今、私は4WDのオデッセイに乗っている。そしてそのオデッセイはブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRX(ブリザック ブイアールエックス)を履いている。オデッセイが置かれているのは、それはそれはどこに出しても恥ずかしくないぐらい、ツルツルピカピカに磨き上げられた氷の上だ。私はこれから、この状態でオデッセイを発進させ、マークのある位置でフルブレーキングしなければならない。
それは最新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXの氷上性能を体感するためだ。もちろん安全が十分に確認されていることは分かっている。が、それでも緊張するのは、やはり氷の上だからだろう。不肖・高橋、冬の北海道での運転経験は少ないが、雪道を走るクルマの同乗経験はかなりのものだ。そしてその経験が私に対して「氷は滑る! 氷は滑る!」とささやき続けているのである。だが、今さら「怖いのでパスします」とは言えないのである。
いざオデッセイ発進。目標位置まで加速したところでブレーキを思いっきり踏む。過去の経験で言うと、これだけ立派な氷の上なら、ABSも虚しく車体がツーっとかなりの距離を滑るはずだ。だが、BLIZZAK VRXを履いたオデッセイは激しくABSを作動させつつ、私のイメージよりもずっと短距離で停止したのである。ブレーキ中に左右に流されることもなく、確かに制動距離は通常の路面よりも長くなったが、私の不安を余所に、ごくごく安全に停止したのである!
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そんじょそこらのスケートリンクよりツルツルに磨き上げられた氷の上でフルブレーキ性能をテストするハメに |
正直な話、いや心の底から驚いた。スタッドレスタイヤがここまで進化していたとは! BLIZZAKブランドが登場してから25年、ブリヂストンが満を持して発売したBLIZZAK VRXに素で驚いた。こうなったらもう、とことん試してみようじゃないの、BLIZZAK VRX。
こんな感じで、私のBLIZZAK VRX体験試乗は始まった。場所は北海道士別市、ブリヂストン「北海道プルービンググラウンド」。同時にそれは、私にとって十数年ぶりの帰郷でもあった。
不肖・高橋、北海道生まれ。人生の半分以上を東京で暮らしてはいるが、心の故郷は常に変わることなく北海道士別市だと考えている。正確に言うと生まれたのは北海道苫小牧市で、そこから士別市近くの朝日町という所に移動した。そして小学校2年生になるのと同時に、士別市へと転居したのである。
旧自宅近くまでナビに頼って来てみたが、雪景色ということもあってその旧自宅を発見できなかったおっさん
高校卒業と同時に上京したので、士別市には都合11年間いたことになる。朝日町での暮らしを含めると13年ほどだろうか。いずれにしても多感な時期を士別市で過ごした訳で、そういったことからも士別市には思い入れが強い。
そんな士別市は最近、テストコースタウンとして注目される機会が多くなった。ブリヂストンを始めとして自動車やタイヤなどのメーカーが士別市とその近郊に「あること」を目的としたテストコースを持っているのだ。私が小さな頃は製糖の北限(甜菜、ビート芋から砂糖を製造する)として知られるぐらいだったが。
さて、ある日のこと。Car Watch編集部からの電話は、いつも突然である。曰く「高橋敏也、故郷にへ帰る」という企画があるのだそうだ。なんだその高峰秀子さん主演の映画「カルメン故郷に帰る」みたいな企画は? とか思った訳だが、話を聞いて納得した。要するに北海道士別市にあるブリヂストンの北海道プルービンググラウンドへ行って、同社の新しいスタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXを体験してみないか? ということ。
ああ、私のドライビングテクニックや、隙の無いレポート原稿などがついに編集部でも評価されたのか? そう喜んでみたが、話はまったく違っていた。簡単に言ってしまうと「BLIZZAK VRXの凄さを、何のテクニックも持たない素人のおっさんは感じ取ることができるか?」という話らしい。
とどめに編集さん「敏也さん、士別が故郷だって言ってましたよね? 案内してくださいよ」だそうだ。わかったがな、道案内でも何でもするがな。その上でBLIZZAK VRXを、北海道生まれの私が華麗なドラテクで乗りこなしてみせるがな!
北海道、その北に位置する上川盆地に士別市はある。東京と比較して夏は湿気か少なく過ごしやすいのだが、冬となればまるで異世界。とにかく寒くて、私が実際に体験した最低気温はマイナス38度。マイナス20度を下回ることはざらにあって、小中学校では「マイナス20度を下回ったら始業を1時間、マイナス30度を下回ったら始業を2時間遅らせる」というローカルルールがあった。ちなみに子供たちにとって霜焼け(軽度の凍傷)は珍しくなく、通学時に本格的な凍傷を負ってしまうこともあったほどだ。
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北海道の雪道。雪が踏み固められた状態はまだいい。怖いのは凍りついたツルツルの路面。アイスバーンというヤツだ |
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JR北海道、宗谷本線の士別駅。驚いたことに30年前から、さほど変わっていなかった |
さて、冒頭で「あることを目的としたテストコース」と書いたが、実はここに答えがある。そう、各メーカーのコースは「寒冷地テスト」を目的としたものなのである。低温環境下でさまざまな実験をし、評価を行う。雪の影響はどうか、氷上での性能は充分か? 長いコースを確保できる広大な大地に充分な積雪、そして日本とは思えないほどの極低温。これらを兼ね備える士別市は、寒冷地テストコースに最適だったのである。
では、そろそろCar Watch的な話に入ろう。雪は結構降るし、気温は信じられないほど低くなる。そんな環境において、クルマはどうなのか? 始動性が悪くなるとか、ワイパーやガラスが凍りつくとかいう話は当たり前のことなので省く。問題はタイヤである(よし、原稿の方向がタイヤに向いたぞ!)。当然のごとく、ノーマルタイヤで冬をやり過ごせるはずがないのだ!
そこで登場するのが、まずはタイヤチェーンである。これは今でも、そして東京でも冬になれば普通に入手できるので、珍しくはないだろう。スキーに行ったり、降雪のある地域に行く際には、トランクに入れておく人は多いはずだ。東京でも降雪があればバスやトラックが装着しているし、今も昔も決して珍しいアイテムではないはずだ。
一方、今はもうほとんど姿を消して、最近の若い人は知らないであろうアイテムが「スパイクタイヤ」である。ここで1つ、キーワードを挙げておきたい。スパイクタイヤの別名は「スタッドタイヤ」である。スタッド、すなわち「鋲」を打ってあるタイヤ、それがスパイクタイヤなのである。ちなみにスパイクタイヤに打ってある鋲は、むしろ釘とか刺に近いので、スタッドタイヤよりもスパイクタイヤという名称が広まったのだと思う(個人的な見解だけど)。ということは現在主流となっているスタッドレスタイヤは「スタッド=鋲のない(レス)タイヤ」なのである。
金属製の鋲、あるいは釘が生えたタイヤ。スパイクタイヤの雪道におけるグリップ力は圧倒的である。北の悪魔とも言われる、踏み固められたり、いったん解けた雪が凍結した氷上、すなわちアイスバーンの上でも相当の制動力を発揮する。ではそのスパイクタイヤ、なぜコンシューマー市場から消えてしまったのか?(注:競技用、さらに特定用途としては現在も使われている)。
スパイクタイヤが発生させる「粉塵」が、大きな社会問題となったからである。ある程度降り積もった雪上、あるいはガチガチのアイスバーン上では、スパイクが食い込むのは雪、あるいは氷である。ところが積雪やアイスバーンではない道路を走った場合、スパイクはアスファルトに食い込み、表面を削ってしまうのだ。
1988年、スパイクタイヤの代わりとして登場したスタッドレスタイヤのBLIZZAK。それから25年の歳月をかけて進化し続けたのが、新製品のBLIZZAK VRXだ
ここで2つの問題が発生する。1つ目はアスファルトが削られることで、路面に深刻なダメージが発生すること。交通量の多い札幌市などでは、本当に驚くほど路面がスパイクタイヤによって削られた。2つ目はその削れたアスファルトの粉が、粉塵としてあたりにばら撒かれることだ。細かな粉塵が人体に及ぼす影響もそうだが、道路周辺の雪がどす黒く変色する景観への影響も大きかった。そして春になって雪がとけると、その粉塵が大気中にばら撒かれる。その頃は、春先に道沿いを歩くと鼻の中が黒くなってしまうこともよくあった。まさに「公害」である。
世間ではスパイクタイヤを制限すべきという声が高まり、1986年には当時の通産省からメーカーへ出荷削減の指導が入った(地方自治体でも条例で制限を設けた)。もちろんそれ以前からスパイクタイヤに代わる雪道用のタイヤは開発されており、例えば1988年にはブリヂストンから初代BLIZZAKが発売されたし、ほかのメーカーからも次々にスタッドレスタイヤが発売された。スパイクタイヤに代わって、スタッドレスタイヤという新たな市場が生まれた訳だ。
長かった、本当に長かった。北海道士別市と私の関係、そして士別市というところはどういう場所なのか? スパイクタイヤなどをからめつつ書いてきた訳だが、どうしてこんなに長くなったのか? ちなみに書けと言われれば、いくらでも書くのがライターなのだけど。
さて、前置きが長くなってしまったが、ようやく本来の目的にたどり着けた。私が北海道士別市にあるブリヂストンの「北海道プルービンググラウンド」を訪れたのは、同社の新スタッドレスタイヤを体感するためである。北海道の雪道、氷上での運転がいかに困難かを熟知しているのだけど、ドラテク面では素人のおっさんがブリヂストンの新しいスタッドレスタイヤを、どう体感できるのか?
という訳でようやく25年目のBLIZZAK、ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ、BLIZZAK VRXにたどり着いた。ちなみにこのBLIZZAKというブリヂストンのブランドだが、降雪地帯においては相当な知名度を誇っている。ブリヂストンの自社調べによると、国内でスタッドレスタイヤを所有しているドライバーに質問したところ、96%が「知っている」と答えた。もちろん知名度だけでなく、ブランドイメージに関しても圧倒的にポジティブな印象が強く、BLIZZAKでは信頼性の高さ、安心感、そして高性能といったイメージが高い比率となっている。
知名度の高さはBLIZZAKの歴史を示し、ポジティブイメージの高さは正常進化を示している。新モデルがリリースされるごとに性能や信頼性が向上し、多くのドライバーから支持された結果と言ってよい。そしてそのBLIZZAK、最新モデルがBLIZZAK VRXという訳だ。
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ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ「BLIZZAKVRX」。史上最高性能を実現したという意味が込められ、「VRX(VERTEX:頂点)」と名付けられている |
ブリヂストンの話によればBLIZZAK VRXの主な特徴は以下の3つに集約される。
・新しいアクティブ発泡ゴム
・新しい非対称パターン
・新しい非対称サイド形状
発泡ゴムに関しては、BLIZZAKシリーズならではの技術と言える。1988年、BLIZZAKシリーズが登場した時から、この発泡ゴム(マルチセルコンパウンド)技術が活用されているからだ。その発泡ゴムがBLIZZAK VRXでは「アクティブ発泡ゴム」へと進化し、主に「止まる」性能に影響を与えている。
ではなぜ発泡ゴムなのか? これを説明するには「氷上でなぜタイヤは滑るのか?」を考えなくてはならない。まず氷上でタイヤが滑るのは、氷の表面がツルツルしているからではない。タイヤから伝わる重量などによって氷表面が解けて水膜となり、その水膜によって滑ってしまうのだ。ならばその水膜を取り除いてやれば、滑りの原因を解消できる。その役割を果たすのが、発泡ゴムという訳だ。
発泡ゴムの表面、すなわちタイヤの表面には気泡によってできた無数の穴(溝)が開いている。氷の上にある水がその穴に入り込み、タイヤの表面は氷の表面にしっかり密着する。これによってBLIZZAK VRXは摩擦、すなわちグリップ力を確保するのだ。これはBLIZZAKシリーズ、発売当初からの発想である。25年前に発売された乗用車用の初代BLIZZAK、PM-10でもマルチセルコンパウンド(発泡ゴム)が使用されていたのだ。
そして25年目、BLIZZAK VRXではそのは発泡ゴムがさらに進化した。タイヤ表面にある穴(溝)を親水素材でコーティングし、氷表面の水を積極的に取り込むようになったのである。なので「アクティブ」という表現が使われている訳だ。このアクティブ発泡ゴムがどれほどの効果を持っているのか、後ほどこの身をもって体感することになる。
「アクティブ発砲ゴム」は水路の表面を親水素材でコーディング。気泡の内側の壁に沿って水膜が流れ込み、路面の水膜を積極的に除去する。この結果、タイヤが氷路面にしっかり密着するのでグリップ力が高まる
新しいパターン(ブリヂストンでは伝統的に“パタン”という表現を使うのだが)に関しては、新しい非対称パターンがBLIZZAK VRXに採用された。BLIZZAK VRXのパターンをよく見ると、イン側とアウト側でデザインが異なっている。さらに特徴的なのはBLIZZAK VRXのブロックが、従来のものより小さくなっていることだ。これにより氷上、その他の路面で小さな凹凸をしっかり掴むことができるとのこと。
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従来よりブロックを小さくすることで、氷路面の凹凸に対する追従性を上げ、優れた接地性を実現 |
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BLIZZAK VRXのパターンはイン側とアウト側で異なっている。これが非対称パターン |
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写真だと横方向に走っているギザギサの切れ込みに注目。3Dホールドスクラムサイプといい、ブロック剛性を向上させている |
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ブロックの端にある小さな穴に注目。ピンホールサイプといって、除水効果があり、氷上性能を向上させるのだという |
非対称サイド形状に関しては私も以前、同社の低燃費タイヤ、ECOPIA PZXでその効果を体験したことがある。これはタイヤのサイドウォールの形状をイン側とアウト側で異なる形とすることで、直進安定性と運転操作への応答性を両立させるというもの。実際私も従来モデルとこの非対称サイドの商品を乗り比べたが、明確に違いを実感した。これは走行時、不安定になりがちな雪道では特に効果を発揮するはずだ。雪道ではゆっくり慎重に走っても、ハンドルを取られるのだから。
また非対称サイド形状は、前述したように低燃費タイヤでも採用されている技術だ。このためBLIZZAK VRXでも転がり抵抗が従来品(REVO GZ)と比較して、10%低減しているという。もちろん非対称サイド形状だけでなく、新エココンパウンドなどの効果もあるのだが。だからこそブリヂストンではBLIZZAK VRXを、経済性と環境性に優れた「環境対応商品」に位置づけている。
新・非対称サイト形状はブリヂストンの技術の結晶だ。「ECOPIA PZシリーズ」と「REVO GZ」の技術が応用されている
スタッドレスタイヤに求められる雪道、そして氷上での性能は「路面をしっかり掴まえる」ことだ。掴まえて滑らずに曲がり、掴まえてしっかり止まる。ちなみにBLIZZAK VRXでは従来品であるREVO GZと比較して、氷上ブレーキの制動距離が約10%短くなったという。そもそもREVO GZと言えばスタッドレスタイヤの中でも、大ヒットした商品だ。BLIZZAK VRXはそれを上回る性能を持っている上に、燃費も向上するのである。
私のような素人が考えても、スタッドレスタイヤがいかに難しい商品なのかは容易に理解できる。北海道に限らず降雪地帯の冬、路面はさまざまな状態に変化する。カチカチに凍りついている所もあれば、雪が降り積もった状態の所もある。気温の高い日は解けた雪でシャーベット状になってみたり、アスファルトが濡れているだけのウェットな路面になる場合もある。BLIZZAK VRXはこの全ての状況で、高い性能を発揮しなくてはならないのだから。
BLIZZAKシリーズ、25年目のBLIZZAK VRX。説明会ではその高い性能と、それを支える技術が紹介された。だが、タイヤの真価は実際に走ってこそ見えてくる。士別市、冬真っ盛り。BLIZZAK VRXは果たして、どういった走りを、として止まりを体験させてくれるのか?
ある意味、のどかな高校時代だったのかも知れない。すでに統廃合でなくなってしまった我が母校、士別高等学校。卒業前になると在学中にも関わらず、多くの生徒が普通自動車の免許を取得した。就職し、生活するにはクルマが必要不可欠という事情があったからだ。ポイントは「卒業前」ということ。要するにその時期は、真冬と重なってしまうのである。
免許を取得したばかりの若いドライバーたちにとって、北海道の雪道やアイスバーンは避けては通れぬ究極の試練である。幸い周囲には、雪道やアイスバーンがいくらでもあって、そうした環境下での運転練習が安全にできるのだ。免許を取得した私の友人たちも、実際に雪道でクルマを走らせて「ブレーキが効かないとはどういうことか」、「滑るとはどういうことか」を学び、対処方法を学んだのである。そして雪道を練習するクルマの助手席に、いつも真っ青な顔をした私がいた。
高校時代、私はバイクに憧れていたというか、バイクバカだった。なので卒業時に持っていたのは、今で言うところの普通自動二輪の免許のみ。そんな訳で私の定位置はいつも助手席だったのだが、これがまあ怖いこと怖いこと。止まれない、滑る、果ては「滑って回る」。これを免許取り立ての友人たちの助手席でかなり体験させてもらった。
そんなことを思い出しつつ、BLIZZAK VRXの試乗へと向かう。試乗では一般道、雪上コース、そして氷上でのBLIZZAK VRXを体験できるようになっていた。このうち、まず取り上げたいのがドーム内に用意された氷上コース。士別市の冬なら野外でも氷の路面を維持できるのだが、天候によって氷表面のコンディションが変化してしまう。このため、気温がある程度安定し、降雪の影響も受けないドーム内にも氷上コースが用意されているのだ。
ドーム内の氷上コースは、アイススケートリンクと呼んでもよい状態である。一般道路で言うところのアイスバーン、それも表面がツルツルになった状態に近い。実際に走ってみるとわかるのだが、とにかく滑る路面である。人だろうがクルマだろうが、気を抜けば簡単にスリップするが、クルマにとって問題は「止まれない」ということ。
そんなドーム内の氷上にホンダのオデッセイ(4WD)が2台用意されている。もちろん比較をするためで、一方にはBLIZZAKの従来品REVO GZが、そしてもう一方に今回の主役であるBLIZZAK VRXが装着されている。コースは直線なので、比較するのは制動距離ということだ。ブレーキをかけて、どれぐらいの距離で停止するのか?
もう、嫌な予感しかしない試乗だ。クルマを運転していて前方にアイスバーンを見つけたら事前に減速し、やり過ごすことを考える。アイスバーン上で止まるような事態にならないことを祈るのが普通である。なのにドーム内の試乗コースは、その氷上、というか氷上しかない。
まずはテストドライバーによる制動距離の比較である。同時にスタートしたオデッセイが、同じポイントでブレーキング。どこまで空走して止まるかの勝負、いや比較である。ああ、これは一目瞭然ですわ。BLIZZAK VRXの方が明らかに短い距離で停止する。というかですな、REVO GZもそうなのだが「その距離で、なぜ止まれるのよ!?」という印象。
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同時にスタートした2台のオデッセイ。どちらがBLIZZAK VRXを履いているかは、結果を見ればすぐに分かる(ボディにシール貼ってあるけど……) |
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手前の白いオデッセイがBLIZZAK VRXを履いている。REVO GZと比較して約10%制動距離が縮んだという言葉通りの結果 |
北海道で暮らしてきて、何度も何度も滑るクルマを見てきた。氷上で不用意なブレーキをかけ、タイヤがグリップを失うと、クルマは少しずつ回転しながらスーッと滑っていく。対処としては車体を無理にコントロールしようとせず、ポンピングブレーキでスピードを落とす(私が若い頃は、ABS非搭載のクルマも多かった)。ポイントはクルマが回転するということなのだが、上記の比較走行だとBLIZZAK VRXもREVO GZも、しっかり安定していた。
ここでついに私たちの試乗となる。見ると聞くとでは大違い、見るのとやるのはさらに違う。まずREVO GZのオデッセイに乗って、氷上でブレーキングを行う。これが実によいフィーリングで止まってくれる。氷へのグリップ感もしっかりしていて、REVO GZがベストセラータイヤになぜなったかが理解できる。
そしてBLIZZAK VRXの番、この先は冒頭で書いたとおり。REVO GZの時を意識しつつ、どれぐらいの違いがあるかに集中する。制動性、すなわちブレーキの効き具合のみを比較するなら、BLIZZAK VRXはまさに正常進化、よりよくブレーキが効いてくれる。グリップ感に関しても、素人の私がREVO GZとの違いを明確に感じ取れるほど違う。明らかにBLIZZAK VRXの方が、氷を掴む感覚が強い! 氷上のフルブレーキングということで、試乗前は不安感がかなり強かったのだが、実際にBLIZZAK VRXでフルブレーキを試すとそれが軽減される。2回制動を試したのだが、2回目はBLIZZAK VRXを信頼して心に余裕ができた。
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実際にBLIZZAK VRXを試す。ブレーキ前の状態。車体前後の傾きに注目 |
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フルブレーキの状態。車体が前に傾いているのが分かる。もちろんABSがフルに作動している |
今のクルマは急停止する際や、氷上で滑ったりした時はABS頼みでフルブレーキングするのが基本である。ちなみに以前、ブリヂストンの別のテストコースを走った際、コースを管理している人に聞いたのは「メーカーもABSありきでタイヤを開発しています」という話。なのでABS非搭載の場合を除き、それに頼るのは普通のことなのだ。
だが、それと同時に重視しなくてはならないのがタイヤ。氷上を走るクルマと、その氷表面の間にあるのはタイヤなのだから。例えば氷上でABSが効くようなブレーキングを行ったとする。同じような状況にBLIZZAK VRXのような最新のスタッドレスタイヤを履いたクルマと、そうでないクルマがあったとする。ABSの掛かり具合も一緒、車重も一緒、そうなると違いはタイヤだけ。制動距離がタイヤによって違ってくるのだ。ならばより高性能なタイヤを、特にコンディションが悪い冬の道では履くべきである。
いずれにしてもBLIZZAK VRXが氷上で、ガッツリ効いてくれることは実際に運転して体感できた。この先、さまざまなシチュエーションの試乗があるのだが、これは行ける! と、おっさん勘違いしてしまいました。この氷上試乗で。もちろんこの先の試乗で、勘違いしたおっさんは大変な目に遭うのだが……、続きは後編で!
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おまけ。私が行くところ、なぜかブリヂストンのタイヤ体感用三輪車がある。まずは夏タイヤバージョンで氷上フルブレーキング。ツルツルツル、滑ること滑ること |
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次にBLIZZAK VRXバージョンの三輪車に試乗。最新スタッドレスを夏タイヤと比較するのもなんだけど、まったくの別物でした |
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