西田宗千佳が切りこむ!    マニアも納得の高画質・高音質をすべての人に  LED AQUOS  LX1今冬商戦向けテレビで、筆者に1台注目商品を挙げろと言われれば、間違いなくシャープの「AQUOS LX1」を選ぶ。今冬の同社のフラッグシップモデルであり、画質面・音質面で注目されるのはもちろんだが、シャープという企業の今後の技術戦略や、テレビ市場の状況を考える上でも、非常に興味深い製品だ。シャープ担当者の言葉から、LX1に込められた思想を読み解いてみよう。

あえて「エリア制御」を省き、「手に入る高画質」を狙う

40型から60型まで、計4サイズをラインアップする「LX1」

 今夏まで、シャープの液晶テレビ事業における「画質重視」モデルは、主に2階層で構成されていた。最高位モデルで高画質をウリにする「RX5」と、それよりはちょっと劣るものの、価格が安く手が届きやすい「GX5」シリーズだ。この二機種が、普及価格帯の「DSシリーズ」の上にあり、広い選択肢を与える、という形でニーズを満たしていたのである。

 だが、今冬モデルでは、「画質重視」モデルのラインナップはぐっとシンプルになった。RX・GXの2ラインが、新たに登場した「LX」に統合され、DSシリーズのすぐ上に位置するような形となったためだ。

 シンプル化すると同時に、位置づけが変わったのが「価格」だ。RXシリーズは高画質ではあったが、高価だった。だがLX1は、普及価格帯というにはまだ高価ではあるものの、フラッグシップモデルとしてはかなりリーズナブルになっている。特に、ニーズの多い40型モデルは25万円程度と、他社のフラッグシップモデルと比べてもかなり手頃な価格である。

 他方、LX1をスペックだけで判断し、次のような意見を耳にすることもある。「LX1は、価格優先の中途半端な存在。LEDを採用しているのに、エリア制御を搭載していないのがその理由だ」と。

AVシステム開発本部・要素技術開発センター・第2開発部の小池晃副参事にお話をうかがった

 確かに、そう見るのも無理はない。すでにシャープは昨年、LEDとエリア制御を採用した「XS1」を商品化しているからだ。XS1は、RXやGXとはまた違った意味で「フラッグシップ」だった。薄型化と高画質化の双方において、当時できることのすべてを追求した製品であり、現在も継続販売されている。「XS1でやっており、他社も手がけているエリア制御が最新のフラッグシップモデルでは採用されていない」ため、LX1が中途半端に見えるのだろう。

 だが、LX1をはじめとしたアクオスの画質設計を手がける、AVシステム開発本部・要素技術開発センター・第2開発部の小池晃副参事は次のように語り、その見方をはっきりと否定する。 「LX1では、“あえて”エリア制御をしていません。結論から言えば、エリア制御を採用しなくても、十分な高画質化が実現できたのです」

 その発言の裏にあるのは、XS1開発から得られた経験と、LX1から採用された新液晶「UV²A」、そして映像処理回路「高画質マスターエンジン」に対する信頼感である。

新液晶「UV²A」と「高画質マスターエンジン」でエリア制御に負けない画質を実現

 なぜエリア制御を使わなかったのか、という疑問への答えの前に、LX1の画質についてコメントしておこう。

 率直にいって、この価格で得られる製品とは思えないほど良好だ。RX5やGX5の後継機として十分な性能を持っているのはもちろん、11月段階で入手できる液晶テレビの中でも、十分にトップクラスといっていい。中でも感心したのは、暗部を含めたコントラスト感と色の階調表現のなめらかさだ。GX・RXに比べても、色の表現が自然であり、とても見やすい印象を受けた。

ショウルームにて実際に画質の評価をおこなった

LEDバックライトと次世代液晶パネルの組み合わせで、輝くような白色の表示を実現する

次世代液晶パネルは、引き締まった黒色を表現するのにも貢献

 LX1は、バックライトに白色LEDを、液晶パネルにUV²Aを採用している。どちらも、高画質化には有効な技術だ。特に大きいのは、UV²Aの特性だろう。UV²Aは、シャープがこれまで使用してきたASV液晶に比べ、開口率が高く、応答速度が速い。また、バックライトの光漏れも少ないため、黒が「より黒く」見える。LEDは、ご存じの通り省エネ性に優れているが、高画質化にも有効だ。「利用している白色LEDの発色傾向は、従来のCCFLに比べ、画面全域において自然です。CCFLでは一部にあった、ごく小さなばらつきが存在しないので、より色変化がなめらかに見えるのでしょう」と小池氏も話す。

 エリア制御式のLEDバックライトを使った製品は、LX1同様、コントラストの高さをウリにしている場合が多い。だが現在のエリア制御方式では、「Halo(後光)」と呼ばれる副作用も存在し、これが画質向上の妨げとなる。そもそもエリア制御の分割数は、液晶の画素に比べ圧倒的に少なく、大きい。業界でトップクラスの分割数であるXS1でも、分割数は4桁(正確には未公表)に過ぎない。すると、バックライトの光る部分と実際の画素の間に起きる差違から、とりわけコントラストのはっきりした場面で「本来は存在しないはずの光」が見えることがある。これがHaloだ。また、少ないバックライト分割数にあわせて色を調整すると、現状では「濃い目」の色味になることも多く、問題とされている。

 これらの問題を解決するには、よりエリアの分割数を増やす必要がある。そうすると当然、制御もパーツ数もより複雑となり、コストも増大する。

 問題はその点だ。チャンピオンモデルを作ることにはもちろん、ロマンも意義もある。だが、シャープはその方向性を採らなかった。小池氏は開発のポリシーを次のように語る。 「今回は、高画質化・高音質化に加え、いかに価格を抑えた製品とするか、が大きな課題でした。最低限RXシリーズ以上の画質で、なおかつ皆さんが手に入りやすい製品とすることが、至上命題だったのです」

 いうまでもなく、現在の市場はデフレ傾向にある。高品質な製品が欲しくとも、そこに手が届く人が減っているのは実情だろう。その中で健全なビジネス展開をするにはどうしたらいいのか? シャープが考えたのは、ハイクオリティでありながら価格を抑えた製品を作るにはどうすべきか、ということだ。

 低価格でないとハイエンド製品ですら売れない、という状況は、特にアメリカを中心とした海外市場で顕著となっている。日本企業がLEDを「高画質・高付加価値」に展開していくのに対し、ある企業が普及価格帯にLEDを載せ「安価だが高性能」というイメージの製品で市場を席巻しはじめたからだ。

 だが当然、シャープは「単にLEDが載っているだけ」の製品では満足できない。そこで、新液晶UV²Aと新映像処理回路「高画質マスターエンジン」を使い、極端なコストアップを伴うことなく、「LEDらしい高画質」をきちんと実現した製品を投入した、ということなのだ。 「これだけの画質が実現できたのは、高画質マスターエンジンの力が大きい」と小池氏は言う。高画質マスターエンジンは、今夏に発売された「DS6」から採用されているものだ。そのLSIをさらに活用し、液晶パネルとバックライトの特質に合わせたソフトウエアのチューニングを施すことで、UV²Aの能力を生かした、しっかりとした映像を実現できた。

 市場の要求と、自社独自の技術を最大限に生かすというシャープの特性がクロスしたポイントに、LX1は存在していることになる。

「簡単調整・自動補正で手間いらず」を実現、誰もがいつも高画質・高音質

実際に表示される例示映像を見ながら画質の傾向を調整できる「お好み画質設定」

お好み画質設定で設定した後、さらにマニアックな設定で追い込むこともできる。ビギナーとマニア、双方にとって利便性が高い

 手に届く最高画質、という特性は、商品の内容に大きな影響を及ぼしている。画質調整や音声機能という点では、LX1はマニア向けである以上に、「普通の人が満足して使える」製品に仕上がっている。

 例えば画質調整。現在のテレビでは、周囲の明るさや番組のジャンルに応じて画質を「自動調整」する機能が備わっている。だが、それですべての人が満足するわけではない。

小池氏は、意外な話をした。

「最近は、テレビ出荷時の画質設定は『標準モード』であり、店頭で多く使われるいわゆる『ダイナミックモード』ではありません。そのためか、お客様から『店頭で見たコクのある映像にならない』というコメントをいただくことがあります。また、視力が衰え始めた年配の方には、ダイナミックモードの方が見やすい場合もあります」

 最適な画質と「思える状態」は、人によって異なる。マニアならばなおさら、自分の気持ちに合った映像を求めたくなるだろう。だが、好みに合わせた映像調整をするには、ユーザーが様々なパラメーターの意味を理解しなければならなかった。

 そこでシャープが今回LX1で搭載したのが、「好画質センサー」だ。好画質センサーはいわゆる自動調整機能だが、「お好み画質設定」と「ぴったりセレクト」という2つの機能を組み合わせて、従来にない快適さを実現している。

 お好み画質設定は、細かな設定ではなく、「どのような画質傾向になるか」を映像で選択することで、簡単に画質傾向を変えられる機能。従来の数値式に比べれば、難易度は天と地ほどの差がある。マニアならば、まずお好み画質設定でおおまかな画質の傾向を選び、そこからさらに個別の設定を調整して突き詰めていくのがいいだろう。

 しかもこの設定は、番組の「ジャンル」によって別々に保存される。従来、画質設定を行うと、その傾向はすべての番組で同じように反映された。だが「お好み画質設定」では、映画はしっとりとした画質で楽しみたいが、スポーツはメリハリの利いた画質で楽しみたい、といったニーズに答えられる。

 そして、それが「ぴったりセレクト」と組み合わせられることで、より気楽に使えるようになる。周囲の明るさや光の色温度、番組の内容などに合わせ、全体の画質を自動調節した上で、「お好み画質設定」で合わせた各人の好みを反映、最終的に映像として見せる。  この結果、LX1は驚くほど「いつでも同じ映像」に見える。日中の明るい室内でも、光を落としたホームシアターのような状況でも、その人が感じる映像の質感が似たような感じに調整されるためだ。しかも、番組の内容にあわせ、適切な画質で、だ。従来は「そういうものだ」と思ってあきらめるか、リモコンでこまめに調整する必要があったが、LX1では必要ない。

音質に関しても、実際にサンプル音声が流れるので、自分の感覚に即した設定にしやすい

新開発の「ARSSスピーカーシステム」と低振動ウーハー Duo Bassを搭載。サラウンド感と低音の重厚感を向上させている

 これは、より良い画質を求める、というだけでなく、多くの人に「画質調整に関するストレスをなくす」という意味合いを持っている。手に届く高画質であるからこそ、「誰もがそれを生かせるものでないと意味がない」という発想があるからだ。

 音質についても同様だ。お好み画質設定のように番組の内容に連動する機能はないものの、セリフが聞きやすくなるよう、音質を調整しておくことができる。こちらでも、映像と同様、「声のサンプル」を聞いて、良いと思えるものを選択する、という形式なので、非常にわかりやすい。

 スピーカーのレイアウトも、同じ発想だ。LX1では、スピーカーが液晶を「包む」ような形になる「ARSS」という形式のレイアウトが採用されている。46型以上では3ウェイ6スピーカー、40型は3ウェイ5スピーカーという、比較的リッチなスピーカー構成なのだが、音の定位に特徴がある。それは、液晶の正面から、まっすぐにセリフなどが聞こえてくる、ということだ。液晶テレビのスピーカーは、一般に小さく迫力に欠ける。また、サラウンドの音声を聞いた場合、実際に座っている位置と音の定位にズレがうまれやすく、「セリフが聞きづらい」という印象を受けやすい。一般的なテレビスピーカーで、音の広がりと聴きやすさを両立するのはなかなか難しいが、LX1は、カジュアル方面に振ってはいるものの、それを実現している。画質調整が「手を下さずとも快適」を目指したのと同様、音についても「座ればすぐに、おおむね快適」を目指したためだ。

 マニアックな製品は、AVファンにとって魅力的であり、ロマンでもある。だが、開発と製造にコストがかかるデジタル家電では、「マニアックな製品」であっても、多くの人が手に取れる量産性とコストでなければ、なかなか世で評価を得にくくなっている。

 シャープがLX1で狙ったのは、「こだわりのある製品を、いかに広く受け入れてもらえるか」ということだろう。そしてそれを実現するには、ユーザーインターフェースが重要になる。LX1は、そのバランスを現状でうまくとった製品といえそうだ。

[Reported by 西田宗千佳]

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