NECビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)の提供する「ケータイ基盤ミニ」は、ケータイサイトを低コストで構築・運用できるサービスだ。SaaS型であるため、面倒なシステム導入やソフトウェアのインストールなどを自分で行う必要はない。

ケータイ基盤ミニには、待ち受け、着うた、きせかえツールなどのテンプレートが用意されているほか、BIGLOBEが独自に開発している「カスタムタグ」によって、キャリア判別や自動更新なども簡単に実現することができるようになっている。サービス事業者は、必要な機能だけを組み合わせ、最小限でサイトを開設することができる。もちろん、サイトの規模を拡張するに従って機能を追加することも可能だ。

株式会社アラナエンターテインメント(以下、アラナ)は、コンテンツプロバイダーとして、実際にケータイ基盤ミニを利用し、複数のケータイサービスを提供している。そこで今回は、ケータイ基盤ミニの導入経緯やその効果について、サービスエンターテインメント部の伊藤 亜希氏および、境沢 晴之氏からお話を伺うことにした。

アラナが運営する、アーティストの公式サイト。人気サイトゆえに、インフラには高いパフォーマンスが要求される
(*GOS MOBILEはリニューアル前のTOPデザイン)
アラナは、モバイルコンテンツ事業のみならず、Web製作や人材育成、レジャーサービスといった事業を展開している企業だ。エンターテインメントと結びついたサービスの提供によって、顧客に喜んでもらうことがアラナの重要なミッションであるという。

そんなアラナでは、数年前より複数の著名アーティストの公式ケータイサイトを提供している。サービスエンターテインメント部のコンテンツ制作チームでは、常にエンドユーザー(サイトの利用者)に喜んでもらえることや、アーティストが発信したい最新の情報を提供できることを意識したサイトを心がけている。今回、サイトのインフラをケータイ基盤ミニに移行したのも、それらの理由が大きく関わっている。

「ケータイ基盤ミニに移行した一番大きな目的は、パフォーマンスの改善にあります。アーティストのサイトでは、ライブなどのイベントがあると、一時的にトラフィックが増大します。ところが、以前利用していたサービスでは、アクセスが集中すると、つながらない、表示が極端に遅いといったパフォーマンスの問題が頻繁に発生していたのです」(境沢氏)

「ユーザーに喜んでいただくため、コンテンツ制作チームは"スピード感"を非常に重視しています。たとえば、ライブの楽屋に密着するといったコンテンツ提供をしているのですが、せっかくタイムリーな情報を発信しても、それをユーザーさんが見られなくなってしまっては意味がありません」(伊藤氏)

パフォーマンスの向上を目指していたゆえに、システムの安定性に問題を抱えていたアラナは、より安定したケータイサービス基盤への移行を検討した。その結果、候補としてあがったサービスのひとつが、BIGLOBEのケータイ基盤ミニだったのである。同社は、長年に渡って提供しているWebサービスや、ケータイサイトの実績と、24時間365日の運用監視体制によって、安定したケータイサービス基盤の提供を実現している。

左が旧機種、右が最新機種のケータイでのサイト表示例。判別タグを利用すれば、ケータイのキャリアや機種ごとに最適なページデザインを適用できる
サービス基盤の移行は検討したものの、アラナではサービス基盤の持つ汎用性について悩んだという。情報系サイトのようにタグを記述することなくサイトを簡単に構築できるサービスと、タグなどを記述することでよりデザイン表現の自由度が高いサイトを作れる汎用的なサービスである。前者はサイトの構築や更新にそれほどの知識は要求されないがデザイン表現の自由度は低い。一方タグを自分で記述する汎用的なサービスは、デザイン表現の自由度は高いが、XHTMLなどの特有なスキルが要求されることになる。ケータイ基盤ミニは、後者の汎用的なサービスに分類される。

ケータイ基盤ミニでは、XHTMLおよびカスタムタグによってサイトを記述するため、デザイン表現の自由度が非常に高い。しかし、XHTMLやカスタムタグを使って自由にサイトを構築するには、相応のスキルが必要になるのも事実だ。しかし、アーティストサイトという、ユーザー側からもアーティスト側からもクオリティの高さを要求されるサイトには、デザイン表現の自由度の高さは重要なポイントである。

「社内でも議論はありました。やはりサイト構築や更新の難易度が上がるのはリスクですから。それでも、ケータイ基盤ミニを選んだのは、"自分たちのパフォーマンスを表現したい""もっといいサービスを提供したい"という制作チームの"思い"を実現できるサービスに移行したかったからです」(伊藤氏)

「他のサービスも検討はしたのですが、チームのメンバーの中では、すぐにケータイ基盤ミニがいいという話になりました。ニーズにぴったりだったということもあるのですが、問い合わせに対して非常にすばやく回答してくれたことや、デモ環境をすぐに用意してくれたことも大きかったですね」(境沢氏)

ケータイ基盤ミニのカスタムタグには、キャリアやケータイ端末の判別タグが用意されている。このタグを利用すれば、機種ごとに最適なページを作成することができる。ケータイはキャリアや販売された時期によって、画面解像度やブラウザの表示能力に大きな差がある。しかし、カスタムタグで機種を特定することによって、最適なページを表示することができるのである。

NECビッグローブのケータイサイトASPサービスには、サイト規模にあわせたプランがいくつか用意されている。アップグレードも可能なので、将来的なサービス追加やトラフィック増にも柔軟に対応できるという
ケータイ基盤ミニには、サービスの規模や利用シーンによっていくつかのラインアップが用意されている。比較的小規模なサイトには「ケータイ基盤ミニ」、人気サイトやSNSなどアクセスが非常に多いサイトや小規模サイトでは限界を感じる人気サイトのリプレイスには「ケータイ基盤ミニ 専用サーバタイプ」、さらに大型eコマースやストリーミングといった非常に規模の大きいサイト向けには個別SIを行うタイプが用意されているという。

また、課金やコンテンツ配信、会員登録などのケータイサイト構築に必要な機能を、モジュール単位で自由に選択できる点も、ケータイ基盤ミニの特長となっている。もちろん、ユーザーの増加にあわせて随時、機能追加は可能である。初期投資を最小限に抑え、柔軟なサービス提供を可能にするサービスなのだ。

アラナでは、一時的にアクセスの集中が予想されるアーティストサイトを4つリプレイスし、1つのサイトを新たに構築することが決まっていた。つまり、合計で5つのサイトの稼働が決まっていたことから、ケータイ基盤ミニ 専用サーバタイプが採用された。

「実際にデモ環境に触れてみて感じたのは、サイトを運用・制作する側のことをわかっていてくれるという点でした。以前のサービスは、すべてを一から考えてつくらなければならなかったり、頻繁に修正作業が発生するなど、運用や開発の効率があまりいいとは言えませんでした。ところが、ケータイ基盤ミニには、会員登録や利用規約といった基本的な部分はモジュールとしてすでに用意されているので、サイトの構築が本当にすばやくできると実感しました。」(境沢氏)

このように、ケータイ基盤ミニが運用側を理解した機能を多く提供できるのは、BIGLOBE自身がコンテンツプロバイダーとして、250を越えるケータイサイトの企画および運用のノウハウをもっているからでもある。まさに、老舗のコンテンツプロバイダーであるBIGLOBEの優位性が、顕著に出ているサービスといえるだろう。

実質2ヶ月というサイトリプレイスの実態について語る、アラナ境沢氏。壮絶な苦労話が出るかと思いきや・・・?
アラナがケータイ基盤ミニへの移行を検討しはじめたのは、2007年の末近くになってからだったという。実際にプロジェクトをスタートしたのは年が明けてすぐであったが、1つ目のサイトを立ち上げたのは3月初旬。つまり、実質的にサイト構築にかけられた期間は2ヶ月という、非常に短期間のプロジェクトということになる。

「BIGLOBEからの提案をうけたのは年末でした。そして、年が明けてすぐにサイトの構築がスタートしました。デザインは先行してすすめていたものの、3月にサイトオープンというスケジュールが決まっていたことから、かなり短期間での立ち上げとなりました」(伊藤氏)

「実は管理ツールのトレーニングもしてもらったんです。マニュアルは用意されていたのですが、スケジュールが非常にタイトだったことから、すぐに使い方を理解したかったんです。また、専用のサーバーが用意できるまで、一時的に共有サーバーを利用させてもらったことも、構築期間の大幅な短縮につながっています。いろいろな意味において、BIGLOBEのサポートがなければ実現できなかったと思います」(境沢氏)

現在では、予定していたサイトすべてが、ケータイ基盤ミニの上で稼働している。つまり、半年間で1サイトの新規構築、4サイトのリプレイスという大プロジェクトを成功させたのである。

BIGLOBE側担当者の保永氏と、アラナ境沢氏。両者の緊密なコミュニケーションが、今回のプロジェクトを成功に導いた
ユーザーの満足を一番に考えるアラナでは、それまでの自由度が低く不安定なシステムの上では、自分たちが本当に表現したいものが実現できないということを強く実感していた。そんなアラナがBIGLOBEのケータイ基盤ミニというサービスと出会ったことで、思い通りのサイトを実現できるインフラを手に入れたのである。

「サイトのデザインはもちろんですが、着うたやブログ、きせかえツールなど実現したいサービスはまだまだたくさんあります。ケータイ基盤ミニに用意されているさまざまな機能をつかって、もっといろんなサービスが実現できるのではないかと期待しています。アーティスト側からは、"こんなことできないの?"といったリクエストを受けることもあります。そんなときは、BIGLOBE に"こんなことできますか"といった質問をするのですが、"できない"とは決して言わないんです。こちらのやりたいことをどの機能をつかえば実現できるか、あるいはもっと別のアプローチが可能なのか、積極的に提案してくれるんですよ」(伊藤氏)

「ケータイ基盤ミニに移行してから、ユーザーからのクレームが激減しました。それまでは、サイトにつながらない、見られないといったクレームが多かったのですが、比較にならないほどの差です。また、管理ツールからアクセス数や会員数の集計といったレポートを見ることができるのですが、これが経営層からも評判がいいんです。アーティストサイトだけではなく、他のサイトも…なんて話もでています」(境沢氏)

このように、アラナ社内においても満足度が高く、さらにはユーザーやアーティストからも評価されるサイトが新たに構築されたのである。まさに、アラナという企業の"本気"が、企業そのもののイメージを向上させる結果となったのである。

また、ケータイ基盤ミニのデモ環境の作成に携わり、アラナからの問い合わせにも応じたBIGLOBE ビジネス事業部の保永 由美氏は、アラナからの要望に関して次のように語っている。

「アラナ様からのリクエストは、BIGLOBEが今後のサービスの展開を考える上でも非常に有益なんです。また、ケータイ基盤ミニは比較的新しいサービスなので、管理ツールに関してもオンラインでのマニュアルなど充実していない部分もありました。アラナ様にトレーニングをさせていただいたことも、今後の管理ツールの充実につながっていくと考えています。アラナ様とは、サービス事業者とクライアントという以上に、Win-Winの関係にあるビジネスパートナーのように感じています」(保永氏)

NECビッグローブのマスコットを手にするお二人。よきパートナーであるアラナとビッグローブを象徴する一枚。(ちなみに、マスコットの名前は「びっぷる」です)
ケータイ基盤ミニはまだ開始されたばかりのサービスである。BIGLOBEが培ってきたケータイサイトのコンテンツプロバイダーとしてのノウハウに加え、今後は多くのコンテンツプロバイダーが要求する新たな機能やサービスが追加されていくことになることが予想される。また、アラナでも検討課題となった、表現の自由度が高い分、知識が必要とされるオーサリングツールに関しても、マニュアルやヘルプの充実、トレーニング環境が整備されていくことは確実である。あるいは、ツールそのものの機能が充実し、誰でも簡単にコンテンツが作成できるようになるかもしれない。

アラナのように、アクセス過多でケータイサイトにアクセスできないという状況を許容できないコンテンツプロバイダーは、確実に増加している。そのため、単に安いだけがとりえのサービスから、確実に運用できるサービスへとリプレイスする動きは加速していくことになるだろう。コンテンツプロバイダーの"本気"に応えるためには、インフラサービスを提供する側も"本気"でなければならない。そして、両者の"本気"の姿勢がユーザーを満足させ、結果的にコンテンツプロバイダーのイメージ向上につながるのだ。


北原静香(きたはらしずか)
コンピュータ歴はなんと小学生からという女性ライター。Windows NTやLinuxなどのOS関連の記事から、モバイルや携帯電話まで、手がけるジャンルは幅広い。