日本エイサーの10.1型タブレット「ICONIA TAB W500(アイコニアタブ ダブル500)」(以下、ICONIA TAB)が5月下旬に発売される。同社が日本に投入する初のタブレット機だ。店頭予想価格は6万円前後。
●世界シェア1位を目前にするエイサーエイサーは台湾に本社を置く外資系企業。他社に先駆けて早い段階から、ネットブックである「Aspire one」を投入し、日本でも低価格ノートでは瞬間風速的にシェア1位となったほか、一時期はTV CMを打っていたこともあり、一般ユーザーにおける知名度もそこそこ上昇してきている。特にPC Watchの読者なら、その名を知らない人はほとんどいないだろう。
だが、エイサーというと、まだ台湾のローカルなPCメーカーの1つというイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか? しかし、そのイメージはもはや過去のものだ。まず、現在の同社製品ポートフォリオには、PCだけではなく、TVや液晶ディスプレイ、プロジェクター、ナビゲーション端末、そしてスマートフォンも含まれている(PC、液晶ディスプレイ、プロジェクター以外は国内では未発売)。
もちろん同社の事業の主軸となるのはPC事業で、その世界シェアは2009年にDellを抜き、以来2位を堅持している。
この大きなシェアに基づく大規模な部品調達は、そのまま低価格化へとつながる。しかし、エイサー製品はただ安いだけではない。きちんと、製品デザインも真剣に追求している。価格が横並びだった海外製ネットブックにおいて、Aspire oneシリーズが最初の1機種だけでなく、以降のシリーズでも成功を収めたのは、ただ先行できたからだけでなく、デザインでの差別化が功を奏したと言って良い。
ではなぜ日本においてはまだ、低価格製品だけが得意なメーカーというイメージが根強いのか? 1つには、Aspire oneを除き、“目立つ”製品が少ないと言うことはあるだろう。同社は国内でネットブック以外でもエントリークラスから、ゲーマー向けまで幅広い製品を展開しているが、他に類を見ない、という製品が少ないのは事実だ。
また、日本市場の特異性もある。国内のPC市場で苦戦しているのは同社だけではない。ことモバイルPCとなると、ユーザーのニーズや使い方が異なるため、台湾メーカーにせよ、米国メーカーにせよ、グローバルモデルでは日本市場で成果が出せない状況がこれまで続いていたからだ。
しかし、その状況も変わりつつある。ノートPCというこなれた分野では優位性を発揮してきた国内メーカーも、新たなジャンルの製品となると、形勢を見据えたり、日本市場特有のニーズに合致した製品の作り込みに腐心するあまり、新製品の立ち上げに出遅れてしまうという状況がこのところ続いている。ネットブックしかり、タブレットしかりだ。
そんな中、エイサーは2010年11月に2つの14型液晶を搭載したデュアルタッチタブレット「ICONIA(アイコニア)」をニューヨークで発表した。通常の液晶に加え、キーボード面もタッチ液晶にしてしまい、ソフトウェアキーボードによる入力や、独自アプリケーションをナビゲーションに利用したりと意欲的な仕様になっており、話題を呼んだ。
そのICONIAは日本でも2010年末に発表。当初は2011年2月以降の発売とされていたが、5月にようやく発売される見通しとなった。本記事執筆時は未発売なので、店頭での評判は分からないが、これを見て「エイサーってこんな尖った製品も作れるんだ」と思った読者も少なくないと思われる。
このようにエイサーは、安売りメーカーではなく、新しい製品ジャンルの開拓も意欲的に行なう、技術志向のメーカーなのである。
ちなみに、付け加えておくと、Gateway、eMachines、Packard Bellもエイサーが持つブランドである。
●Windowsタブレットのメリットとは?
AMD C-50の写真。100円玉より小さいが、この中に従来のCPU、GPU、ノースブリッジに相当する機能が統合されている |
さて、今回ここで紹介するICONIA TABは、製品ジャンルこそ新しくはないが、国内メーカーに先んじてAMDのFusion APUであるC-50を採用したタブレットPCだ。この製品も、ICONIAと同時に発表されていた。
Fusion APUは、1つのダイにCPUコアとGPUコアを完全に統合したプロセッサ。AMDは、その初の製品としてEシリーズとCシリーズという2つのモデルを投入した。おおざっぱな区分としては、Eシリーズがエントリークラスのノートや液晶一体型、Cシリーズがネットブック向けの製品となる。Eシリーズを採用した製品は国内外のメーカーから多数発売されているが、Cシリーズについては、まだ国内メーカーからは発表されていない。EシリーズとCシリーズの違いは、CPUコアおよびGPUコアのクロックで、機能面での差はない。
ICONIAに搭載されるC-50は、クロックこそ1GHzと昨今のx86プロセッサとしてかなり低いレベルだが、デュアルコアであり、GPUもRadeonアーキテクチャを採用することから、動画周りの再生支援や、ある程度の3D性能も期待できる。
CPUから分かる通り、OSはWindows 7(Home Premiumが標準でProfessionalモデルも別途用意される)となる。今、タブレットと聞いて、注目あるいは想像されるのはAndroid端末だろう。先にも述べた通り、Windowsタブレットはすでにいくつかの製品が発売されており、目新しさには欠ける。また、Webブラウジングや動画・音楽再生といったコンテンツ消費用途であれば、重いWindowsや速いCPUは必ずしも必要ではない。
だが、ビジネスとなれば別。Windows PCには一日の長がある。その最たる例がMicrosoft Officeの存在だ。最近では、Microsoft Office互換を謳うクラウドサービスもあるが、レイアウトが崩れたりする場合も少なくなく、まだ実用性には難がある。また、操作性の面でもWindowsなら複数のアプリケーションウインドウを同時に表示したり、ファイル操作、コピー&ペースト作業などの面で圧倒的に有利だ。セキュリティの面でも、Android端末は業務用途には不安が残るというのもある。
ICONIA TABではいずれも別売とはなるが、当然Microsoft Officeには対応するし、各種USBセキュリティデバイスなども利用できる。OSのエディションがHome Premiumということで、ビジネスには向かないのではと思うかも知れないが、ドメインへの参加機能やXPモード(この2つはProfessionalでサポート)、BitLocker暗号化機能など一部を除き、Home Premiumには、個人用途、ビジネス用途の両方に対応できる機能が搭載されている。実際、ICONIA TABはそういったユーザーをターゲットにしている。
もちろん、これ1台で全ての作業がこなせるわけではない。だが、効率を抜きにして言うと、ICONIA TABはタッチで全てのことができる。Windows 7は標準でタッチ操作に対応しているので、ポインティング操作や、ソフトウェアキーボードでの文字入力は言うに及ばず、手書き文字入力も可能となっているからだ。
先にも述べた通り、手書き入力は、認識の時間や精度を考えると、キーボードに比べ明らかに効率は劣るのだが、Windows 7はVistaと違い、日本語でも認識の学習や予測入力ができるようになっているため、“意外と”使えるという印象だ。
ソフトキーボードも本物に比べると、完全なタッチタイプは厳しいものの、横画面で幅いっぱいに表示すると、結構スムーズに入力できる。
このように、Windows PCにはAndroidにないメリットが多数あるのだ。
Windows 7の各エディションの機能比較 | ICONIA TABでは、当然Office 2010も動く | Windows 7のソフトキーボードを横幅いっぱいに表示したところ。さすがにこれではメイン画面が見づらくなるが、タイピングは結構快適にできる |
手書き文字の認識もできる |
●高級感漂う本体デザイン
それでは、本製品の仕様を見てみよう。CPUは前述の通り、AMD C-50(1GHz、ビデオ機能内蔵)で、このほかメモリ2GB、SSD 32GB、AMD A50Mチップセットを搭載。メモリは4GBが理想だが2GBでも不足はない。SSDについては、出荷時の空き容量は20GB弱となる。文書データであれば、多数保存できるが動画になるとややつらい。ただし、SDカードスロットがあるので、これを使って増やすことができる。また、ネットワークが確保できる環境なら、Windows Live SkyDriveなどの無料クラウドストレージを活用するのも手だ。
液晶は、1,280×800ドット表示10.1型。パネルの方式は公開されておらず、視野角は上下/左右とも160度となっているが、傾けてみても色の変化はかなり小さく、仕様値以上にあるように感じられる。バックライトは消費電力の少ないLEDを採用する。
もちろんマルチタッチに対応。基本的には4点までのタッチを認識する仕様だが、後述するAcer Ring UIの呼び出しのみ5本の指によるタッチで行なうようになっている。また、内蔵センサーにより本体の傾きを検知し、自動的に画面の縦横表示を切り替えられる。
横位置で持ったところ。1,280×800ドットあるので、ブラウザでは余裕ある表示ができる | センサーにより傾きを検知し、本体を回転すると画面も自動的に回転する |
【動画】画面が自動回転する様子 |
インターフェイスはUSB 2.0×2、SDカードスロット、IEEE 802.11b/g/n無線LAN、Bluetooth 3.0+HS、130万画素Webカメラ×2(前面+背面)、HDMI出力、ヘッドフォンジャックと、必要なものはあらかた揃っている。また、ステレオスピーカーを背面に装備し、第2世代ドルビーアドバンストオーディオに対応する。このあたりは、エンターテイメントでの用途も強く意識しているようだ。
本体サイズは約275×190×15.95mm(幅×奥行き×高さ)で、A4用紙よりも一回り小さい。重量は約0.97kgだ。この重量だと、例えば電車のなかなどで、長時間片手で保持して作業するのはちょっとつらい。カバンに入れて持ち運んだり、椅子やベッドでくつろぎながらブラウジングしたりするに当たって苦になることはないと思うが、もう少し軽いと良かった。
デザインは周囲にアールを持たせ柔らかいイメージを持たせている。前面の額縁部は黒を基調とし、ラメが入ったような塗装、背面はヘアライン加工されたシルバーで統一されており、全体に高級感がある。
ファンは内蔵するが、オフィスなどで使用する場合、排気口に耳をくっつけるくらい近づけない限り、騒音は聞こえない。それでも廃熱は十分できており、負荷の高いベンチマークを走らせても、背面がほんのり暖かくなる程度だ。
本体上面。ここには端子類はない | 本体底面 |
先の写真にも写っているとおり、ここには左端にUSB 2.0と画面角度の固定スイッチ、中央にもう1つのUSB 2.0がある | 13型のモバイルノートとのサイズ比較 |
●触っているだけでも楽しいAcer Ring
ソフト面についても紹介しておこう。本製品にはそれほど多くのソフトはプリインストールされていないが、Webや各種コンテンツをタッチ操作で簡単に扱えるよう開発されたいくつかの独自ソフトが搭載されている。これらは、Acer Ringと呼ばれる独自のランチャーから起動するようになっている。
まず、このAcer Ringは画面を5本の指でタッチすると表示される。この画面において、中心の円の部分からは、Windows標準のアクセサリ系ソフトを含むユーティリティが起動でき、その横には特徴的な独自ソフトのサムネールが弧を描くように配置され、指でなぞって選択し、起動できる。
ICONIA TABでは、Social Jogger、Touch Browser、My Journal、clear.fiの4つソフトが登録されている。その特徴を簡単に紹介しておこう。
Social Joggerは、3コラムの画面で構成され、Facebook、YouTube、Flickrの最新情報を一覧できる。便利なのだが、やや米国よりのサービス構成となってるので、できれば日本モデルはmixiやTwitterなどに対応してもらいたい。
Touch Browserは、その名の通り、タッチ用の独自ブラウザ。といっても、エンジンはIE8のものをそのまま使い、ホームやお気に入りのボタンなどを指で押しやすいように大きくしてあるので、操作の面ではIE8そのものより使い勝手が良い。
加えて、独自のクリッピング機能もある。これは、任意のページの好きな部分をWebクリップとして保存する機能。保存したクリップは、My Journalで閲覧できるのだが、元のページと同じようにHTMLが動作する仕組みになっているので、例えば、異なるサイトの天気予報や、株価情報、占いといった部分だけを切り抜いて、My Journalに貼り付けておき、1画面でそれらの最新情報を確認できるようになっている。
clear.fiというのは、独自のDLNAベースのコンテンツ管理/再生ソフト。現在エイサーでは、PCのみならずNASやスマートフォンにもこのclear.fiを搭載させており、コンテンツの保存場所を意識することなく、どの端末からも透過的にアクセスできる。
画面を5本指でタッチすると | Acer Ringが起動 |
【動画】Acer Ringからclear.fiを起動する様子 |
このAcer Ringそして各種独自ソフトが最初にデモされたのは、2画面タッチタブレットPCのICONIAである。この製品では、写真や動画のサムネールを下画面に一覧表示し、1つ1つのコンテンツは上画面でフルスクリーン表示するという2画面を活かしたソフトも搭載されている。ここでは、ICONIAについては大きく取り上げないが、その動作する様子を写真と動画で紹介しておきたい。
ICONIA | 開けると中は2画面。キーボードは下画面に表示される |
1つのウインドウを2画面表示することも可能 | 独自写真ビュワーソフトTouch Photoでは、下側にサムネールを表示し、選択すると、上側にフルスクリーン表示される。上画面もスワイプ/ピンチなどタッチ操作に対応 |
【動画】下画面に両手をつくとキーボードが表示される仕組み |
【動画】ブラウザを2画面表示にさせたところ |
【動画】Touch Photoを操作してる様子 |
●3Dグラフィック性能が光るC-50
さて、Windows PCということになると、その性能や仕様を語らないわけにはいかないので、ICONIA TABのベンチマーク結果を見てみよう。
実施したのはPCMark Vantage、3DMark06、CrystalMark 2004R3、Windowsエクスペリエンス インデックスだ。比較までに手元にあった、Atom N450搭載のネットブックの結果も掲載している。なお、画面解像度は1,024×768ドットに統一している。
【表】ベンチマーク結果
|
結果を総合すると、CPUの能力はAtom N450を一回り上回っているといっていい。3Dグラフィックス性能については、C-50がAtom N450を遙かに上回る。これであれば、カジュアルゲームクラスならプレイ可能だろう。
ICONIA TABについては、BBenchによるバッテリ駆動時間も計測した。結果は、液晶輝度を最低限に落とした省電力モードで約7時間16分、輝度を最大限にした高パフォーマンスモードで約4.2時間、これからさらに1080pのMP4動画をループ再生させた場合、約2.82時間が経過したところで、バッテリ残量が5%となった。省電力モードでは公称値の約6時間を大きく上回っており、これだけ持てば、1日程度の外出ならACアダプタを持ち運ばなくても大丈夫。優秀と言って良いだろう。
厳密なベンチマークではないのだが、動画の再生についても調べてみた。まず、YouTubeで適当な1080p の動画を再生させたところ、まれに1080pでも30fpsが出るものの、ほとんどの場合は、480pまでは30fpsでいけるものの、720pでは20〜15fps、1080pでは5fps程度にまでフレームレートが低下した。また目測での検証だが、1080pのWMVをWindows Media Playerで再生させたところ、引っかかりがあり、30fpsは出てないことが確認された。
C-50には動画再生支援エンジンとして、最新のUVD3が搭載され、フルHDのBDビデオもコマ落ちなく再生できるとされているので、この結果は矛盾しているように見える。これは、UVD3の恩恵を得るにはソフト側の対応が必要という事情がある。今回、時間の都合上検証できていないが、Windows Media Playerではなく、対応したBD/DVD再生ソフトなどを使えば、フルHD動画も完全に再生できるはずだ。
Flash動画については、現行のFlash Player 10.2の対応GPUにUVD3が入っていないため未対応の可能性が強い。これについては、Flash PlayerあるいはAMDのビデオドライバの早期対応を望みたい。
●バランスの取れたWindowsモバイルPC
さて、結論となるが、本製品はどのようなユーザーに好適か? それは、職場のサブ機兼個人的なコンテンツ消費というのが理想的な使い方だろう。通常の書類やプレゼンテーション作成はメインPCで行ない、そのデータを入れて客先などに持ち運び説明。自宅に帰ったら、ベッドやソファの上でくつろぎながらWebを見たり、音楽を聴くといった具合だ。
また、状況が許すなら、職場で机の脇に置き、ツイッターなどのSNS専用端末にするというのもありかもしれない。さらに、別途マウスやキーボードは必要になると思うが、会社のメインPCの電源を落とし、これで作業して節電、あるいはピークシフト的に使うと言うことも今なら一考に値するだろう。
ちなみに、詳しくはマイクロソフトのサイトなどを確認して欲しいが、基本的にデスクトップPCのみでMicrosoft Officeを使っている場合、別のモバイルPC 1台にも同じOfficeをインストールできるので、新たなライセンスを購入せずに済む。
このように、ICONIA TABは、ともすればモバイル機器としても、コンテンツ制作用途にも中途半端になりがちだったネットブックを、コンパクトにし、プラットフォームを変えることで、バランスを整え、きちんと使い道のあるものへと昇華させた製品だと言える。
タブレットを探しているなら、Windowsだからといって一緒くたに切り捨てるのではなく、是非本製品を1度検討してみて欲しい。