アウトレイジ Blu-ray DTS-HD Master Audioで体感する 衝撃の音世界

北野武監督『アウトレイジ』が高画質・高音質のBlu-rayで登場

北野武監督最新作『アウトレイジ』は、暴力団の血で血を洗う抗争を描く。続編の製作もすでに決定している

北野武監督最新作『アウトレイジ』は、現代ヤクザの血で血を洗う抗争劇を描く。続編となる『アウトレイジ2』の製作もすでに決定している

今回発売されるのは、Blu-ray版、DVD版、そして本編Blu-rayおよびDVDと特典DVDがセットになった初回限定生産「スペシャルエディション」の3種類(写真はスペシャルエディション)

今回発売されるのは、Blu-ray、DVD、そして本編Blu-ray、DVDと特典DVDがセットになった初回限定生産「スペシャルエディション」の3種類(写真はスペシャルエディション)

 2010年6月に公開された北野武監督の最新作である『アウトレイジ』が、2010年12月3日に早くもDVD&Blu-rayとして発売される。

 本作は『BROTHER』(2001年)、『座頭市』(2003年)以来、7年ぶりとなるバイオレンス・アクション。「極悪非道」を意味するタイトル、そして「全員悪人」のキャッチコピーが示すとおり、集結した豪華な個性派俳優陣が怒号を飛び交わせながら、目を覆わんばかりの強烈かつ衝撃的なバイオレンス・アクションを展開する。まさに容赦なきバイオレンス・エンターテイメントだ。

 本作で大いに注目すべきポイント、それは、北野武監督作品としては初のBlu-rayが用意され、DVDと同時リリースされることだ。

 DVDとBlu-rayの違いは、まずフルHD&高ビットレート映像の美しさ、精細さにあるのは周知の通り。本作もBlu-rayの映画本編は1080pで収録されており、凄惨なバイオレンス・シーンはもちろん、“静”のシーンまでもがさらに迫力を増している。劇場で見た人にとっては、初見時の印象が自宅でもそのまま味わえるはずだ。

 Blu-ray化の美点はそれだけではない。DVDに比べると、音質の面でも大きく進化しているのだ。今回、『アウトレイジ』Blu-rayのオーディオフォーマットに採用されたのはDTS社の「DTS-HD Master Audio」。音声を劣化させることなくディスクに収録/再生できるロスレス音声技術(可逆圧縮音声技術)であり、映画の音声がまさに「原音そのまま」といっていい高音質で収録されている。スペック的には「CD以上」の音質を実現しており、劇中音楽を存分に堪能できることはもちろん、これまでのDVDで採用されていた圧縮音源では聴こえてこなかったような細かな効果音までが、ちゃんと聴こえてくるのだ。

 高画質だけでなく、高音質にもこだわった『アウトレイジ』のBlu-ray版。ここではその音のカギを握るdts Japan株式会社のWWフィールド・アプリケーション エンジニアリング担当ディレクター、藤崎賢一氏にも加わっていただきながら、『アウトレイジ』の音楽を担当した鈴木慶一氏に、本作の音作りについてインタビューしてみた(以下敬称略)。


SE、台詞、そして映像ー他の要素と調和する音楽

『アウトレイジ』で音楽を担当したミュージシャンの鈴木慶一氏に話を聞いた

『アウトレイジ』で音楽を担当したミュージシャンの鈴木慶一氏に話を聞いた

―今回、慶一さんが『アウトレイジ』を担当することになった背景を教えてもらえますか?

鈴木:北野監督とは2003年に『座頭市』をやっていますが、エンターテインメント性が強い作品のときに依頼が来るのでしょうか。つまり、どういう音楽にすべきか幅が広すぎてなかなか決めにくいときに頼まれるので、とってもやりがいがありますね。

―『座頭市』のときと比較して、製作上何か大きな違いはありましたか?

鈴木:2003年のときは、MIDIを使った曲作りをしていて、そのプログラマーがいたけれど、今回は全部自分でやったというのが、製作体制の大きな違い。プログラマーが介在することで、音に変化が生じ、それが偶発性を生み出していたのだけれど、今回はその偶然を自分で作り出さなくてはならないのが大変でした。今回はドイツのWaldorfというメーカーのシンセサイザーでほとんどの音作りをしているけれど、1小節作ってはそれをズタズタに切り刻んで波形編集で再構成していくという手法を取り入れました。


dts JapanのAVルームにてインタビューを敢行。実際にサラウンド環境で『アウトレイジ』本編を視聴しつつ、取材は進められた

dts JapanのAVルームにてインタビューを敢行。実際にサラウンド環境で『アウトレイジ』本編を視聴しつつ、取材は進められた

銃声、爆発、人を殴る音。慶一氏は「SEこそ北野演出の持ち味」と語る。音楽はもちろん、そうした音響効果も『アウトレイジ』の「聴きどころ」だ

銃声、爆発、人を殴る音。慶一氏は「SEこそ北野演出の持ち味」と語る。音楽はもちろん、そうした音響効果も『アウトレイジ』の「聴きどころ」だ

―北野監督からは、音楽について何か具体的な指示が出ていたのですか?

鈴木:今回の作品で、監督と最初にお会いしたのは、すでに大半を撮影し終えた後の大友組事務所の撮影現場でした。ロケ地は神戸だったのですが、夜に食事をしながら話を伺いました。いろいろな話が出てきたのですが、最終的には「ノイズのようなぶち壊れた音楽にしてください」ってね。
私は子供のころ、音響効果になりたくてね。高校のころには演劇部で音響効果をやっていたくらいなので、とにかく好きなんですよ。
音楽を担当していますが、映画の場合、SE、音楽、せりふの3つの要素が総合的に絡み合って効果を上げていかなくてはなりません。だから音楽が出過ぎないように気を配りつつ、ほかに負けず、また調和するように作っています。

藤崎:『アウトレイジ』ではSEの低音が非常に効いていますね。殴るシーンとか、ドーンと響いてきます。

鈴木:その前に流れている音で緊張感が高まってきているので、相乗効果もあると思います。ただ、次の展開が予想できるようなものは作らないというのがこの作品での重要なポイント。ミニマルなループを採用するなど、何かが起こるシーンの前は、できるだけ単調に作っています。また見てみるとわかるとおり、暴力シーンの少し前で、音楽は消えちゃう。その後で強烈なSEが出るので、よりインパクトも強くなるわけですね。


「スタジオと同じ音」に聴こえる凄さ

dts Japan株式会社のディレクター 藤ア 賢一氏

dts Japan株式会社のディレクター 藤ア 賢一氏

藤崎:実際、Blu-rayになった音をお聴きになっていかがですか?

鈴木:これ、すごいね。レコーディングスタジオで聴いているのと同じ音で、まったく違和感がない。もちろん、これだけのスピーカーや機材が揃っているからというのもあるのだろうけれど、DVDでの音とはまったく比較にならない。さすがにこの音を、各家庭で完全に再現させるのは難しいにせよ、いい音で聴いてもらえるようになるというのは嬉しいですね。

―やはりDTS-HD Master Audioがロスレスであるために、スタジオの音そのものが出せるということなんでしょうね?

「余裕がある感じ」とDTS-HD Master Audioの音質ポテンシャルを表現する慶一氏。「DVDの時代が長すぎた」との爆弾(?)発言も

「余裕がある感じ」とDTS-HD Master Audioの音質ポテンシャルを表現する慶一氏。「DVDの時代が長すぎた」との爆弾(?)発言も

『アウトレイジ』に採用されたDTS-HD Master AudioはDTS-HDテクノロジーの最上位に位置。音声の可逆圧縮を採用しており、ビットレートは最大24.5Mbps。スタジオ・マスターと同じ音質を実現可能だ

『アウトレイジ』に採用されたDTS-HD Master AudioはDTS-HDテクノロジーの最上位に位置。音声の可逆圧縮を採用しており、スタジオ・マスターと同じ音質を実現可能だ

DTS-HD Master Audio対応のプレイヤーとAVアンプをHDMI1.3で接続することでDTS-HD Master Audioのスペックを最大限に発揮できる。対応するハードウェアにはロゴが表示されている

DTS-HD Master Audio対応のプレーヤーとAVアンプをHDMI1.3以上で接続することによってDTS-HD Master Audioのスペックを最大限に発揮できる。対応するハードウェアにはロゴが表示されている


DTS-HD Master Audioのロゴ


藤崎:そうですね。DTS-HD Master Audioは24.5Mbpsまでの可変ビットレートによるロスレスでオーディオエンコードをおこなっています。この作品では16bit/48kHzのサウンドを5.1ch分収録していますが、DTS-HD Master Audioのスペック的には、24bit/96kHzでは最大7.1ch、24bit/192kHzでも6ch分収録できるという余裕があるのです。そもそもDVDでのオーディオのビットレートは最大で1.5Mbpsですから、まったく次元の異なる音を出すことができるわけです。

鈴木:本当に余裕がある感じのサウンドですね。サラウンドの中にいる状態がハッキリと「見える」ので、聴いていてとても気持ちがいい。やはりDVDメディアの時代が長すぎたと思います。この音はDVDには無理。これまでDVDでの作品はいろいろと作ったけれど、作品の長さによって音質が大きく違ってしまうのも問題でした。30分程度のものならまだしも、2時間とか2時間半になると音に割ける容量が少なすぎて音質がとても劣化してしまう。Blu-rayとDTS-HD Master Audioでそうしたネックが解消されるのだとしたら、本当に嬉しいことですね。

―これだけのサウンドを各家庭で楽しめるようになればベストですが、そこまで実現するのは、まだ難しそうですよね。

藤崎:現在販売されているほぼすべてのBlu-rayプレーヤー/レコーダーにはDTS-HD Master Audioをデコード、またはビットストリームアウトする機能を備えているので、それほどハードルは高くないと思います。ただ、AVアンプの場合、古い機材だとロスレス環境に対応していないものがあります。ここでぜひ訴えておきたいのは、このDTS-HD Master Audioには従来の圧縮方式であるDTS Digital Surroundによるデータも含まれていることです。つまり、古いAVアンプでも、1.5Mbpsのビットレートで『アウトレイジ』などBlu-ray作品を再生することが可能になってますが、ここは是非Blu-rayでの高音質を体感していただきたいですね。

―Blu-rayは映像だけでなく、オーディオの良さが非常に効いてくるので、これからBlu-ray(を採用した)作品が増えてくることを期待したいですね。

藤崎:お陰様で今年に入ったあたりから、DTS-HD Master Audioを採用したBlu-ray作品がぐっと増えてきていて、映画作品に関しては売上枚数ベースで9割以上での採用となっています。この音の良さが評価されてきた結果だろうと思っています。『アウトレイジ』も含め、ぜひ高品位なサウンドを多くの方々に味わっていただきたいと思っています。

鈴木:音楽を作る側としても、やっぱり音質、クオリティー面で譲れないところがある。そこをDTS-HD Master Audioが保証してくれるのであれば、嬉しいですね。ぜひ、今後のさらなる普及に期待したいところです。


映画の「音世界」を再生し尽くすDTS-HD Master Audio

 今回、dts JapanのAVルームでお二人に話しを伺いながら、『アウトレイジ』の本編を視聴したが、想像以上に高音質なサウンドに感激した。

 あらかじめ、格別いい再生環境とはいえない自宅のフロント2チャンネル&サテライトスピーカーというサラウンド環境で視聴した際にも、その音の良さは十分に感じられた。しかし、AVルームで充実したサラウンド設備を使って聴くと、まったく違う世界のサウンドに感じられた。

 『アウトレイジ』の場合、爆発音などの効果音を中心に重低音がかなり効いているため、サブウーファーの威力も絶大。また、慶一氏のシンセによる重低音も結構なもので、自宅で聴いた音楽とはかなり違う印象で受け止めることができた。

 こうした音質の良さを支えているのが、映画の音声をロスレス圧縮で収録したDTS-HD Master Audioだ。慶一氏の指摘するとおり、まさに「レコーディングスタジオの音」そのままという感触であり、その迫力、臨場感、表現力のみずみずしさに驚かされる。

自宅の再生環境をもう少し整えれば、これだけのサウンドを味わうことが可能になるわけで、改めてBlu-rayにおける「音」の秀逸さを思い知らされる。CDとは比較にならないオーディオ性能を発揮できるのだから、今後音楽作品も含めて、どんどんコンテンツが増えてくることを期待したい。

【Reported by 藤本健】
■関連リンク

DTS-HD Master Audio 技術情報
http://www.dts.com/Consumer_Electronics/Computers_JP/DTS_Technologies/DTS_Premium_Suite/DTS-HD_Master_Audio.aspx

『アウトレイジ』DVD&Blu-ray 製品情報
http://office-kitano.co.jp/outrage/main.html

鈴木慶一HP
http://www.keiichisuzuki.com/

北野武監督作、“全員悪人”の『アウトレイジ』BD/DVD化ー12月発売でBD 5,040円。BD+DVDのスペシャル版も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100818_387665.html