Reported by 桃井一至(2013/9/9)
良い画質って、なんだろう。
解像度の高さ、色、ピント、露出…。
各社、新機種が出るたびに高画質をうたっているが、カシオでは「好画質」を目指しているという。
「好画質」と言ってもいろんな要素が含まれていると思うが、そのあたりをカシオ計算機株式会社QV事業部で画質担当をされている松永剛さんに伺ってみた。ちなみに松永さんは民生向けデジタルカメラの先駆けとなったQV10からデジタルカメラに携わる、カシオの画質マイスターだ。
――カシオの好画質とはなんでしょうか。
松永:好画質を作り上げるには、いくつかのポイントがあります。まず技術的なバックボーンをお話しましょう。
ひとつめは主要被写体が最適露出になることです。そのために顔検出をはじめとするシーン判定を高度に行い、マルチエリアトーンカーブにより、どのようなシーンでも自然な最適露出を心がけています。
2つ目にはオートホワイトバランス(AWB)を安定させて、色の転びを減らしています。これには画像のパターン解析や画面をピクセル単位まで細分化して、ミックス光源に対応するなど、少しでも外れを減らす努力をしています。たとえば、人物に照射されたフラッシュと背景の光源の違いによる色の転びなどを補正しています。
3つ目はダイナミックレンジを広げるための技術です。撮像センサー本来の持つダイナミックレンジの広さも大切ですが、明暗差の激しいシーンなどシーン判定によるHDR(ハイダイナミックレンジ撮影)やフラッシュ発光のタイミング、発光量の最適化などを行っています。
――他社と違う視点での絵作りをされているとのことですが。
松永:忠実な再現や記憶色と言った画質設計を他社はされていますが、私たちの目指すのは忠実を狙うよりも、ユーザーがその空間にいて感じていたものを残すよう心がけています。
以前にあった話ですが、お客様から、旅行先で撮影した写真の空が、青く写ってないとお叱りを受けました。
お客様は青空だったと話されるのですが、その写真を見せてもらうと明らかな逆光で空が青く写るようなシーンでありませんでした。それでも、お客様は青空の印象をお持ちだったのなら、写真をその印象に近づけてあげたいなぁ、と。
このような経緯もあって、我々が用意しているコンパクトカメラの領域であれば、そちらのほうが多くのお客様に喜んで頂けると思っています。
また仕事柄、写真投稿系サイトやSNSなどもよく見るのですが、評価の高い写真を見ると、コントラストや彩度が高い写真が好まれるのがトレンドです。以前は写真誌などのコンテストの上位作品を見ても、専門家が見て評価したものが中心でしたが、今はSNSなどから一般の方々の評価が高いものは、どのような傾向が好まれるか様子を見て取れますから、参考にすることも大いにあります。
人物の場合は、自分が撮りたいように仕上げるよりも、写る人に「このカメラで撮って欲しい」と思われる画質を目指しています。赤ちゃんは自分で判断できないので、親の目線で仕上げていきます。
自分の子供が小さなころは、よくテスト撮影の被写体として手伝わせましたが、自分の子供がサンプルだと、良い画質に仕上げるのに俄然、やる気が起こります。これは社内の誰もが同じようで、「画質は被写体への愛が大切」だと、気持ちを引き締めて、作っています。
それでも肌色は難しく、特に地域でも変わるので、こまめにトレンドをリサーチしています。日本では少し前に美白ブームがありましたが、そのブームが今、東南アジアに移っています。それらの好みに合わせられるよう、主に使われる屋内光源なども調査しながら、作り上げています。
お客様に喜んで頂ける好画質を得るために時代によって、画質のチューニングを変えています。もちろん、毎年のモデルごとに変えるわけでなく、もっと長いスパンですが、前述の調査などから少しずつ調整、変更しています。
さらにお客様の実状に即した検証をするために、あえて等倍での画質にこだわらず、一般的な家庭用プリンタやパソコン、スマホなどでもっとも多いであろう、利用シーンを想定して最善となる絵作りを行っています。
画質評価を行うとどうしても細かなところばかりに目が行きがちなのですが「木を見て森を見ず」にならぬよう、フィールドでの主観評価を行います。評価も色に関するスキルのある人からない人まで、いろいろな人の意見を交えて、総合的に行い、10年、20年後に見ても、記憶通りに感じられる画質を求めて作っています。
――カシオといえば、近年は超高速連写のイメージが強いですが、画質との関連性はあるのでしょうか。
松永:高速連写を行うには、優れたセンサーや高速プロセッサなどが揃わないと実現できません。
連写もいわゆる動体の一瞬を切り取る高速連写だけでなく、HDR撮影のように複数枚の露出を変えた画像を高速連写する撮り方もあるわけです。
高画素化でデータの大容量化も進んでいますが、それも演算処理を並列で行い、目的に応じて構成を変えられるリコンフィギュラブルプロセッサで速さと高画質が両立できるようになりました。プロセッサが高速になると、いわゆる連写スピードだけでなく、多岐にわたる画像処理も迅速に行えますから、高画質にも結実しやすいと言えます。またリコンフィギュラブルプロセッサは最先端の技術に柔軟に対応できるため、さらになる進化にも臨機応変に対応可能です。
まとめ
今回の取材にあたり、EX-ZR800をメーカー担当者のおすすめ通りに、いちばんイージーな「プレミアムオートPRO」モードを中心に試してみた。
最初に感じたのが画像認識技術の賢さだ。
レンズを被写体に向けると、すべてを見透かされたように、背面モニター下部に「人物」「逆光補正」「黒つぶれ補正」「三脚夜景」など、被写体やカメラが行う対応が表示される。 続けてシャッターボタンを押せば、一枚撮りの時もあれば、複数回のシャッターが切れて、明部から暗部までのディテールの見えるHDR処理された画像が瞬時に表示される。
写真を趣味としている人ならばわかると思うが、たとえば屋内から窓枠を入れて外を見た逆光シーンで撮影すれば、外だけに露出が合って、屋内は黒くつぶれるのが一般的。良くても暗部補正機能で多少マシになる程度だ。その点、本機のプレミアムオートPROなら、目で見た状態に比較的近い自然な明暗差で仕上げてくれる。
もちろんHDRの積極的な多用は、好き嫌いがあるかもしれないが、コンパクトカメラを主に使う、特にカメラ操作に詳しくない人にしてみれば、失敗の少ないほうが良いに決まっているし、ベテランユーザーでも日常的な撮影であれば、気を使わずに撮れるのはうれしいはず。(ライティング機能は任意でOFFもできる)
ポートレート撮影時もバッファ容量が多いのか、一眼レフ並みに軽快に一枚ずつ重ねていく。スピードをウリにしているだけあって、コンパクトカメラらしからぬレスポンスで、ストレスのない撮影が楽しめた。5段分の補正が可能という5軸手ブレ補正も強力で、屋内や夜景、超望遠シーンもキレイにこなす。もちろん、好画質は強力な手ぶれ補正もあってのことだ。
作例を見てもらえばわかるように、心地良い色再現の画像が並ぶ。 厳密に言えば、一部にその場で見た光景よりも少し脚色した感もあるのだが、むしろそれが万人に好まれる仕上がりになっているだろう。
今回の話を伺ったなかで、耳に残ったのが「等倍画質の評価にこだわっていません」と、キッパリ言い切られたことだ。 カメラファンの中には、重箱の隅を突くように、実用とかけ離れた拡大率で良し悪しを判断している人も多いはず。もちろん、評価軸は人それぞれで、その見方を否定する気もないが、コンパクトカメラの実用領域で、無理に背伸びせずにユーザーにとっての最善の好画質を作るカシオの姿勢に共感を覚えた。
実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
■プレミアムオートPRO
■BS_夜景人物
■メイクアップ
■アート
■ベストショット
■ライティング
■タイムラプス(動画)
ZR800/ 約54MB / 1920×1080 /H.264/タイムラプス1/2秒/5分
※オリジナルファイルをダウンロード(約51.5 MB)
カシオ計算機によるタイムプラスの作例
モデル:羽鳥あい[グルーヴィー・エアー]
URL
- カシオホームページ | CASIO
- http://casio.jp/