AQUOS LX3は4原色パネルのクアトロンを採用している。これはイタリア語で“4”を表す“クアトロ”と、“電子(エレクトロン)”を組み合せた造語だという。
TVCMも含めて、各メディアで「赤緑青+黄」という「4原色」の事実は広く伝えられているが、なぜ4原色で、なぜ追加されたのが黄なのか、と言う部分に疑問を持っている人も多いと思うので、まずは、ここを簡単に解説しておこう。
人間が目にする、自然界に存在する物体色をXY色度図に表すと図のようになる。
SOCS物体色分布とHDTV方式(sRGBと同等)の色再現範囲の比較
映像パネルは、この物体色をなるべく全部表示できるのが望ましいわけだが、ITU-R BT.709(色についてはsRGBと同等)では、図のように黄色領域とシアン(水色)領域の純色方向に再現できない色が出てきてしまう。
これをカバーするためにAdobeRGBのように3原色の純度を上げてできる三角形の面積を広げる手立てもある。これをやったのがRGB-LEDを採用したAQUOS XS1だった。これはややオーバーキルなアプローチで、ITU-R BT.709で伝送されてくる映像に対する色の再マップの難度が高くなるばかりか、場合によっては不自然な発色になってしまう問題もあった。また、LED数が多くなり、消費電力面で不利だったことも課題として残った。
ならば原色点をもうちょっと増やしてみてはどうか。
シアンと黄の領域にRGB3原色で表現できない色が多いならば、そこに原色点を持ってきてしまい、4角形、あるいは5角形でカバーすれば効率が良さそうに思える。
シャープはこのRGB+CY(シアン,黄)の5原色パネルを実際に試作し、国際学会のSociety for Information Display 2009(SID2009)にて発表を行っている。
今回、5原色に踏み込まなかったのは、現状の液晶パネルのTFT回路の成形微細度では、1画素につき5サブピクセルも形成してしまうと画素の開口率が下がってしまうため。開口率が下がるとサブピクセルの分離感が見た目に出てきてしまうし、なにより光利用率が悪くなる。
UV2A技術の確立により、画素開口率は従来パネルの+20%向上した。この向上した余裕分を利用して追加1色分のサブピクセル増加に割り当てられた…ということもできる。逆に言えば、UV2A技術や製造プロセスの微細度が上がれば、将来、5原色パネルの実用化もあるかもしれない。
では、4原色にするとしてなぜシアンでなく黄が選ばれたのか。5原色カバー率の図を見る限りはシアン領域の方がより多くの色をカバーしているようにみえる。なのになぜ黄色なのか?
これにはいくつかの理由があるが、光源として利用する白色LEDの光スペクトラム特性にまつわる理由が大きいと説明されている。
白色LEDは、ベースとなっているのは青色LEDであり、この青色発光に対し黄色の蛍光体を付加して白色に光らせている。これに起因して、発光色に黄色成分が多いのだ。従来の赤緑青サブピクセルで構成される3原色パネルでは、RGBカラーフィルターによってせっかくの白色LEDからの黄色光はカットアウトされていた。その黄色光を黄サブピクセルで利用しようというのが、黄色を採用した大きな理由となっている。なお、副次効果だが、光利用効率が上がれば明るさにも貢献できるし、同じ明るさを従来よりも低電力で表現できるようにもなる。
ところで、黄サブピクセルを設けると、白色を青サブピクセルとの組み合わせでも表現できるようになる。これに配慮し、クアトロンに組み合わされる白色LEDは、元となる青色LEDの青発光を強くとれるように調整されている。これにより、緑(G)の原色点を若干広げて配置することが可能となり、シアン方向のカバー率をも上げるさらなる副次的なメリットを生むことになる。
クアトロンが4原色となったこと、その追加一色が黄色になったことには、このような背景があったのだ。
RGB+Yの4原色パネルならば白色LEDに多く含まれる黄色純色成分が利用できるようになり、
光の利用効率が向上する。これは省電力性能にもプラスになる
クアトロンは1画素が4原色、すなわち4個のサブピクセルでできていることは既に述べたが、この黄色(Y)サブピクセルが増えたことで、ある色を表現するのにRGBだけで一意的に決まらなくなってきた。例えば、黄色はRGサブピクセルの同時点灯でも表現できるし、Yサブピクセル一個でも表現できる。同様に橙色は強め目のRと弱めのGで表現できるが、弱めの赤と強めのYでも表現できる。他の色でも同様だ。
白色を出すのにも、4原色ならいくつかの方法が考えられる
RGBYの4つのサブピクセルは、それぞれ個別の輝度を持って光らせることができるわけだが、色と輝度を分離して考えると、あるピクセルに着目したとき、出す色は変えずに、サブピクセル単位の解像度表現が行えることになるのだ。
もう少し具体的に解説すると、例えば、前述したように黄色を出す場合ならばRGBYのうちBYをオフ(-と記する)にしてRG--とするか、---Yとすることができる。これは1ピクセルの表現なのにRG--と---Yという1ピクセル以下の解像度表現ができることになるのではないか。シャープはこう考えたのだ。
クアトロンでは、ピクセルとしての発色を変えずに輝度を再分配してサブピクセルを駆動する回路を液晶パネルの駆動回路側に設けている。そして、この回路には、周辺の解像度情報を探索して当該ピクセル表現が最もなめらかに見える形でサブピクセルを駆動する。
この仕組みはいわば一種の超解像処理ということができ、これには「フルハイプラス」という機能名が与えられている。
このフルハイプラスのオン/オフは「映像調整」-「プロ設定」メニューから設定が可能となっているが、オンであっても、この処理が原因となる表示遅延は発生しない。というのも、フルハイプラスの機能は映像エンジン側ではなく、パネル駆動回路側で実行されるからだ。
クアトロンのパネルドライバー側に組み込まれたサブピクセル制御。輝度成分にサブピクセル制御がされている
実際に、筆者宅にて、LX3にて映像を映してフルハイプラスの効果をオン/オフして撮影したのが以下の写真だ。
実写映像だと写真に撮影したときに分かりにくいのであえてCG画面としているが、例えば文字のような単色の細い線分で構成される部分についてはアンチエイリアスが掛かったような滑らかな表現になる。
一方で、複雑な解像度情報を持つ図版だと、輪郭付近やテクスチャ表現ではくっきりと自信ありげに描かれ、グラデーション部分ではなめらかに描かれているのが分かる。
Webサイト上の文字を拡大してみたところ
Windowsのソリティアアイコンを拡大してみたところ
フルハイプラスはその名の通り、フルハイビジョンクラスの映像に、より高い解像感を付加(プラス)する効果を発揮していると言えそうだ。
超解像機能を持つテレビは増えつつあるが、その超解像処理をサブピクセル単位で実行できるのはクアトロン採用AQUOSだけ。このクアトロンの特権的機能は、オーナーになった暁には是非積極的に活用したいところだ。
AQUOS LX3は、ここ最近のAQUOSの高画質モデルに採用されてきた「AQUOS高画質マスターエンジン」を搭載している。AQUOS LX3にも継承されている「高画質Wクリア倍速」「スキャン倍速」「高画質アクティブコンディショナー」「アンベールコントロール」といった数々の高画質化ロジックについては筆者が執筆したAQUOS LX1編の方を参照して欲しい。また、最新センサー技術を組み合わせ、ユーザーのお好みの画質を提供する「好画質センサー」機能については、AQUOSのエコ機能についてまとめられたこちらの記事を参照して欲しい。
ということで、本稿では、世界初の4原色パネル採用機…ということで、クアトロンにスポットライトを当てつつAQUOS LX3の画質性能を評価してみることにしたい。
まずは発色に関して注目してみよう。
実際にAQUOS LX3の映像を見ていて、「クアトロンらしい画質」として、まず気が付かされるのが、やはりTVCMや店頭デモでも積極的にアピールされている黄色方向のダイナミックレンジの高さだ。
熱帯魚、ヒマワリ畑のような鮮やかな黄色は、RGB3原色パネルでは、どうしても明るい黄色が白っぽく飽和していくが、AQUOS LX3では色の濃さが落ちない。金管楽器の黄金色などの表現も、その陰影に黄金の色味に豊かさが満ちあふれている。そう、黄色や黄金色が暗階調から明階調に至るまで、色味が衰えずに自然に見えるのだ。一言で言うならば、黄色方向の色ダイナミックレンジの高さが手応えとして伝わってくるのだ。
また、特筆すべきは黄色だけでない。クアトロンを見る機会があれば、ぜひとも赤色にも注目して欲しい。赤の色ダイナミックレンジが非常に深いのだ。同じUV2A技術ベースの3原色RGBパネルを採用したLX1と比較しても、赤のダイナミックレンジが違う。例えば、赤い車のボディに刻み込まれたレリーフやモールドなどの微細凹凸が3原色パネルではその立体感が伝わってこないが、クアトロンでははっきりとした赤の陰影の違いとして見える。黄色サブピクセルの追加によって赤色の表現力が向上したことは、イメージしにくいかも知れないが、これは紛れもない事実であり、LX3の赤表現は明らかに従来機よりも良くなっている。
続いてコントラスト感についても特記しなければならないだろう。
とにかくAQUOS LX3の画質において、明部の輝度ダイナミックレンジが凄いのだ。
ライブ映像などにおけるきらびやかな照明はもちろん、金属の光沢に浮かぶハイライト表現などは、まさにクアトロンの光利用効率の高さが本領発揮される部分となる。
なお、AQUOS LX3は直下型白色LEDバックライトを採用しているが、UV2A技術の恩恵もあって、エリア駆動は行われていない。しかし、エリア駆動ありの競合機と並べてみても、暗部の沈み込みは全く見劣りがない。むしろ、エリア駆動ありの競合機でも、映像中に局所的に明るい部分があると、その光に影響を受けて、最暗部が持ち上がってしまうのだが、AQUOS LX3ではこれがほとんどない。
漆黒の背景に明るい窓の光が浮かぶ夜景や、暗黒の背景にきらびやかな高輝度の点がぱらつく星空の映像などを見てみるといい。エリア駆動ありの競合機以上に、周りの黒さに影響を与えず、孤立した高輝度ピクセルを描き出していることに驚くはずだ。
このように、AQUOS LX3の高画質は、クアトロンらしさを前面に押し出した画作りが行われているが、映画の視聴に関しては、従来の3原色パネルっぽい画質で楽しみたいというHiFi系ユーザーもいることだろう。そうしたユーザー向けにはTHX社が定めるホームシアター用のディスプレイ規格(THX Certified Display Program)の認証を受けた「THX」画調モードが提供されている。
こちらは、比較的暗い室内環境で映画視聴を楽しむのに適した画調となっているため、あえてクアトロンらしさをキャンセルすることもできるのだ。とはいっても、クアトロンの利点が全てキャンセルされているわけではなく、持ち前のハイコントラスト感や正確な暗部階調表現のリニアリティはTHXモードでも十分堪能できる。
AQUOSの上位機は音がよい。
最近の薄型テレビは薄型化とスピーカーの存在感を隠すことに注力しすぎている感があり、これをやりすぎるととたんに音質が悪くなる。
画質がどんなに高くても音質が悪くてはテレビ体験としては満足できない。高画質なテレビこそ高音質なサウンドシステムが必要なのだ。
側面部の新開発ツイーター部分。斜め前方に開口部を向かせた独特のレイアウトになっている
左から画面左右に仕込まれる角形ツイーター、ソフトドームツイーターとウーハーユニットを一体化したメインユニット、右端奥が46インチ以上のモデルに内蔵されるDuoBassタイプのウーハーユニット。右端手前が40インチモデルに内蔵されるシングルタイプのウーハーユニット
AQUOS LX3は評価の高かったAQUOS LX1のサウンドシステムを進化させた形で継承している。
サブウーハー付き2.1CHシステムの総出力30W(L7.5W/R7.5W/S15W)という表向きのスペックはLX1と変わらないが、LX1は3WAY6スピーカーだったが、LX3はなんと贅沢にも4WAY8スピーカーになってしまった。(46V、52V、60V型)
LX1では、画面下部左右にメインスピーカーユニットとも言うべきミッドレンジユニットを実装していたが、LX3ではミッドレンジユニットに加えてφ2cmのソフトドームツイーターを追加しており中高音の増強が行われたのだ。増えた2つ(左右)のスピーカーはこのソフトドームツイーターになる。
LX1ではツイーターが画面左右に仕込まれていたが、LX3もここにツイーターがある。ただし、ここには1.5cm×2.5cmの新開発の高効率角形ツイーターに変更されており、さらに斜め前方に開口部を向かせた独特のレイアウトを採用している。このデザインにより前面視聴位置から見ると不可視となり、新しいインビジブルスピーカーデザインとして今後、業界に大きな影響を与えそうな予感がする。
実際に音楽ソフトを再生し、LX3のサウンドを聞いてみると、一般的な薄型テレビのサウンドとは次元の違う高音質に気がつく。
ポイントは4つだ。
まず、1つ目は、音像が明確に画面中央に定位してくれること。音場操作で擬似的に定位感を持ち上げているのと違い、スイートスポットから外れて視聴していてもちゃんと画面の中から聞こえる。最近の薄型テレビには画面下側に下向きにスピーカーを設置している機種もあるが、それらとは明らかに定位感が違う。これは、前述したように、画面外周に複数スピーカーを配置するレイアウトするデザインをLX3が採用しているからだ。このサウンドアーキテクチャにはシャープはARSS(ARound Sound System)と命名している。
2つ目は、ワイドなステレオ感。左右に音像を振った楽曲や、映画やアニメ、ドラマなどで、明確に話者の位置を左右に振り分けたときの、音像の左右への定位がワイドなのだ。残響効果で音像が広く感じるのとは違い、音の定位の仕方のダイナミックレンジが広い。なので音像の動きに同調する映像の動きがとても大きく見え、ひいては画面が広く感じることもある。これは、画面左右両端に配置した新型角形ツイーターの効果によるものだ。その開口部を斜め前方外向けにレイアウトしているデザインが功を奏しているのだろう。
3つ目は、各音域のフラット感と力強さ、そして再生音域の広さが優れているところ。低音のパワー感はLX1から継承されたサブウーハーシステムのDuoBassからもたらされているのは間違いない。そしてハイハットやシンバルなどの高音が切られずはっきりした解像感を持って聞こえるのは高音域ユニットのソフトドームツイーターがきまじめに仕事をしているからだ。
なお、音の味わい面でLX1に対し、LX3でもっとも進化を感じたのは中音域の音質だ。ボーカルの声は分厚く聞こえ、高音の解像感と低音のパワー感に負けないバランスになっている。スネアやタムの皮の響きの輪郭までがしっかりテレビのスピーカーで聞こえるのはなかなかの感動体験である。
「4原色のクアトロン」という部分だけが取り沙汰されてしまいがちなAQUOS LX3だが、実際には「黄色だけが凄いのではなく」、その画質は、全方位に向上しているという点を改めて理解して欲しいと思う。黄色サブピクセルの追加は、黄色の再現性だけを向上したのではなく、全色の再現性を改善しているし、さらにクアトロンを実用化したベース技術「UV2A技術」は、エリア駆動採用機を圧倒するようなコントラスト性能と暗部再現性を実現している。AQUOS LX3は、黄色を追加した4原色パネル採用機の「イロモノ」機ではなく、AQUOSラインナップの上位に位置する、シャープの最新液晶技術を集結させた高画質モデルなのだ。
なお、このAQUOS LX3シリーズに立体視機能を追加したAQUOS LV3シリーズもラインナップされている。AQUOS LV3は、2D画質に関しては全くAQUOS LX3と同じであるため、クアトロン画質が気に入った上で、立体視も気になるならAQUOS LV3も視野に入れた製品選びをするといいだろう。
ところで、本稿では、クアトロンの魅力や技術的優位性について、駆け足で見てきてしまったこともあって、当然、全てを語り尽くせてはいない。例えば本稿で触れている「黄色が追加されただけなのにクアトロンはなぜ黄色以外の色再現性が向上したのか」という部分については、本稿内では詳しい解説を行っていない。
実は、そうしたクアトロンについての、より詳細な解説は、筆者が連載中の「AQUOS クアトロン Watch」にてまとめている。
こちらでは、"黄色"にまつわる以外の…例えば「クアトロンが立体視に優位なのはなぜか」「クアトロンが消費電力性能にも優れるのはなぜか」などの様々な疑問についても解説しているので、是非とも一度参照して欲しい。
60インチ、52インチ、46インチ、40インチの4サイズをラインアップするLX3
【トライゼット西川善司】
■関連リンク
□AQUOS LX3 製品情報 http://www.sharp.co.jp/aquos/lineup/lx3/
□液晶テレビ AQUOS http://www.sharp.co.jp/aquos/
■関連記事
□シャープ、”明るい3D”の4原色最上位機「AQUOS LV3」
−40〜60型でUSB HDD録画対応。2DのLX3も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100531_371167.html