特別企画

AMDが見すえるクラウド時代のサーバー向けプロセッサー、進化の道筋

(2013/6/26)

サーバー向けに、以前から続く2ソケット/4ソケット向けCPUと、省電力x86サーバー向けCPU、新しいARMアーキテクチャのCPU。これら3つの製品ラインをOpteronブランドで進める――。これが、AMDが6月18日(米国時間)に発表した2014年までのサーバー向けCPUのロードマップだ。

AMDが6月18日(米国時間)に発表したサーバー向けプロセッサーのロードマップ

AMDの新しいサーバー分野でのロードマップと戦略について、日本AMD株式会社 エンタープライズ事業部長の林淳二氏に話を聞いた。

新しいサーバーのニーズにあわせてゲームチェンジを狙う

日本AMD株式会社 エンタープライズ事業部長の林淳二氏 日本AMD株式会社 エンタープライズ事業部長の林淳二氏

率直なところ、特にサーバー向けCPUの分野において、AMDはIntelに後れを取っているといえる。林氏も「データセンターのx86系CPUで10%程度しか市場のシェアをとれていないのが現状で、それを打破する道を模索していた」と語る。「会社全体も、CEOをはじめ役員を一新して昨年から戦略を大幅に変えてきている。その中で、今回のサーバー分野のロードマップでも、まったく新しい戦略を打ち出した」。

新戦略の背景として林氏が強調するのは、スマートフォンやタブレットの驚異的な成長と、クラウド型データセンターの広がりだ。SNSからスマートフォンのバックエンドまで、コンピューティング能力がデータセンター側に移るにつれ、データセンターにより多くのリソースが必要となってきた。そのため、サーバーの台数を増やすための高密度化や、電力や冷却効率のための省電力化が求められる。

こうした状況について、「クラウド型データセンターは従来型のアーキテクチャで我慢していた部分がある。そこに向けた新しいアーキテクチャのニーズはあると考えている」と林氏は説明する。

そこでAMDでは、1)新しいx86系Opteronの提供、2)ARMアーキテクチャのサーバープロセッサ、3)SeaMicro高密度サーバーの拡充、4)オープンなハードウェアによるビジネス、の4つの柱を打ち出した。こうした新しい市場への対応によって「サーバー向けCPUの市場でゲームチェンジをする」(林氏)というのが新しい戦略の狙いだ。

高密度型サーバーをターゲットとしたOpteron X

開発段階では「Kyoto」と呼称されていた「Opteron X」 開発段階では「Kyoto」と呼称されていた「Opteron X」

x86系Opteronの2013年のラインアップとしては、従来型の延長であるOpteron 6300/4300を提供してきた。これらの製品は最大16コアを備える点が特徴で、物理コア数が生きるVDIやサーバー仮想化などの分野では、それなりの評価を得ている。しかし前述のように全般的なサーバー市場では苦戦しており、それを挽回する第1弾として提供されるのが、初のスモールコア製品であるOpteron X(開発コード名:Kyoto)だ。

5月に発表されたばかりのKyotoは、クラウド型データセンターの高密度型サーバーをターゲットとしたプロセッサで、CPU版以外に、GPUとCPUを統合したAPU版がラインアップされる。

Opteron Xのスペック。APU版とCPU版が用意される

実際の提供は2013年の後半となるが、すでに4.3Uに最大45枚のサーバーモジュールを収容できるHPの高密度型サーバー「HP Moonshot System」で、Kyotoが採用されるとアナウンスされている。林氏もMoonshotのKyoto搭載について「高密型サーバー分野の市場を開拓してくれると期待している」という。

Moonshotについては、「Opteron XのAPU版は、サーバーとしてだけでなく、Windows 8などのクライアントOSをサポートしているので、クライアントホスティングにもニーズがある」と林氏は説明する。

HPではかつて、ブレードPCでWindowsを動かしてリモートデスクトップ環境を集約するシンクライアントソリューション「CCI(Consolidated Client Infrastructure)」を提供していた。「企業でVDIなどの仮想デスクトップソリューションが広がる中で、『仮想マシンではなく、ホスティング環境とクライアント環境を1対1の物理環境で接続してリモートから利用したい』というニーズがある。高密度型サーバーなら、クライアントホスティングを物理環境で実現できる。CCIの後継としてはピッタリでしょう」(林氏)。

AMDが擁する高密度サーバー「SeaMicro」に関しても、当然のことながらOpteron X搭載製品の登場が予想される

また、冒頭で挙げた3つ目の柱にあるように、AMD自身も高密度サーバー「SeaMicro」シリーズを、日本でもネットワンシステムズ(株)やCTC伊藤忠テクノソリューションズ(株)を通じて販売している。SeaMicro SM15000シリーズはRed HatやRackspaceのPrivate CloudのOpen Stack(OS)認証を受け、Open Stackのハードウェア・リファレンスアーキテクチャとして今後の展開が期待される。 林氏からは明確な回答は得られなかったが、このSeaMicroシリーズでもKyotoを採用するであろうことが想像される。

さらにこのKyoto世代の後継としては、2014年前半に「Berlin(開発コード名)」が提供される予定だ。Berlinでは、Kyotoでは128個だったGPUコアを512個搭載するほか、CPUコアとGPUコアが共通のメモリ空間にアクセスする「HSA(Heterogeneous System Architecture)」によって、パフォーマンス向上とプログラミングの容易さを狙う。

「消費電力あたりのパフォーマンスでは、スモールコア製品ながらも、現在のハイエンドにあたるOpteron 6386SEの7.8倍で、HPCにも使える性能」と林氏が言うように、Kyotoの単なる後継というより、より上のパフォーマンスを狙った製品であり、より広い用途をターゲットにしているのだろう。

ロードマップ上は現行Opteron 3300の後継にあたる「Berlin」。「Kyoto」や後述の「Seattle」とともにAMDのWeb/エンタープライズサービスクラスター向けソリューションを担うことになる
Steamrollerコアを搭載し、さらなる高パフォーマンス&省電力化が図られるという

ワークロードの多様化に合わせてアーキテクチャの選択肢

一方、従来型の4ソケット/2ソケット型のCPUも続けていく考えで、後継となる2ソケット/4ソケット向けの最新製品「Warsaw(開発コード名)」を計画している。

「Warsawのような従来型ではパフォーマンス/$(コストあたりのパフォーマンス)を追求するニーズに、Opteron Xのようなスモールコア型ではパフォーマンス/ワット/$(コストあたりの消費電力あたりのパフォーマンス)を追求するニーズに応える」(林氏)という。

また、小さなサーバーをたくさん並べる高密度サーバー構成では、サーバーアプリケーションもそれに合わせたつくりになっている必要がある。「従来のアプリケーションを使うユーザーと、新しいタイプのアプリケーションを使うユーザーなど、ニーズが多様化している。いままでは1つのCPUアーキテクチャの上で差別化していたが、これからはワークロードの性質にそれぞれあわせたアーキテクチャの選択肢を提供していく」というのが林氏の説明だ。そのためには、Opteron 6300の後継としてのWarsawは欠かせない存在となるだろう。

加えて従来型CPUの分野では、冒頭の4つ目の柱のように、Open Compute Project(OCP)の仕様にのっとった「AMD Open 3.0」サーバーもリリースしている。OCPはFacebookが始めた、効率的なサーバーやデータセンターの仕様をオープン化するプロジェクト。林氏は「Open Computeは盛り上がっていて、AMDでも大きくなってくる。世界で最初にAMD Open 3.0をリリースしたのが、重要なマイルストーンとなる」と語った。

なおWarsawもOpteron 6300からパフォーマンス/Wを向上。AMD Open 3.0にも採用していく。出荷は、2014年第1四半期の開始を予定している。

旧資産の活用が可能な従来型の4ソケット/2ソケット型CPU後継として登場するWarsaw
Open Computeの仕様にのっとったAMD Open 3.0サーバー向けのプロセッサーとしての戦略的意味も持つ

オープンなエコシステムで64ビットARMサーバー市場を開拓

そして、2014年のロードマップにおいて、Berlinと並ぶスモールコア製品として登場する第3の製品ラインが「Seattle(開発コード名)」だ。Seattleはx86系ではなく、冒頭に上げて2つ目の柱である、64ビットARMベースのSoCとなる。2014年下半期出荷開始を予定。

サーバー向けのARMについては、林氏によると「さらに電力を削減するために、データセンターでのARMサーバーのニーズは高い。パートナーやOEM、ODMからも『ARMプロセッサに期待している』と声がある。これからARMの64ビットCPUが出て、爆発的なビジネスになると考えている」という。

Seattleの最大の特徴は、SeaMicroで使われているインターコネクト技術「Freedom Fabric」の機能をSoCに内蔵する点だ。「ARMコアはネットワークに直接つなぐと非効率。大量のノードをひとつの固まりにしてネットワークにつなげる」と林氏はアドバンテージを主張する。

AMDの独自技術となるFreedom Fabricの機能を内蔵しているのがアドバンテージといえる

ただし、AMDにとっては、Seattleが初のARM系CPUとなり、経験が浅い。この点について林氏は、サーバー向け64ビットCPUの経験がAMDの強みとなると語る。「x86で独自の64ビットCPUを出したときの技術や知識、経験を生かしていく。特に、サーバーやソフトウェアのベンダーとのエコシステムが強みになる」(林氏)。

ユーザー側にとっては、ARMサーバーを採用する最大の障壁が、OSやミドルウェア、アプリケーションなどの整備だ。この点については、「単独ではなく、Linuxのオープンなエコシステムで市場を盛り上げていく」と林氏は説明した。

AMDは現在、ARM向けLinuxを整備する業界団体「Linaro」に参加している。LinaroにはARMアーキテクチャのSoCベンダーや、IBMやHP、Calxedaなどのサーバーベンダー、Red HatやCanonicalなどのOSベンダーなどが集まっている。「大勢のエンジニアが、OSからアプリケーションまでのフルスタックでARM系のサーバーソリューションを共同開発し、Linuxディストリビューションベンダーなどからリリースしていく。こうしたオープンなエコシステムで市場を作り上げていけば、ARMサーバーが爆発的に使われる可能性がある」(林氏)。

今回発表されたAMDのロードマップは、サーバー向けのCPU分野において、先端的な新しい市場を積極的に開拓していくことでシェアの挽回をはかる、というものだ。そのためにはパートナーとのエコシステムや、OCP、OSやLinaroなどのオープンなエコシステムとの協力強化などが成功の要因となりそう。

2014年に向けたAMDの取り組みは、これからも注視していく必要がありそうだ。

(高橋正和)