「WINTER MAXX」はスゴい!! ……でもナゼ?

ダンロップ史上最高性能のスタッドレス「WINTER MAXX」

 いや〜ダンロップの最新スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX(ウインターマックス)」はスゴい。前回の試走レポートに書いたとおり、これまで最強のスタッドレスタイヤだと思っていた「DSX-2」より、明らかに高い性能を体感できた。

 まず何と言っても驚くのが氷上ブレーキ性能。「DSX-2」もヒッジョーに優れていて“滑る気がしない”とまで思えた性能を発揮したが、「WINTER MAXX」にはそれを上回る性能があった。凍結した路面の上でフルブレーキをかけたりしても、明らかに「WINTER MAXXのほうが短距離で停止する」のである。なんでも「DSX-2」と比べると、「WINTER MAXX」の氷上ブレーキ性能は11%も向上しているのだそうだ。

 それから氷上〜雪上を通じて、なんというか「WINTER MAXXは足元がシッカリしている」と感じる。スタッドレスタイヤって、夏タイヤに比べると柔らかいじゃないスか。状況によってはタイヤの剛性感が足りず、足元がフニャフニャした感じにもなりがち。なのだが、「WINTER MAXX」にはその違和感が非常に少ない。カッチリと硬いスタッドレスタイヤ、みたいな!? ともかく、優れ物のスタッドレスタイヤである「DSX-2」より、さらにさらに優れている「WINTER MAXX」なのだ。

北海道でひと足さきに最新スタッドレス「WINTER MAXX」の性能を体験した俺。素人でもハッキリ性能の進化を体感できたのだ DSX-2と比べブレーキ性能で11%向上しているという「WINTER MAXX」

 しかし驚いたことに、「WINTER MAXX」には「DSX-2」で採用されていた「ビッググラスファイバー」や「ハイパーテトラピック」といった素材が使われていないとのこと。これらは「氷を引っ掻くことでグリップ力をもたらす素材」ですな。「DSX-2」の優れた氷上ブレーキ性能などを支えるキーテクノロジーとも言える素材だったはずなのに「WINTER MAXX」にはこの素材が使われていないのだ。

 これっていったいどういうコト? 「WINTER MAXX」って、「DSX-2」の強化版というわけではナイのかな? いろいろ疑問が沸いてきたので、どうして「WINTER MAXX」はスベらないのか、なぜ「DSX-2」よりスゴいのか、そのあたりのヒミツを開発者に訊いてみた。

インタビューに答えてくれたのは、住友ゴム工業の材料開発本部 材料第一部 主査 堀口卓也氏(左)、タイヤ技術本部 第一技術部 課長 日野秀彦氏(中)、タイヤ技術本部 第一技術部 課長代理 景山尚紀氏(右)

複理想的な素材、ナノフィットゴム

 最新スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX」のコンセプトは「変える」だそうだ。それは「方法を変える」ことであり「発想を変える」ことだという。……ていうか抽象的でわかんないんスけど。具体的にお願いします。

 「具体的には、タイヤのゴムを変えました。「WINTER MAXX」からナノフィットゴムという最新の素材が使われています。この素材により、いわば“マクロのレベルでは硬いけれど、ナノのレベルでは柔らかいスタッドレスタイヤ”を実現しました」(日野)

 ん? 硬くて柔らかいスタッドレス? どういうコト!?

トレッドのゴムを指で押してみる。「DSX-2」のゴムの柔らかさと比べると確かに「WINTER MAXX」はゴムが硬い気がしますな

 「実際に「WINTER MAXX」に手で触れていただくとわかるんですが、「DSX-2」よりゴムが硬い感じがすると思います。この硬さがタイヤの剛性につながっています。しかし、ナノの領域では柔らかいんです。この柔らかさにより、タイヤ表面がアイスバーンの微細な突起に合わせて密着し、優れた氷上性能を発揮します。これがナノフィットゴムの特性です」(日野)

 ナノの領域というと……0.000000001mとかの、分子レベルですな。そのレベルでは柔らかく、一方で目に見えたり触れて感じられたりするマクロのレベルでは硬い、と。なるほど、そうなれば、一般のスタッドレスタイヤのように「腰がない感じ」「フニャフニャ」した感じはしないものの、アイスバーン表面と密着してグリップが得られるという理屈は、なんとなくわかる。

 けど、ソレってどーやってんですか? どうやってその「硬くて柔らかいゴム」を作ったんスか!?

 「具体的にはゴムのなかに高密度シリカのネットワークを構築しています。従来のゴムにもシリカが含まれていましたが、密に連結されていませんでした。ナノフィットゴムでは意図的にシリカを密に連結することで、高い剛性つまり硬さを獲得しています。また、シリカの周辺には軟化剤が集まります。これがクッションの役割を果たし、ナノ領域のゴムの柔軟性を高めています」(堀口)

 なるほど、図を見るとよりわかりやすい。ナノのレベルつまり分子のレベルで見ると、柔らかいゴムのなかにシリカの柱みたいなのがあるという感じですな。氷などの表面には柔らかいゴムが密着してグリップ力が高く、全体として見るとシリカのネットワークが硬さ=タイヤの剛性をもたらしている、と。なるほど〜。

左の図が従来のゴム、右がナノフィットゴム。ナノフィットゴムはシリカ(白い丸)が連なって、まるで骨格のようになっている。写真はナノレベルの凹凸に密着したときに変形度合いを色で表したものだが、シリカの周りには軟化剤が集められているため、骨と骨の間の軟骨の役割りを果たし、柔軟に変形、密着している
ナノフィットゴムのゴム分子の様子。白くて大きいシリカの周りに黄色い軟化剤が集まっているのが分かる
加減速をしたときなどの前後力がゴムに加わったときの変形をシミュレーションしたもの。左の従来品に比べ、ナノフィットゴムはシリカのネットワークが支えとなってゴムの変形を防いでいる

 ていうかなんか理想的な素材!! 「硬くて柔らかいゴム」なんて、スタッドレスタイヤにとって魔法の素材じゃないスか!! ……でもどうしていきなりこんなゴムを作れたんですか?

 「いきなり、というわけでもありません(笑)。いろいろ試行錯誤しましたが、ゴム素材に対して徹底したシミュレーションと試作・実験を繰り返し、ナノフィットゴムに到達しました。スーパーコンビューターの地球シミュレーターを使ったシミュレーションも大きく役立ちました。また、SPring-8(スプリングエイト)を使った検証も、ナノフィットゴム開発を大きく進められた力になっています」(堀口)

 ちちち、地球シミュレーター!! すすす、SPring-8!! スーパーコンピューターや放射光施設まで動員しての開発だったんですね〜。なんか納得。

ナノフィットゴムでグリップ力UP!!

 ナノフィットゴムがスタッドレスタイヤにとって理想的な素材であることはよくわかった。では、ナノフィットゴムがどんな感じで「WINTER MAXX」の氷上性能を生み出しているのか?

 「まずはナノのレベルでは柔らかいゴムとして機能する点です。たとえば「WINTER MAXX」には「DSX-2」より11%優れた氷上ブレーキ性能がありますが、これはナノフィットゴムがアイスバーン表面の微細な凸凹に密着し、より大きな摩擦を得ているからです」(堀口)

加減速をしたときなどの前後力がゴムに加わったときの変形をシミュレーションしたもの。左の従来品に比べ、ナノフィットゴムはシリカのネットワークが支えとなってゴムの変形を防いでいる

 柔らかいゴムで凸凹を掴む感じですな。掴んでグリップ力を得ている、と。

 ……あ。ところでところで、「DSX-2」に採用されていた「引っ掻き素材」。アイスバーン表面を引っ掻くことでグリップ力をもたらした「ビッググラスファイバー」や「ハイパーテトラピック」ですけど、アレをやめちゃったのはナゼだろう。素人考えだと、柔らかさも剛性も兼ね備えた「WINTER MAXX」に、引っ掻き素材の「ビッググラスファイバー」や「ハイパーテトラピック」が加わったら、もっとグリップ力が生まれるような気がする。なーんで採用しなかったんスか?

 「じつは開発段階では「ビッググラスファイバー」や「ハイパーテトラピック」を加えてのシミュレーションなども行いました。しかし結果的には、これらの素材を加えないほうが良好な結果が出たんです。混ぜ物をしないほうがより優れた性能を発揮できたので、これら素材の採用には至りませんでした」(日野)

 あらま。意外や意外。にしても、2つの引っ掻き素材を入れなくても強力なグリップ力を発揮するナノフィットゴム、ホントに大した新素材ですな。

ビッググラスファイバー(写真中)やハイパーテトラピック(写真右)の引っ掻きでグリップを上げていた従来モデルの「DSX-2」。「WINTER MAXX」ではこの引っ掻き素材が入っていない

MAXXシャープエッジでさらにグリップ力UP!!

 なるほどねぇ、ナノフィットゴムが「WINTER MAXX」の氷上性能のカナメ……え? それだけじゃない?

 「ほかにも「WINTER MAXX」の氷上性能を支える技術が多数あるんですが、グリップ力などに大きく寄与している要素として「MAXXシャープエッジ」というサイプ構造があります」(景山)

 あ。なんかソレ聞いたことある。サイプ。そうだ「DSX-2」で採用されていた「ミウラ折りサイプ」!! アレですね。

 「そうです。「WINTER MAXX」ではそのミウラ折りサイプも新しくなっています。この新ミウラ折りサイプを「MAXXシャープエッジ」と呼んでいます」(景山)

 新しいサイプだと、どんな感じの性能になるんですか?

 「この「MAXXシャープエッジ」は、従来のミウラ折りサイプより22%多くのエッジ成分があります。エッジ成分が多いとアイスバーンをよりきめ細かく掴み、グリップ力が高まります。ナノフィットゴムと併せて、「WINTER MAXX」の氷上性能の高さにつながっているというわけです」(景山)

 なるほどサイプのエッジ。サイプの角っこが氷の表面をグリップする感じですな。なら、エッジ成分をもっと増やしたら?

 「実際に「WINTER MAXX」では、「DSX-2」よりもサイプを25%シャープにしています。ミウラ折りサイプ自体が薄く数が多くなっていて、その分、角であるエッジ成分も増えています。ただ、これが可能なのは、ナノフィットゴムの剛性があるからです。エッジ成分だけ増やしていくと、その分ブロック剛性が失われてしまいます」(景山)

 なるほど〜。「ナノフィットゴム」の剛性と、「MAXXシャープエッジ」のエッジ成分は、絶妙なバランスで最大の氷上ブレーキ性能を発揮しているってわけですな。

DSX-2(左)と比べWINTER MAXX(右)ではサイプの長さと本数を増やし、エッジ成分を22%アップ
従来からあるミウラ折りサイプ(左)を、サイプ自体の幅を25%薄くした新ミウラ折りサイプ(右)
新ミウラ折りサイプ(右)がブロックの倒れ込みを抑制し、エッジ成分も増えたことでアイスバーンにしっかり効く
よく見ると、確かにサイプが薄くなってるッス。これって金型の技術が進化したってことですな

雪上にもウェット路面にも強く、オマケに長寿命♪

 氷上性能のヒミツはだいたいわかったんですけど、試走時、雪道でもイイ感じで走れたんですが。雪に覆われた一般道を走ったとき、「WINTER MAXX」だと、ときどき「なんか乾いたアスファルトを夏タイヤで走ってる感じ」といった印象にも。

 「氷上性能だけではなく、「WINTER MAXX」は雪上性能やウェット性能、それからドライ性能や環境性能(ライフ)も向上しています。たとえば雪上性能は、新しいブロックパターンや非対称デザインにより高まりました」(日野)

 ブロックパターンで、どういうふうに雪上性能とかが出るんですか?

 「タイヤを正面から見ると、水平方向の溝があります。これは、雪を掴み、圧縮してグリップ力につなげ、さらに雪がタイヤから離れやすくするための形状と大きさにしています。雪をしっかり固めつつ掴み、排雪でき、雪上トラクション性能の向上につなげることができました」(日野)

横方向の太い溝(写真左のオレンジ色の個所)が雪を踏み固め、しっかりと掴む。加えて排雪もしやすいので安定した性能を発揮する

 雪上でもしっかりグリップして力強く前進する感じですね。わかります。試走のとき、そういう感じだった。ほかにブロックパターンのヒミツは?

 「ウェット路面での性能も、ブロックパターンによって上がっています。具体的には、タイヤの垂直方向の溝です。ストレートグループ・イナズマグループと呼んでいる溝で、タイヤに付着する水分を効率よく排水しています。シャーベット状になった雪の上を走るときなどにも効果を発揮するブロックパターンです」(日野)

赤く塗られた溝が排水性やシャーベット状の雪を効率的に排除する 左から2番目の縦溝がストレートグルーブ、その右のギザギザの縦溝がイナズマグルーブ ハイドロシミュレーション画像。ストレートグルーブとイナズマグルーブが水を効率的に排除している

 もうひとつ、「WINTER MAXX」は「DSX-2」より「足元のシッカリ感」や「コシ」があったように感じましたけど。コーナーとかの安定感があった感じ。アレはナノフィットゴムの剛性のおかげ?

「ナノフィットゴムの剛性によるところも大きいですが、コーナリング時には独自のブロックパターンも一役買っています。「WINTER MAXX」ではタイヤ外側のブロックを大きく設計してあって、その大きなブロックがコーナリング時にしっかりと踏ん張り、様々な路面コンディションで高い操安性をもたらします」(日野)

 コーナリング時でもグリップしてタイヤが滑らず、クルマをスムーズに操作しやすいってコトですな。そうそう、そうだった「WINTER MAXX」。イロイロとヒミツがあったんですね〜。

クルマが曲がるとき、タイヤの外側に荷重が大きくかかる WINTER MAXXはタイヤのイン側とアウト側を指定したトレッドパターンを採用。アウト側に大きいブロックを配置することで、コーナリング時の安定性を向上しているのですな

 「これはヒミツというわけではないのですが、ナノフィットゴムは高分子ポリマーなので、環境性能(ライフ)も1.48倍に向上しています」(景山)

 環境性能? ライフ? ソレってどういう性能ですか?

 「簡単に言えばタイヤの寿命ですね。従来の1.48倍長持ちするというイメージです」(日野)

 つまり減りにくいスタッドレスってこと? マジすか。凄い! 俺とか冬場はスタッドレス履いてんですけど、関東なんで雪とはそーそー多くなくて、むしろスタッドレスの減りのほーが気になっていたんスよ。1.48倍長寿命とは有り難いですな♪

 「ではぜひ、今年はスタパさんも「WINTER MAXX」で(笑)」(景山)

 鋭意そうします!! ともあれ、いろいろ教えてくださってありがとうございました〜。

 てな感じでアレコレ訊いて大納得。「WINTER MAXX」は超イケてる氷上・雪上・ウェット性能を持つ「ダンロップ史上・断トツNo.1の氷上性能を持つ冬タイヤ」でありながらも、摩耗しにくい減りにくいってんだから超魅力的。よりよいスタッドレスタイヤを探しているなら、ぜひ「WINTER MAXX」をチェックしてみてほしい。

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