「進化を続けるケータイ」そんな言葉がぴったり当てはまるように、時代を切り開いてきた日本のケータイ。iモードのサービス開始以降、世界では例を見ないほど、幅広いユーザーが積極的にモバイルインターネットのサービスを活用するようになり、市場も大きく成長を遂げた。端末もiモードを中心に実現される多彩なサービスとともに着実に進化を続け、ビジネスシーンはもちろん、生活シーンにおいても欠かせない存在となった。iモード、FOMA、おサイフケータイなど、ケータイのさまざまな可能性を拡げてきたドコモだったが、2008年を機に、スマートフォンの展開やXi(クロッシィ)の登場など、新しい時代を迎えることになる。
変革とチャレンジ
ケータイに限ったことではないが、それぞれの業界において最大のシェアを持ち、市場を牽引する立場にある企業は、いろいろな意味合いにおいて立ち居振る舞いが難しいとされる。たとえば、携帯電話業界では2006年のナンバーポータビリティ(MNP)の開始によって、同じ電話番号のまま、契約する携帯電話事業者を選べるようになったため、もっとも古くからサービスを提供してきたドコモは、他事業者にもっとも狙われやすい立場に置かれてしまった。
こうした状況において、トップシェアを持つ企業は往々にして、守りに入ってしまう傾向があるが、ドコモは2008年4月に「新ドコモ宣言」とともに、新しいコーポレートブランドのロゴを発表し、自らが積極的に変わっていこうとする姿勢を打ち出した。時を同じくして、それまで法人営業本部長を務めていた山田隆持副社長(当時)が代表取締役社長に就任し、体制的にも新しい時代を迎える。
国内では携帯電話事業者の買収や業界再編がくり返されたため、当時のドコモのロゴマークはもっとも古く、もっとも長く親しまれてきたものだった。コーポレートブランドの変更から4年が過ぎた現在でもドコモのことを当時のロゴ表記と同じように「DoCoMo」と書く人を見かけるが、それくらい強いイメージがあったにも関わらず、そこに留まることなく、新しいドコモを創り出していこうとする姿勢を見せた。このときの新ドコモ宣言と新しいコーポレートブランドの発表には、ボクも当時の原稿に書いたが、ドコモの並々ならぬ意気込みを感じたことを覚えている。
こうしたドコモの姿勢は、当時の山田隆持代表取締役社長が掲げた「変革とチャレンジ」というキーワードによって、ドコモ全体に浸透し、我々ユーザーにとっても新しいドコモを感じさせる時代を迎えることになる。たとえば、料金面ではパケット定額サービスを二段階定額で利用できる「パケ・ホーダイ ダブル」を開始し、サービス面では新しいドコモの象徴的なサービスとして定着していく「iコンシェル」がスタートする。
なかでもここ数年のドコモの料金施策の中で、個人的にも非常にうれしかったのが2010年8月にスタートした「海外パケ・ホーダイ」だ。ボク自身は年に数回程度だが、海外で催されるイベントなどを取材する記者やライターにとって、海外での携帯電話利用はどうしても料金面の負担が大きくなってしまうが、海外パケ・ホーダイがスタートしたことで、海外出張時にスマートフォンでの通信が日額単位の定額になり、非常に使いやすくなった。さらに、スマートフォンでの通信だけでなく、パソコンを接続してのデータ通信も定額の対象になっているため、滞在先のホテルなどで通信環境がないときにも対応できるという安心感が大きい。今夏もロンドン五輪の開催に際し、8月31日まで「イギリス限定『海外パケ・ホーダイ』キャンペーン」を実施しており、おそらく応援や観戦に訪れた日本からの渡航者に喜ばれているはずだ。
山田前社長は就任以来、発表会や決算説明会など、事あるたびに「お客様満足度の向上」を強く訴えていたが、こうしたさまざまな施策を打つことにより、顧客満足度調査でも1位を獲得する。先日、決算説明会後に携帯電話業界を取材するメディア関係者と話す機会があったが、その席でもこの4年間でドコモのイメージが明るく元気になったことが話題になったくらいだ。ボクのまわりでも、iモードケータイからスマートフォンへの機種変更をドコモショップで行ったときに、乗り換えの際の説明や、端末の設定などを丁寧に対応してくれたという話もよく聞く。ボク自身も一人のドコモユーザーとして、ドコモショップのきめ細かな対応状況なども含め、今まで以上に付き合いやすく、頼りになる存在になったという印象を持っている。
スマートフォンへのチャレンジ
山田前社長が掲げた「変革とチャレンジ」は、料金施策やサービス、顧客対応の面だけに表われているものではない。やはり、端末にも大きな変革とチャレンジが訪れる。そう、スマートフォンへのシフトだ。
今や、業界でもっとも充実したスマートフォンのラインアップを揃えるドコモだが、2008年頃から個人ユーザー向けのスマートフォンを意識した展開をスタートさせている。たとえば、それまで法人向けに展開されてきたBlackBerry®サービスにおいて、2008年8月からは個人向けの「BlackBerry® Internet Service」も提供し、2009年2月からRIM製「BlackBerry® Bold™」を発売している。BlackBerry®については、映画などでよく見かけていたこともあり、個人的にも従来から興味を持っていたが、実際に使ってみると、QWERTYキーの操作性だけでなく、仕事のメールアドレス宛てのメールを簡単にやり取りできる環境が気に入り、しばらくはiモードケータイとの2台持ちを実践していた。
2009年7月には初のAndroidスマートフォンとなるHTC製「HT-03A」が発売された。丸みを帯びたボディとトラックボールタイプのポインティングデバイスが印象的だったが、国内向けでは事実上、はじめてのAndroid搭載スマートフォンということもあり、個人的にもかなり楽しんだスマートフォンのひとつだ。当初はアプリやウィジェットもそれほど豊富ではなかったが、いろいろなものをダウンロードして試してみた。初期のAndroidスマートフォンということもあり、電池残量がすぐに少なくなってしまい、同梱されていたもうひとつの電池パックに交換しなければならないなどの手間もあったが、Androidプラットフォームが新鮮だったこともあり、そんな手間も楽しいと思えた一台だった。
2010年に入ると、現在でも人気の高いソニー・エリクソン製「Xperia™ SO-01B」、サムスン製「GALAXY S SC-02B」が相次いで発売される。Xperia™は2009年秋にグローバル向けに「Xperia™ X-10」として発表されていたものをベースに開発されたモデルだった。GALAXY Sについては、2010年夏モデルの発表会の席において、当時の山田社長が同年秋に発売することを明らかにして、話題になったことが記憶に新しい。どちらもグローバル市場に供給されるモデルがベースだが、日本語環境だけでなく、それぞれの開発メーカーとともに、プロモーションやサポート体制なども含め、きちんと日本市場に合わせてきたことも好印象だった。「海外で売れてるから、日本に持ってきました」ではなく、日本のユーザーのためのスマートフォンを提供しようという姿勢は、やはり、前述の新ドコモ宣言にはじまるドコモの取り組みが表われたものだろう。
そして、2010年12月にはいよいよワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信といった日本仕様をサポートしたシャープ製「LYNX 3D SH-03C」、東芝製「REGZA Phone T-01C」が発売され、本格的にスマートフォンへのシフトがはじまる。それまで「ケータイからスマートフォンに乗り換えると、○○が対応していないから……」という声が多く聞かれたが、日本仕様をサポートしたスマートフォンがラインアップに加わったことで、ボクの周囲でもスマートフォンを使いはじめたり、乗り換える人が増えはじめた。ボク自身もドコモの回線については2台持ちの体制だったが、仕事用のメールの送受信をはじめ、外出先でのスケジュール確認、メモ、Evernoteに保存しての資料確認など、非常に便利に使うことができた。
最近のことなので、読者のみなさんも覚えているだろうが、ドコモは2010年冬~2011年春モデルの発表会において、スマートフォンの新機種にEvernoteをプリセットし、1年間のプレミアム会員サービスを提供した。現在もこのキャンペーンは続いており、ボクの周囲でもこのキャンペーンを利用してEvernoteを使いはじめた人が多く、PCやスマートフォンなど複数端末での情報共有に便利に利用されている。スマートフォンを開発するだけでなく、使うためのツールもきちんと提供してきたことが、この数年間のドコモにおけるスマートフォンの拡大を後押ししている。
話題性としてはスマートフォンが注目されていたが、2008年~2009年にかけてはドコモのラインアップもiモード端末が中心で、多くのユーザーはiモードケータイを利用していた。この時期のiモードケータイはFOMA 905iシリーズで、ひとつの完成形を作り上げたFOMAをさらに熟成させ、多彩なモデルでスキのないラインアップを取り揃えていたが、大きな転機となったのは2008年11月に発表された2008年冬~2009年春モデルだろう。
このときの発表では、それまでの90Xi/70Xiシリーズという構成を改め、ラインアップを「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」という4つのセグメントに分類し、ネーミングルールも「N-01A」のように、「ブランド名」「数字(登場順)」「発表された年(時期)」を組み合わせた現在のスタイルに変更している。当初、この4つのセグメント分けについて、ボク自身は今ひとつ馴染めなかった感もあったが、あまりケータイに詳しくない普通のユーザーと話してみると、意外にもセグメント分けをちゃんと理解していて、各セグメントの意味がきちんと浸透しているんだなと、ちょっと驚かされたこともあった。
次のステージへ進む、Xi(クロッシィ)の登場
モバイルの世界において、いくつもの革新を起こしてきたドコモだが、現在進行形の革新と言えば、2010年12月にサービスが開始された次世代高速通信サービス「Xi」だ。LTE方式の採用により、受信時最大75Mbps(一部エリアのみ)という高速通信を実現できるが、はじめて製品でテストしたときは、アプリのダウンロードや、写真を多用したWebページ、動画共有サイトの閲覧などが快適な速度で利用できたことに加え、レスポンスの良さにも驚かされた。もちろん、開発中にも何度となく、取材や展示会などのデモンストレーションで見ていたので、どれくらいのポテンシャルがあるのかは理解していたつもりだが、実際に商用サービスとしてスタートしても十分なパフォーマンスが得られていたことにはボクも驚き、ドコモらしい堅実さが表われていると感じた。むやみに宣伝などでイメージばかりをアピールするのではなく、きちんとネットワークを整備し、使える環境を着実に整えていく姿勢は、ユーザーとしても安心ができるものだ。今後、さらにエリアが拡大していくことで、多くのユーザーがその快適さを体感できるはずだ。
Xiは当初、データ通信端末とモバイルWi-Fiルーターからスタートしたが、2011年冬モデルからはいよいよXi対応のスマートフォンがラインアップに加わり、今夏はさらにモデル数も拡大している。いずれも魅力的なモデルがラインアップされているが、個人的にはLGエレクトロニクス製「Optimus LTE L-01D」「Optimus it L-05D」、サムスン製「GALAXY S III SC-06D」、シャープ製「AQUOS PHONE ZETA SH-09D」、NECカシオ製「MEDIAS X N-07D」などが気に入り、順番に使ってきた。特に、今夏のモデルはXi対応スマートフォンの機種数が増え、ディスプレイも3.4インチから5.0インチまで多様なサイズが用意されており、ボクのような男性だけでなく、手の大きくない人や女性にも持ちやすいモデルが増えてきた。さらに、音楽再生機能に注力した「AQUOS PHONE st SH-07D」や、女性向けファッションブランドとコラボレーションした「F-09D ANTEPRIMA」、ジョジョの奇妙な冒険とコラボレーションした「L-06D JOJO」(限定15,000台)といった、個性的なデザインの端末もラインアップされている。もちろん多くの端末がおサイフケータイや防水に対応しているのも安心で、周囲の人から「どれにしよう?」と相談を受けてもいろいろなバリエーションを説明しやすくなり、幅広いユーザーに選びやすいラインアップとなっている。
Xi対応スマートフォン以外でも利用できるが、ドコモの「しゃべってコンシェル」はスマートフォン未体験の人にもウケがいい。CMなどで何となくイメージをつかんでいるものの、なかなか店頭だと恥ずかしくて試しづらい人が多いようで、スマートフォンへの移行を考えている人などに会ったときに、実際に試してもらうことがある。そうすると、簡単に検索できることの利便性や、メール入力やアラームなどの操作ができることはもちろん喜ばれるのだが、「スマートフォンに向かって話すと、答えが返ってくる」という流れと、ちょっとコミカルな口調が楽しく感じるようで、ほとんどの人は「買ったら、試したい」と話している。
ドコモは2010年から渡辺謙さんや堀北真希さんを起用し、スマートフォンやタブレットを擬人化したCMを制作しているが、しゃべってコンシェルのようなサービスを使っていると、本当に自分のスマートフォンやタブレットが頼れる、時にはちょっと笑わせてくれるパートナーのような存在に感じられる。この20年で、ドコモはスマートフォンやタブレット、ケータイといった端末を開発するだけでなく、それを安心して使えるようにする料金やネットワーク、便利に楽しく使えるようにするサービスやアプリ、きめ細かな対応が高い満足度を得ているアフターサービスなど、さまざまな面でユーザーを支えてきたからこそ、ユーザーに広く支持されてきたことがよくわかる。
これまで全4回にわたり、ドコモがスタートした1992年から現在に至るまで20年間のドコモの歩みを振り返ってきたが、これからも時代の流れとともに、端末や機能、サービスは進化を遂げ、ボクらとケータイを取り巻く環境は変わり続けていくかもしれない。ドコモは、端末ラインナップの充実だけでなく、「しゃべってコンシェル」や「メール翻訳コンシェル」、「通訳電話」など、便利に使うためのサービスの提供にも力を入れ、挑戦し続けている。今後も、端末、サービス、料金など、さまざまな面で今まで以上に積極的かつ丁寧にアプローチをしていき、ユーザーに新しい体験を提供し続けて欲しいと思う。
ドコモにはこれまでも、そしてこれからも、ボクらのもっとも身近なパートナーとして、泣き、笑い、喜ぶ日々をいっしょに過ごしていって欲しい。
※ 掲載の内容は2012年8月10日現在の情報です。
※「BlackBerry®」「BlackBerry® Bold™」は、Research in Motion Limitedの商標および登録商標です。
※「Android」は、Google Inc.の商標および登録商標です。
※「Xperia」は、Sony Mobile Communications ABの商標または登録商標です。
※「LYNX」は、シャープ株式会社の商標または登録商標です。
※「REGZA Phone」は、株式会社東芝の登録商標または商標です。
※「AQUOS PHONE」は、シャープ株式会社の商標です。
※「MEDIAS」は、NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。
※「Evernote」は、米国Evernote社の商標または登録商標です。
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」、「できるポケット docomo AQUOS PHONE SH-01D スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」、「できるポケット+ GALAXY S III」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。
- ■URL
- ドコモthanksキャンペーン/DOCOMO 20YEARS COLLECTION
http://walkwithyou.jp/thanks/PC/#collection - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第3回 おサイフケータイ開始、進化を続けるFOMA
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/03/ - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第2回 iモードの成功、FOMAへの挑戦
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/02/ - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第1回 デジタル化、そしてパケット通信へ
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/01/