元々、いつでもどこでも音声通話をするために作られた携帯電話。今やメールやインターネット閲覧、カメラ撮影、音楽再生、ワンセグ視聴・録画、おサイフケータイ®など、実に多彩な活用ができるツールへと進化を遂げたが、そのプロセスにおいて、重要な役割を果たしてきたのが「ディスプレイ」だ。
たとえば、音声通話が主な用途だった時代。ケータイのディスプレイには電話番号を表示する程度の能力で十分だったが、メールやインターネット閲覧サービスが始まったことで、一度に多くの情報が見られるように、多行表示の能力が求められるようになった。SHシリーズが当時のJ-フォン(現在のソフトバンク)とともに生み出した「写メール」とカメラ付きケータイは大ヒットを記録したが、その陰にはカラー液晶ディスプレイ搭載端末の普及が始まっていたことが関係している。世界初のメガピクセルカメラ搭載端末「J-SH53」が登場する頃には、240×320ドット表示が可能なQVGA対応ディスプレイが搭載されるようになり、瞬く間に国内のケータイの標準的なサイズとして、普及することになった。
そして、2006年4月からはワンセグのサービスが開始されたことで、ケータイのディスプレイはAQUOSケータイの初代モデル「905SH」のように、通常の4:3の比率からワイド表示が可能なサイズが一気に増え、動画などの映像コンテンツもきれいに表示できるディスプレイが求められるようになった。
また、同年には世界初のVGA液晶を搭載したシャープ製端末「904SH」が当時のボーダフォン(現在のソフトバンク)向けに登場、最大480×640ドット表示の高精細な表示を活かし、ケータイで地図やビジネス文書などを閲覧しやすい環境を実現したことで、たいへんな人気を集めた。その後、2007年11月には3.2インチフルワイドVGA液晶、2008年3月には3.5インチフルワイドVGA液晶を搭載した端末が相次いで登場し、現在はフルワイドVGA液晶がハイエンドモデルの主流に位置付けられている。
これらのプロセスを見てもわかるように、ケータイのディスプレイは新しいサービスや機能とシンクロするように進化しており、ケータイに新しい時代が訪れるときには、必ずディスプレイも大きく変化してきている。
今回、ソフトバンクから発売された931SHは、従来のハイエンドモデルのスペックを大きく上回る「3.8インチ」「ハーフXGA液晶」という圧倒的なスペックを実現した端末だ。3.8インチというディスプレイサイズは、通常デザインの端末としては世界最大クラス(※1)であり、最大1024×480ドット表示が可能な「ハーフXGA液晶」は言うまでもなく、世界初(※2)の搭載ということになる。ちなみに、1024×480ドットという解像度は、最近、人気を集めているネットブックなどのミニノートPCに迫るサイズであり、931SHは、これを手のひらサイズで体験できるわけだ。
ところで、ワンセグケータイの定番として親しまれている「AQUOSケータイ」と言えば、ソフトバンク向けだけでなく、他事業者向けも含め、液晶ディスプレイが回転する「サイクロイド機構」を初代モデルから一貫して採用してきている。しかし、今回の931SHでは、上筐体にディスプレイ、下筐体にボタン類をレイアウトするフルスライダーデザインを採用している。これは「サイクロイド=AQUOSケータイ」だけではなく、ワンセグをはじめとする美しい映像を楽しむ端末として、「AQUOSケータイ」の名が冠されることになったためだという。
※1:2008年10月15日時点(ROA社調べ)。
※2:2008年10月15日時点(ROA社調べ)。ハーフXGA液晶は、XGA液晶(1,024×768ドット)の約半分の1,024×480ドットになります。
では、931SHに搭載された3.8インチハーフXGA液晶は、具体的にどんなメリットがあるのだろうか。
まず、液晶パネルについては、シャープが液晶テレビAQUOSで培ってきた高画質技術を応用してきた「NewモバイルASV液晶」を採用する。従来の3.3〜3.5インチクラスの液晶ディスプレイに比べ、見た目にもかなり大きくなった印象だが、実はケータイにおけるディスプレイの大型化と高精細化の実現はそれほど容易なことではない。たとえば、液晶ディスプレイを高精細化しようとすると、暗くなってしまい、これを無理に明るくしようとすると、ムラが発生してしまう。931SHに搭載された3.8インチハーフXGA液晶では、この相反する問題を解決しながら、色鮮やかで美しいコントラストの表示を可能にしている。
また、液晶ディスプレイを大型化すると、ケータイの場合、どうしてもボディサイズが大きくなってしまう傾向にあるが、931SHでは狭額縁化技術の導入により、ボディ幅を約52mmに抑えており、手に持ったときのサイズ感も通常の端末とほとんど変わりないレベルに仕上げている。上下ボディがスライドするストロークは従来のFULLFACE2 921SHよりも若干、長くなったが、アシスト機構が装備されているため、開閉そのものは操作しやすい。
こうした特徴を持つ3.8インチハーフXGA液晶だが、931SHに搭載されたさまざまな機能で、そのパフォーマンスを活かすことができる。たとえば、端末を横に構えたとき、ディスプレイの横のサイズは1024ドット表示となるため、PCサイトブラウザ(フルブラウザ)でWebページを快適に閲覧することができる。従来の横画面表示のブラウザではほとんどのページで横スクロールが必須だったが、931SHでは多くのWebページを横スクロールすることなく、閲覧できる。画面の縦横の切り替えも本体の動きを検出するモーションコントロールセンサーを内蔵しているため、端末を持った向きに合わせて、画面が表示される。
ワンセグの視聴についても大画面で迫力ある映像を楽しむことができる。931SHには従来のAQUOSケータイ同様、番組のジャンルに合わせて、画質を「標準」「ダイナミック」「スポーツ」「映画」のモードから好みで選択できるAVポジションという機能が用意されているが、「高画質モード」を選ぶことにより、320×240ドットのワンセグ映像もより美しく表示することができる。画面サイズが大きくなったことにより、映像コンテンツによっては、ワンセグ映像の毎秒15フレームが気になるケースがあるが、そのような場合もなめらかフレーム補間を設定することで、毎秒30フレームのなめらかな映像を楽しむことができる。もちろん、映像そのものはシャープの液晶テレビAQUOSで培われた技術が活かされており、人物の肌色などもきれいに再現できている。
3.8インチのハーフXGA液晶という大画面ディスプレイを搭載した931SHだが、この大画面を活かしたユーザビリティを実現するため、タッチパネルによるユーザーインターフェイスを備えている。
SHシリーズでは従来のFULLFACE 913SHやFULLFACE2 921SHでもディスプレイ横に装備された静電容量方式のタッチセンサーによる操作を実現していたが、今回の931SHは、画面に表示されたアイコンや項目を直接、触って、操作する静電容量式タッチパネルが採用されている。しかもスライダーボディを閉じたままの状態でもほとんどの機能が操作できるようにメニュー画面などが作り込まれており、直感的な操作が可能となっている。しかも画面にタッチしたときの操作に合わせ、ディスプレイ部がわずかに振動するしくみを採用しているため、タッチしているのか否かがきちんと把握でき、操作がわかりやすい印象だ。
具体的な操作方法について、画像ビューアでの操作を例にしながら、チェックしてみよう。まず、画像ビューアで画像が表示されている状態で、指先で画面をタッチする「タップ」は画像が全画面表示に切り替わり、「ダブルタップ」ではタップした場所を中心に画像を拡大表示する。表示された画像にタッチし、そのまま移動する「ドラッグ」では画面がスクロールし、画面にタッチした状態から弾くように動かす「フリック」では同じフォルダ内に保存されている前後の画像が表示される。2本の指でタッチして、開いたり、つまんだりする「ピンチ」では、画像の拡大や縮小ができる。さらに、一定時間、画面をタップし続ける「ロングタッチ」では、その画面で操作できる「サブメニュー」が表示され、画像ビューアではメール添付やスライドショー、IrSS™による送信などの操作を呼び出すことが可能だ。
この基本的な操作方法は、他の機能でも利用することができる。たとえば、ワンセグ視聴中であれば、左右方向のドラッグでチャンネル切り替え、上下方向では音量のアップ/ダウン、タップで番組名やパネル表示のON/OFF、ピンチやダブルタップで画面サイズ切替、ロングタッチで特定の部分を拡大するワンタッチズームといった操作ができる。
タッチ操作のユーザーインターフェイスは、一般的な機能についても作り込まれている。PCサイトブラウザのタップで選択、ドラッグで画面スクロール、ピンチで拡大/縮小、ロングタッチで部分拡大表示などは、ごく自然な操作だが、カメラ機能でもタップでピントを合わせたい被写体を選ぶことができたり、ドラッグで明るさやズームの調整ができるなど、直感的な操作をできるようにしている。画像の編集機能では、撮影した写真に画面をドラッグしての落書きなどもできる。
タッチ操作によるダイヤルボタンの操作も可能で、電話番号を入力しての発信や電話帳からの発信、発着信履歴の参照なども端末を閉じたままの状態で操作できる。受信メールの参照から返信、メールの文字入力も可能で、縦画面でも横画面でもほぼ同じように利用できる。もし、タッチパネルでの文字入力が面倒だったり、なかなか慣れなかったりするときは、フルスライドのボディを開き、いつものケータイと同じように、ダイヤルボタンでの文字入力もできる。ちなみに、ダイヤルボタンは従来モデルでも押しやすさで好評を得ているアークリッジスリムキーが採用されており、タッチパネル未経験のユーザーでも快適かつ安心して使うことができる。メールなどの文字入力画面では、端末を閉じたタッチパネル操作の状態でも範囲を指定して、文字のコピー/カット/貼り付けといった操作ができる。
さらに、各機能を呼び出すメインメニュー画面なども同じように、タッチ操作のみで使うことができる。たとえば、[設定]メニューの画面では数多くの設定項目が表示されるが、ドラッグやフリックなどの操作で一覧をスクロールさせることができるうえ、タブ表示についても左右方向にフリックすることで、切り替えることができる。もちろん、端末を開き、マルチガイドボタンで同様の操作ができることは言うまでもない。
こうした数々のタッチ操作のユーザーインターフェイスは、いずれも従来機種で採用されていた項目を継承しているものの、画面表示の項目は多くが新たにデザインされている。マルチガイドボタンで操作しているときはいずれのメニューも視覚的に確認できることが大切だったが、タッチ操作も可能なユーザーインターフェイスになったことで、アイコンや項目なども『触れることができるサイズ』にデザインし直されている。ただ単にタッチ操作を取り入れただけではないわけだ。
その応用例のひとつとも言えるのが「ステータスタッチ機能」だ。ケータイを使っていると、画面にいろいろなアイコンが表示されるが、新しい機種を使いはじめたばかりの頃はそのアイコンがどんな意味のものなのかが必ずしもわからないことがある。そこで、931SHでは、こうしたアイコンが表示される待受画面上部のステータスエリアをタップ、またはドラッグすることで、現在表示されているアイコンが拡大表示され、それぞれのアイコンの内容が説明され、必要に応じて、そのアイコンに関連する機能を起動できるようにしている。ちなみに、このステータスタッチ機能で、ユニークなのがバッテリーの残量表示だ。従来はほとんどの端末が3つのゲージのみで電池残量を表示していたが、931SHではパーセント表示が可能になり、設定を変更することで、あとどれだけの時間、今表示させている機能を利用できるのかの目安も合わせて表示させることができる。他のケータイにはない非常に便利な機能のひとつだ。
フルスライダーボディを採用し、フルタッチ操作が可能なAQUOSケータイ フルタッチ 931SHだが、もうひとつ忘れてはならない新しい機能が搭載されている。それは「モバイルウィジェット」だ。ウィジェットとは待受画面上で動作する小さなアクセサリーアプリケーションのことで、ソフトバンクが新たに提供するサービスのひとつだ。ウィジェットやガジェットとも呼ばれるアクセサリーアプリケーションは、すでにWindows Vista®のガジェット、Mac OS XのDashdoardウィジェット、Googleガジェット、Operaウィジェットなど、パソコンやインターネットの世界で広く利用されており、この考え方をソフトバンクのプラットフォームに取り込んだものがソフトバンクの「モバイルウィジェット」ということになる。
931SHは、今のところ、ソフトバンクのモバイルウィジェットに対応した唯一の端末であり、いち早くサービスを利用できるわけだ。具体的には、プリインストールされているウィジェットをはじめ、ソフトバンクのサービスで提供されるウィジェットなどを931SHの待受画面(デスクトップ)に貼り付けておくことができ、端末の待受画面を参照するだけで、天気予報やニュース、株価などの最新情報を入手できたり、mixiなどのSNSの更新情報、鉄道運行情報なども随時、確認することができる。
ただ、いくら931SHの画面が広いとは言え、多くのウィジェットを貼り付けてしまうと、本来の待受画面の情報が見えにくくなるため、シートと呼ばれる4枚の待受画面を用意し、それぞれの画面をフリックや操作で、切り替えられるようにしている。このシートには、メインメニューから選ぶことができる機能をデスクトップショートカットアイコンとして、貼り付けておくこともできるため、待受画面からアイコンをタッチするだけで、ワンセグを起動したり、S!メールを作成するといった使い方もできる。モバイルウィジェットとデスクトップショートカットアイコンは、ユーザーの工夫次第で、幅広い活用ができそうだ。
ケータイにとって、ディスプレイは非常に重要な役割を担うパーツのひとつだ。私たちは普段、何気なく、ケータイを手に持ち、通話やメールをしたり、コンテンツを閲覧したり、ワンセグの視聴、カメラでの撮影など、いろいろな用途に活用したりしているが、実はそこで扱われる多くの情報は、いずれもディスプレイを通じて、やり取りされている。端末に保存されている情報を確認したり、利用したりするときをはじめ、ネットワークを通じて、他のユーザーや機器と情報をやり取りするときもディスプレイを介して、つながっていることになる。言わば、ディスプレイは情報の『窓口』であり、ユーザーとの『インターフェイス』になるパーツというわけだ。
931SHは、その『窓口』『インターフェイス』が革新的に向上した端末だ。3.8インチというディスプレイサイズ、1024×480ドットが表示可能なハーフXGAという解像度、そして、ユーザーが直接、画面に触れて使うことができるタッチ操作など、今までのケータイとは明らかに違う環境を実現している。しかもスペックや機能を充実させるだけでなく、使いやすさやわかりやすさといったユーザービリティもきちんと考えられており、ユーザーが便利に楽しく活用でき、ワクワクするような体験が得られるような端末として、仕上げられている。ケータイの新しい時代を切り開く931SHに触れ、ぜひ、楽しさを実感してみて欲しい。
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」、「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。。
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*「おサイフケータイ®」は、株式会社NTTドコモの登録商標です。
*IrSS™は、Infrared Data Association®の商標です。
*WindowsはMicrosoft Windows operating systemの略称として表記しています。
*Windows Vista®は、米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
*Mac、Mac OSは、米国Apple Inc.の登録商標または商標です。
*Google™は、Google Inc.の商標登録です。
*Operaウィジェットは、Opera Software の登録商標です。