テレビの常識的な最大サイズというと、最近までは60インチ前後であった。ブラウン管時代は36インチ前後が最大サイズだったことを考えれば、現在の「40インチ前後が普及クラス」という状況は、「国民総大画面時代の到来」といっても過言ではないような気はするが、それでもユーザーの大画面への欲求は今もとどまることを知らない。
ユーザーか欲しがれば、メーカーはそれに応えるというわけで、今期、シャープは新ラインアップ「AQUOS Gシリーズ」として、受注生産ではない量産の形で80インチの「LC-80GL7」、70インチの「LC-70GL7」、60インチの「LC-60G7」といったリーズナブルな大画面モデルを市場投入した。
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シャープでは、これら60インチ以上の大画面AQUOSを「BIG AQUOS」と総称して訴求している
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本稿はその中で、最大サイズのLC-80GL7を主役に据えながら、合わせて、大画面の液晶テレビ(直視型ディスプレイ)自体の可能性についても考えてみることにした。
人間がテレビのような映像機器に大画面を求めるのはなぜか。
人間は、映像を「1つの情報」として割り切って取得する際には別に小画面でも気にならない。ハガキサイズの写真を見るときや、モバイル機器の画面を見るときは、まさにそういった状況だ。ハガキサイズの写真の中の飼猫を見たとき、人間は、その写真の中の猫の像そのものには、それほど高いリアリティを求めておらず、その猫を見たことによって呼び起こされる記憶や思い出の方に重きを置いている。4インチ前後のモバイル機器の画面で映画を見たときもほぼ同様で、俳優の演技やストーリー、すなわちコンテンツ側の本質に重きを置いて楽しんでおり、その画面に映し出される映像そのものにはある程度の妥協を認めている。
では、ここからそうした「妥協」を取り去るのには何が必要なのだろうか。
それには「映像の究極目標」というものを考えてみる必要がある。実は、その答えは明白で、それは「人間の視界の再現」ということになる。そしてこの「視界の再現」には、いくつかの必須要素があると筆者は考える。
1つは「解像感」。現実世界の解像度は無限大なので、映像機器はより高解像度実現に向けて進化している。フルHD(1920×1080ドット)が当たり前になり、さらに4K2Kや8K4Kに進化する兆しを見せているのはそういうわけだ。
2つ目は「立体感」。現実世界の情景を人間は両目で捉えているので、視界は立体映像だ。昨今の映像機器において3D表示機能の搭載率が上がっているのはこのためだ。
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画面内の人物の大きさが実物大に近づくほど、リアリティが増していく。画面はSony Computer EntertainmentのPlayStation 3用ゲームソフト「アンチャーテッド −砂漠に眠るアトランティス−」より。
©2011 Sony Computer Entertainment America LLC. Developed and Created by Naughty Dog, Inc.
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そして3つ目が、本稿の主題でもある「大画面」だ。普段見慣れているものが、実寸大に近い大きさで表示されると、単なる「画」でしかなかったものが、とたんにリアリティを帯びて見えてくる。人の顔が実物大で見えれば、その人物の存在感がより感じられるようになる。マネキンが人形だとわかっていても怖く見えるのは、その人形のスケール感が人間同様の存在感を醸しだすからだ。
大画面になると、両眼からの視界の広い範囲が映像で占められるようになるので、その意味でも視界の再現に近づく。昔と比べれば十分に大画面であるはずの40インチクラスのテレビであったとしても、4インチのモバイル機器よりはだいぶ大きいのはわかっていても、結局は額縁に切り取られたような映像を見ることになるので、「画面を見ているんだ」という無意識にはつきまとわれる。
視聴位置にもよるが、視界の大半が映像で支配されるようになると、小画面では単体要素として楽しんでいた「映像に喚起される記憶」や「コンテンツ側の本質を楽しむ」といった要素が、見えている映像のリアリティを支援するような方向にまで働き、臨場感や没入感といったものまでが感じられるようになる。
逆に言うと、人は大画面の前では、「映像を見る」行為を「視界の再現」として捉えようとする動機が呼び起こされるのだ。
人によって考え方の違いはあると思うが、大画面☆マニアを自負する筆者としては、究極の「視界の再現」において優先順位が高いのは、大画面だと考えている。映像機器の進化の歴史を振り返っても、何より先に大画面化が優先されて進化してきたし、高解像度追求や立体視対応は追加要素として後から加わったものだ。
もちろん高解像度化、立体視対応も重要な要素であり、今後も進化が期待される技術テーマだとは思うが、大画面は、なにより、その魅力が「わかりやすい」という点で歓迎される傾向にある。店頭のテレビ売り場で、フルHD映像(1920×1080ドット)とHD映像(1280×720ドット)の差異がぱっと見わからないユーザーでも、80インチと40インチの差は見た瞬間にその違いをわかってもらえる。
「わかりやすい魅力」はマスに向けた商品であれば、とても重要な要素だ。今回、シャープが発売したLC-80GL7をはじめとするBIG AQUOS製品群は、アクティブシャッター方式の3Dメガネを利用する3D立体視には対応しているが、4K2K高解像度には対応していない。液晶パネルの解像度はフルHD(1920×1080ドット)だ。既にシャープは8K4Kディスプレイ、4K2K液晶テレビの試作機を発表済みなので、4K2K以上の高解像度技術を有しているのだが、あえてLC-80GL7を「80インチ×フルHD」の製品としたのは、やはりわかりやすい「大画面の魅力」を広く、現実的な価格で提案したいためだ。
しかも、重要なのはLC-80GL7は、完全な量産モデル製品だという点。つまり、家電量販店で普通に購入することができ、一般的な運搬手法で家屋に運び入れて設置が行えるのだ(宅急便での運送が可能)。前出の過去の高価な大型テレビ達は受注生産だったために値が落ちる前に生産終了してしまったが、LC-80GL7は、そのモデルライフ期間中は継続生産されるため、価格はこなれていく可能性もある。
その意味では、LC-80GL7は発売後、時間経過と共に「身近な大画面液晶テレビ」となっていく可能性すらあるのだ。
大画面がリアルな映像体験を提供してくれることはわかった。そしてLC-80GL7は、その大画面を、比較的、現実味のある価格で、しかも高い入手性のもとで実現していることもわかった。
ここで、やや視点を変えて、今度はLC-80GL7起点で、大画面というものを考えてみたいと思う。つまり、LC-80GL7をどう自分の居住空間に設置できるのか、さらにLC-80GL7はどんな大画面ライフをもたらしてくれるのか……というような話題だ。
まずは大前提となる「LC-80GL7はうちに設置できるのか」という話題から見ていきたいと思う。
LC-80GL7の表示画面サイズは横1.77メートル×縦約1.00メートルだ。筆者は身長175cmあるが、LC-80GL7の表示サイズの横幅は筆者よりも長いということだ。
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80インチは、だいたいこのくらいのサイズ感
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全長177cmという全長は、冷蔵庫でいうと定格560Lクラスのものと同じくらい。このクラスの冷蔵庫を運び入れたことがあれば、特殊な方法を用いずとも搬入が可能なはずだ。なお、LC-80GL7の奥行きサイズは約10cm。これは最近の主流画面サイズのモデルと比べれば2倍近くあるので厚く思えるが、実は、数年前の液晶テレビと同等であり、実際に実物を目にしても厚いという印象はない。
LC-80GL7の重さはディスプレイ部のみで約51kg。スタンドを組み付けた設置重量は約55kgだ。約50kgというとかつての60インチクラスのプラズマテレビの重さ。無理すれば2人で運べないこともないが、実際には3人で運搬するのが現実的だろうか。階上に上げるのは前述の560L位の冷蔵庫よりは難易度は低い。ちなみに、560L位の冷蔵庫の重量は約100kg前後。
梱包箱の大きさを心配する人もいるかもしれない。実際には梱包箱ごと家屋に運び入れるよりは、家屋入口で開封して製品のみを運び入れた方が現実的だと思われるが、梱包箱は製品サイズの一回り大きい程度で、無駄に大きいということはない。大型テレビは運搬時に「ねじれ変形」する事例があり、筆者もそうした製品を見たことがあるが、この点もシャープ担当者は問題ないと自信を見せていた。なにしろ、梱包は、必要十分過ぎるほどの発泡スチロールで外周をほぼ全て覆うようにして行われる。一般的なテレビの梱包では台座となる発泡スチロールに本体をはめ込んで、その後、上と左右に発泡スチロールブロックをはめ込んだ程度で出荷されるが、LC-80GL7の場合は、製品本体外周を発泡スチロールフレームで覆ってしまうような厳重な梱包となっていた。
また、開梱して本体を運ぶ際にも、ねじれの危険性があるのだが、これに対しても対策はばっちりだという。LC-80GL7では、多少重量はかさむが、ボディの堅牢性を重視して高強度な外装フレームを採用しているというのだ。80インチともなれば、そう易々と買い換えのできないサイズだし、ユーザーとしては末永く使いたいはずなので、こうしたしっかりした作りにはスペック以上の安心感が得られる。
80インチの大画面ともなると、プロジェクターベースで構築するホームシアターのスクリーンに匹敵する大きさだ。
となれば、LC-80GL7を、ただの大画面テレビとしてだけでなく、ホームシアターの中核映像機器として活用したいと考えるユーザーは多いはずだ。
その際に有効となるのは壁掛け設置である。「え? 80インチの大画面を壁掛け設置できるの?」と思う人もいるかもしれないが、シャープはLC-80GL7対応の壁掛け設置用金具として「AN-80AG1」(LC-70GL7にも対応)を純正オプションとして設定している。
別にこれは無謀なことではない。なにしろ、これまでにも50kg超のプラズマテレビを壁掛け設置する提案は他社でも行われてきたし、それと同等の重量の液晶テレビであるLC-80GL7を壁掛け設置する提案があっても別におかしなことは何もない。
ただ「わざわざ壁掛け設置をする意味はあるのか?」という疑問を持った読者はいるかもしれない。しかし、意味はあるのだ。
理由の1つは、スペースの有効利用のため。先ほども言ったように80インチの大画面ともなるとプロジェクターのスクリーンクラスの大きさ領域なので、この大きさに見合うオーディオラックを部屋に設置してしまうと、部屋の面積を相当に消費してしまう。これを避けるために幅の狭い小さなテレビ台にLC-80GL7を設置できなくはないが、そうするとテレビ台の横幅を遙かに超えて画面が左右に伸びることになり、インテリアの見映えとしてはかなり不格好になってしまう。壁掛け設置ならば、画面の大きさとオーディオラックとを切り分けてレイアウトできるのだ。
そして理由のもう1つは、設置高(画面の高さ位置)を自在に設定でき、チルト角までを与えて設置できるという点。普段、着座して画面を見る位置からの視線が、画面の中央付近に当たるのが「視界の再現」という目的においても理想となるワケだが、これは簡単そうに見えて実際には実現が難しい。というのもオーディオラックの高さ、テレビ側スタンドの高さ、ソファ等の椅子の高さとの組み合わせで、相対的な画面の高さがある程度固定的に決まってしまうからだ。
壁掛け設置だと、設置高(画面の高さ位置)をオーディオラックやテレビ側スタンドの高さから切り離して自分の好みに設置できるようになる。ソファにゆったりと座ったときのことを想定して、あえて画面中央を視線よりも上側に来るようにレイアウトすることも可能だ。画面をやや見上げるかたちになるので、そのままだと映像が台形に見えてしまうが、壁掛け設置金具の機能である下向きチルト機能を活用し、視線と画面平面とを直行させるように調整すれば、それも避けられる。なお、LC-80GL7に標準搭載されているスタンドにはチルト調整機構はないため、これは壁掛け設置時だけの特権となる。
ところで、壁掛け設置の際には、壁側には専用の補強が必要になる点には留意していただきたい。もし新築の家を建築中、あるいは建築計画中のユーザーであれば、「テレビを備え付けるための補強を」と住宅会社担当者に依頼すれば普通に見積もりを取ることができる。今すぐにLC-80GL7を購入するわけではないという人も、家が一度できてしまってから補強工事をするのは、壁を一部破壊して、壁紙の張り替えを伴うような重大な工事となってコストがかさむので、事前に計画に組み入れてしまうことをオススメする。施工法にもよるが、基本的には壁裏に柱や板を挟み込むだけなので、家の建築前段階から計画に入れておけば数万円内の低予算で済む。
さて、80インチ画面は大きいことは大きいが、どうせホームシアターを構築するのであれば、100インチくらいのスクリーンを使用したプロジェクターベースのホームシアターの構築に挑戦したいと考える人もいることだろう。
筆者はプロジェクターベースのホームシアターを15年くらい前から構築しているので、プロジェクターの良さを十分に理解しているのと同時に、その面倒くささも理解している。
「面倒くささ」の筆頭は明るさ管理。プロジェクターベースのホームシアターでは、ちゃんと映像を楽しむためには、雨戸やシャッターを閉める、カーテンを引く…といった遮光をしなければならず、夜であっても室内照明を落とす必要がある。投写型映像機器であるプロジェクターでは、基本的に黒レベルが部屋の暗さに帰着するので、部屋を暗くしなければ良質なコントラスト感が得られないのだ。
しかし、LC-80GL7は液晶テレビなので、映像を見る際に、そうした暗室化の手順を踏む必要がない。「液晶パネルは自発光ではない」とは言われるが、「液晶テレビ」製品としてそれ自体が発光する直視型のディスプレイだ。なので、それまでユーザーが生活していた光環境のまま、シームレスに大画面映像が楽しめる利便性があるのだ。
昼間も遮光せずとも、電源オンでそのまま大画面が楽しめるし、なにより、夕食を取りながら映像を楽しむことも可能なのが大きい。プロジェクターベースのホームシアターで夕食を取ろうとすると、部屋を暗くすることになってせっかくの料理が見えなくなってしまうが、LC-80GL7ベースのホームシアターならば、蛍光灯照明下で普通に食事をしながら映像が楽しめるのだ。
専用ホームシアタールームを構築できる人ならばいざ知らず、リビング、あるいはリビングダイニングと兼用のホームシアターを構築することになる一般家庭では、この「光環境を意識せずに大画面が楽しめる」という利便性は非常に価値が高いと思う。LC-80GL7は生活スタイルに面倒をかけず、大画面性にも妥協しない映像の楽しみ方ができるのである。
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シャープのショウルームに画質評価用の映像ソフトなどを持ち込み、「LC-80GL7」を実際に視聴した
(※上の画像の画面ははめこみ合成です)
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逆に、LC-80GL7は、照明を落とした暗室状態で映像をしっとりと楽しむこともできる。シャープも、「80インチの大画面モデル」ということで、LC-80GL7にはホームシアター的な活用を想定した機能を搭載しているのだ。
AQUOSシリーズを、暗室においてホームシアター的に楽しむための、最も基本的な活用方針は画調モードである「AVポジション」を「ぴったりセレクト」にすることだ。これは部屋の照度に合わせて最適な明るさの映像に調整してくれるもので、最近のAQUOSのほとんどのモデルに搭載されている機能だ。
LC-80GL7でも、この機能は使えるが、せっかくの80インチ大画面なので、シャープはGL7シリーズには、ホームシアター的に…プロジェクター的に…あるいは映画館的に楽しむための「特別なモード」を与えている。それが改良進化版の「映画クラシック」モードだ。この機能は2010年モデルのAQUOS LX3,LV3から搭載されているが、AQUOS GL7ではより進化したものになっている。
従来の映画クラシックモードは毎秒24コマの映像を補間フレーム挿入なしの同一フレーム重複描画の形で4倍速・毎秒96コマ化して48Hz周期のLEDバックライトオフによる黒挿入を行っていた(いわゆるインパルス表示)。AQUOS GL7では、この制御を進化させ、映像中のピーク輝度レベルに応じて、黒挿入のタイミングを48Hzから動的に変化させる制御「インテリジェントシャッター効果」を新たに組み入れている。
これには明るいシーンで視覚上のフリッカーを低減させる狙いがある。また、CGとして制作されたBDメニューなどにありがちな極端に明るい映像が表示されたときのチラツキ低減にも一役買う効果がある。具体的には、映像が想定されるダイナミックレンジの範囲では48Hzでの黒挿入になり、その想定ダイナミックレンジを超えた明るいシーンでは、その明るさに応じて動的に黒挿入のタイミングを調整する適応型アルゴリズムが採用されているとのこと。だが、元が毎秒24コマなのに、その整数倍でないタイミングで黒挿入が入ることに不安を覚える人もいるのではないだろうか。実際にはその心配は無用だ。この映画クラシックモードでは補間フレームは挿入されず、実質的には動かない映像に対しての複数回黒挿入が行われることになるので、動画の表示間隔の等間隔性が乱されることはないのだ。インテリジェントシャッター効果は、あくまで目が知覚する光量の最適化と、ホールドボケの低減が実践されるだけで、この制御による映像の動き面に対しての弊害はない。
AQUOS GL7の映画クラシックモードには、もう一つの進化ポイントがある。それは「ランプ揺らぎ機能」の搭載だ。これは1950年代くらいまでの映写機で主流光源として採用されていた「カーボンアーク灯」の、輝度維持が不安定な光り方を再現するものだ。実践的には、色情報のないモノクロ映画などを情緒豊かに楽しむための機能という位置付けになる。
今回の評価では、実際に、幾つかの手持ちの評価用映像素材をシャープのデモルームに持ち込んで、LC-80GL7の実機映像を見たのだが、この進化した映画クラシックモードは、別に古い映画を見るためだけでなく、最近の映画を見るのにも十分に使えると感じた。
というか、ホームシアターの中核映像機器としてLC-80GL7を選択するのならば、この機能の活用はむしろ「積極的に利用すべし」と思ったほどだ。
まず、インテリジェントシャッター効果は、液晶テレビ特有の「明部階調至上主義」的な画作りが軽減されて、プロジェクターのようなしっとりとした映像に見える点が気に入った。
さらに、インテリジェントシャッター効果は嬉しい副作用をもたらしてくれることにも気がついた。それは、液晶テレビ特有の「黒浮きが低減される」ということだ。これは、ブロッカ・サルツァー効果(Broca-Sulzer Effect)と呼ばれる人間の視覚メカニズム特有の現象によるものと推察される。ブロッカ・サルツァー効果とは、光を50ms〜100ms程度で明滅させると、その物理的な輝度量よりも明るく感じるが、それよりさらに早く明滅させると逆にその物理輝度量よりも暗く感じられるという現象だ。
BD映画「ダークナイト」でしばしば挿入される夜景シーンでは、液晶が得意とするハイライトの煌めきだけでなく、同居する暗部階調がしっかりと表現できているように見えていたが、この効果によるものと思われる。実際、インテリジェントシャッター効果をオン/オフして見ると、暗部の見え方、黒の沈み込みの深さは一瞬にして切り替わる。
さて、映画クラシックモードでは、色調がテクニカラーのフィルムの発色を再現したものになるが、同時に色温度モードからはキセノンランプを模した「キセノン」が選べるようになる。ここも見逃されそうな機能項目だが、実はGL7特有の機能になる。テクニカラーのフィルム発色再現とキセノンモードの相性はかなりよく、人肌に暖かみが増して、赤の発色も深くなり、まさに上級プロジェクター・ライクな映像が味わえるのだ。この派手すぎずも、実に豊かな色あいは、クアトロン――4原色パネルの優れた色再現性能の恩恵も多分にあるものと思われる。
今回のLC-80GL7の評価では、3D映像やゲームも楽しんでみた。一般に、テレビで見る3D映像は、「目のフォーカス(水晶体)位置から推察される遠近と視差から推察される遠近の不一致感」と「広画角撮影による空間歪曲の副作用」などの要因で、実際の画面サイズよりも小さく感じられることがある(箱庭効果)。そのため、3D映像は、立体感が得られたとしても、大画面でなければ迫力が不足しがち…と言われるのだが、さすがにLC-80GL7は、80インチもあるので、そんなこともなく、ゲームでも映画でも大迫力の3D映像が楽しむことができた。
プロジェクターの場合は、自分の頭が影となって映り込んでしまうのであまりスクリーンに近づいて見ることができないが、直視型の液晶テレビならば、その心配もない。3D映像の迫力アップを狙って、一般的に言われる理想視聴距離の「画面の高さの3倍」よりも前に近づいて見るのもいいと思う。
近づいて見る際には、画面上の画素を大きく見ることになって画素がボケて見えたり、ジャギーが見えないか気にする人もいるかもしれないが、それは杞憂だ。AQUOS クアトロンは4色サブピクセル単位での超解像描画を行う「829万サブピクセル駆動システム」が効いてくれるので、大画面ながらも近くで見るに堪えうる画質となるのだ。
それと、80インチの大画面は、ゲームプレイにも威力を発揮してくれたことを報告しておきたい。一人称視点のゲームならば視界がそのまんま画面に再現される感じで没入感が凄くなるし、マイキャラが見える三人称視点のゲームでも、キャラクタがとてつもなく大きく描き出されるので、そのアクションが大迫力で楽しめるのが感動的だった。
今回の評価では「ドラゴンズドグマ」や「アンチャーテッド3」のようなドラマチックな映像が展開する映画的なゲームをプレイしたのだが、本稿で述べた、「暗室にしてプロジェクター的な画調で楽しむテクニック」が意外にマッチしてくれた。
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カプコンのプレイステーション 3/Xbox 360用ゲームソフト「DRAGON'S DOGMA」をプレイ
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本稿は、BIG AQUOSの紹介というよりは、80インチクラスの大画面テレビの魅力と活用、そしてそこから広がる夢……みたいなものを語る内容となってしまったが、いかがだっただろうか。
暗室にせずにプロジェクター級の大画面が楽しめ、さらに暗室にすればプロジェクターライクな(≒映画館ライクな)映像が楽しめるBIG AQUOSは、ただ大きいAQUOSというだけでなく、テレビの枠を超えた楽しみ方ができる新提案モデルである…というようなメッセージが伝われば幸いだ。
プロジェクターライフを15年間送ってきた筆者としては、プロジェクターを今後も否定するつもりはないのだが、今回、LC-80GL7の実機と接し、正直、うらやましい部分は確かにあった。悔しいが、それは認めることにしよう。
だからこそ、筆者としては80インチクラスの大画面AQUOSはこの世代で終わらないで欲しいと思っているし、欲を言えば今後はさらに同価格で90インチ、100インチのAQUOSを実現して欲しいと思う。
大画面、万歳。大画面よ永遠なれ!
(トライゼット西川善司)
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