今年、テレビ業界は「4Kテレビ元年」とも言われ、最上位モデルに従来の4倍の画素を持つ4Kパネルを採用した製品が本格的に展開し始めた。これは何も日本だけのものではなく、世界的な動きとなっている。
その背景には超解像技術など、従来のフルHD映像をより美しく見せる技術、ノウハウの蓄積が進んだことに加え、高解像度シネマカメラや大判フィルムからスキャンした、従来のフルHD以上に多くの情報を含んだ高精細ブルーレイディスクの登場。それに4Kパネルの供給安定などがある。さらには大型有機ELディスプレイの立ち上がりが遅くなったことも、4K液晶テレビへの流れを加速させた要因のひとつだ。
しかし、その一方でまだ4Kテレビが高価であることも事実。そして、全体的な製品価格の低下を受けて、40インチ台のフルHDテレビにハイエンドと言えるような製品が並ばなくなってしまった。
シャープが新たに投入したAQUOS クアトロン プロXL10ラインは、その間にすっぽりと入る、4K時代とフルHD時代をつなぐ製品である。XL10には独自カラーフィルター配列を採用するクアトロンの特性を活かしたクアトロン プロを採用。“4K相当”とする高精細映像を、従来と同じフルHD用クアトロンパネルで表示する。
4Kに匹敵する高精細表示を実現するXL10。ラインアップは46型・52型・60型・70型・80型の5つ | 70インチ以下のモデルは、ハの字型に開いたスタイリッシュなスタンドが採用されている |
この「フルHD用のクアトロンパネルを用いながら、4Kに匹敵する精細な描写を狙った新技術」という部分が、実に今の時代にマッチしている。問題は本当にそんなことができるのか?という点だろう。文字だけを並べられると、かなり眉唾で怪しい技術だと思うかもしれない。
しかし、実はそこにはクアトロンならではの仕掛けがある。結論から言えば、クアトロンパネルで特殊なパネルドライブを行うことで、4Kパネルに近い輝度信号の解像度を表現できるのだ。
残念ながら色の情報は4Kパネル相当にはならないものの、人の目は色よりも輝度に対しての感度が高いこともあるのだろうか。確かに精細度において大きな成果を感じることができる。まずはその仕組みから紹介することにしたい。
一般的な液晶テレビはRGB3原色のカラーフィルターを持つ画素を個別に調整することで色を表現している。クアトロンは独自の高開口率液晶技術を用いることで、Yを加えた4原色技術だ。ここで、画素を構成する個々の色を表現する小さな画素(サブピクセル)に注目しよう。
RGBYのサブピクセルのうち、RGBだけで1画素を表現可能だ(この場合、4K相当の横幅よりもやや大きくなるが)。さらにY、すなわち黄は赤と緑の混色であると考えれば、これに隣り合う青のサブピクセルと合わせ、Y+Bで輝度階調を表現できる(Bに関しては両画素で共有されることになる)。
もちろん、輝度信号の水平方向の解像度を高められるといっても、ある程度の限定された条件はあるが、少なくとも一般的な映像のなかでは利点の方がはるかに大きいと感じた。しかし、この方法では色の解像度は高めることはできない。また、これだけでは縦方向の解像度も高まらない。そこで使っているのが、MPD=マルチピクセルドライブを利用した手法だ。
現代の液晶パネルは視野角を広げるため、MPD=マルチピクセルドライブという技術を使っている。ひとつのサブピクセルを上下分割し、それぞれの液晶配向を変えることで視野角を広げているのだ。ただし、個々のドメインに対して、個別の明るさを表現することはできない。
そこでクアトロン プロでは、個々のドメインを別々に光らせ、それぞれの明るさを変えている。同時に光らせる場合は同じ輝度にしかならないふたつのドメインを、時分割で交互に光らせることで垂直方向の輝度解像度も高めている。
このふたつのアイデアの組み合わせが、クアトロン プロの基本的な仕掛けだ。XL10に使われている液晶パネルは、昨年のXL9に採用されていたものとまったく同じであり、変わっているのは上記の駆動方法と、それを実現するための映像処理。このため、4Kパネルへの全面変更という大きなコストアップを経ることなく、解像度を高めることに成功した。
新たにTHX ディスプレイ規格(THX Display Certification)認証も取得した |
カンの鋭い人ならばわかるとおり、4Kのネイティブ映像、しかも幾何学的な模様を入れたときにどんな映像になるか?というと、必ずしも正しい表示とはならない場合もある。もともと画素数が足りないためだ。しかし、一般的な映像ソフトやゲームといった素材を見る限り、デメリットは少なく、むしろ利点の方が大きかった。
また、視野角を広げるためのMPD=マルチピクセルドライブの仕組みを解像度向上へと応用していることから、左右視野角が狭くなるという弱点もあるが、筆者が見たところ「おおまかに正面方向から」見る限りにおいては違和感はなかった。
クアトロンでの表示とクアトロン プロでの表示は、簡単に切り替えられるよう設計されているので、家族で楽しむ際にはクアトロンとして、自分一人で高画質を楽しみたいときにはクアトロン プロに切り替えてといった使い方をするといい。
4Kパネルとクアトロンプロによる表示。このふたつのパネルを見比べると、実は画質面においてもっとも大きな違いは、画素間の光漏れを防ぐブラックマスクであることがわかる。4Kは画素そのものが小さくなるため、このマスク幅が狭く、よりなめらかに見えるのだ。これは物理的な構造の違いであるため、クアトロン プロの見え味はフルHDパネルと同じだ。
しかし、46インチというサイズでは、このブラックマスク部に感じるメッシュ感もさほど大きくはない。フルHDパネルから4Kパネルへのゆるやかな流れのなかで、クアトロン プロは非常に興味深い解決策だ。
もちろん「将来は4Kにすべてなっていく。ならばあくまで“つなぎ”の技術でしかない」という意見もあるだろう。しかし、現在はコンベンショナルなRGB構成を採用するシャープの4Kパネルだが、将来はクアトロンへと進化することが視野に入っている。XL10がそうであったように、4Kのクアトロンパネルが登場すれば、今回と同じ駆動方法を採用することで、今度は8K相当の解像感を引き出せることになる。
2020年の東京オリンピックでは、8Kスーパーハイビジョン放送が行われると言われているなか、では8Kネイティブの液晶テレビはどう普及するのだろう?と考えると、“4Kクアトロン プロ”は、なかなか面白い選択肢になっているのではないだろうか。
そんな未来への思いを馳せつつ46インチのXL10に目を向けると、“今だけ”の技術ではなく、近い将来に向けての発展性も感じさせる、費用対効果の高い技術(それは採用する製品のコストパフォーマンスの高さにもつながる)だと感じた。
50インチを超えるところでは4Kパネル採用モデルをオススメしたいが、40インチ台であればクアトロン プロを採用するXL10は、購入候補リストの上位に挙げたいところである。
AQUOS クアトロン プロXL10のプロモーション映像では、映像クリエイターのハナブサ ノブユキ氏が主宰する、映像とダンスを完全に融合させるエンタテインメント集団「enra」を起用。今年の3月にIOC招致委員をねぎらう内閣総理大臣主催の晩餐会で披露したパフォーマンスに驚いた人も多いことだろう。
そんなenraが、AQUOS クアトロン プロの「4原色(※1)技術」による豊かな色表現力を「赤」「緑」「青」「黄」で構成された4原色による鮮やかなパフォーマンスでアピールしている。ほかにも、WebサイトではXL10の最大の特長であるフルHDパネルで4K相当(※2)の高精細表示を実現した「超解像 分割駆動エンジン」の緻密な描写力など、様々な機能をenraのパフォーマンスを通じて紹介している。
Webサイトをはじめ、店頭、東京駅に設置されているデジタルサイネージでも放映中。ぜひチェックを!
※1 4原色とは、シャープ独自のディスプレイ上の色再現の仕組みであり、色や光の3原色とは異なります。
※2 水平3,840×垂直2,160画素の解像度チャートによる当社で定める輝度信号の解像度評価において。4K液晶パネルを使用した製品ではありません。
(本田雅一)