新型インフルエンザの流行などを受けて、注目が高まりつつある除菌技術を採用した空気清浄機。各メーカーとも、独自の技術によって、その効果を宣伝しているが、何しろ目に見えない世界だけに、そのしくみや効果がわかりにくい。専門家の意見を参考にしながら、その特徴や違いについて見ていこう。

基本的なしくみは同じ

 ウイルスやカビ、アレルギー物質など、空間にはさまざまな物質が存在する。そんな物質が我々の体に何らかの影響を与える前に、取り除いたり、無力化することを目指して開発されたのが、除菌機能を備えた空気清浄機だ。

 そもそも空気清浄機自体が、空気中のチリやホコリなどを吸い込み、フィルター等で取り除くことで浄化することができる機器だが、最近では、ウイルスなどのように、より小さく、それでいて人体に影響を与える可能性が大きい物質を取り除くための機能が搭載されるようになってきている。

 では、具体的にどのようにしてウイルスなどを抑制しているのだろうか? その機能やしくみは各メーカーともに独自のものとなっているが、基本的な考え方についてはさほど大きな違いはない。

 発生のメカニズムや名称などに違いはあるものの、空気や水に対して、光や高電圧の電気的なエネルギーを与えることによって、空気中の分子やイオンから電子を奪い不安定なラジカルを発生させる(励起窒素分子、酸素ラジカル、水酸化物ラジカルなどの活性種)。ラジカルは、不対(対になっていない)電子を持つ化学種で、他の分子から電子をとって安定化しようとする。

 空気や水の中には、いろいろなイオン物質が存在するため、いろいろなラジカルイオンが生成されることになるが(詳しくは後述するが何がどれくらい発生するのか は公表されていないことが多い)、発生したラジカルイオンは、前述したように外殻電子配列が不対となっているため、非常に不安定な状態となっている。このため、他の分子と結びついて安定した状態に戻ろうとする。

 この現象を利用するのが除菌機能だ。不安定なラジカルイオンをウイルスなどの表面にあるタンパク質に作用させ、酸化分解させることで対象ウイルスの活性化を無力化する。

 放電したり、水を電気分解したりと、生成するしくみ、さらに生成できるラジカルの量などに違いはあるものの、要するに不安定な活性種を生成してウイルスなどのタンパク質に作用させると説明している点に関しては、どのメーカーもさほど大きな違いはないわけだ。

外部で作用させるか、内部で作用させるか

 では、どのメーカーの技術でも、大きな差はないのか? と言われると、実はそうではない。

 前述したしくみは、分子のレベルで見た非常に小さな世界の話だ。空気清浄機が実際に稼働するのは、家庭の部屋やオフィスのフロアといったもっと大きな世界の話となるため、小さな世界の作用を大きな世界に展開しなければならない。この方法がメーカーによって異なるのだ。

 具体的には、空気中などの外部で作用させるタイプと空気清浄機の内部で作用させるタイプの2種類が存在する。

 外部で作用させるタイプは、空気清浄機や加湿器、専用の発生器などの内部で生成したイオンをファンの力などを使って空気中に放出することになる。前述したように、放出されたラジカルイオンは不安定なため、空気中に存在するウイルスやカビ、アレルギー物質などに当たることで、これらを無力化し、結果的に空気がキレイになるというわけだ。

室内の空気中に、酸化効果のあるラジカルイオンを放出する

 

酸化効果のあるイオンは寿命が短いので、水でくるんで放出するタイプもある

 一方、内部で作用させるタイプは、空気清浄機や加湿器がファンによって内部に吸い込んだ空気に対して、生成したラジカルを直接当てるという方法を 採用する。空気清浄機は、吸い込んだ空気をフィルター等できれいにするが、これと同じようにラジカルイオンによって微生物の活性を除去した空気を外に出すという方法だ。

ウイルスを含む室内の空気を機内にとりこんで、内部でラジカルイオンを作用させる

 

消毒成分を含む水に室内の空気を通過させることで、ウイルスを不活性化させるタイプも

いかに高い確率でイオンをウイルスに作用させるか

 一見、どちらでも同じように思えるかもしれないが、この違いはよく考えてみると実は非常に興味深い。

 外部で作用させるタイプの場合、部屋の空気を効率的に除菌するためにはどのような要件が求められるだろうか? 話は単純だ。より多くのラジカルイオンをより遠くまで放出すれば良い。

 つまり、外部で作用させるタイプの製品を選ぶときは、より多くのラジカルイオンをより遠くまで運べる製品を選ぶのがポイントなる。具体的には、より多くのラジカルイオンを生成するには、強力な放電や効率的な生成のしくみなどが必要になる。このしくみを空気清浄機として備えているか? 具体的にどれくらいの数を放出できるのか、それは攻撃対象となるウイルスの数に対して十分な数なのか?

 そして、部屋の隅々までラジカルイオンを届けるには、空気を送出するための風量が重要になる。そこまでのパワーを備えているか?

 さらに、ラジカルイオンは非常に不安定な物質(ナノ秒程度の時間しか活性を維持できない)ことを考えると、活性状態を保ったままいかに遠くまで届けるかが、実はとても重要になる。ウイルスなどの作用させたい対象に出会う前に、活性を失うか空気中の別の物質に作用してしまっては意味がないからだ。

 このため、外部で作用させるタイプの空気清浄機を発売するメーカーは水分子などでラジカルイオンを取り囲んで運ぶと説明しているが、目に見えるものではないため、このようなしくみがどこまで効果的なのかは私たち消費者には判断できない。

 要するに確率の問題だ。空気中に存在するウイルスにラジカルイオンが出会わなければ効果がないのだから、その確率をいかに上げるかが実際の部屋での利用の効果を高めるための条件と言うことになる。

 一方、内部で作用させるタイプの場合はどうだろうか? この場合、外部で作用させるタイプに比べると敷居は若干下がる。不確定要素の多い外部と異なり、限られた空間となる空気清浄機の内部であれば、部屋の隅々まで行き渡るほど膨大で、長時間活性を保つラジカルイオンを生成する必要はない。内部の空気に作用するだけの十分な量のラジカルが存在すればかまわないからだ。

 つまり、内部で効率的にラジカルイオンを作用させるには、部屋の中の空気をいかに空気清浄機の内部に取り込めるかがポイントになる。よって、内部で作用させるタイプの空気清浄機でもっとも重視すべきなのはその風量だ。逆に言えば、十分な風量さえ備えていれば、除菌の効果も十分に期待できることになる。

専門家も指摘する「実験」と「実際」の違い

財団法人 北里環境科学センター 顧問 奥田舜治氏

 このような方式の違いによる除菌効果の違いについては、専門家も指摘するポイントとなっている。

 空気清浄機などで採用されている除菌技術の性能評価なども手がけている財団法人 北里環境科学センターにて、現在、顧問を務められている奥田舜治氏に話を聞いたところ、そもそもインフルエンザは空気感染よりも飛沫や接触による感染などの可能性が高いということを前置きした上で、空気清浄機の効果について「実験と実際の効果の違いに注意しなければならない」という点を指摘した。

 「各社が公表しているウイルスなどを何%除菌できたというデータは、実験用の装置を使って、限られた空間で調査した結果となります。このため、実験環境と実際の環境の差を考慮する必要があります(奥田氏)」という。

 つまり、空気清浄機に搭載されている除菌機能、そのものが対象となるウイルスやカビなどに効果があったとしても(効果のないものもあるので)、それが、空気清浄機を使った場合の部屋の中の空気をきれいにできる確率とは当然異なるということになる。

 しかしながら、奥田氏によると「実験と実際の機器の差という意味では、放出したものがウイルスと出会うかどうかも不確定な外部に放出する方式よりは、内部に取り込んだ空気に当てるという方式の方が、より一段確実性の高い方式であり、実験にも近い環境であると言うことはできます」とのことだ。

 また、奥田氏は、このような技術が環境に与える影響についても懸念する。「ウイルス等の微生物に作用して殺菌効果を示すということは、我々人の組織細胞も何らかの影響を受ける可能性が大きい。機器の内部のみで発生処理して、外部に放出させないならまだしも、外部に放出する場合は、どのような物質がどれくらい発生しているかをきちんと公表する必要がある」と述べた。

 つい最近、基準を超えるオゾンを発生する家電製品が人体に与える影響について話題になったことがあるが、放電によってオゾンは発生しないのか? 発生するとすればどれくらいの量放出されているのか? という点なども、一消費者としては、率直に疑問に感じるところだ。

 別の例として、奥田氏は除菌などに多用されている銀イオンなども、ごくまれだが、金属アレルギーの体質を持つ方などに影響を与えることがあることを指摘した。つまり、効果だけでなく、その有害性のデータを詳細に明らかにしなければ、マイナスの影響さえも検証できないということになる。

 このような状況を受け、奥田氏は「メーカーとしての独自技術を競うことはすばらしいが、その一方でメーカーが協力して、その詳細なデータや効果などを消費者にわかる形で定めた基準を作ることこそが重要ではないか」と指摘する。

 「飛行機などでの移動、鶏舎での鳥インフルエンザの感染防止などを考えると、空気環境ウイルスを除菌する技術というのは、これからの時代に無くてはならないものと言えます。そういった意味では、私としては、こういった除菌技術がさらに改良されることを期待しています。そのためにも、メーカー間の協力や基準作りは欠かせないでしょう(奥田氏)」とのことだ。

消費者として厳しく見る必要がある

 現在、除菌機能付きの空気清浄機や加湿器は、インフルエンザ流行の影響もあり、誰もが「欲しい」と感じる人気商品となりつつある。

 しかし、技術だけでなく、その実装方法の違いを見たり、専門家の冷静な意見などを聞くと、実際に製品を購入する場合は、その技術やメーカーのイメージにとらわれることなく、冷静に製品としての善し悪しを判断する必要があることがよく理解できる。

 もちろん、現状、メーカーが独自の基準で技術をアピールしている以上、並列で優劣を比較することはできない状況にある。しかし、たとえば外部で作用させるタイプと内部で作用されるタイプのメリット・デメリットを理解しておいたり、実際に部屋の隅々まで除菌するなら、方式の違いよりもパワー(風量)の違いの方が重要であると理解しておくことは大切だ。

 また、現在の除菌技術は、その詳細がまだ明らかになっていない部分もあるということも忘れてはならない。除菌の効果がある物質を本当に部屋に充満させて良いのか、他に影響はないのか? そういった点も消費者として考慮しておく必要もある。

 ただ単に「欲しい」と飛び付くのではなく、冷静に判断して商品を選びたいところだ。

2009年11月06日 00:00