機種である。ブラシレスDCモーターの回転速度を毎分最大9000回転まで向上させたことで、最大吸気量が20リットル/秒から28リットル/秒にアップし、最大風量も133リットル/秒から170リットル/秒へ、約25%アップしているという。

ゆえに、木造家屋なら3〜4.5畳、コンクリートなら6〜8畳相当のスペースを暖められる。しかも、円形パーツの隙間から増幅された風を送るテクノロジーのおかげで、効率的に熱の流れを作れるため、部屋をすばやく均一に暖められるという特長がある。軽さと小ささという機動性を活かして、暖めたい場所にサッと持って行き、短時間で空間を暖めれば、快適に利用できるというわけだ。

“暖かいのに本体は熱くない”というのも魅力である。熱源は内側の両側面に内蔵されているPTCセラミックプレートだが、作動中に本体側面を触っても熱さは感じない。もちろん、顔を近づけても焼けるような感覚が皆無である。作動中に内部を触ると多少熱さは感じるが、ちょっと触っただけで大やけどを負うような危険性は、極めて低いといっていいだろう。

操作は、本体および、専用のリモコンで行う。いずれにも電源のオンオフスイッチのほか、温度、風量、首振り用のボタンがついている。操作はシンプルで、温度設定ボタンを、室温から最大37度までに設定にすると暖房モードになる。室温以下の設定でヒーターが作動しないよう配慮されているのだ。逆に温度を下げて0度にすると扇風機モードに変わるが、あくまでも扇風機なので、0度を選択したからといって、エアコンのように冷気が出るわけではない。なお、暖房モードになると電源ボタンが赤く点灯し、扇風機モードではが青く変わるので確認しやすい。

風量は10段階の調節が可能なほか、本体は前後各10度に傾斜し、70度の首振り機能もあるため、部屋の隅々まで風が届く。転倒時や8時間の連続使用で自動電源オフとなる安全機能もついている。

色はブラック/ニッケル、アイアン/サテンブルー、ホワイト/シルバー、ニッケル/ニッケルの4色展開。今回試したのはブラック/ニッケルで、なかなかかっこいい。モダンな色展開なので、部屋の雰囲気に合わせて選べるだろう。

さて。この「AM05」、その奇抜な形状から、不思議の国からやってきた、魔法の暖房器具のように見えがちである。しかし電気ストーブやセラミックヒーターと同じカテゴリーの製品なのである。消費電力をみてもヒーターで1200Wとなっており、これは電気ファンヒーターとして一般的な数値だ。

では何が違うのか。それは、非常にコンパクトなボディでありながら、パワフルであるという点だろう。「AM05」と同程度の小型電気ストーブなら、対応スペースが木造1畳、コンクリート4.5畳でもおかしくはない。つまり、小型電気ストーブ程度のポータブル性を維持したまま、鉄骨6〜8畳程度をカバーできるというわけなのだ。その秘訣は、ダイソン独自の仕組みにあった。


  • Dyson Hot + Cool™ ファンヒーター AM05
  • 横からみた状態
    横からみた状態

 

前後に10度ずつ傾斜する

 


吹き出し口

 


  • 操作部。左から電源ボタン、風量調節ボタン、温度調節ボタン、首振りボタン

  • 暖房モードのときは、電源ボタンが赤い

 


  • 扇風機モードのときは、電源ボタンが青い

  • リモコン

 


  • マグネットが内蔵されているので、使わないときは本体の上に置いておける

  • 観葉植物よりも小さい

 


羽根がない「AM05」は航空力学の応用だった

「AM05」の温風はどこから出てくるのか。それは本体内側のわずか2.5mmという隙間である。しかも、内部の構造をみると、風を外に送り出すようなプロペラめいたものはまったく存在しない。それほど狭い場所から大量の空気が発生させられるのは、「Air Multiplier™(エアマルチプライアー)テクノロジー」と呼ばれる技術による。

羽根がなくてもしっかり風は起きる

毎分9000回転する 再設計したモーターが、左右非対称の9枚の羽根と小さい穴の開いた「ミックス フロー インペラー」を回転させ、毎秒最大28リットルの空気を吸い込む。吸い込まれた空気は、円形パーツを通じて、開口部側面のPTCセラミックプレートへと送り込まれる。このとき、空気は自動制御によって設定された温度に暖められる。暖められ加速された空気は、2.5mmの開口部から放出されるが、その際、前にある8度の翼型傾斜の上を流れることで、本体のまわりにある空気を巻き込む。これにより、最初に吸い込んだ空気の6倍の風量を生み出すという。

簡単にいうと、「AM05」の風は気圧差を利用した増幅によるものであり、本体開口部周辺に“ミニ台風”が誕生しているような状態なのだそうだ。部屋の窓をほんの少しだけ開けると、勢いよく空気が流れるという経験をしたことはないだろうか。「AM05」の風はそれに似ているともいえる。翼型傾斜の最適な角度は、航空力学の専門チームが流体力学を応用し、空気の流れや波動などの動きを計測し、計算に計算を重ねて生み出したものだそうだ。つまり、このデザインは外観ありきではなく、機能を追求した結果の機能美だったのだ。


  • 「AM05」の内部構造

  • この部分から風が起きている

 


  • ミックス フロー インペラー。小さい穴の開いた左右非対称の羽根が9枚ついている

  • 手前の傾斜は、計算のうえ生み出された8度の翼型傾斜

 


本体を傾斜させた状態

 


古い木造の和室でも10分の暖房で5度上がった

「Air Multiplier™(エアマルチプライアー)テクノロジー」で生み出された温風はとても優しい。身体の一部だけが熱くなったり、利用中にのぼせるようなことがないのが魅力だが、その温風が果たして本当に部屋を暖めているのか、と疑問に思うかもしれない。実際、風に当たって熱を感じるのは、本体から30〜40cm程度の距離なので、部屋の隅に設置した場合、暖かさは感じないと思ってしまうのだ。しかし、そこが「AM05」の不思議なところ。実は遠くもしっかり暖めていたのである。

ある日の早朝、我が家で「AM05」を作動させてみた。拙宅は木造戸建ての2階ゆえ、風通しのいい造りというだけでなく、2部屋をワンルーム風に利用しているため、空間としては10畳はある。「AM05」にとっては完全にオーバースペースなのだが、そんな部屋でもどこまで通用するのか確かめてみたかったのだ。しかも朝という、布団に続く暖かさが恋しい時間帯だ。

起床時の室温は約15度弱程度。ここで、「AM05」を設定温度37度、風量レベル10で、首は振らせず、1方向にまっすぐに向けて作動させてみた。念のためサーモグラフィでも撮影してしたところ、作動直後から風の届く場所にある観葉植物の色が変わり始めたのが確認できた。その場に行っても温かいといえるような感覚ではないのだが、確かに熱が届いていることを表していたのだ。その後、約10分程度で室温計が5度アップし、20度付近を指していたのである。そうなると、寒いという感覚はほとんどない。「あれ? いつの間にか部屋が温まっていた?」というくらい自然なのだ。

その後も暖め続けたが、室温は21度付近で停滞してしまった。もともと木造の場合は3〜4.5畳程度が限界の製品であり、通常はエアコンでもなかなか上がらないので、この結果は大健闘といえるだろう。これがコンクリートで、さらに首振り機能も使えば、もっと早く広範囲を暖められるに違いない。

 

開始前


  • 実験風景

  • 室温約15度弱

 

電源を入れる前の「AM05」。最低温度は15度、最高温度が30度の範囲で色分けされる

 

風が当たる予定の場所の状態


カーテンと壁の様子


風が当たるエリアの壁の様子



開始直後

暖め始めて2〜3分の状態。すでに大きく色が変化しているのが分かる


真っ青だったカーテンも、熱でドレープがハッキリ見えるようになった



開始約10分


温度計は20度を超えていた!
「AM05」と周辺のカーテンの色が変化


観葉植物周りも20度以上になった


カーテンも最高温度が22.7度に


開始約15分


室温は21度程度で落ち着いてしまったらしい
本体周辺はあまり変化がないが……


「AM05」の上方は、20度程度まで上がっていることが分かった

 

風が集中的に当たっていた観葉植物の色には大きな変化が。首を振ればさらに広範囲を暖められるだろう

 

家中どこにでも持ち運んで活用しよう

サーモグラフィで熱の流れを見たところ、あのサイズでかなりの範囲を暖めていることが分かった。「AM05」は、カテゴリとしては電気ストーブのような電気暖房器具に分類されるが、空間を広くカバーするという点ではエアコンのような存在なのでは、というのが筆者の印象だ。ゆえに、あたって使うのではなく、適切な広さで空間を丸ごと暖めるという目的で活用するとよさそうだ。

暖まる範囲

「AM05」から放出された温風が、広範囲にわたって暖めていることが分かる

この性能を活かさないのはもったいない。しかも、軽いので利用場所を変えやすく、稼働時の臭いもなく、安全性も高いので、臨機応変に利用場所を変えてみてはいかがだろうか。たとえば、就寝前の寝室を暖めれば、気持ちよく眠れるし、起床時にすぐスイッチを入れれば、布団から出やすくなる。早朝の冷えた台所に持ち込めば、気分よく料理できるだろうし、書斎や仕事部屋に持ち込めば、熱しすぎて頭がぼんやりすることもないだろう。洗面所や脱衣所などで使えば、浴室との温度差を減らせる。特に高齢者のいるお宅などでは役立つに違いない。


まだ冷え切っている台所で作動させれば、気持ちよく料理に取りかかれる

 


  • 少し距離を離して設置することで、自分のいる周辺を効率よく暖めてくれる

  • 洗面所を素早く暖めるのにも最適

気になる電気代だが、1200Wという消費電力からみると、同クラスの一般的な暖房器具とほとんど変わらないといえるだろう。もちろん長時間使えば、その分電気代が上がるのはどの器具も同じである。ただし、空間全体をすばやく暖めるという点においては、非常に効率がいいのではないかと思う。短時間でまず空間全体を暖めてから、次の暖房器具に引き継ぐという使い方も考えられる。パワーアップした「AM05」を使いこなして、温かい冬を目指そう。

 

すずまりすずまり
プログラマからISPの営業企画、Webデザイナーを経て、現在はIT系から家電関連まで、全身を駆使してレポートするフリーライターに。カメラを中心にガジェットを好む。趣味は写真と料理。著書に「Facebook仕事便利帳」「iPhone 4S 仕事便利帳」(ソフトバンククリエイティブ)、「Facebook Perfect Guide Book」(ソーテック社)など。