UV2Aパネルがまきおこす液晶大革命 液晶テレビには二種類ある。UV2Aか、そうでないかだ!

LED AQUOS  「SE1」&「LX1」

今回、幸運にも、このUV²A技術を開発したシャープ天理総合開発センターを取材する機会に恵まれた。

UV²Aの生みの親である宮地弘一氏(シャープAVC液晶事業本部、要素技術開発センター、第四開発室-天理、参事)を取材した

 2009年冬、シャープは、白色LEDバックライトを搭載した通称「LED AQUOS」ことAQUOS LX1シリーズを発表し、間髪を容れず2010年には、LED AQUOSとしての画質性能にエコ機能を組み合わせ、さらにコストパフォーマンスを高めたAQUOS SE1シリーズをも発表。

 「次世代高画質」というキャッチコピーが打たれた、このLED AQUOS製品シリーズは、本木雅弘が主演するユニークなテレビCMの効果もあってか、"LED採用"の方が大きく取り沙汰される傾向にある。

 いや、実際、LED採用も大きく「次世代高画質」に貢献していることは間違いないし、LED採用機だからこそできた新しいエコ機能というのもあるので、AQUOS LX1/SE1シリーズのイメージ作りの方向性としては全然間違えてはいないのだが、映像デバイスマニアの筆者個人としては、もう少し液晶パネルの方にも目を向けて欲しいと思ったりする。

 AQUOS LX1シリーズ、そして新しく登場したAQUOS SE1シリーズに採用されている次世代液晶パネルは、実は「液晶大革命」と言ってもいいほどの画期的な液晶パネルなのである。

 その次世代液晶パネルに採用された新技術「UV²A」。

 本稿では、LED AQUOSシリーズに搭載されたUV²A技術を採用した液晶パネル(以下、“UV²Aパネル”と呼ばせていただく)が、どう優れているのか、その魅力に迫っていくことにする。

基本からおさらい~垂直配向型液晶ってなに?

 UV²AとはUltraViolet induced multi-domain Vertical Alignmentの略で「ユー・ブイ・ツー・エー」と発音する。

垂直配向型液晶の動作概念。光の入射側(上)と表示面の出口側(下)とでは偏向方向を互いに90度ずらした2枚一組の偏光フィルタで液晶分子を挟み込んでいる。電圧オフでは偏光フィルタに阻害されて光が出てこられず黒表示となる。電圧オンでは液晶分子が寝始めて光が液晶分子に当たりやすくなって光は複屈折を起こし、これによって位相がずれた光が出口から出てくる。垂直配向液晶では液晶分子の寝起き制御で光の透過率を制御し多階調を作り出している。

MVA液晶の駆動イメージ

 Ultravioletは紫外線を意味し、inducedは誘発させた/導入した…の意がある。multi-domain Vertical Alignmentの部分はいわゆるマルチドメイン型の垂直配向型液晶…すなわちMVA液晶のこと。つまりUV²Aとは「紫外線を用いて形成させたMVA液晶」ということだ。

 ますます、混乱してしまった読者もいるかもしれない。順を追って解説していこう。

 まず垂直配向液晶とはなにかという部分。これは簡単に言えば、電極で挟み込んだ液晶分子を電界のかけ方で起こしたり寝かしたりして、入力された光の透過具合を制御する液晶のこと(概念図参照)。
 
 ただ、パネル全面において液晶分子の寝起き具合が一定の場合、視線が液晶画素と相対して見る場合に限定できれば問題ないが、画面サイズが大きい液晶テレビ用液晶パネルでは、視線が液晶画素に対して斜めに入る割合が多く、見る方向によって液晶分子の寝方が違って見えることになる。これはつまり視線と液晶画素の相対位置関係によって色味が変わる…いわゆる視野角依存を生み出してしまうことになり、まずい。

 そこで、液晶分子をグループ分けしてグループごとに寝起き方向を変えて制御することで、各液晶分子グループからの出力光が互いに補償し合えるようなデザインが考え出された。これがマルチドメイン(複数グループに分けたの意)の垂直配向型液晶…MVA液晶だ。

 MVA液晶のキモとなる技術は、どうやって液晶を複数方向に寝起きさせるか…という部分。

 MVA液晶パネルでは、パネル内部に「リブ」(Rib)と呼ばれる突起状の仕切りを形成させており、この突起の斜面効果で液晶分子が想定した方向に傾くようになる。さらに、この液晶分子達を想定した方向に寝起き制御するために、歪曲した斜め方向の電界を作り出す必要があるのだが、これにはリブと相対しないように電極に溝(スリット)を入れることで対処する。

 また、リブをスリットに置き換え、スリットを相対する両方の電極にずらし合いながら形成していくことで斜め電界の配向制御を行うMVA液晶もあり、これは特にPatterned vertical alignment(PVA)液晶とも呼ばれる。

従来型MVA液晶に残された課題

 こうした従来のMVA液晶では、リブやスリットがバックライトの影として見える。これはリブやスリットの直上の液晶分子は電界制御によって寝起き制御ができず、どの方向にも寝起きしてくれないため。つまり、この部分は光が抜けてこられないため影となってしまうのだ。光が通ってこられないということはこの部分が開口率を下げる要因となっているわけで、バックライトの光の利用効率がパーフェクトとは言い難い。より明るい映像を表示するためには、リブやスリットで遮蔽される分も考慮してバックライトを高輝度で発光させなければならない。

 一方、黒表示時は、バックライトからの光がリブやスリットから迷光が漏れてきて黒が少々浮き気味になる。これは、リブの斜面、スリットの段差などで液晶分子が理想通りに寝起き制御ができないために若干の光を通してしまうことから生じている。

 また、従来のMVA液晶では、液晶分子の寝起き制御において電極間の電界を変化させると、液晶分子はリブの斜面側の方からドミノ倒し的に寝起きが伝搬する。近接する互いの液晶分子は連続的に同じ方向に向くという液晶特有の性質があるので、画素が目的の状態になるまでの経緯がもっさりとしてしまう特性があるのだ。これは動画応答速度の観点からするとあまりかんばしい特徴ではない。

世界初! 夢の光配向技術を実用化したシャープ

 そこでシャープが開発に乗りだしたのはリブもスリットも用いないMVA液晶だ。

 様々な試行錯誤の結果、成功したのは液晶分子を任意の方向に寝起きさせることができる特殊な配向膜形成技術。

 だんだん話が見えてきたと思うが、そう、それがUV²Aパネル実現におけるキモとなった技術なのだ。
 
 ある"独自レシピ"の高分子有機化合物の薄膜に対して、紫外線を一定時間当て続けると、その高分子の側鎖(枝分かれしている分子群)は、自発的にその紫外線の方向に傾く。これを配向膜として使う。

 側鎖が傾いた配向膜に液晶分子を馴染ませると、その側鎖の傾きに沿って液晶分子達は自発的に傾いて配向してくれる。この状態で電界を生じさせると、リブがなくとも、またスリット無しの斜め電界でなくとも、ちゃんと液晶分子は側鎖の傾きの方向へ倒れ出す。

光配光技術

 照射方向を変えて紫外線光を配向膜に照射することで、任意の方向に液晶を傾かせて配向させることができるこの画期的な技術は「光配向技術」と呼ばれる。

 光配向という技術は研究テーマとしては約30年前から存在していたが、シャープを除く液晶業界はこれを量産液晶パネル製造技術に結びつけることには消極的だったようだ。宮地氏は「MVA液晶が主流化してからのここ十数年、液晶業界ではリブやスリットをどう改良していくか…の発想が中心で、新しい垂直配向技術を生み出そうという勢力があまりなかった。」と振り返っている。

 価格競争に追い込まれた液晶テレビ業界では、全く新しい垂直配向技術の開発に取り組む時間的、コスト的余裕がなかったのかもしれない。ところが、液晶パネルメーカーでもあり、液晶テレビメーカーでもあるシャープは、「全部自分で手掛ける」ことにこだわる垂直統合型テレビメーカーだったこともあって、垂直配向技術のイノベーションに陰ながら取り組み続けていた。地道に研究を進めていた宮地氏を中心としたシャープの開発チームは、「液晶技術者の30年来の夢」ともいわれるこの光配向技術を、2009年に、世界で初めて量産技術として実用化することに成功したのだ。

 光配向技術は、紫外線の照射方向を変えるだけで、液晶分子を任意の方向に寝起き制御させるための下ごしらえができてしまうので、従来MVA液晶で不可欠だったリブもスリットもいらなくなってしまうのだ。

 リブとスリットが要らなくなるということは、前述したような、リブとスリットの存在そのものが原因だった問題が全て解消してしまうことになる。

UV²Aパネルではリブとスリットがなくなることで光利用効率が向上する

UV²Aパネルではリブとスリットで起こっていた迷光を解消できるため、より暗部を沈み込ませることができるようになる。

 まず、リブとスリットの影がなくなることで開口率が向上する。開口率が向上すれば光利用効率が高くなり、従来と同じ明るさの表示をするのにも、バックライトの輝度を控えめにすることもできて省エネが実現できる。ちなみに、従来MVA液晶パネルに対して、UV²Aパネルの開口率は公称+20%も向上しているという。

 そして、もう一つ。リブとスリットがなくなることで、従来MVA液晶で起こっていたリブとスリット付近の迷光もなくすことができることになる。これは黒表現をより暗くすることができ、さらに暗部階調表現をグレーに埋もらせることなく正確に表現できることにもつながる。

 このように明部と暗部、両方のダイナミックレンジが拡大されたことで、UV²Aパネルでは、従来MVA液晶パネルでは考えられなかったような超ハイコントラストな映像表現ができることとなったのだ。なお、バックライトの明暗制御をしない輝度固定状態での新パネルのスタティックコントラスト値は、実に公称値5000:1以上を達成したと発表されている(LX1)。これは従来の液晶パネルの1.6倍以上のコントラスト特性に相当する。なお、実際のUV²Aパネル採用AQUOS LX1/SE1シリーズでは、フレーム単位でバックライトの明暗を制御するダイナミックバックライト制御を組み合わせることで最大200万:1のテレビコントラストを実現させている。

 実際にAQUOS LX1,SE1の映像を見てもらうと、もはや液晶のコントラスト感とは思えない映像表現となっていることがわかるはずだ。孤立した高輝度ドット領域が黒背景に描かれるような星空や夜景のシーンは、今までの液晶パネルにとっては黒浮きが目立つ不得意な種類の映像だったのだが、UV²Aパネルでは、鋭い明部と深い暗部を平然と同居させることができる。予備知識無しで見れば、きっとUV²Aパネルの表示は、ほとんど自発光画素として見えてしまうことだろう。

液晶の動画性能の本質的向上を実現するUV2Aパネル

従来のMVA液晶では、液晶分子の寝起きが「隣が倒れているから自分も倒れる」的なドミノ倒し的な寝起きだったが、UV²Aパネルでは各液晶分子の寝起きが全面均一的に制御できるため、応答速度的にも優れることになる。

従来MVA液晶と新UV²A液晶との応答比較。上がUV²A、下がMVA。応答時間が同じでもその途中経過が違う

時間を超スローにしての顕微鏡写真。左がUV²A、右がMVA。とくに初動スピードの差は歴然

 スペック上ではUV²Aの応答速度は「4ms以下」、一方従来MVA液晶が「4ms」程度なので、そう大差がないように思えるかも知れないが、その"応答の質"が違うのだ。
 
 よく液晶の動画ボケの原因として取り沙汰されるのが、バックライトが常時点灯していることで、前フレームの表示が次フレーム表示の直前まで視野に残像として残ってしまう「ホールドボケ」だ。
 
 しかし、液晶の動画ボケは、ホールドボケだけでなく、実は連鎖反応式に状態変化する液晶分子の動きにも原因があると言われている。
 
 「UV²Aでは短時間で"一斉"に液晶分子が動きますから、従来MVAと違ってスムーズに応答します。これは映像全体としてみた場合にはキレの良さとなって見えます。また、昨今、話題となっている立体視テレビにもUV²Aは相性がよいと思っています。フレームシーケンシャル方式の立体視テレビでは、右目用と左目用の映像を交互に高速で切り換えて表示することになりますが、UV²Aは理想的な応答経過をともなって表示が行えますから、左右の目用の表示がオーバーラップして二重に見えてしまうクロストーク現象が従来液晶よりも回避しやすいはずです。」(宮地氏)

 液晶の残像低減技術として、算術合成した補間フレームを挿入する倍速駆動技術が台頭してから久しいが、UV²Aパネルの高速応答性能は、これとは全く違うアプローチの、液晶の動画性能の本質を改善するものなのである。

光配向技術は生産面においてもメリットが大きい

 こうした新世代技術というものは、往々にしてその第1世代採用製品は高価なものになりがちだ。
 
 確かに、採用第1号機となったAQUOS LX1シリーズは、スタンダードクラスでもやや上位モデルの位置づけになっているが、この春モデルとして登場したSE1シリーズは、UV²Aパネルを採用しながら、メインストリーム向けの商品となっている。

 なぜ、そんなことが可能なのか。

 まず、理由の1つとして、製品の開発コストが抑えられたことが挙げられる。UV²Aパネルは、光配向というまったく新しい技術によって実現されたパネルではあるが、液晶そのものの駆動原理は従来のMVAパネルと同じだ。つまり、液晶の駆動回路や映像エンジンについてはUV²A採用機とはいえども、従来のAQUOSで培ったノウハウを活かせるため、何から何まで新規開発をする必要がなかったのだ。

光配向技術によって生産されるUV²Aパネルは歩留まりがよい

 また、前述したように、製造工程において、リブとスリットの形成工程を省いて光配向工程を介入させた以外は、従来MVA液晶パネル製造工程そのままなので、製造設備についても総取り替えをしなくて済んでいる。これは製造コストを大きく引き上げなくて済んだことにつながる。

 さらに言えば、リブやスリットのような微細構造の複雑な形成プロセスを丸ごと省くことができたことで、安定して高性能パネルを製造できるようになった点も光配向技術実用化の恩恵だという。言い換えれば、光配向技術によって製造されるUV²Aパネルは歩留まり率がよいのだ。これが、早期にSE1シリーズのようなメインストリーム機を送り出せるようになった理由にもなっているのだろう。

アナタのUV2A採用AQUOSはこれだ

 液晶テレビは液晶パネルの性能だけで決まらないのも事実だが、液晶パネルの基本性能が上がれば、液晶テレビとしての性能が底上げされるのもまた真なり…である。

 シャープは、この新世代高画質を実現するUV²Aパネルを今後のAQUOSの主流パネルに置き換えていく方針だ。AQUOS LX1シリーズとSE1シリーズ、および今年2010年モデルのAQUOSシリーズは、競合製品に対して強い競争力と訴求力を持つことになる。

 今期、液晶テレビの買い換えを検討中ならば、店頭で一度、UV²Aパネル採用機を見てみることをオススメする。

 最後になるが、UV²Aパネル採用AQUOS購入の際のポイントについても触れておこう。

 画質と音質をとことん追求する人ならば上級機のAQUOS LX1シリーズがいい。LX1はUV²Aパネル採用機で現状、唯一60V型モデルがラインナップされているのも特徴で、「とにかく大画面を」という人にもおあつらえ向きだ。なお、AQUOS LX1シリーズの画質や音質についての詳細は筆者の執筆したこちら(http://ad.impress.co.jp/special/aquos0912/)を参照して欲しい。

AQUOS LX1シリーズ

 UV²A画質に惹かれつつも、コストパフォーマンスも重視したい人はSE1シリーズがベストバイAQUOSとなるはずだ。SE1は40V型以下モデルに限っては黒白赤のカラーバリエーションモデルが設定されているため、インテリアとのマッチングを気にかける人にも向いている。なお、このシリーズで32V型(SC1)だけはフルHD(1080p)ではなく標準ハイビジョン(720p)ではあるが、初めてUV²AパネルとLEDバックライトを採用している点も要チェックだ。

さらにSE1は、画質性能こそLX1を継承しつつもバックライトLED数を削減しているため消費電力が低く、さらに賢いセンサー制御のエコ機能も搭載されているためランニングコストまでが安価なのもウリ。SE1のエコ性能については、その優秀さを動画で紹介したこちらの記事(http://ad.impress.co.jp/special/aquos1002/)が分かりやすい。

AQUOS SE1シリーズ

(トライゼット西川善司)

 

■関連情報
□シャープのホームページ  http://www.sharp.co.jp/
□AQUOS LX1 製品情報 http://www.sharp.co.jp/aquos/series/lx/
□AQUOS SE1 製品情報 http://www.sharp.co.jp/aquos/series/s/
□AQUOSのホームページ http://www.sharp.co.jp/aquos/

■関連記事
□次世代“エコ”AQUOS誕生! 百瀬みのりが体験 AQUOS SE1
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 http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100128_345174.html

 

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