クルマで旋回せよ! 要するにそれはあれですね、定速走行しながらハンドルを少し切って、円を描くように走れということですね。ええ、もちろんできますよ、簡単です。えっ? それを氷の上でやれと? あなた、いったい何を言っているのですか……。

 何の因果か不肖・高橋、十数年ぶりの帰郷はブリヂストンの新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXの試乗会のためであった。そしていま、私はプリウスのハンドルを握りしめ、そのプリウスは「氷の上」にある。前編でお伝えした氷上ドームとは異なり、この氷上旋回路は屋外にある。また、氷上ドームのコースは短い直線だったが、こちらは旋回走行をするためのコースなので円形、しかも結構な走行距離が確保されている。

 ではこの氷上旋回路で、私は何を体験すべきなのか? 氷上で新しいスタッドレスタイヤの試乗、そして旋回走行。そう、新しいBLIZZAK VRXがどれぐらい滑りづらいか、逆にどこから滑り始めるのか? 氷上におけるカーブ時の性能を、実際に体験しようというのだ。そのために用意されているプリウスは2台、1台はBLIZZAK VRXを履いており、もう1台は従来モデルのスタッドレスタイヤ、REVO GZを履いている。

氷上旋回路の表面。当たり前の話ですが氷です。スケートリンクではなく、クルマを走らせるテストコースです   2台並んだプリウス。かつて私の愛車でもあった訳で、その乗り味は熟知している。なのでタイヤの違いに集中して試乗できる

 ちなみに雪道では当然、四輪駆動がもっとも走りやすいクルマである。というか四輪駆動は雪道に強い。その次がプリウスのようなFF車、そしてFR車は雪道が苦手と言われる。FR車の場合、後輪駆動であるため、リヤが動揺しやすいということだ。ただし北海道の友人に聞いてみたところ、FFだろうがFRだろうが滑るときは滑るし、最近のクルマは「よくできている」ので、確かにFFは雪道で有利だがFRも走っているとのこと。そして友人曰く「どんなクルマだろうと安全運転すればよし!」ということだった。

まずは従来モデルのREVO GZを試す。スタッドレスタイヤの威力というか、進化に驚きを感じる

 プリウスに乗り込み、まずはREVO GZを試してみる。氷の上ということで氷上ドームの時と同様、緊張感はかなりあるが、屋外なので圧迫感が少なくて助かる。まずはゆっくり走り出し、少しずつスピードを上げ、どこからコントロールが効かなくなる(滑る)かを確認する。氷上の旋回走行では外側に向かって、ズルズルと車体が滑り出したり、曲がろうとしているのにタイヤが滑って直進するといった現象が発生する。プリウスの場合は、氷上旋回してグリップ力を失うと、あり得ないぐらいカーブが膨らむ。

 REVO GZの次はいよいよ新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXである。REVO GZの時と同様に旋回走行を行いつつ、慎重にスピードを上げていく。いや、比較対象のある試乗は本当にわかりやすい。というかブリヂストンも自信があるから比較試乗をさせるのだろうし。「ここでREVO GZの時は滑り出した」というスピードを超えても、BLIZZAK VRXはグリップ力を失わず、旋回走行を続けたのだ! もちろん氷上の旋回なのだからスピードは超低速である。REVO GZの場合、私の運転では20km/h以下のスピードで滑り出したのだが、BLIZZAK VRXの方は20km/hを超えることができた。

次に新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXを試す。実に分かりやすく、REVO GZの性能を上回っている!   氷上旋回路、BLIZZAK VRXで制覇するの図。おっさんがいきがっている訳ではない
氷上、滑る滑る! プリウスから降車して歩いているときの方が滑る   しっかり氷を掴むBLIZZAK VRX。油断は禁物だが、これなら凍結路面でも安心できる

 本当のことを言うとREVO GZでもかなり驚いたのだが、BLIZZAK VRXがそれをあっさり超えたことに、さらに驚かされたのである。低速であるものの、安定した旋回性能を見せるBLIZZAK VRX。いや、別の見方をすればスピードを上げず慎重に走れば、そしてBLIZZAK VRXを履いていれば、これだけツルツルピカピカの氷上でも安全にカーブを曲がれるということだ。まったく最新のスタッドレスタイヤというのはスゴイ! とか思うスタッドタイヤ世代のおっさんであった。


雪道を駆け抜けるBLIZZAK VRX(ただし安全運転)

 前編に引き続き、ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXの試乗レポートである。場所は北海道士別市にある、同社のテストコース、北海道プルービンググラウンド。厳寒の士別は、積雪もかなりある。タイヤやクルマの冬季テストにはもってこいの環境が、さまざまなメーカーのテストコース誘致を成功させた。そして何より北海道士別市は、私の故郷なのである。

 さて、試乗というか体験走行の話。余談になるがこの試乗には本サイトを含めて、さまざまなメディアが参加する。いくつかのメディアが班を作り、その班ごとに移動して試乗を行うのである。こうした状況のため、テストコースによってはほかのメディアの走りを見ることになる。雪上路のテストコースもそういった状況であった。そしておっさんは思うのである。なんでそんなに速く走るのですか……と。

 そもそもクルマのメディアには、プロ、あるいはセミプロ級のドライブテクニックを持った人がたくさんいる。編集者にしても、ライターにしても、場合によってはカメラマンにもそういう人は多いのだ(クルマ好きが多いってことだね)。そんな人たちを制限速度なし、まるで冬季ラリーのようなコースに解き放ったらどうなるか? そう、ドラテクを駆使しつつ、結構なスピードで走り出すのである。

 一方、こっちは普通の物書きのおっさんである。ドラテクなんぞ、引き出しのどこを探したって出てこない。まあいい、人それぞれな訳だし、肝心なのはBLIZZAK VRXの走行性能を体験することである。開き直ったおっさんは、高速走行可能なコースでは珍しい「安全運転」に徹するのであった。ちなみに速く走っている人も安全には気を使っている。しかし、限界性能を試すためには速く走らざるを得ないのだ。ちなみにおっさんは限界を追求しようという気持ちが、最初からまったくない。

試乗当日は雪が降ったりやんだりの天候。吹雪のようにも見えるが、これぐらいは可愛いものである。先が見えるのだから

 さて、コースの方はというと雪が積もった状態で、高低差あり、カーブありのラリーコースもどき。凍結した部分はないが雪の踏み固められた部分もあれば、雪が結構深いところもある。ちなみに雪が積もった路面、ある程度深く積もった路面というのも、氷上ほどではないが厄介である。轍が雪にしっかりついている所ではハンドルが取られたりして、とにかく安定しない。状況的には近いのは砂の上なのではないかと思う。

 そんな中、試乗のために用意されたのはフィット(FF)、ノア(4WD)、ゴルフ(FF)、そしてクラウン(4WD)である。全てのクルマがBLIZZAK VRXを履いており、このコースでは主にBLIZZAK VRXの走行性能を体験する。

 これがまた、あり得ないというか、なんというか。まず何より、グリップ感がしっかりしている。北国ではよく「雪を噛む」という表現を使うが、まさにそれ。BLIZZAK VRXではリニューアルした非対称パターンが採用され、そのパターンを細かく見ると、3Dホールドスクラムサイプ、V字ブロックなどの工夫が凝らされている。また、マルチグルーブといってトレッド表面の溝が交差する部分を多くして、その溝によるグリップ力を強化している。そう、雪道でのグリップ力が驚くほどしっかりしているのだ。

四輪駆動のノアを走らせてみる。やはり雪道はクルマを走らせるのに適しているとは言い難い   悠然と運転しているように見るが、エクストリーム緊張中のおっさんである

 「なんか運転うまくなったのかな?」とか思うおっさん。いやいや、私として半世紀ばかり生きたおっさんである。もちろんわかっているのですよ、運転がうまくなった訳ではなく、ただ単にBLIZZAK VRXというタイヤとクルマが高性能なのだということは。しかし、結構な深さの雪道を、しっかりしたコントロール下で走ることができる。そうなるとスピードがどんどん上がっていくのは、もう仕方のないことか(たぶん周囲から見れば普通か、ちょっと遅いのだけど)。

 スピードがのってきたところでカーブに差し掛かる訳だが、BLIZZAK VRXのもう一つの特徴、非対称サイド形状が活きてくる。前編でも書いたが、これはイン側とアウト側で異なるサイド形状を用い、ふらつきを低減させるというもの。特に凹凸が多い雪道、冬道ではこの非対称サイド形状が効果を発揮する。多少スピードが出てても、安定感がしっかりあるので安心できる。

FFのゴルフも試してみる。BLIZZAK VRXもよければ、クルマもいい。結果、スピードが上がってくる   疾走しているように見えるけど、それは目の錯覚。慎重に走るのですよ、おっさんは

 雪道を走る基本は「ゆっくり」だ。安全に止まれ、安全に曲がれるスピードで走ること。そしてその「安全なスピード」は、タイヤとクルマの性能で決まる。高性能なタイヤ、例えばBLIZZAK VRXのようなスタッドレスタイヤを履けば、安全なスピードの幅は広がってくる。安全なスピードの上限を高めることができれば、速く走れるというのではなく、緊急時への対応がしやすくなる。

 雪道においてBLIZZAK VRXの性能は、安定と安心をドライバーに提供してくれる。そしてドライバーは提供された安定と安心のメリットを、安全運転という形で表現すればいい。BLIZZAK VRXの性能で得られるアドバンテージは、素人に毛の生えたような私にも、しっかり伝わるものだった。

不肖・高橋、BLIZZAK VRXを履いて故郷を走る

 小学校2年生から高校卒業までの11年間、私は北海道士別市で暮らした。いまではもう東京暮らしの方が長くなってしまったが、多感な時期を過ごした場所はやはり心の故郷である。そんな士別市を四輪駆動のクラウンで走る、もちろんクラウンが装着しているタイヤはBLIZZAK VRX。

 最後の試乗は士別市の一般道で行われた。コースは自由、時間内に北海道プルービンググラウンドへ戻って来ればよい。思えばこの試乗こそ、タイヤの性能を体験する上でもっとも重要である。BLIZZAK VRXはテストコースを走るためのタイヤではなく、主に雪道、それも一般公道を走るためのタイヤなのだから。

 実は故郷で自らクルマを運転するのは初めてだった。クルマの免許を取得したのは上京した後だったし、北海道へ行った際にクルマを運転する機会はあっても、それは士別市以外のこと。さらに言えば冬の北海道でクルマを運転するのも生まれて初めてである。では雪上路と同様に緊張したかというと、決してそんなことはない。BLIZZAK VRXの性能はある程度把握できていたし、何より安全運転で行けばよいのだから。

 冬の一般公道はさまざまな状態の路面で構成されている。というか異なる路面状態のオンパレードなのだ。表面温度は低いが雪や氷で覆われていない、むき出しのアスファルト。アスファルトの上に雪が積もった状態や、アスファルトの表面が完全に凍結し、氷となった状態。その氷の上にさらに雪が積もって、一見しただけでは凍結した路面とわからない状態。さらに積もった雪が解けて、水混じりの細かい氷、シャーベット状になった状態などなど。

 表面が氷になった路面一つとっても、状況は時間帯や周辺の環境で大きく異なってくる。交通量の多い道路表面の氷はタイヤで踏み固められ、さらに磨かれて本当によく滑る。朝は温度が低いために凍結している路面が、昼を過ぎる頃には太陽熱で解けていたりすることもあるのだ。要するに異なる摩擦力のオンパレードが、北国の雪道という訳だ。

 試乗当日、士別市の天候は晴れときどき雪。気温は1日を通して低く、路面のコンディションはさほど悪くない。基本的に雪の積もったところ、凍結して路面が氷になったところ、そしてその氷の上に雪が積もったところ……。雪がシャーベット状になったところもあり、典型的な雪道が展開していた。そんななか、BLIZZAK VRXを履いたクルマで走る。

路面に降り積もった雪が、クルマに踏まれて固められている   後日撮影した士別市郊外の、典型的な道路状況。アスファルトは露出しているが、雪がシャーベット状になっている

 「あそこのスーパーには、子供の頃、本当にお世話になったんですよ」とか、駅前方面に行って「このお店、まだやってたんですねえ」とか、そんな話を同行した編集さんとしつつ、クルマは走る。前方に赤信号を発見したら、ノーマルコンディションの道路よりも早めにブレーキをかけ始める。BLIZZAK VRXがしっかり雪道をグリップし、ごく普通にクルマは止まってくれる。

 交差点やカーブでは、充分に減速してから入るようにする。ちゃんとスピードを落としていればグリップは失われないので、ごくごく普通に曲がっていくことができる。上り下りの坂道でも、グリップがしっかりしているので別に怖いといった感覚はない。ごくごく普通に雪道での運転が可能だ。そう、BLIZZAK VRXを履いたクルマは雪道を「普通」に運転できるのである。

 もちろんというか当然のごとく、雪道を走る上での常識は必須である。それはすなわち「スピードを出しすぎない」ということだ。これさえ守っていれば、あとはBLIZZAK VRXの性能を信頼してよい。止まるし、曲がるし、安定して走ってくれる。新タイヤの試乗、それも慣れない雪道での試乗という緊張する状況にも関わらず、助手席の編集さんと会話を楽しむことができた。スピードは抑え気味だが、これなら東京の道路を走るのと、なんら違いはないと思った。

心の故郷、士別市をクラウンで走る。思い出深い景色というか、ほとんど忘れていた景色というか・・・   BLIZZAK VRXを履いたクラウンと記念撮影

高性能がもたらす安全と安心、BLIZZAK VRX

 北海道に限らず北国の雪道には、三重苦が潜んでいる。「止まらない」、「曲がらない」、そして「走らない」。全ては雪道が「滑る」ために発生する現象だ。ブレーキをかけても滑って止まらず、スピードを少しでも出し過ぎると滑ってカーブで曲がらず、ちょっとした坂道でも動輪が滑って走らない。

 クルマはタイヤを履いていて、そのタイヤが路面をグリップして走り、曲がり、そして止まる。ただし、これはあくまで普通の道路の話である。雪道、そして氷上においてタイヤは、そのグリップ力が大幅に低下する。グリップ力の低下は「滑る」という現象になり、クルマの走りに大きく影響する。そこで登場したのがタイヤチェーンであり、スタッドタイヤ(スパイクタイヤ)という訳だ。

 だが、前回も書いたとおり、タイヤチェーンは制約が大きく、スタッドタイヤは環境に与える影響が大きすぎる。結果として生まれたのがスタッドレスタイヤである。ブリヂストンの場合はいまから25年前、BLIZZAKシリーズとして登場したタイヤである。そして25年、四半世紀の時を経て、BLIZZAK VRXが発売された。最新のスタッドレスタイヤとして。

 そのBLIZZAK VRXを試乗という形で試した訳だが、最終的な私の感想は「性能の高さに驚かされた」である。私にとってクルマの運転と言えば、東京都内での通勤がメインであり、そこに雪があることは年に1日、2日だけである。そんな私でもBLIZZAK VRXがあれば、クルマを安全に走らせることができる(もちろん雪道に相応しいスピードで)。というか試乗を通して「できた」と言わせてもらおう。

 私にとって雪道を走るというのは、非日常的な行為である。しかしその非日常を、BLIZZAK VRXの「滑る」という現象に対抗する性能と、凹凸の激しい雪道で走行を安定させる性能がカバーしてくれた。ちなみにBLIZZAK VRXがスタッドレスタイヤのゴールということは決してないはずだ。従来モデルのREVO GZは高い評価を受けたベストセラータイヤだったが、それを上回るタイヤ、すなわちBLIZZAK VRXが登場したのだから。

 タイヤは日々進化する。走行性能だけでなく、エコ性能やコストバリューにおいても進化が止まることは決してないだろう。近い将来、必ずBLIZZAK VRXを超えるタイヤを、ブリヂストンは発売するはずだ。だがそれはBLIZZAK VRXという、驚異的な性能を誇るスタッドレスタイヤで得られたノウハウをベースにしたものなのだ。

 雪は降るし、路面は凍る。クルマを走らせる環境としては、劣悪と言っても過言ではないだろう。だからこそ優秀なスタッドレスタイヤが求められ、そんな中でブリヂストンのBLIZZAKシリーズは高い評価を受けてきた。その開発に故郷のテストコースが役立っていると思うと、何やら誇らしい気もする。そんなことを考えながら、私は心の故郷である士別市を後にした。


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