テストコースで試走! なんとまあ、甘美な響きを持つ言葉だろう。不肖・高橋、今まで幾多の道路を走り抜けてきた。国道から始まり、私道、町道、農道、林道、そして高速道。だが、これまで「テストコース」なるものは、ただの一度も走ったことがない。そのテストコースを走らせてもらえるというのだから、これはもう千載一遇のチャンスである。
前編から引き続き、ブリヂストンの「ECOPIA EP001S(エコピア イーピーゼロゼロワンエス)」である。低燃費タイヤのラベリング制度において、ついに「AAA-a」という最高グレードを取得したECOPIA EP001S。前編では開発者の皆さんに、いろいろお話をうかがった。
そこで登場した重要なキーワード、例えば謎の白い粉、アクアパウダーを使った新配合のコンパウンド。あるいはブレーキ力分布を広く確保した、トレッドパターンなどなど。惜しみなく投入された新技術、そして応用技術によって、ECOPIA EP001Sはラベリング制度の頂点を極めた。開発者から直に聞くと、なるほど凄いと頭では理解できる。
だが、実際の走りにおいて、ECOPIA EP001Sの性能はどうなのだろう? ちなみにラベリング制度における転がり抵抗性能、すなわち燃費に関わる部分では、以前から同社でも最高グレード「AAA」の商品をリリースしている。今回、ECOPIA EP001Sで未知の世界に突入したのが、ウェットグリップ性能における「a」という最高グレードの部分だ。
私も実際に「c」のタイヤ、「b」のタイヤで実走したことはある。どちらも晴天時、雨天時で充分な性能を発揮し、不安を感じたことなどまったくない。だがECOPIA EP001Sは、それらを上回るウェットグリップ性能「a」を誇るタイヤなのだ! 果たして「a」のタイヤは、濡れた路面上でどれだけの性能を発揮するのだろうか?
いや、タイヤの性能に関して言えば、スペックだけで語ってもよいと思う。なぜならタイヤのスペックは、時として極限性能を示しているからだ。一般公道を安全第一で走る私たちにとって、極限性能はあまり意味を持たない。極限性能ではなく、その先にある「日常の性能」が重要だからだ。しかし、タイヤのテスト、テストコースでの試走となれば、極限性能へのチャレンジという意味合いも強い。
ならばそれはプロに任せて、私たちは日常の中で性能を判断すればよい。でもね、個人的には実際にECOPIA EP001Sで走って、ECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能「a」を試したい、極限に近い部分も体感したいという気持があるんですわ。そして前編の最後でも書いたが、今回、その機会に恵まれた訳だ。そう、ブリヂストンのテストコースを使って、ECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能を実際に試すことができたのである。
前編の取材を終えた時、編集さんから「テストコースでECOPIA EP001Sを実際に試してみませんか? 特にウェットグリップ性能を」というお誘いがあった。不肖・高橋、あらゆるお誘いにほいほいついて行くことには、ことさら自信がある。返事をする前に、口をついて出たのが次の質問。
「ところでそのテストコースに、ボーイング787のタイヤってありますかね? 787のタイヤもそこでテストしてるってことはないですかね?」
返答は極めてシンプル、「ないですね、ないと思いますよ」だそうな。まあ、実際なかったんですけどね、ボーイング787のタイヤ。そんなことよりテストコースで、ECOPIA EP001Sの試乗、実走である。
当日、編集さんたちと目指したのは、那須塩原にある「ブリヂストン プルービンググラウンド」、要するにブリヂストンのタイヤ用テストコースである。ちなみに「プルービング」の「プルーブ(Prove)」には「証明、実証」といった意味がある。タイヤを実際に使って、さまざまなテストやデータ集めを行う場所ということである。
プルービンググラウンドに到着した我々を出迎えてくれたのは、実車試験を担当する安藤さんと中川さん。ECOPIA EP001Sのテストは、安藤さんの指示の元に行われる。コースの説明や注意事項を聞き、さっそくテストのため、コースへと向かう。なお、注意事項といっても話は簡単、指示どおりに動き、指示以外のことはやらないだけである。
やはりテストコースは広い。まるでサーキットのようにも見えるが、そこはそれ実車を使った「タイヤをテストするためのコース」。舗装はさまざまな状況を想定したものだが、基本的には一般の道路と同じ。そこここに停車しているクルマも、馴染みのあるものばかりだった。ごくまれに特殊なテストに使用する車両もあったが、目に入ったところではほんの数台だった。
さて、まず我々が向かったのは「ウェット直線路」である。
ウェットなコンディションの直線路、アスファルト舗装。ここでテストするとなれば、もちろん濡れた路面でのブレーキ性能である。こんな機会は滅多にない。トライすべきは当然、フルブレーキング時の性能である。なお今回は、ECOPIA EP001Sと比較をするため、ラベリング制度「AAA-c」のECOPIA EP100S(エコピア イーピーヒャクエス)を用意してもらった。ECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能「a」と、ECOPIA EP100Sの「c」を比較しようというのである。
クルマの方は2010年登録のプリウス、同じ車両でECOPIA EP001SとEP100Sを履き替え、交互に試してみようというのである。なお、私が「凄かった」とか「ググっとブレーキが効いて」とか書いても説得力に欠けるので、普段のテストでも使用しているRacelogic社のデータロガーも使ってみた。今回使用したモデルでは、車速やG(加速度)の変化を記録、参照することができる。
さて、まず登場したのはEP100Sを履いたプリウス。安藤さんの指示の元、まずは中川さんがこれから我々が実際に体験するテストをデモンストレーションしてくれる。この段階で「フルブレーキングならABSが効いて“ガガガッ”っていう感じなんでしょうねえ、あはは」などとリラックスした雰囲気の高橋が凍り付く。ちょっと待て、激しすぎないか?
スタート地点から積極的に加速し、目標ラインを越える段階で80km/h以上で速度を維持、そこからフルブレーキング。プリウスはABS全開で急減速し、やがて停止する。これがウェットな路面で行われるのだ。雨天時の高速道路における急ブレーキを想定したものだが、近くで見ていると凄い迫力なのだ。
ウェットな路面を維持するため(当日は曇りだったが気温は高かった)、常に水が散布されているコースに突っ込んでくるプリウス。水しぶきもそうだが、急ブレーキの迫力があるのだ。そして問題は、次にそれを私がやらなくてはならないということ。
大丈夫か、高橋? 思えば十数年のクルマ人生で、ABSが効くほどのブレーキングは、片手で数えられるぐらいしか経験していない。信号の見落としとか、猫が飛び出してきたとか、そういった時ぐらいなものである。急ブレーキといっても、普段の運転ではABSの出番などほとんどないのである。
いよいよ私の番となり、同乗する中川さんの指示でプリウスを加速、目標ラインを越えたところでブレーキペダルを踏みつける。ABSが効いて、あのなんとも表現しがたい減速感、それこそ「ガガガ!」が発生する。ちなみに初回のトライは、ものの見事に失敗した。目標ラインを越え「減速」してからブレーキングしてしまったのだ。言葉を選ばずに言うと、私は「びびって」しまったのである。ビビリ、高橋。
もっとも2度目からは、ちゃんとブレーキングできた。結果としてはEP100Sが80km/hから0km/hに、すなわち停止するまでの距離が約33.4m、車体が受けた最大加速度は0.8Gだった。この距離や加速度がどのレベルにあるのか、それはECOPIA EP001Sと比較してみるのが一番だ。
そんな訳でEP100SをECOPIA EP001Sに履き替え、同じ車両、同じ内容で再びテスト。結果を見るまでもなく、ブレーキングの段階で「c」と「a」違いが認識できた。ECOPIA EP001Sの方が、明らかに短い距離で停まり、そのため身体で感じる減速度も大きい。具体的なデータとしてはECOPIA EP001Sの場合、約26.1mで停止し、最大加速度は1.0Gを記録した。
※数値はあくまでも一定条件下での参考数値であり、運転の仕方等によっても異なります。
ウェットグリップ性能「c」のEP100Sと、「a」のECOPIA EP001Sでは完全に停止するまでの距離に、約7.3mの違いが出たのである。少なくとも私の実走テストでは! 何度か同じテストを繰り返してみたが、結果のデータはほぼ同じだった。そしてそこから導き出される結論は、「a」と「c」に明かな違いがあるということだ。
ここで、ぶっちゃけた話をしよう。性能の違いは、値段の違いである。EP100SとECOPIA EP001Sの価格を比較すれば、当然のごとくECOPIA EP001Sの方が高い。その分だけ性能は向上し、例えば急ブレーキの際に、短い距離で停まることができる。だが、全ての人にECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能「a」が必須なのか? もちろんそんなことはないだろう。レーシーな走りをしない人が、高価なレースタイヤを履かないのと同じことだ。「c」でも充分な性能を持っているのだから、コストでEP100Sと同等クラスのタイヤを選ぶというのもアリなのだ。
一方で最高グレードというのは、やはり魅力的である。また、本当に「いざ」という時に、コスト分の違いは生じるということだ。もちろんそんな「いざ」という時が起きない、起こさないことが重要である。それでもその「いざ」は、ごく普通の運転の想定に含まれているのも事実。個人的な意見を言わせてもらうと、問題ないならECOPIA EP001Sを履いておこうよ、となる。
それにしてもECOPIA EP001Sというか、アクアパウダーというか、ブレーキ力分布の最適化というか、驚いたものだ。本当に違いが、はっきりと判る。これは次のテストが楽しみだ(フルブレーキングを何度かやって、多少余裕が出てきた高橋)。
次のテストへ向かう途中、「フルブレーキングをあれだけやって、違いも判ったんだから、もういいじゃない……」と少しだけ思った。正直に言うと、最初のブレーキングテストだけで、疲労困憊してしまったのである。びびりはすでに乗り越えていたし、次のテストにも興味津々だ。しかし、おっさん疲れちゃったよ……。
普段の生活からはかけ離れた運転、そして極度の緊張感。こんなことを毎日のように仕事としてこなしている人もいて、そういった人のお陰でタイヤの性能が維持されているのだから、まったくもって驚きだ。私はやっぱり部屋に引きこもって原稿を書いているのが一番いいらしい。
それでも先ほど書いたように、興味だけはしっかりある。フルブレーキングの次は、ウェットハンドリング路である。小さな、小さいと言っても乗用車が余裕を持って走れる道幅だが、サーキットのようなコースが我々を待っていた。それだけだったら楽しいかも知れないが、ちゃんとこちらもウェットコンディションである。
もっともこのコースに関しては、体験走行ということで、特にデータ取りなどはしていない。濡れた路面でクルマに負荷をかけながら走らせると、どういった挙動になるか? そしてその際、タイヤの違いはどう反映されるかの体験である。
ウェットハンドリング路の走行から分かったことは2つ。まず1つはプリウスの高い安全性というか、安全重視の設定である。まあ、今回のテーマとは離れているので簡単に書くが、要するにプリウスのS-VSC(ステアリング協調車両安定性制御システム)が安全重視であり、なおかつ優れているということなのだ。
これは後ほど関係してくるのだが、カーブへの進入スピードをどんどん上げて行くと、進路は外側へどんどんふくらみ、やがて横滑りが発生する。こうしたアウト・オブ・コントロールを、プリウスはS-VSCの介入で抑制するのだ。この時、運転席では警報音が鳴り、ハンドルや車体の挙動でシステムが介入していることが分かる。実によくできたシステムだが、やはりこれもABSと同様、普段の運転ではまず体験できない。
ところがテストコース、しかもウェットコンディションでは容易に発生するのだ。そしてこの介入発生のタイミング、あるいは介入が発生するまでのハンドリングに、タイヤの違いが大きく関わって来る。そう、ECOPIA EP001Sを履いたときの方が、EP100Sの時よりも介入発生のタイミングが遅いのである。ECOPIA EP001Sの方がグリップがよく、踏ん張りが利くのだ。
もちろんこのことも、ECOPIA EP001SとEP100Sを比較してこそ明らかになる。また、EP100Sを履いた状態であっても、別に不安を感じることはない。ECOPIA EP001Sと比較すると、介入が早いというだけだ。
やはり、アクアパウダー恐るべし! とか思いつつ、最後のテスト路へと向かう高橋。ちなみに緊張に次ぐ緊張で、高橋のHPはほぼゼロであった。
最後に待っていたのは、円環の理、もといウェット旋回路である。「旋回路」と言うと、何やら旋回するコースのように思うが、実際そうだ。これ以上、何も言うことはない。直径約50mのコース(コース全体はもっと大きい)、それがウェット旋回路である。ウェットというだけあって、噴水のように全面的に散水しているのが印象的だ。
もう1つの特徴は内周、外周、その間と、さまざまな路面が用意されていることだ。例えば内周には「ベルジアン」と呼ばれる、欧州で普通に見られる、いわゆる「石畳」の路面が用意されている。プルービンググラウンドでテストされるタイヤは、何も国内向けばかりではない。海外で使用されるタイヤに関しても、ここでテストが行われるのだ。そしてベルジアンの外側には、コンクリート路面、さらにその外側にアスファルト路面といった具合である。
さて、ここでやることは「グルグル回る」だ! 以上であるっ!
本当にグルグル回るったら、グルグル回る。もちろんそれだけでは済まず、グルグル回りながら徐々にスピードを上げていく。すると進路はどんどん外側に膨らみ、車体やドライバーにかかるGも強くなっていく。そのままスピードを上げ続ければ、コースアウトする訳だ。しかし、その課程でプリウスのシステムが運転に介入し、正常な走行ラインを維持しようとする。そこに至るまでの感覚を、ECOPIA EP001SとEP100Sで比較する。
ここまで来れば、結果はもう明らかだろう。ECOPIA EP001Sを履いたプリウスは、EP100Sの場合より粘りを見せ、わずかではあるがコントロール可能なトップスピードも高くなる。もっとも滑りやすいベルジアンの路面、アスファルトよりも滑りやすいコンクリート路面、どちらも同じ結果が得られた。
スピードが上がっていくと、やがて車体のコントロールが難しくなり、システムの介入が始まる。しかし、ECOPIA EP001Sを履いている時の方が、コントロールを長く維持することができる。もっともその分、車体やドライバーは強いGを感じることになる。普段、こんな運転をすることはほぼないので、神経を相当にすり減らすことになる。
それでもストレス下の運転に慣れてきた高橋、ちょっと試してみたいことができた。それはこの旋回路を「システムに介入された状態を維持したまま」1周するというものだ。もちろん周囲にいる人は、運転している私が、そんなチャレンジをしていることなど知るよしもない。
結局、システムの介入を維持したまま、1周することはできなかった。しかし、ECOPIA EP001Sを履いていると、ほぼ90%近くをシステム介入のまま(車内では“ピピピ”という警告音が続く)走ることができた。極限に近い状態でもコントロールを高いレベルで維持できるタイヤ(もちろん車両もだが)、これこそECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能「a」、その力なのである。
ウェットグリップ性能「a」は伊達じゃない。カタログスペックではもちろん、実際に走って「c」のタイヤと比較しても、その違いは明かだ。力強い安定したグリップを、ウェットコンディションで発揮するECOPIA EP001S。
繰り返しになるが「a」のタイヤが優れていることは、「c」のタイヤが劣っているということを意味しない。ラベリング制度においてグレードを獲得している段階で、すでにそのタイヤは充分な性能を持っている。我々はニーズに合わせてグレードをチェック、ドライビングスタイルに合ったものを選べばよい。
だが、ECOPIA EP001Sに関して言えること、これは実際に体感したから自身を持って言えることだが「ウェットな路面で実に頼りになるタイヤ」ということだ。そしてさらに低燃費タイヤとしてECOPIA EP001Sは、最高グレードタイヤとして素晴らしい性能を発揮してくれる。燃費がよくて、ウェットに強い。だからこそ「AAA-a」タイヤな訳だが。
さらに言えばコース間の移動時や、外周を撮影のために周回した際、ドライな路面を普通に走った訳だが、これまた実によい感じだ。グリップ性能などは試した訳ではないのだが、ごく自然な雰囲気だったし、タイヤノイズなどが気になることもなかった。ごく一般的な運転の中にあって、ECOPIA EP001Sは「よいタイヤ」っぷりを見せてくれる。
前編、そして後編で特にウェットグリップ性能に注目したのは、ECOPIA EP001Sがラベリング制度で「a」を獲得し、転がり抵抗性能と合わせて「AAA-a」という最高グレードとなったからだ。さらにアクアパウダーというF1のタイヤにも使われている材料の存在なども、私の興味をかき立てた。
カタログスペックから見えてくる性能もあれば、実際に走ってテストをして見えてくる性能もある。制動距離などはスペックから違いを容易に知ることができる訳だが、制動時にかかるG(減速度)の違いなどは、走行テストを行わないと「体感」することはできない。
そういった意味で、今回のテストランは本当に意義のあるものだった。今後私は人に「ECOPIA EP001Sのウェットグリップ性能は凄いんだよ、実際に走って確かめたんだから」と、堂々と言える訳だ。緊張の連続で疲労困憊はしたが、得たものはそれ以上だった。1つだけ残念なのは、アクアパウダーの正体が最後まで分からなかったことぐらいである。なお、アクアパウダーの正体が判明した際には、改めて詳細をレポートしたい(引っ張るなあ、アクアパウダー)。
(高橋 敏也)